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魔獣とかいるらしいですが
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まだかすかに戦いの余韻を残したぎこちない笑みをうかべ、男は私に手を差し伸べた。
私は震えながら、彼の手をとる。
白い大きな手が、私の手を握り、促されるままに私は立ち上がった。
「け、けがは…」
男は獣より圧倒的に強く、危なげなく勝利を収めていた。
それでも生まれて初めて見る獣と人との戦いに、彼の身を案じてしまう。
男は驚いたように目を見張り、それから「くっ」と楽しげに笑った。
「震えてるくせに、人の心配かよ?俺は、だいじょうぶに決まってるだろ。あんなヨーダなんて、俺の敵じゃない」
「あ……」
私の心配なんてバカバカしいとばかりに笑う彼は、まるでやんちゃな子どもがケンカで勝利したことを自慢するかのように、無邪気だった。
思わず、私は彼の整った顔を両手で包むように触れた。
「んな…っ」
「あったかい…、ほんとだ、だいじょうぶだったんだね」
目で見ても、まだどこかに残っていた不安が、彼の頬の暖かさを指先で感じた瞬間、小さくなっていった。
背伸びして彼の目を下から見上げると、彼の顔はほんのりと赤くなる。
あ、これ、男の人にやっちゃだめなことだ。
私はあわてて、彼の頬に触れていた手を離した。
彼の反応を見て、あまりにも非日常な体験の中でふっとんでいた日常的な意識が戻る。
と同時に、先ほどの彼の忠告を思い出した。
「ごめんなさい。もう落ち着いたから、だいじょうぶ。で。あれを倒したら、すぐ逃げなくちゃいけないんだっけ?」
小さく深呼吸して、できるだけ平静な声で一気にいう。
男はまだ赤い顔をしたまま、所在無げに腕を組み、うなずいた。
「ああ。さっきの獣は、魔獣だ。ヨーダっていうんだが、厄介なことに、1匹倒しても仲間の死を悟ったヨーダたちが襲ってくるんだ。だから、すぐこの場を離れる必要がある」
「わかった。ごめんなさい、無駄な時間をとらせて」
思ったよりも、緊迫した状況だった。
今は非常時だって気づいてたのに、動揺して無駄な時間をとってしまったなんて。
私は男に頭をさげて、言う。
「もう逃げられるわ。体力にも運動神経にも自信はないけど、できるだけ足手まといにならないようにする。だけど、どうしてもってなったら、私は捨てて逃げて」
私は震えながら、彼の手をとる。
白い大きな手が、私の手を握り、促されるままに私は立ち上がった。
「け、けがは…」
男は獣より圧倒的に強く、危なげなく勝利を収めていた。
それでも生まれて初めて見る獣と人との戦いに、彼の身を案じてしまう。
男は驚いたように目を見張り、それから「くっ」と楽しげに笑った。
「震えてるくせに、人の心配かよ?俺は、だいじょうぶに決まってるだろ。あんなヨーダなんて、俺の敵じゃない」
「あ……」
私の心配なんてバカバカしいとばかりに笑う彼は、まるでやんちゃな子どもがケンカで勝利したことを自慢するかのように、無邪気だった。
思わず、私は彼の整った顔を両手で包むように触れた。
「んな…っ」
「あったかい…、ほんとだ、だいじょうぶだったんだね」
目で見ても、まだどこかに残っていた不安が、彼の頬の暖かさを指先で感じた瞬間、小さくなっていった。
背伸びして彼の目を下から見上げると、彼の顔はほんのりと赤くなる。
あ、これ、男の人にやっちゃだめなことだ。
私はあわてて、彼の頬に触れていた手を離した。
彼の反応を見て、あまりにも非日常な体験の中でふっとんでいた日常的な意識が戻る。
と同時に、先ほどの彼の忠告を思い出した。
「ごめんなさい。もう落ち着いたから、だいじょうぶ。で。あれを倒したら、すぐ逃げなくちゃいけないんだっけ?」
小さく深呼吸して、できるだけ平静な声で一気にいう。
男はまだ赤い顔をしたまま、所在無げに腕を組み、うなずいた。
「ああ。さっきの獣は、魔獣だ。ヨーダっていうんだが、厄介なことに、1匹倒しても仲間の死を悟ったヨーダたちが襲ってくるんだ。だから、すぐこの場を離れる必要がある」
「わかった。ごめんなさい、無駄な時間をとらせて」
思ったよりも、緊迫した状況だった。
今は非常時だって気づいてたのに、動揺して無駄な時間をとってしまったなんて。
私は男に頭をさげて、言う。
「もう逃げられるわ。体力にも運動神経にも自信はないけど、できるだけ足手まといにならないようにする。だけど、どうしてもってなったら、私は捨てて逃げて」
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