サグドラ・ファミリア! 〜シングルマザーが女嫌いと噂される王弟殿下と結婚するまでの話〜

加藤羊大

文字の大きさ
上 下
18 / 32

第十話② エルトニア国

しおりを挟む
「あそこが役所です」

ヨシュアが示した方角に、大きな建物があった。ヨシュアは馬車道の端に馬車を寄せると停車する。真理衣は悠を抱え直すと馬車から降り立った。
ヨシュアに促され、真理衣は建物へ入って行く。

「…役所っぽい」
「そりゃあ役所ですからね」

設備は違うものの、日本の役所と大差ない光景が広がっており、真理衣は若干微妙な気持ちになった。
彼女はてっきり書類や羽ペンが飛んだりする魔法的な物をイメージしていたのである。

「文字書けますか?」
「代筆お願いして良いですか?」
「勿論です。では名前から」

真理衣はヨシュアに必要書類の記入を頼み、口頭で答えたが、名前と性別、年齢くらいしか記入できる物が無かった。

「マリーさん29歳…?!」

ヨシュアはこっそりと驚愕の表情を浮かべた。彼の目にはどう見ても20そこそこに見えていたのである。ヨシュアは咳払いをすると、真理衣に窓口カウンターへ行く様伝えた。

「ここで身分証を作ってもらうんですよ」

窓口には球体の機械の様な物が置いてあり、真理衣は腕輪型身分証を作る魔道具だと説明を受けた。国に仕える者は金色、一般市民は銀色、聖職者は透明なクリスタルで作られる。これは世界的に統一されている。真理衣は不安げに訊ねる。

「あー…私達みたいな難民っぽい人は?」
「マリーさんと悠さんは聖職者として登録しますので、クリスタルで作られます」

ヨシュアが周りに聞こえぬ様声を落として付け足す。

「貴女方は特別です。何しろユール神のご加護を受けているのですから…」

ユールがヨシュア達の記憶を弄った際に、加護の事を捩じ込んだ。サグドラ国の教会を出る前に、加護がある事も魔道具で確認済である。

「あ、そうなんですね…」

そう言えばそんな事も言われたな、と真理衣は笑って誤魔化した。彼女は保護してもらえる、という以外は忘れていた。
様々な事があり過ぎて、キャパシティがオーバーしたのである。

「こちらに利き手と逆の方を乗せて下さい。良いと言うまで動かさないで下さいね」

役人に言われ、真理衣は左手を魔道具の上にそっと乗せた。ジジジジと電子音に似た音がした後、球体が光り真理衣の手首に腕輪が徐々に姿を現した。
魔法らしい現象に、真理衣の気分が高揚する。

「はい、もう結構ですよ」

同じ様に、眠る悠の左手も乗せると彼女の手首にも小さな腕輪が嵌った。

「これ、成長したらキツくならないのかな?」

真理衣の疑問に役人がクスリと笑った。

「魔法で造られた物ですので、成長と共にサイズも変わりますからご心配なく」
「へぇ…凄い」

ヨシュアも、どれだけ辺鄙な所に住んで居たのだろうかと思わず笑い声が漏れ出てしまう。
真理衣は二人に笑われ赤くなった顔を片手で覆い隠した。

「くぅ…どうせある意味お上りさんだよチキショウ…」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

異世界に行った、そのあとで。

神宮寺 あおい@受賞&書籍化
恋愛
新海なつめ三十五歳。 ある日見ず知らずの女子高校生の異世界転移に巻き込まれ、気づけばトルス国へ。 当然彼らが求めているのは聖女である女子高校生だけ。 おまけのような状態で現れたなつめに対しての扱いは散々な中、宰相の協力によって職と居場所を手に入れる。 いたって普通に過ごしていたら、いつのまにか聖女である女子高校生だけでなく王太子や高位貴族の子息たちがこぞって悩み相談をしにくるように。 『私はカウンセラーでも保健室の先生でもありません!』 そう思いつつも生来のお人好しの性格からみんなの悩みごとの相談にのっているうちに、いつの間にか年下の美丈夫に好かれるようになる。 そして、気づけば異世界で求婚されるという本人大混乱の事態に!

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

伯爵令嬢の秘密の知識

シマセイ
ファンタジー
16歳の女子高生 佐藤美咲は、神のミスで交通事故に巻き込まれて死んでしまう。異世界のグランディア王国ルナリス伯爵家のミアとして転生し、前世の記憶と知識チートを授かる。魔法と魔道具を秘密裏に研究しつつ、科学と魔法を融合させた夢を追い、小さな一歩を踏み出す。

召喚先は、誰も居ない森でした

みん
恋愛
事故に巻き込まれて行方不明になった母を探す茉白。そんな茉白を側で支えてくれていた留学生のフィンもまた、居なくなってしまい、寂しいながらも毎日を過ごしていた。そんなある日、バイト帰りに名前を呼ばれたかと思った次の瞬間、眩しい程の光に包まれて── 次に目を開けた時、茉白は森の中に居た。そして、そこには誰も居らず── その先で、茉白が見たモノは── 最初はシリアス展開が続きます。 ❋多視点のお話もあります ❋独自設定有り ❋気を付けてはいますが、誤字脱字があると思います。気付いた時に訂正していきます。

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

嫌われ聖女さんはとうとう怒る〜今更大切にするなんて言われても、もう知らない〜

𝓝𝓞𝓐
ファンタジー
13歳の時に聖女として認定されてから、身を粉にして人々のために頑張り続けたセレスティアさん。どんな人が相手だろうと、死にかけながらも癒し続けた。 だが、その結果は悲惨の一言に尽きた。 「もっと早く癒せよ! このグズが!」 「お前がもっと早く治療しないせいで、後遺症が残った! 死んで詫びろ!」 「お前が呪いを防いでいれば! 私はこんなに醜くならなかったのに! お前も呪われろ!」 また、日々大人も気絶するほどの魔力回復ポーションを飲み続けながら、国中に魔物を弱らせる結界を張っていたのだが……、 「もっと出力を上げんか! 貴様のせいで我が国の騎士が傷付いたではないか! とっとと癒せ! このウスノロが!」 「チッ。あの能無しのせいで……」 頑張っても頑張っても誰にも感謝されず、それどころか罵られるばかり。 もう我慢ならない! 聖女さんは、とうとう怒った。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

処理中です...