転生奴隷ヒロインは我が道を行く~最弱設定の奴隷ヒロインが国内最強の英雄へと至る~

ほとりちゃん

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第十二話

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(着地地点は……あそこだ)


 浮遊感に身を任せながら素早く周囲を見渡し、ゾンビに囲まれることのない場所……渡り廊下の屋根の上に目星をつけて、自分の足場になるように、空中に小さな結界を展開し、その上に乗る。

 さっきユースティア殿下がやったのと同じようなやつだ。私の場合、結界を展開しても数秒で霧散してしまうけど、それだけあれば十分。私は結界を蹴って、渡り廊下の上に着地した。


「殺せ殺せ殺せええええええええっ! あいつだけは絶対に生かして帰すなぁあああああ!」


 リックの言葉に反応して、ゾンビたちは一斉に私に向かって殺到してくる。

 この状況から察していたけど、やはりリックたちには魔術なり魔道具なりの力でゾンビを操る力があると考えるのが妥当だ。そうじゃないと、ゾンビを戦力に加えるなんてあり得ないし。

 その事に関して気掛かりな事は多いけど、今はそれどころじゃない。


「リ、リック様! ゾンビどもを傍から離すのは危険です! いくらか周りに残しておいた方が……!」

「うるさぁぁあいっ! 僕に指図するなぁああああああっ!」


 渡り廊下の上を伝ってゾンビから距離を取りながら、一定の距離まで近づいてきたゾンビに魔力弾を浴びせていると、リックとエドモンがひと悶着を起こしているのが分かった。どうやらリックの方が癇癪を起して、エドモンの安全策を退けているらしい。


(……目論見通り、リックの意識から殿下が完全に外れた)


 奴らがゾンビを操る力があるのは分かっていた。その上で、エドモンとリックのどちらにより強い命令権限があるのかを考えれば、当然リックだ。その証拠に、エドモンの言葉ではリックの命令を上書きできておらず、ゾンビたちはリックたちから離れた。

 これを見越してリックを挑発した甲斐があった。これで殿下が狙われることはなく、思う存分戦える。 


「アアアアアアアアアアアッ!」


 汚い奇声を上げながら、ひとっ跳びで私に跳びかかってくるゾンビたち。その数はおよそ10体前後……スピードも考慮すれば、3年前の私なら対処しきれずにやられていただろう。


(でも今は違う……!)


 魔導拳銃を握った両手を素早く動かして照準を合わせ、一匹残らず撃ち落としていく。

 その隙を狙ったかのように死角から跳びかかってきたゾンビの手を回転しながら躱しつつ、その腹に回し蹴りを浴びせると、ボキボキと骨が砕けて内臓が潰れる感触が足に伝わり、蹴られたゾンビは冗談か何かみたいに吹き飛んで、ボーリングみたいに他のゾンビを巻き添えにしていった。


「何をしているっ! この役立たず共が! さっさと殺しぇえええええええっ!」


 後方からのリックの命令に更に攻撃の苛烈さが増し、より多くのゾンビたちが迫ってくる。

 その先頭にいるゾンビの膝を、私は魔力弾で討ち抜いた。


「ギャアアッ!?」


 片足が半分千切れかかった状態のゾンビはそのまま転倒し、それに足を引っかけた後続のゾンビたちが巻き添えになってさらに転倒し、更に後ろに続いていたお仲間に踏み潰された。


(見込み通り……この数が相手でも戦えてる……!)


 この3年間で私は魔導銃が無くてもある程度戦えるよう、魔力感知や身体強化といった、私でも問題なく発動できる魔術を徹底的に鍛えてきた。だからゾンビが不意打ちをしてきても見ずに躱せるし、自分よりもずっと体格のいい相手も蹴り飛ばせる。

 しかし、今私がこうやって立ち回れている理由はそれだけじゃない。


「ああああああああああっ!! なぜだ! なぜあんな小娘一人を相手に僕のゾンビ軍団が翻弄されているんだぁああああっ!?」


 それはそうだろう……この砦で大量のゾンビと戦って分かったことなんだけど、連中は判断能力というのが皆無だ。

 確かにその身体能力は脅威だけど、敵に向かって真っすぐ突っ込んでくるだけで、状況に応じた適切な行動を取ることができない。だから集団で向かってきても、その先頭にいるゾンビの足を止めれば、数体ほど巻き込んで転んだり、後ろに続く味方に踏み潰されたりする。


(その上、ゾンビに命令を出せる人間がアレじゃあどうにもならない)


 身体強化で強化された聴力でも、リックが具体的な指示を出しているようには一切聞こえない。

 だからこれだけの数的有利を取られても、現段階の私の身体強化があれば対処可能。これが殿下を庇いながらとか逃げ場のない屋内ならいざ知らず、枷の無い広い空間に出れれば、有象無象のゾンビに捕まる気がしない。


(問題があるとすれば、それはやっぱり……!)


 無能な指揮官の言葉通りにしか動けない敵の中で、周りのゾンビを薙ぎ払い、踏み潰しながら向かってくる巨体に意識を向けた瞬間、異形のゾンビは4本の腕を振り回して渡り廊下をバラバラに切り刻みながら向かってくる。

 大急ぎで屋根の上から降りて逃げたけど、その単純なスピードも、石材を粉々にするパワーも、明らかに私より上だ。奴の間合いの内側で戦うのは危険すぎる……そう判断した私は、周りから迫ってくるゾンビたちを躱しながら、魔力弾を異形のゾンビに掃射して牽制しつつ逃げの一手を取る。


「は、ははははははっ! なんだなんだ、大口を叩いたくせに、そいつからは逃げてばかりだな!?」


 私が追い詰められているように見えたのか、リックからの挑発が飛んでくるけど、それは無視。進行方向上にいるゾンビ数体の手をスライディングしながら回避して抜き去り、距離を開けたところで体を反転させた。

 

「ぉらぁっ!」


 そして即座に魔力弾を掃射。その内、頭部を狙った弾は装甲に弾かれてしまったが、手足を狙った魔力弾は異形のゾンビに穴を開けることに成功した。

 他のゾンビと同じく、手足を機能させなくすれば無理に倒す必要性が無くなる。そう思っての攻撃だったんだけど……信じられないことに、せっかく開けた風穴は瞬時に元通りになってしまった。


「はぁっ!? ふっざけんな! そんなんアリ!?」


 いきなりとんでもない能力を見せつける異形のゾンビに思わず悪態が口から飛び出す。再生チートなんてラノベの主人公みたいな力を振りかざすなと吠えたい気分だけど、そうするだけの余力も惜しい。

 

「シャアアアアアアアアアアアッ!」

「くっ……そがぁぁあああっ!」


 引き続き逃げながら魔力弾を撃ちまくるけど、どれだけ傷を負っても即座に再生し、こちらの攻撃も、周囲の味方も一切考慮せずに、常に全速力で間合いを詰めてくる。

 これまで戦ってきた連中は魔力弾を受ければ大なり小なり怯んでいただけに、やり難いったらない!


「アアアアアアアアアアアッ!」


 そうこう攻めあぐねてる内に、急速に間合いを詰めてきた異形のゾンビが私に向かって腕を振り落してくる。それをサイドステップで何とか躱した途端、刃が食い込んだ地面を吹き飛ばしながら、腕を横薙ぎに振るって追撃を仕掛けてきた。


(やば……っ!?)


 迫りくる刃の数は2本。私の体を三分割できる距離と間合いだ。しかもどうやっても完全には避けられない絶好のタイミング。下手に避けようとすれば、2本の刃が私の体を深々と切り裂くだろう。


(だったら……!)


 死中に活の理屈で、私はあえて奴の攻撃に自ら間合いを詰めにいく。

 攻撃に勢いが乗る前に異形のゾンビの肘に向かって飛び込み、斬撃ではなく打撃を受ける形でダメージを減らすことに成功した。


「がはっ!?」


 それでも受けた衝撃はかなりもの。多分、トラックとかに真正面から撥ね飛ばされたらこんな感じなんだろう……身体強化抜きだったら到底耐えられない激痛を味わいながら吹き飛ばされた私は、そのまま城壁に大穴を開けながら砦の外に放り出された。


「はははははっ! 無様だなぁ! 手も足も出ていないじゃないか! まぁそれも無理もない! 何しろそのゾンビは僕の為に作り出された特別製! 如何なる攻撃も無効化し、敵を殲滅するまで止まらない僕の忠実な手駒なんだよ!」


 リックの哄笑に言い返す余裕もなく、ただ必死に息を整えながら立ち上がる。 

 こうやって戦ってみて、聖騎士団が負けた理由がよく分かった。パワーとスピードに再生能力まで兼ね備えた化け物なんて、常人が相手できる敵じゃない。

 ……だから? それがどうしたって言うんだ? こっちは常人に収まるつもりはサラサラない……滾るような闘志を足に込め、私は砦の内部へと舞い戻った。


「……上ぉ等だバカタレぇえええええっ! 今すぐ纏めて地獄に叩きこんでやらぁあああああっ!」


   =====


 オーロッソ砦上空に双円錐形の結界を展開し、戦況を見守っていたユースティアは忸怩たる思いでアルマの雄叫びを聞いていた。

 時に真っ向から立ち向かい、時に踊るように翻弄し、敵を討つ。それを可能とするだけの力を手にするために、どれだけ妥協のない日々を積み重ねてきたのだろう……自分と同じ歳で、自分と同じくらい小さな体で、強大な敵を前にしても折れることなく立ち向かい続ける1人の少女の勇姿に胸が熱くなるのと同時に、何もできない自分の不甲斐なさに、ほとほと嫌気が差した。


(このまま彼女を死なせるわけにはいかない……!)


 それでもユースティアは他の誰でもないアルマの熱に当てられて、胸に熱い意志を宿して拳を固く握る。

 口では色々と言っていたが、アルマが自分の為だけではなく、ユースティアを助ける為にも戦い、今も傷付き続けていることくらい分かっている。そんな彼女に対して何一つ助けになれず、ただ守られるだけの存在でいるなど、王女としても一個人としても許容できない。そんな若い激情がユースティアを駆り立てていた。


(でも実際問題どうやって……!? どうすれば彼女の助けになれる……!?)


 その一方でユースティアは冷静でもあった。下手な事をすればアルマの足を引っ張るのは明白だ。

 結界を解いて一緒に戦うなど論外、アルマはユースティアを庇いながらゾンビたちと戦う羽目になる。

 

(今、この状態から私にできる事は……)


 ユースティアは深く息を吐いて呼吸を整え、冷静に辺りを見渡しながら自分にできることを頭の中で整理していく。

 次々と頭に浮かんでいく案の中で無意味なこと、アルマの足を引っ張るものを素早く除外し、残された選択肢を検討し……最後には1つの案に辿り着いた。

 それは無闇に実行すればアルマの邪魔になるが、適切に実行すればアルマの助けになる。そう判断したユースティアは、先ほどよりもさらに注意深く戦況を見守るのだった。

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