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プロローグ(前)
第四話
しおりを挟む悲報・どうやらこの世界には既に魔導銃が存在していたらしい件について。
その話を工房長から教えてもらったから詳しく聞いてみると、どうやら海外では魔導銃に近い性能を持った、極めて殺傷力が高い魔道具を開発していたそうで、エルドラド王国はその情報を秘密裏に集めようと躍起になっているんだそうだ。
世界初の銃を生み出してチート展開とかちょっと期待してたけど、現実っていうのはそう上手くいかないものである。
(まぁ攻撃魔道具がたくさんあるこの時代に、魔力弾を撃ち出すなんて単純な攻撃魔道具くらい、開発されてて当たり前か)
とは言っても、軍事機密なだけあってガードが堅くて情報は一向に手に入らないらしいし、例の魔道具が量産される様子は一切ないことから、普及されるのはまだまだ先の話になるっぽい。一つ作るのにも手間がかかり過ぎるから、大量生産には向かないからだとか。
そこまで聞いて、工房長の質問の意図がようやく理解できた。国が注目している魔道具に近い物を子供がいきなり作ったら、そりゃ誰でも驚く。
(エルドラド王国でも真似をしようとしてるって話だから、私が作ったのと似たような魔道具なんてすでに出来てると思ってたんだけど……)
私が作った試作品と似たような結果を出すこと自体は出来るみたいだけど、より正確に言うと違うらしい。
試し撃ちに使った薪の壊れ方を見た工房長曰く、私が作った魔導銃は国内で作られてきた試作品と比べると貫通力や命中率が高いらしい。多分、ライフリングを再現しようとしたのが原因だろう。
この話は国王陛下にも伝わったらしく、私の魔導銃研究は内容を外部に漏らさないようにという命令を受けた。その代わり、研究成果がある程度上がれば、国の方から支援金を出してくれるからと。
(言い換えればこれは、宮廷魔導士の任命権を持っている国王陛下が、私に注目しているってことでいいんだよね?)
棚から牡丹餅展開で、私の野望に一歩近づけた。そう考えればモチベーションも上がるというもので、私はその日からより一層、魔導銃の研究に注力した。
(周りがどうこうとか関係ない……他の奴が作ったのが全部下位互換になるくらいの、世界最強の魔導銃を作ればいいだけだ)
私の魔力に合わせながら魔導銃の形状と術式の最適化を突き詰め、より高性能な物へと仕上げていく日々。もちろん、上手くいかない事だってたくさんあった。
より高い貫通力を求めて魔力弾の大きさや形状の変化に伴ってのライフリングの調整が上手くいかず、魔力弾が上手く回転しないなんてことは頻繁に起こったし、暴発して怪我をすることも多かった。研究開発は失敗の積み重ねで発展していくとはよく聞くけど、それを身を以て実感したものである。
(それでも、ここまできた……!)
そんな私の血と汗の結晶は実を結び、魔導銃はようやく形になった。
形状としては取り回しや照準の付けやすさを求めた結果、大きさはグリップと銃身を合わせて30センチはある大型ハンドガンみたいなのになった。
発射機構が魔導技術によるものなだけあって引き金や弾倉は必要ないからつけてないけど、魔力弾を回転させる術式を組み込むにあたって銃身は筒状にした方が安定しやすかったから、前世の拳銃に近いのをイメージしたらわかりやすいだろう。
(それを予備を合わせて二丁。威力や弾速はひとまず合格ってところかな)
試しに鉄兜と鉄鎧を着せた木製の人形を相手に撃ってみると、親指がギリギリ入るくらいの太さの砲口とほぼ同じ大きさまで超圧縮された魔力弾は、兜や鎧を木製人形ごと貫通し、背後の木を穿つほどの威力を出せるようになった。
もちろん、改良の余地はたくさん残されている。術式をより高度なものにすれば威力や弾速、命中精度を上げられるだろう……しかし、それよりも先に私がクリアするべき点がある。
(魔導銃を扱う私が使い物にならなかったら意味がない)
道具は所詮道具だ。私自身が魔導銃を使いこなせるようにならなければ、宮廷魔導士として認められるほどの成果を上げるなど夢のまた夢だろう。
となれば、私がするべきことはただ一つ。
「実戦あるのみ」
そう判断した私は下調べや準備をしてから王都の外に出て魔物退治をしに行くことにした。
客観的に見れば無謀である。殺傷力の高い魔道具を手にしたからって言って、素人がいきなり魔物と戦うなんて無茶にもほどがある。
しかし私には戦いの師となる人間はおらず、仮に当てがあったとしても、女であり子供でもある私を弟子にしてくれる人間が、この国に1人でも存在するかどうかすら怪しい。
(だったらリスク承知で町の外に出て、我流で上達するしかない)
危険なのは重々承知している。いちおう私の体質でも使いこなせる身体強化や感知の魔術は習得してるけど、それだけで万事上手くいくなんて思っていない。
でもどこかで賭けに出ないと宮廷魔導士になんてなれっこない。そしてその賭けに出るのは今この時だ。
そう決意した私は王都の正門を潜り抜け、魔物がよく現れるという森の中に入っていった。
(調べられる範囲で調べた限りだと、王都の住民は危険だからこの森には入らないらしいけど、外に出て街を襲うほど際立って強い魔物もいないみたいだし)
もちろん、どこまで信用できるか分かったものではないし、強かろうか弱かろうが魔物は魔物、等しく危険だ。
私は感知魔術を全力で行使しながら森の中を進んでいくと、すぐに私以外の魔力を秘めた生命体の存在を感知する。
息を潜め、足音を立てないようにしながらゆっくりと近づいてみると、角の生えたチーターみたいな魔物が一匹で歩いているのを確認できた。
(チャンス到来……!)
もし群れで動くような魔物なら即座に引き返して離れようと思っていたけど、1対1に持ち込めるなら……!
私は逸る気持ちを抑えながら、両手で持った魔導銃の銃口を魔物に向け、慎重に照準を合わせる。
相手はまだこちらに気付いていない。不意打ちで一撃でも頭に当てることができれば仕留める自信があった。
「あ……っ!」
しかし、私が放った弾丸は魔物には当たらず、魔物から1メートルは離れた場所の地面を抉る。
外してしまった……だけじゃない。攻撃に気付いた魔物は驚いたような反応を示した後、歯茎をむき出しにして明らかに私がいる方に向かって走り始めたのだ。
森の木々を最小限の動きだけですり抜けて向かってくる魔物のスピードは尋常のものではない。少なくとも、身体強化を込みにした私の全速力を明らかに超えている。
(気付かれた……!?)
単なる嗅覚か、それとも魔力探知に似たような能力でもあるのか。いずれにせよ、単なる杞憂と考えられるほど……この状況で逃げ切れると考えられるほど、私は楽観的ではない。
とっさに魔導銃を二丁とも構えて銃口を揃えるのと同時に、正面から現れた魔物が私に跳びかかるように襲い掛かってきた。
「くっ!?」
それに対して何とか銃撃で迎え撃てたが、焦りと共に二丁の魔導銃から放たれた魔力弾は1発は外れ、もう1発は魔物の体を掠めるだけに終わってしまう。
当然、そんな攻撃で大型肉食獣並みの体格を誇る魔獣を撃ち落とせるわけもない。私は魔物の体格と、跳びかかりの勢いに押されて地面に倒され、鋭い爪の生えた前足で押さえつけられる。
こうなれば向こうの攻撃はこれだけで済まない……本能的にそう察した私はほぼ無意識の内に片足で魔物の腹を押し上げ、右手の魔導銃を盾にした。
「痛つう……ぐぅ……っ!」
私に噛みつこうとした魔物の口に金属製の魔導銃を噛ませることで何とか大怪我を負うことは避けられたけど、身体強化を使ってもまるで押し退けられる気がしないし、むしろこのまま押し切られてしまう事は、直に感じられる魔物の力から簡単に想像できる。
(これが魔物……これが実戦か……!)
敵を前にして血走った目に、大量の唾液で濡れた無数の牙、押さえつけられた私に鋭い痛みを与えてくる爪……この魔物が全身全霊を賭して私を殺そうとしているのが言葉よりも雄弁に伝わってきて、思考は停止してしまいそうになるのを私は実感した。
前世で読んだ漫画とかラノベの主人公ってすごい。普通こんなに殺気ぶつけられて殺しにかかられたら、頭が真っ白になって何もできなくなる。ご都合主義込みとはいえ、そんな怖いって感じる気持ちを押し殺して知恵と力を振り絞ってるんだから。
(……だったら、私もそうなるだけだ……!)
むしろそうなった先にこそ、私が目指すべきものがある。
性差を理由に押し付けられる、ありとあらゆる理不尽を捻じ伏せるための暴力。それを使いこなすためには、どんな時でも気丈に振舞える勇気が一番必要なのだと思い知った。
なら……それを手にするためにこの手を全力で伸ばすだけだ。
「……ぁぁぁぁぁああああああああっ!!」
私が突き立てられた爪が皮膚を傷つける痛みを無視して、左手に持った魔導銃の銃口を魔物の頭に押し当て、魔力弾をゼロ距離発射する。
放たれた弾丸は一瞬で頭蓋を突き抜け、頭に風穴の空いた魔物はそのままゆっくりと地面に倒れ伏した。
「はぁ……はぁ……っ!」
緊張し過ぎて乱れた呼吸を整えながら、私はゆっくりと立ち上がる。
今回の戦い……完全に私の実力勝ちだなんて自惚れてはいない。とっさの行動が上手くかみ合ったラッキーに助けられたことだってあったし、また同じことができるかと聞かれたら自信を持って頷けない。
(それでも、私は勝った)
勝って、私は生き残った。つまり反省をして次に活かせるという事だ。
今回の戦いで私に必要なものも新たに分かったし、何よりも確かな経験を得たという手応えを感じることができた。
理想には程遠いけど、今はこれで十分。とにかくこの経験と、試行錯誤を積み重ねていこう。そう判断した私は、戦いの騒音で魔物が集まってくる前に王都へ戻るのだった。
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