転生奴隷ヒロインは我が道を行く~最弱設定の奴隷ヒロインが国内最強の英雄へと至る~

ほとりちゃん

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第十三話

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 戦いを始めて、どれくらいの時が経っただろう? 時間感覚すら曖昧になるくらい濃密な生と死の狭間を練り歩くような戦いによって、オーロッソ砦は廃墟同然になり果てていた。

 

「アアアアアアアアアアアッ!」


 砦の壁という壁を駆け上がり、地上だけではなく屋根の上まで戦域を広げる私を追いかけ、異形のゾンビは相も変わらず他のゾンビを踏み潰し、薙ぎ払い、壁も屋根も吹き飛ばしながら向かってくる。

 落ちてくる瓦礫の下敷きになったり、巨大な刃でバラバラにされて、見る見る内にその数を減らしていくゾンビたちを見て不味いとでも思ったのか、エドモンは焦ったような声を上げるのが聞こえてきた。

 

「リック様! 奴をあまり暴れさせては……! このままでは砦が壊れるだけでなく、他のゾンビが無意味に数を減らすだけに……!」

「だからうるさいと言っているだろ!? いい加減にしないと不敬罪で打ち首にするぞ! 何時まで経ってもあの女が死なないんだから仕方ないじゃないか! 黙ってみていろ!」


 しかしリックは相変わらず私を殺すことにご執心なようで、エドモンの忠告なんで意に介していない。特に意思を持たないゾンビを悪戯に突撃させては私にあしらわれ、結果的に自分の手駒であるはずの異形のゾンビに捻り潰させている。

 おかげで、あれだけいたゾンビも随分数を減らした。それと同時に敵の攻撃に対処する必要が少なくなってきて、反撃の魔力弾を異形のゾンビの頭に浴びせる機会も増えていった。


「だから無駄だと言っているだろう!? その鋼鉄製の兜が壊れるものか! やはり女というのは学の無い愚か者ばかりだな!」


 リックの言う通り、あんなに分厚そうな装甲に魔力弾を延々と浴びせてもダメージなんて与えられない。悔しいが、今の私の魔導銃ではあの守りを貫通するのは難しい。

 それを理解した上で、私は黙って奴の頭を狙って魔力弾を延々と撃ちまくる。壁、屋根、地面と立体的に動いて逃げ回りながら、ただただ無心で。


「シャアアアアアアアアアアアッ!」

「ぐぅっ!?」


 それでも、完全に逃げきれているわけじゃない。いくら直線的で単純な動きしかしていないと言っても、向こうの方がスピードは上なのだ。攻撃に転じればどうしても隙を与えることになる。

 幸い、致命傷に繋がるような大きな怪我はしていないけど、全身打撲と切り傷だらけになった。このままでは完全にジリ貧、異形のゾンビの攻撃がクリーンヒットするのも時間の問題だろう。


「こん……のぉ……っ! 負ける、かぁああああああああああっ!」


 心が折れないよう、奮い立たせるために叫びながら魔導拳銃を連射する。

 全身至る所から感じる痛みを意志の力で捻じ伏せて体を動かし、回避と攻撃を戦いの中でより洗練させて、より隙の少ない挙動を実戦の中で追い求めていく。

 振り回される4本の刃を体を捻って掻い潜りながら無理矢理照準を合わせて魔力弾を頭にブチ当て、丸太みたいに太くて硬い足で思いっきり蹴られ、意識を失いそうになるのを我慢して、吹き飛ばされながら魔力弾を撃つ。


「ごほっ……! ……ぉぉぉぉおおおおおおおっ!」


 振動するだけで体中に痛みが走る。このまま気絶して楽になりたい……そんな体が発する欲求を理性で無視して、燃えるような激情に駆られるままに、足をがむしゃらに動かしながら魔力弾を撃って撃って撃ちまくる。

 そうしてどれくらいの時間が経っただろう……殆ど一方的に攻撃をされていた異形のゾンビは、痺れを切らしたかのように大振りの一撃を繰り出してきた。

 まるで私を包み込むように左右同時に迫る4本の腕。左右に避けることはもちろんのこと、後ろに下がっても回避できない。


(ビビるな……後ろにも横にも逃げ道がないなら……!)


 前へ跳べばいい……そう即断した私は、4本の腕から繰り出される攻撃の間合いの内側に入り込んだ。

 そしてそのまま異形のゾンビの頭の上に跳び乗り、それを足場にして後ろに跳んで再び間合いを取る直前に、至近距離で魔力弾を頭にぶち込むと、ついにその時が訪れた。


「っしゃオラァ! 見たかクソッタレ!」

「なぁっ!? ば、馬鹿なぁ!?」


 歓喜が滲んだ私の声と、驚愕と絶望が混じったリックの声が同時に響く。

 異形のゾンビの頭部を覆っていた装甲は度重なる攻撃によって罅が入り、そこに更に連撃を叩きこむことによって大きな亀裂となって、ついには砕け散ったのだ。

 雨垂れもいずれは岩を穿つ。そんな前世の故事を体現したかのような出来事を前にしてのリックたちのあの慌てようから察するに、頭部が弱点であるというのはこの異形のゾンビも同じなんだろう。

 そうでなかったら、再生能力を持っているのに、頭だけガチガチに守る理由がない。


「アアアアアアアアアアアッ!」


 砕けた装甲の下……大きく裂けた口しか残っていない、のっぺらぼうみたいな顔を露わにした異形のゾンビの頭を今度こそ撃ち抜いてやろうと、魔導拳銃の照準を頭に合わせたんだけど、奴の方が一手速かった。

 弱点を露わにされた危機を感じたのか、これまでにないくらいに激しく、速く振り回された4本の腕によって、魔導拳銃が二丁とも私の手から弾き飛ばされてしまったのだ。


(やば……っ。 こんな、時に……!)


 慌てて後ろに跳びながら背中の魔導小銃を構えようとしたけど、異形のゾンビの前進と、振り下ろされた刃の方が速い。

 まるでギロチンのような肉厚で巨大な刃が私を真っ二つにする軌道で叩き込まれようとした……その時、異形のゾンビの腕が突如として止まった。

 その原因は、突如として異形のゾンビを阻むように展開された半透明の壁……結界だった。強度自体はそれほど高くなかったからか、そのまま力任せに壊されてしまうけど、何とか難を逃れることには成功する。

 当たり前だけど、もちろん私が結界を張ったわけじゃない。じゃあ一体誰がって聞かれれば、答えは決まっている。


(ユースティア、殿下……!?)


 ビックリするくらい的確なタイミング、適切な位置に展開された結界に命を救われた私は、即座に魔導小銃の照準を異形のゾンビの頭に合わせる。それと同時に、異形のゾンビは逆袈裟に刃を切り上げてきた。


「おおおおおおおおおおおおおっ!」

「シャアアアアアアアアアアアッ!」


 勝負を分ける刹那の中で、私たちは同時に雄叫びを上げる。

 異形のゾンビが振るった刃を全力で体を逸らして躱そうとしたけど、避けきれずに私の首筋から頬を伝い、眼を跨いで額まで届く大きな斜めの傷を刻み付け……私が放った魔力弾は、異形のゾンビの頭に小さな風穴を空けていた。

 数多の死者を冒涜して生み出されたかのような怪物はそのまま地面に膝をつき、地響きを立てながら倒れ伏してピクリとも動かなくなる。……私が勝利を確信できたのは、それから数秒経ってからだった。


「はぁ……はぁ……いっ!? ……つぅ……っ」


 ここで少し気が緩んで脳内麻薬が切れたのか、体中の痛みが急激に増したように感じる。

 特に顔の右側。最後バッサリ斬られた部分が超痛い……! 幸い眼球は無事みたいだけど、額から流れる血のせいで瞼を開けれないし、血がダラダラ流れているのが感触として伝わってくる。

 すぐに処置を……そう言いたいところだけど、まだ終わっていない。私は魔導小銃を握る手に力を籠め、リックたちの方に顔を向けた。


「ひ、ひぃぃいいいいいいいいっ!?」

「う、嘘だぁ……! ぼ、僕の……僕の特別製ゾンビが、あんな小娘に……!?」


 一歩、また一歩近づく度に、リックたちは恐怖に引き攣った青い顔で後退る。

 どうやら今の私は相当恐ろしく見えるらしい。まぁ自慢の戦力を打ち負かした敵が血をダラダラ流しながら近づいてきたら、そう感じるのも当然だけど。


「ち、近づくな! ゾンビ共、何をしている! 早くこの女を殺せ! 聞こえないのか、おい!? 早くしろ、この役立たず共っ! 何をしているぅぅうううううっ!」

「叫んでも無駄。ゾンビはもう全滅してる。あんたの杜撰な命令のおかげでね」


 私はただ逃げ回りながら攻撃してたわけじゃない。異形のゾンビを他のゾンビの元に誘導し、攻撃の巻き添えにする形で始末していた。無駄な魔力の消耗を抑えないと、異形のゾンビの装甲を破れそうになかったし、ゾンビたちは頼まれなくても危険を顧みず私を襲いに来てたから、同士討ち狙いも思ったより簡単だった。

 それもこれも、指揮官としてのリックが馬鹿過ぎたおかげだ。


「さて、これで守ってくれる手下がいなくなったわけだけど、どうする? 大人しくお縄につくか――――」

「あ、あぁ……うわああああああああああああっ!」


 私が言い終わるより前に、エドモンが踵を返して全力で逃げ出す。

 どうやらエドモンは抵抗することを選んだらしい。そう判断した私は片手で魔導小銃の照準を合わせ、背後からエドモンの股間を狙撃した。


「……あ、が……………」


 魔力弾が股間を掠めるように突き抜け、瞬く間にエドモンのズボンが真っ赤に染まっていく。男の急所が吹き飛んだ痛みは想像を絶するものがあるのか、エドモンはまともに悲鳴を上げることもできずに気絶した。

 本音を言えば殺したいところだけど、原作崩壊を起こした以上、こいつらからはゾンビに関する情報を聞き出さないといけない。


「それとも……エドモンみたいに抵抗してああなるか、好きな方を選んでいいけど」

「こ、この女風情が……! 僕を舐めるなぁああっ!」


 私が付きつけた選択肢に対し、リックが選んだのは抵抗。腰に佩いていた剣を抜いて、その切っ先を私に突き付けたかと思えば、刀身が発火し始めた。

 武器に攻撃魔術を纏わせる魔術師の近接戦闘術。いわゆる、魔法剣という奴だ。それにあの剣自体も戦闘用に作られた魔道具……魔剣であるという事がよく見れば分かる。


「そんなボロボロの状態の奴なんかに、この僕が負けるものか! 王族に歯向かう下賤な反逆者め! 未来の国王の華麗なる魔法剣を見せてやる!」


 燃え盛る剣を大上段に構えて突撃してくるリック。異形のゾンビとの戦いでボロボロになって、魔力も枯渇寸前の私になら勝てると思っているのか、随分と隙だらけだ。

 そんな慢心を打ち砕くように、私は突撃してきたリックの懐に入り込んで、その股間を思いっきり蹴り上げた。


「ごっ……!? お、おぉ……!?」

「魔法剣を見せてやるって? だったら私も見せてやる」


 魔剣を落として股間を抑えながら膝から崩れ落ちそうになっているところに、更に顔面を横からぶん殴って力任せにリックの体を半回転させ、私はリックの腰を両腕を回し……そのまま自分の腰を思いっきり後ろに反らした。


「これが私の、バックドロップだぁああああああああああああああっ!」


 ドゴォッという、地面に頭を打ち付ける音が響き渡る。

 足先がまるで三日月のような綺麗な弧を描くバックドロップをまともに食らったリックは気絶してピクピクと痙攣しており、そんな奴を見下ろしながら私は親指で首を掻っ切るようなジェスチャーをしながら腹の底から叫ぶ。


「二度とふざけた事やらかすなスカタン! 次舐めたことしたらキンタマ捩じ切るかんね!」


 ……まぁ、次私を敵に回すより先に、こいつの末路が決まりそうなもんだけど。

 何はともあれ、敵は掃討完了。私の……私たちの勝利だ。とりあえずリックとエドモンを拘束して、それから――――。


「あ……れ……?」


 なんか急に平衡感覚を保てなくなって、視界がグルグルと回り始めてきた。そうなって私はようやく体力と魔力切れによる極度の疲労状態になっていることを自覚する。

 

(……あぁ、駄目だ。気絶する――――)


 今度こそ、本当に敵がいなくなった。その安心感で緊張の糸がぶっつり切れた私の視界は、そのまま一気に暗転した。



――――――
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

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