4 / 40
04.初めての任務
しおりを挟む地:ロイボの町のギルド本部
翌日、俺と成瀬はヴァリエーレさんと共にギルド本部へ向かった。手続きに時間がかかるのだろうなと、俺は予想していたが、手続きはあっさりと終った。名前を書き、ギルドの仕組みについて話を聞くだけだった。
話を聞き終え、俺は背伸びをしながらこう言った。
「さてと、じゃあ何かやろうか?」
「そうね。じゃあカウンターへ行きましょう」
俺と成瀬は任務を受注するため、カウンターへ向かった。任務を受注するのも、終えたことを報告するのもここで行うと話を聞いている。ロイボの町のギルドはかなり大きいため、カウンターが多い。ぱっと見で二十はあるだろう。
最初に番号札を受け取り、自分の番号が呼ばれるのを待った。数分後、俺と成瀬の番号が呼ばれた。急いでカウンターへ向かい、任務受注表を確認した。
「ケンジさんとナルセさんは優秀なスキルを持っていますが、ギルドのランクは一なので、まずはそれと同等の任務を受けてもらいます」
ギルドにはランクというものがある。これが高ければ高いほど、難しい任務が受注できるようになる。俺と成瀬は神様から優秀なスキルを貰ったが、今日ギルドに登録したので、ランクは一から始まるのか。
ランクを上げるには、任務をこなしていくしかない。俺は何を頼めばいいのか分からないので、案内嬢の姉ちゃんにこう聞いた。
「あの、初めての任務を受注するのですが、初めての人でもできる任務ってありませんか?」
「そうですね……このヤバジカ討伐はどうですか? 凶暴ですが、ゴブリンより弱いですので、簡単にできると思います」
「ヤバジカって何ですか?」
「えーっと、こちらをご覧ください」
案内嬢の姉ちゃんが図鑑を持ってきて、ヤバジカについての説明を始めてくれた。
「ヤバジカは獣のモンスターです。高さは一メートル弱。体は頑丈ではなく、皮も毛も薄いが、性格は凶暴である。奥歯が鋭くとがっているせいで、噛みつかれたら大変なことになる。群れで行動しており、獲物を見つけたら一斉に襲い掛かるので注意」
「話を聞く限り、やばそうな相手ね」
「そうでもないですよ。足は遅い、魔力を使った攻撃を一撃でも当てるだけで倒せると思います。お二人は優秀なスキルを持っているので、相手にならないと思いますが」
「そうですね。任務は初めてですので、この任務を引き受けます。剣地、どう思う?」
「俺もこれでいい」
「分かりました! では、車の準備ができたら、依頼地であるロイボの町の南平原へ向かいますので、入口付近で待機していてください」
その後、俺と成瀬は言われた通り、入り口付近で待機していた。待機する中、他の人たちが俺たちを見て、何かを話していた。
「おい見ろよ、昨日ゴブリン相手にやりあった坊主と嬢ちゃんだぞ」
「見た目は弱そうだけど、あれで強いって噂だぜ」
「ヴァリエーレさんが目を付けているらしい。将来が楽しみだ」
昨日のゴブリンと戦った話が、周りに知られているのか。でも、どうやって話が広がった? 俺がそう思っている中、すぐに答えが見つかった。
「あそこにいるのが昨日、ゴブリンを相手にした冒険者の二人組です! いやー、将来が楽しみですねー」
一部の受付嬢が、俺と成瀬の話をしていた。
剣地:町の外
数分後、俺と成瀬が乗る車の準備ができた。すぐに車に乗り、依頼地である南の平原へ向かった。車から出る時、ギルドの人が俺と成瀬にこう言った。
「これをお渡しします。地図の機能がある電子端末です。ちょっと待っていてください」
ギルドの人が地図に触れると、黄色の矢印が現れた。
「ここが私たちの現在地。で、ここから少し離れたこの場所……ここですね」
指で円を描くように地図をなぞると、そこに赤い色の線が描かれた。
「この周辺が合流地となります。ヤバジカを討伐したら、ここでこの鈴を使ってください」
そう言うと、ギルドの人は俺に鈴を渡した。
「これを使うと、ギルドの者に現在地を伝えることができます。帰る時はこれを使ってください。しかし、安全な所で使ってくださいね。送り迎えを担当する人間はそこまで強くないので」
「了解です」
「では、私はこれで戻ります」
話を終え、ギルドの人は足早に帰って行った。俺は背伸びをしてリラックスした後、腰の剣の位置を直し、インフィニティポーチでハンドガンを持ち出した。
「うし、じゃあヤバジカを倒しに行くぞ」
「でも結構広いわねここ。どこにいるか分からないわ」
成瀬は周囲を見回し、こう言った。確かにヤバジカの奴はどこにいるのか分からない。俺もそう思うと、成瀬の問いに答えることができない。
「とりあえず、どこにいるか歩いて調べるしかないか」
「足音とか聞こえないかな?」
足音か。周りを見ると、この平原には俺と成瀬以外の人はいない。風によって草が動く音がするが、それでも耳障りにはならない。俺は目をつぶって耳に神経を集中させ、足音が聞こえないか調べた。しばらくし、足音っぽい音が聞こえた。
「向こうに行こう」
「本当にいるのかしら?」
「勘だ。いなかったら飛んで探すよ」
その後、俺の勘を頼りに、移動を始めた。すると、奥の方で草が揺らぐ音が聞こえた。その直後に、今回の討伐対象であるヤバジカが顔を出した。顔は鹿に似ているけど、鹿よりも毛や皮が薄く、体も骨が見えるくらい弱い見た目をしている。
「弱そうだけど、やるしかないか」
俺がハンドガンを構えると、ヤバジカは変な奇声を上げた。
「オゲェッ! 何だ、この声?」
「キーンってする!」
俺と成瀬は音のうるささに耐え切れず、耳を防いだ。鳴き声が止み、俺は再びハンドガンを構えた。
「今度こそ俺の弾丸でぶち抜いてやるぜ」
その時だった。別の所からヤバジカが現れたのだ。その後も、続々とヤバジカが現れてきた。もしかして、今の奇声は仲間を呼ぶためだ。
「成瀬、一旦引くぞ! あいつら、仲間を呼びやがった」
俺は成瀬の手を引き、後ろに下がった。ヤバジカの連中は興奮しながら、俺と成瀬を追って走ってきた。一か八か、使ってみるしかないな、あのスキルを!
「成瀬、俺に抱き着いていろよ」
「へっ?」
何でこんな時に顔が赤くなる? 俺はそう言おうとしたが、今はそんな暇はない!
「スカイウイング!」
俺がこう叫ぶと、背中に何かが生えた気がした。
「嘘……翼が生えた……」
どうやら、本当に背中から羽が生えたらしい。少しでもいい、高く飛び上がろう。俺はこう考えていたのだ。もちろん、普通に空を飛んだわけではない。ここからは成瀬の番だ。俺は高く飛んだ後、成瀬にこう言った。
「成瀬、あいつらを一掃する方法って使えないか?」
「考えがあるの」
「この状況を何とかできるみたいだな。頼む」
「分かった。じゃあ、しっかりと飛んでいてね」
その後、成瀬は魔力を練り始めた。攻撃の準備が終わるまで、羽が生えていればいいが。そう思うと、俺が予想よりお早くに成瀬の攻撃の準備は終わった。
「これで決まるはずよ!」
成瀬の声と共に、魔力が解き放たれた。成瀬は水を発生させ、ヤバジカに向けて発した。だが、それが何の意味があるのだろうか。
「水よ、凍って尖れ!」
ヤバジカを濡らした水は一気に凍り、一部が棘のようにとがり、ヤバジカの体を貫いた。
「うわ……えげつない……」
たった数分で、大量にいたヤバジカはその場に倒れた。俺は地面に降り、倒したヤバジカを調べつつ、回りを見た。
「奴らは倒したし、回りに何もいない。任務達成だ」
「じゃあ、毛皮や爪を剥ぎ取りましょう」
その後、俺と成瀬はヤバジカの死体を調べ、毛皮や爪、牙を入手した。
これもまたギルドの決まりだが、倒したモンスターから、爪や牙、毛皮などの武器防具に仕えそうな素材は持ち帰ってもよいとのこと。
俺と成瀬はありったけの素材を集め、ギルドの人を呼ぶために安全地帯へ向かった。数分後、ギルドの迎えの人が来た。あまりの速さに驚いていたが、俺と成瀬が所持しているスキルを見て、なんか納得した顔をしていた。
初めての任務は難なくこなすことができた。これから毎日、こんな暮らしが続くのだろうな。と、俺は心の中でこう思った。
46
お気に入りに追加
246
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

薬漬けレーサーの異世界学園生活〜無能被験体として捨てられたが、神族に拾われたことで、ダークヒーローとしてナンバーワン走者に君臨します〜
仁徳
ファンタジー
少年はとある研究室で実験動物にされていた。毎日薬漬けの日々を送っていたある日、薬を投与し続けても、魔法もユニークスキルも発動できない落ちこぼれの烙印を押され、魔の森に捨てられる。
森の中で魔物が現れ、少年は死を覚悟したその時、1人の女性に助けられた。
その後、女性により隠された力を引き出された少年は、シャカールと名付けられ、魔走学園の唯一の人間魔競走者として生活をすることになる。
これは、薬漬けだった主人公が、走者として成り上がり、ざまぁやスローライフをしながら有名になって、世界最強になって行く物語
今ここに、新しい異世界レースものが開幕する!スピード感のあるレースに刮目せよ!
競馬やレース、ウマ娘などが好きな方は、絶対に楽しめる内容になっているかと思います。レース系に興味がない方でも、異世界なので、ファンタジー要素のあるレースになっていますので、楽しめる内容になっています。
まずは1話だけでも良いので試し読みをしていただけると幸いです。

異世界から帰ってきた勇者は既に擦り切れている。
暁月ライト
ファンタジー
魔王を倒し、邪神を滅ぼし、五年の冒険の果てに役割を終えた勇者は地球へと帰還する。 しかし、遂に帰還した地球では何故か三十年が過ぎており……しかも、何故か普通に魔術が使われており……とはいえ最強な勇者がちょっとおかしな現代日本で無双するお話です。

【完】BLゲームに転生した俺、クリアすれば転生し直せると言われたので、バッドエンドを目指します! 〜女神の嗜好でBLルートなんてまっぴらだ〜
とかげになりたい僕
ファンタジー
不慮の事故で死んだ俺は、女神の力によって転生することになった。
「どんな感じで転生しますか?」
「モテモテな人生を送りたい! あとイケメンになりたい!」
そうして俺が転生したのは――
え、ここBLゲームの世界やん!?
タチがタチじゃなくてネコはネコじゃない!? オネェ担任にヤンキー保健医、双子の兄弟と巨人後輩。俺は男にモテたくない!
女神から「クリアすればもう一度転生出来ますよ」という暴言にも近い助言を信じ、俺は誰とも結ばれないバッドエンドをクリアしてみせる! 俺の操は誰にも奪わせはしない!
このお話は小説家になろうでも掲載しています。

男女比の狂った世界で愛を振りまく
キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。
その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。
直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。
生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。
デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。
本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。
※カクヨムにも掲載中の作品です。


ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる