異世界で(口の悪い)騎士様に拾われたのですが

木村 真理

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街まで歩いていますが

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 話がまとまると、私たちは連れたって街のほうへと歩き出した。

 まだだいぶ距離はあるけど、街の外壁は見えている。
ぐるりと高くそびえたつ壁が外敵や害獣から街を守っている。
ヨーロッパでよく見るタイプの都市だ。……古いタイプの、だけど。

 街までの道は石畳。
石畳っていっても、日本のレンガっぽい、表面がまっすぐに整えられたのとは違って、ちょっと表面がガタガタした石が敷き詰められている道。
 でもこれも、ヨーロッパではよくあることだし、ムートンブーツなら余裕。
ハイヒールだと、穴にはまったりして危険だけどね。
 日本の、アスファルト整備された道に慣れていると歩きにくいけれど、街の外にしてはいいほうだと思う。

 月は、あいかわらず赤い。
だけど月の光はべつに赤くはなく、夕焼けのように地上が赤く染まるというわけでもない。
 ただ少しずつその光は弱くなってきている。
夜が近づいてきているということらしい。

 ……なんてね。
いろいろ周囲に目を配って、歩いている。
 これはこれで必要なんだけど、現実逃避な感じは否めない。

 ほんとは、この世界についてわからないことばかりなんだから、半歩先を歩く彼に、この世界についていろいろ聞いたほうがいいんだろうけど。

 ちらりと彼に目をやる。
木のうろでいったん休憩していた私と違って、ずっと獣と戦ったりしていたはずなのに、彼には疲れた様子はない。
端正な顔はまっすぐに前をみすえ、ほんのすこし開いた唇がなんとなく色っぽい。

 きりっとした表情の彼は、すごくかっこいいと思う。
だけど街へと歩き始めた彼は、ずっとこんな風に、前を見据えて真剣な顔をしたままだ。
 ちょっと前まで見せてくれたあの人の好さそうな笑顔や、照れたような表情は、見せてくれなくなっていた。
それどころか、ほとんど話すらしてくれない。
 移動途中だから周囲を警戒しているのかもしれないけど、ヨーダから逃げているときよりも、なんとなく距離を感じる。

 それも、仕方ないことなのかもしれない。

 初めて出会った時からずっと、彼は見ず知らずの私に親身に話しかけてくれた。
その態度は気さくで、自分のことを頼れって優しくしてくれて。
なにもわからないこの世界で、そんな彼のことがどれだけ救いになっていたかわからない。

 だけど今の彼は、私と一線をひくように、道を歩くときの注意事項を口にするだけだ。
そこにはあの笑顔も、軽口もない。

 仕方ないんだ、と私は自分に言い聞かせる。
だって、私は自分がこの世界の人間じゃないって告白したんだから。

 いくら戦いに慣れたふうな彼でも、異世界人は未知の存在だろう。
警戒されたり、気味悪がられても仕方ない。

 だけど。
頭では理解していても、寂しいのにはかわりなくて。
理不尽だと理解しつつ、彼に苛立ちが募ってしまう。

 異世界人って告白した瞬間は、私のことを拒絶しなかったくせに…!
あなたがついて来いって言ってくれたから、一緒にいるんだよ!?
今さら後悔して突き放そうとしても、無駄なんだからね!?

 ……だいたいこっちだって、見ず知らずの男についていくなんて、怖いんだから。
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