上 下
4 / 20
プロローグ(前)

第四話

しおりを挟む

 悲報・どうやらこの世界には既に魔導銃が存在していたらしい件について。

 その話を工房長から教えてもらったから詳しく聞いてみると、どうやら海外では魔導銃に近い性能を持った、極めて殺傷力が高い魔道具を開発していたそうで、エルドラド王国はその情報を秘密裏に集めようと躍起になっているんだそうだ。

 世界初の銃を生み出してチート展開とかちょっと期待してたけど、現実っていうのはそう上手くいかないものである。


(まぁ攻撃魔道具がたくさんあるこの時代に、魔力弾を撃ち出すなんて単純な攻撃魔道具くらい、開発されてて当たり前か)


 とは言っても、軍事機密なだけあってガードが堅くて情報は一向に手に入らないらしいし、例の魔道具が量産される様子は一切ないことから、普及されるのはまだまだ先の話になるっぽい。一つ作るのにも手間がかかり過ぎるから、大量生産には向かないからだとか。

 そこまで聞いて、工房長の質問の意図がようやく理解できた。国が注目している魔道具に近い物を子供がいきなり作ったら、そりゃ誰でも驚く。


(エルドラド王国でも真似をしようとしてるって話だから、私が作ったのと似たような魔道具なんてすでに出来てると思ってたんだけど……)


 私が作った試作品と似たような結果を出すこと自体は出来るみたいだけど、より正確に言うと違うらしい。

 試し撃ちに使った薪の壊れ方を見た工房長曰く、私が作った魔導銃は国内で作られてきた試作品と比べると貫通力や命中率が高いらしい。多分、ライフリングを再現しようとしたのが原因だろう。

 この話は国王陛下にも伝わったらしく、私の魔導銃研究は内容を外部に漏らさないようにという命令を受けた。その代わり、研究成果がある程度上がれば、国の方から支援金を出してくれるからと。


(言い換えればこれは、宮廷魔導士の任命権を持っている国王陛下が、私に注目しているってことでいいんだよね?)


 棚から牡丹餅展開で、私の野望に一歩近づけた。そう考えればモチベーションも上がるというもので、私はその日からより一層、魔導銃の研究に注力した。


(周りがどうこうとか関係ない……他の奴が作ったのが全部下位互換になるくらいの、世界最強の魔導銃を作ればいいだけだ)


 私の魔力に合わせながら魔導銃の形状と術式の最適化を突き詰め、より高性能な物へと仕上げていく日々。もちろん、上手くいかない事だってたくさんあった。

 より高い貫通力を求めて魔力弾の大きさや形状の変化に伴ってのライフリングの調整が上手くいかず、魔力弾が上手く回転しないなんてことは頻繁に起こったし、暴発して怪我をすることも多かった。研究開発は失敗の積み重ねで発展していくとはよく聞くけど、それを身を以て実感したものである。


(それでも、ここまできた……!)


 そんな私の血と汗の結晶は実を結び、魔導銃はようやく形になった。

 形状としては取り回しや照準の付けやすさを求めた結果、大きさはグリップと銃身を合わせて30センチはある大型ハンドガンみたいなのになった。

 発射機構が魔導技術によるものなだけあって引き金や弾倉は必要ないからつけてないけど、魔力弾を回転させる術式を組み込むにあたって銃身は筒状にした方が安定しやすかったから、前世の拳銃に近いのをイメージしたらわかりやすいだろう。

 

(それを予備を合わせて二丁。威力や弾速はひとまず合格ってところかな)


 試しに鉄兜と鉄鎧を着せた木製の人形を相手に撃ってみると、親指がギリギリ入るくらいの太さの砲口とほぼ同じ大きさまで超圧縮された魔力弾は、兜や鎧を木製人形ごと貫通し、背後の木を穿つほどの威力を出せるようになった。

 もちろん、改良の余地はたくさん残されている。術式をより高度なものにすれば威力や弾速、命中精度を上げられるだろう……しかし、それよりも先に私がクリアするべき点がある。


(魔導銃を扱う私が使い物にならなかったら意味がない)


 道具は所詮道具だ。私自身が魔導銃を使いこなせるようにならなければ、宮廷魔導士として認められるほどの成果を上げるなど夢のまた夢だろう。

 となれば、私がするべきことはただ一つ。


「実戦あるのみ」


 そう判断した私は下調べや準備をしてから王都の外に出て魔物退治をしに行くことにした。

 客観的に見れば無謀である。殺傷力の高い魔道具を手にしたからって言って、素人がいきなり魔物と戦うなんて無茶にもほどがある。

 しかし私には戦いの師となる人間はおらず、仮に当てがあったとしても、女であり子供でもある私を弟子にしてくれる人間が、この国に1人でも存在するかどうかすら怪しい。


(だったらリスク承知で町の外に出て、我流で上達するしかない)


 危険なのは重々承知している。いちおう私の体質でも使いこなせる身体強化や感知の魔術は習得してるけど、それだけで万事上手くいくなんて思っていない。

 でもどこかで賭けに出ないと宮廷魔導士になんてなれっこない。そしてその賭けに出るのは今この時だ。

 そう決意した私は王都の正門を潜り抜け、魔物がよく現れるという森の中に入っていった。


(調べられる範囲で調べた限りだと、王都の住民は危険だからこの森には入らないらしいけど、外に出て街を襲うほど際立って強い魔物もいないみたいだし)


 もちろん、どこまで信用できるか分かったものではないし、強かろうか弱かろうが魔物は魔物、等しく危険だ。

 私は感知魔術を全力で行使しながら森の中を進んでいくと、すぐに私以外の魔力を秘めた生命体の存在を感知する。

 息を潜め、足音を立てないようにしながらゆっくりと近づいてみると、角の生えたチーターみたいな魔物が一匹で歩いているのを確認できた。


(チャンス到来……!)


 もし群れで動くような魔物なら即座に引き返して離れようと思っていたけど、1対1に持ち込めるなら……!

 私は逸る気持ちを抑えながら、両手で持った魔導銃の銃口を魔物に向け、慎重に照準を合わせる。

 相手はまだこちらに気付いていない。不意打ちで一撃でも頭に当てることができれば仕留める自信があった。


「あ……っ!」


 しかし、私が放った弾丸は魔物には当たらず、魔物から1メートルは離れた場所の地面を抉る。

 外してしまった……だけじゃない。攻撃に気付いた魔物は驚いたような反応を示した後、歯茎をむき出しにして明らかに私がいる方に向かって走り始めたのだ。

 森の木々を最小限の動きだけですり抜けて向かってくる魔物のスピードは尋常のものではない。少なくとも、身体強化を込みにした私の全速力を明らかに超えている。


(気付かれた……!?)


 単なる嗅覚か、それとも魔力探知に似たような能力でもあるのか。いずれにせよ、単なる杞憂と考えられるほど……この状況で逃げ切れると考えられるほど、私は楽観的ではない。

 とっさに魔導銃を二丁とも構えて銃口を揃えるのと同時に、正面から現れた魔物が私に跳びかかるように襲い掛かってきた。


「くっ!?」


 それに対して何とか銃撃で迎え撃てたが、焦りと共に二丁の魔導銃から放たれた魔力弾は1発は外れ、もう1発は魔物の体を掠めるだけに終わってしまう。

 当然、そんな攻撃で大型肉食獣並みの体格を誇る魔獣を撃ち落とせるわけもない。私は魔物の体格と、跳びかかりの勢いに押されて地面に倒され、鋭い爪の生えた前足で押さえつけられる。

 こうなれば向こうの攻撃はこれだけで済まない……本能的にそう察した私はほぼ無意識の内に片足で魔物の腹を押し上げ、右手の魔導銃を盾にした。


「痛つう……ぐぅ……っ!」


 私に噛みつこうとした魔物の口に金属製の魔導銃を噛ませることで何とか大怪我を負うことは避けられたけど、身体強化を使ってもまるで押し退けられる気がしないし、むしろこのまま押し切られてしまう事は、直に感じられる魔物の力から簡単に想像できる。


(これが魔物……これが実戦か……!)


 敵を前にして血走った目に、大量の唾液で濡れた無数の牙、押さえつけられた私に鋭い痛みを与えてくる爪……この魔物が全身全霊を賭して私を殺そうとしているのが言葉よりも雄弁に伝わってきて、思考は停止してしまいそうになるのを私は実感した。

 前世で読んだ漫画とかラノベの主人公ってすごい。普通こんなに殺気ぶつけられて殺しにかかられたら、頭が真っ白になって何もできなくなる。ご都合主義込みとはいえ、そんな怖いって感じる気持ちを押し殺して知恵と力を振り絞ってるんだから。

 

(……だったら、私もそうなるだけだ……!)


 むしろそうなった先にこそ、私が目指すべきものがある。

 性差を理由に押し付けられる、ありとあらゆる理不尽を捻じ伏せるための暴力。それを使いこなすためには、どんな時でも気丈に振舞える勇気が一番必要なのだと思い知った。

 なら……それを手にするためにこの手を全力で伸ばすだけだ。


「……ぁぁぁぁぁああああああああっ!!」


 私が突き立てられた爪が皮膚を傷つける痛みを無視して、左手に持った魔導銃の銃口を魔物の頭に押し当て、魔力弾をゼロ距離発射する。

 放たれた弾丸は一瞬で頭蓋を突き抜け、頭に風穴の空いた魔物はそのままゆっくりと地面に倒れ伏した。


「はぁ……はぁ……っ!」


 緊張し過ぎて乱れた呼吸を整えながら、私はゆっくりと立ち上がる。

 今回の戦い……完全に私の実力勝ちだなんて自惚れてはいない。とっさの行動が上手くかみ合ったラッキーに助けられたことだってあったし、また同じことができるかと聞かれたら自信を持って頷けない。


(それでも、私は勝った)


 勝って、私は生き残った。つまり反省をして次に活かせるという事だ。

 今回の戦いで私に必要なものも新たに分かったし、何よりも確かな経験を得たという手応えを感じることができた。

 理想には程遠いけど、今はこれで十分。とにかくこの経験と、試行錯誤を積み重ねていこう。そう判断した私は、戦いの騒音で魔物が集まってくる前に王都へ戻るのだった。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

最弱テイマーの成り上がり~役立たずテイマーは実は神獣を従える【神獣使い】でした。今更戻ってこいと言われてももう遅い~

平山和人
ファンタジー
Sランクパーティーに所属するテイマーのカイトは使えない役立たずだからと追放される。 さらにパーティーの汚点として高難易度ダンジョンに転移され、魔物にカイトを始末させようとする。 魔物に襲われ絶体絶命のピンチをむかえたカイトは、秘められた【神獣使い】の力を覚醒させる。 神に匹敵する力を持つ神獣と契約することでスキルをゲット。さらにフェンリルと契約し、最強となる。 その一方で、パーティーメンバーたちは、カイトを追放したことで没落の道を歩むことになるのであった。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に二週目の人生を頑張ります

京衛武百十
ファンタジー
俺の名前は阿久津安斗仁王(あくつあんとにお)。いわゆるキラキラした名前のおかげで散々苦労もしたが、それでも人並みに幸せな家庭を築こうと仕事に精を出して精を出して精を出して頑張ってまあそんなに経済的に困るようなことはなかったはずだった。なのに、女房も娘も俺のことなんかちっとも敬ってくれなくて、俺が出張中に娘は結婚式を上げるわ、定年を迎えたら離婚を切り出されれるわで、一人寂しく老後を過ごし、2086年4月、俺は施設で職員だけに看取られながら人生を終えた。本当に空しい人生だった。 なのに俺は、気付いたら五歳の子供になっていた。いや、正確に言うと、五歳の時に危うく死に掛けて、その弾みで思い出したんだ。<前世の記憶>ってやつを。 今世の名前も<アントニオ>だったものの、幸い、そこは中世ヨーロッパ風の世界だったこともあって、アントニオという名もそんなに突拍子もないものじゃなかったことで、俺は今度こそ<普通の幸せ>を掴もうと心に決めたんだ。 しかし、二週目の人生も取り敢えず平穏無事に二十歳になるまで過ごせたものの、何の因果か俺の暮らしていた村が戦争に巻き込まれて家族とは離れ離れ。俺は難民として流浪の身に。しかも、俺と同じ難民として戦火を逃れてきた八歳の女の子<リーネ>と行動を共にすることに。 今世では結婚はまだだったものの、一応、前世では結婚もして子供もいたから何とかなるかと思ったら、俺は育児を女房に任せっきりでほとんど何も知らなかったことに愕然とする。 とは言え、前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に、何とかしようと思ったのだった。

男女比がおかしい世界に来たのでVtuberになろうかと思う

月乃糸
大衆娯楽
男女比が1:720という世界に転生主人公、都道幸一改め天野大知。 男に生まれたという事で悠々自適な生活を送ろうとしていたが、ふとVtuberを思い出しVtuberになろうと考えだす。 ブラコンの姉妹に囲まれながら楽しく活動!

処理中です...