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28.ブチ切れ成瀬の恐怖
しおりを挟む剣地:秘密基地内の訓練場
翌日。俺はヴァリエーレさんとティーアを相手に剣の稽古をしていた。
二人ともソードマスターのスキルを持っているから、かなり剣の腕が上達したと思っている。でもまぁ、二人の方が経験あるから俺より強かったけど。
「皆。情報を掴んできたぞ」
フィロスがこう言いながら、近付いた。フィロスが手にしているのは、一枚のチラシだった。
「何これ?」
「明日行われる王の定例パレードの予定表だ」
「パレード? なんでそんなもんやるの?」
「王が偉ぶるために月一で行うのよ。国民全員は絶対に外へ出てパレードを見なくちゃいけないの。見なかったらその場で処刑」
「とんでもない奴ね。本当に人間かしら?」
フィーアさんから話を聞いたティーアが、腹を立ててこう言った。俺もこの話を聞いて、腹が立っていた。人のすることじゃねえ。そんな時、俺はあることに気が付いた。
「あれ? 成瀬はどこ行った?」
「ヴィルソルと一緒にミチサクのギルドへ向かったよー」
と、ルハラが逆立ちをしながら俺に答えた。何でギルドへ?
成瀬:マージドイナカ山の近くのギルド
「どうしてギルドへ向かったのじゃ?」
ヴィルソルが私にこう聞いてきた。私はちょっと待ってねと言って、ギルドの案内嬢に話を始めた。
「すみません。手配書を見たいのですが」
「手配書ですね。少々お待ちください」
私は受付嬢が手配書を探しに行った時に、ヴィルソルに返事を出した。
「あの王様が手配書にないかなって」
「そうだな。もし、王に反発している奴が他国にもいれば、こっそりと手配をすることが可能だ。現にクーデター軍の人たちがこのギルドへ依頼をできたのも不思議だ」
「お待たせしました~」
受付嬢が、山積みになった手配書をもって現れた。私たちは手分けして、あの王様の手配書を探した。しばらく探していると、ヴィルソルが声を上げた。
「あった、これじゃ!」
「どれどれ……」
ヴィルソルが手にする手配書には、こう書かれていた。
名前:マライサ・ビーエ
職業:某S国の独裁王
罪状:殺人・恐喝・その他諸々
報酬金:一億ネカ(もし殺してしまった場合はその半額となる)
推奨ギルドレベル:百以上
うわー、結構大物ね。だけど、独裁王だとしても一応は王様。捕まえるのはかなり難易度が高いのね。
「ほへー、あの王を半殺しにしてここに連れてこれば、一億貰えるのか!」
「殺したらその半額だけどね」
「だけどその場合は五千万じゃ! どちらにしても大きい」
ヴィルソルは貰える金額を見てはしゃいでいたけど、私はそんな気持ちは沸いてこなかった。ただ、あの王様への怒りですでに一杯だったからだ。
「戻りましょう」
「え? ああうん」
私は分厚い手配書を返し、剣地の元へ戻って行った。
ヴァリエーレ:訓練場
話の後、私は再びケンジと剣の稽古をしていた。
ケンジはソードマスターのスキルを持っているが、まだ剣を使い始めて経験が浅いため、まだまだ剣の腕は未熟だ。
ただ、徐々に強くなってきているのは分かる。
「ヴァリエーレさん! もう一回だ!」
ケンジは一呼吸を置いた後、立ち上がって木刀を構えた。その時、ナルセとヴィルソルが帰ってきた。
「皆ただいまー」
「戻ったのじゃ!」
「成瀬、無事だったかー」
ケンジは笑いながらナルセに近付いたのだが、何かに怯え、後ろへ下がった。私が見た感じだと、ナルセの雰囲気はいつもと同じだった。ケンジは何に怯えたのだろう?
「ヴァリエーレさん。何か話はありましたか?」
「えーっと、明日あの王様がパレードを行うわ」
「そう……じゃあよかった。お城に攻め込む手間が省けたわ」
え? ちょっと待って。今、ナルセの口から恐ろしい言葉が出てきた。間違いない。お城に攻め込むと言った。
「ね……ねぇ。お城へ攻め込むってどういうこと?」
「このまま話が続かなかったら、私が魔力であの王様を半殺しにしようって考えていました」
うん。幻聴じゃない。今のナルセはちょっと……いや、かなり違う。その時、ケンジが私の裾を引っ張って耳を貸すようにと合図した。
「ヴァリエーレさん。今のあいつにはなるべく近付かない方がいいですよ」
「そ……そうね。とんでもなく物騒な単語がナルセの口から出てきたから、様子がおかしいってわかったわ」
「ルハラやティーアにも伝えておくよ」
その後、ケンジはルハラとティーアの元へ向かった。すると、ヴィルソルは私に近付き、抱き着いてきた。
「すまん……ちょっと怖いから落ち着くまでこうしてくれ……」
「分かったわ」
魔王であるヴィルソルも、ナルセの気迫に押されている。本当に大丈夫かしら?
数時間後、レットさんが私たちに集合をかけた。
「皆聞いてくれ! 新しい作戦を考えた!」
この言葉を聞き、私たちは一斉にレットさんの元へ向かった。
「知っている奴もいるかも知らないが、一応言っておく。明日、あの王様がパレードを行うことになっている。俺たちはパレードの隙を狙って奇襲し、王様を倒す!」
レットさんの言葉を聞き、皆一斉に頷いた。だが、私はこの案に少し不安要素があることに気付いた。
それは、敵兵がどのくらい強いのか。もし、一人一人の強さが私たちより上ならば、勝てる要素はない。
いくら高位なスキルを持っているケンジやナルセ、勇者のティーアと魔王のヴィルソルがいたとしても、互角に戦えるとは思えない。私はそんなことを思っていた。
「じゃあ私が前に立ってやります」
ナルセが手を上げてこう言ったのだ。この光景を見て、レットさんやフィロス、ラウドは目を丸くして驚いていた。
「おいおい。嬢ちゃんは後ろで援護してくれればいいぜ」
「大丈夫です。というか、私一人で何とかできるかもしれません」
困ったレットさんはケンジの方を見たが、ケンジは震えながらこくこくと頷いていた。どうやら言うとおりにしてやれと合図しているのだろう。
「うーん……じゃあ嬢ちゃんに任せるぜ。ただし、フォローで俺らも付いていく」
「はい。分かりました」
ナルセはそう言うと、部屋から出て行った。
剣地:作戦会議室
やばい。やばいやばいやばい。成瀬の奴本気だ。本気で戦うつもりだ。皆は普段の成瀬を見て、礼儀正しいいい子だと思っているかもしれないけど……ブチ切れたらとんでもなく成瀬は強く、恐ろしい。
以前、こんなことがあった。まだ俺と成瀬が子供だった頃、成瀬は孤児院の悪ガキどもに意地悪された時、ブチ切れてその悪ガキども相手にケンカを売り、フルボッコにした。その時の成瀬は怪我どころか、傷一つなかった。
それから、孤児院では成瀬を怒らせたら地獄を見るから何が何でも絶対に怒らすなと、皆の中で言われ続けた。それから、皆成瀬を意地悪するのを止めた。
その恐怖のブチ切れ成瀬が、今この場で復活しようとしていた。さらに、今の成瀬はチートレベルのスキルを持っているので、暴れだしたら止めようがない。というか止める手段がない。
「さぁ剣地、明日は早いからもう寝ましょう」
「は……はひぃっ!」
俺は成瀬の言うとおりにし、一緒の部屋へ向かった。ルハラが俺と一緒に行こうとしたが、ヴァリエーレさんがルハラを止めた。
「成瀬、入るぞー」
「遅い」
ベッドの上で横になっている成瀬は、いつも通りの成瀬だった。さっきまでは恐怖を感じるほどのオーラを纏っていたが、今はそうでもなかった。
「何だよ、怒ってねーのか?」
「火山爆発中」
あー……やっぱりそうか。俺はそう思いながら、成瀬がいる布団に入った。
「少しは落ち着けよ。お前が怒るのは分かるけどさ」
「だってしょうがないじゃない。仮にこうなったのも、あんたがあの王様の行動を許せない気持ちがあるからでしょ?」
「そうだな……」
いろいろありすぎて忘れていたが、この騒動に首を突っ込んだのは、ヴィルソルの所の子供モンスターを救ったのがきっかけだった。だけど、そのことを聞かなかったらヴィルソル……いや、あの山のモンスターたちは困り果てていただろう。
「成瀬。明日は俺もお前と一緒に暴れるからな」
「ふふっ、頼りにしているわよ、旦那様」
成瀬はそう言うと、俺にキスをして、抱き着いた。
「完全に眠れるまで、こうさせてね……」
「ああ」
俺は成瀬を抱きしめ、ゆっくりと目をつぶった。
ヴィルソル:作戦会議室の隅
ナルセとケンジは今頃イチャイチャしながら寝ているのか。いいなー。いかんいかん。そんなことより、早くエイトシターたちにこのことを知らせないと。
我は今、魔力で念を発し、エイトシターと話をしている。その横には、フィロスが立っている。念での会話を終え、我は一息吐いてフィロスに伝えた。
「我の所のモンスターへ援軍をよこしたぞ」
「すまない。まさかモンスターの手を借りることになるとは」
「困った時はお互い様じゃ。なーに。我の所のモンスターは野生モンスターと比べて、知性はあるから大丈夫じゃ」
「そうか。明日は君も頼むぞ」
「うむ。大船に乗ったつもりでいろ!」
我は大笑いをし、フィロスにこう言った。
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