異世界で(口の悪い)騎士様に拾われたのですが

木村 真理

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ふたたびお茶をいただきますが

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 メアリーさんがポットからお茶を注いでくれるのを見つつ、私は椅子に腰かけた。
こういうのって、お店で店員さんが給仕してくれているのと同じだと思う。
だけど、どこかのお店に入ったときのように、お客様と店員という線引きがないから、なんだか落ち着かない。
この家で私、お客様扱いされてていいのかなぁっていう身の置き所のなさ。

 だけど、そわそわしている私を、レイがいぶかしげに見てくるから、きっぱり居直ることにした。
ええ、わたくし、他人に給仕されることになんて慣れていますもの。

 ぴんと背中を伸ばし、できるだけ優雅に微笑んで見せる。
お化粧はどろどろだし、疲労も顔に出ちゃっていると思う。
そもそもこちらの世界のマナーなんて、ぜんぜんわからないし。

 だけどさ。レイのお家でお世話になるんだもん。
単純な見た目だけでも、美人で優雅なレイと、ちょっとかわいいって言われるのが精いっぱいの私では、格差が激しい。
おまけにレイは大貴族で、私は平民だ。
恥じることはないけど、こちらの世界観でいえば、釣り合わないと思う。
そしてそれは、レイたちに仕えている人にとって、とても気になるところじゃないかなって思うんだよね。

 虚勢を張る気はないけれど、あんまり侮られるのもよくない気がする。
幸い、今はみんな好意的にみえる。
それは私に価値があるからじゃなくて、レイがそのように扱うように言ってくれたからだけど。
 
 でも、私があまりにも自分で自分に価値がないというレッテルを張りすぎると、相手だって侮った対応をせざるをえない。
それってお互いに不幸なことだ。

 元の世界に戻りたいし、そもそもお世話になる人に隠し事はしたくない。
それに、私は自分の生まれ育った国が身分の差をおしつけられることのない国だってことに誇りを持っている。
上流階級の出身でないことを卑下するつもりはないけど、それとこれは別だ。

 レイはメイドさんに指示して、お茶にミルクとはちみつを入れてくれた。
私にも飲むよう勧めてくれたから、カップに口をつけた。

 おいしい。

 ほんのりとはちみつの甘味のあるお茶は、もとは苦みのある濃く出した紅茶にそっくりの味だと思う。
ミルクとはちみつとよく合って、ほわっと癒された。

 それでも、動きや表情はできるだけ優雅に心得るのは忘れてない。
いまさらって気もするけど。

 でもメアリーさんとは、まだ出会って間もない。
レイたちの会話を聞いていると、このままメアリーさんにお世話をしてもらうことになりそうだし。
仕えてもらう以上、それなりの人間だと思ってもらわないと、かえって相手に失礼だ。
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