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十二話

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 なんということでしょう……。
 辺境の街ザールに到着しました。
 この場所は、ずっと昔にアンデッドが地面の深穴から蠢き這い出し、王国を危機に陥れた始まりの地。
 私の前世はここで命を落とし、命がけでアンデッドの大群を封じたのでした。
 そして土地を守護するため、責任ある民たちが住み着き守り、静かに暮らしてきたと聞いています。
 だというのに。だというのに。

「ひどすぎる……」

「お嬢様。俺はこんなに怒ったことは、人生でただ一度もない。この場で行われたことは、単なる虐殺……いや、それ以下の行為だ」

「アーサー……っ」

「す、すみません。泣かないでく、くださいませ。どうすれば……ご老人!!」

「ハンカチを差し出しなさいアーサー殿や」

「す、すみません」

 女、子供も構わず皆殺しです。
 そして亡骸はずっと道端に放置されていたのでしょう。腐り異臭を放ち、魂はその行き場を失っています。
 あまりの所業に、私は涙が止まりません。
 私の意思をついで頑張ってくれた、神聖な意思をもつ民たち。
 どうしてこのような目にあわなければいけないのでしょうか?
 いったい彼らが何をしたというのでしょう。
 泣きじゃくる私をなだめるため、アーサーやガリウスはおろおろと狼狽えていました。
 しかし。
 とある気配を感じ、皆は身を固くしたのです。



「やっとお越しになられましたかぁ。到着がおっそいのは、引き連れた連中とよろしくヤっていたからですかぁ?」



 聞き覚えのある声。
 忘れもしない。
 シャイナ=ノービス。
 ノービス公爵の令嬢、残酷な目をした肉食の娘。
 腐肉をあさるアンデッドのような、獰猛な女はザールの街で待ち構えていたのでした。

「…………あなたは」

「カテリーナお嬢様はぁ、この街をこんなふうにした理由を聞きたいんですよねぇ?」

「ええ」

「ひ・み・つ」

 シャイナは口許に手をあて、いたずらめいた微笑みを浮かべます。
 こうしてすべての男を手にいれてきたとでも言いたげな顔で、私を睨みつけるのです。
 許さない。
 決して、シャイナから視線を外すものか。

「他の誰が赦しても、私は……神はあなたを許さない」

「きゃはっ!? 神ぃ? カテリーナお嬢様、あんた物事を知らなすぎぃ。神なんていないしぃ」

「神はいます」

「だったらさぁ……ブスでのろまでバカなあんたを、その神は守ってくれるのかなぁ? こんなわかりやすい罠にかかって、こんな田舎のくっそくだらない場所で死んでいくあんたを神は救ってくださるのかしらぁ?」

 シャイナが右手を挙げると、背後からおぞましいうなり声が聞こえてきます。
 アンデッドです。
 肉が腐り、白く瞳が濁った、ノービス家の紋章の入った鎧や兜を身に付けた兵士たちがこちらに押し寄せてきます。
 大群です。
 私たちの数倍はあろうかの命なき兵士の波が、シャイナの合図で現れたのでした。

「な!? ど、どういうことだ!? ノービスの兵士が……化け物になっているだと!?」

 アーサーは驚愕し、急いで私の両親を背後に守ります。
 ガリウスもあまりの出来事に理解が追い付いていない様子です。
 私は、シャイナの行いがわかってしまいました。
 あまりに下劣で悲しかったので、涙が出ませんでした。
 逆に、冷静でした。
 パチパチと手拍子して煽ってくるシャイナに対して、冷静に尋ねました。

「……まさか」

「正解、正解ですぅ。封印の穴をこじあけましたぁ。なんも知らないノービスの兵士らに開けさせて、いっちゃん最初に喰われたのがコイツらね。次に皆殺しにしておいた住民がゾンビになったわなー。ちょっとヤバいなと思ったけどぉ、スティーヴ殿下はあたしの言うことならなんでも聞くしぃ? あたしはコイツらに襲われないしぃ。だから聖女だって嘘もバレなきゃ本当じゃん? あんたのようなブスはここで腐った男どものエサになりなよぉ。きゃはっ」

「味方を、民をなんだと思っているのですかっ!! あなたはクズだ。人でなし!!」 

「うるさいなぁ。キモい奴ほどよく吠えるんだよねー。ここで死ね」

 アンデッドたちは、シャイナを避けるようにしてこちらに迫ります。
 なぜ、シャイナは襲われないのでしょうか?
 シャイナは本当に聖女として神に守られているのでしょうか?
 違うはずです。
 お助けください精霊神様。
 どうか、どうか。
 目の前の怨敵を打ち砕く覚悟と力を下さい。
 ……。
 違う。
 アーサーやガリウスたちが、必死に戦いアンデッドを押し止めている。
 両親や家臣たちも同じだ。
 こんなにたくさんの人に慕われ、護られている。
 一方、彼女は、シャイナはこの場にたった一人だ。スティーヴすら隣にいないではないか。
 私がすべきは、恨むことではない。
 祈ることだ。
 お願いします。
 力を下さい。
 真実を照らすだけの、一筋の光を。
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