20 / 23
【番外編②】3
しおりを挟む
陛下に呼ばれて登城すると、すっかり見慣れた豪華なラウンジに通された。
このラウンジは陛下の趣味の宝庫だ。壁の一面には書物や楽譜が敷き詰められ、部屋の一角にはバーカウンターが、そのすぐ斜め前にはピアノが置かれている。
部屋の至るところにソファとテーブルがセットで置かれていたが、私が来る場合は決まってバーのすぐ横の席だった。そして使用人がバーカウンターに立っている。
私の姿を確認するなり、グラスを持ち上げてカランと鳴らし、「おぉ、プルトン!」と上機嫌だ。すでに何杯か飲んでいるようだ。
一礼をして陛下の前に座ると、陛下が私の分のお酒も注文した。
「御用はなんでしょうか。」
そう訊くと、陛下は上機嫌だった筈の顔をすぐに曇らせた。
「お前は相変わらず冷たい奴だな。会ってすぐに用事を訊くとは。世間話のひとつもできないのか?」
何の為に?そう思ったが御所望ならと、一言挟む。
「本日は小雨が降っていましたが、御用はなんでしょうか?」
「雨だったからか?雨の日に呼んだからそんなに冷たいのか?」
なかなか用件を言わない陛下に多少苛立ち、軽く息を吐くと、グラスに酒を注いで側まで来ていた使用人がびくりと肩を竦ませた。恐る恐る私の前にグラスを置き、そそくさとカウンターに逃げて行く。
そんな反応は慣れていたが、久しぶりだったので少し新鮮だった。
そういえば死神公爵と呼ばれていたのだったと思い出す。
フローラと結婚をしてからというもの、邸内の使用人はどこか明るく、城でも笑顔で挨拶されることが増え、人々に忌み避けられていたことをすっかり忘れていた。
「ありがとう。」
怯える使用人に向けてそう言うと、彼は一瞬呆けた後、いえっ!と畏まった。
余計に怖がらせてしまっただろうか。
ほう、と感嘆の声を漏らしたのは陛下だ。
「変わったな、プルトン。お前から使用人に礼を言うとは。」
「フローラが、よく気さくに話しかけるのです。細かい仕事から髪型を変えたというような個人的なことにまで、使用人のあれこれによく気がつくようで。」
だから若騎士も勘違いをしたのだろう。
「それは、そうだろうな。」
「どういう意味です?」
「お前の良いところを見つけて惚れるような子だろう。」
よく人を見ている証拠だと言われ、なるほどと納得しかけたが、すんでのところで首を捻った。
確か最初は見た目が好みだったと言っていたような。そうなってくると、ただの趣味の変わった女の子だ。
「お前も人間らしくなったというか、近寄るなオーラが薄れたというか。」
「そんなオーラを出していたつもりはありませんが。」
「ともかく、お前が良い嫁を貰ったようで本当に安心したよ。女性でありながらイノシシの脳天をぶち抜くような、肝の据わった方だしな。実にお似合いだ。あっはっは!」
はっとしてグラスを置く。
「それは、フローラの前では仰らないよう、お願い申し上げます。」
「なぜだ?素晴らしい腕前だったのに。」
「どうしてもです。」
フローラが格好良いことは百も承知だ。心の芯がとても強く、包容力もあり人としての器が大きい。
何度も心身共に助けられたし、銃の腕前は男の私も惚れ惚れするほどだった。
しかし、彼女はそう見られることを望んでいないようなのだ。
格好良く場を収めた後は、必ず取り繕ったようにわざとらしく女の子らしさを見せようとする。そうやって甘えてくる姿もまた可愛く、つい騙されたふりをしてしまう。
「ふーん、まぁいいさ。お前がそう言うのなら触れずにおこう。」
「ありがとうございます。」
互いにそれぞれ酒をひと口流し込み、またグラスを置いた。
「それで、ご用件はなんでしょう。」
チッと陛下の舌打ちが鳴った。
「世間話は終了か?」
「ご用件を聞いてからでも世間話はできますよ。」
「嘘をつけ!お前すぐに帰るだろう!」
当たり前だ。早く帰ってフローラと一緒に過ごしたい。夜の時間が短くなった分、日中しかゆっくりできないのだから。
あまり無礼を働きたくはなかったが、自然と重いため息を溢してしまった。
「プルトン、お前、私にそんな態度で許されると思っているのか!」
「はぁ、すみません。」
また出た。あくまでも自然にだ。そうしようと思って出しているわけではない。
わなわなと陛下の手が震え、びしっと私に人差し指が向けられた。
「態度を改めないのなら、お前を宰相に任命してやるぞ!」
「やめてください!」
忙しい城勤めなど絶対にご免被る。
陛下が即位したばかりの頃は本気で打診されたが、全身全霊を込めて断り、それ以来、宰相に任命するぞという言葉が私を脅す常套句となった。
私が首都にいるのも、これが原因だった。
そもそも父の死後は領地でひっそりと静かに過ごし、代官も立てずに自ら領地を運営する予定だった。しかし、首都を出て行こうとするならば、とその常套句で脅され、首都外に住むことを許されなかったのだ。
王というのは全く厄介だ。
「私にどうして欲しいのですか。」
「お前のとこの植物園で、どでかい花が咲いたのだろう?スケッチは無いのか?」
にっこりと笑って見せる陛下。
明確な用件を言わないところを見るに、どうやら話し相手として呼ばれたらしい。
「持ってきていません。」
「なぜだ?!」
「御所望だとは知りませんでしたので。」
「知らなくても、友人である私と喜びを共有しようとは思わないのか?!」
確かに幼い頃から面識はあったが、性格も好きな事柄も真逆の彼とは全くもって馬が合わなかったのに、なぜ友人と見なされているのかいつも疑問に思う。
更に言えば、脅迫して行動を制御しようとする者を果たして友人と呼べるのだろうか。
「共有でしたら妻としました。」
チッと再び陛下の舌打ちが鳴った。目が三角に吊り上っている。
「いいかプルトン。確かに夫人はとても良い嫁だ。若くて可愛いし、お前が優先する気持ちもよく分かる。しかしな、ラブラブなんていつまでも続かないぞ。子ができれば夫なんか後回しにされるのだからな。そんな時に大切なのは愚痴を溢せる友人だとは思わないか?お前の友人といえば、私だろう?」
はっとした。
なぜ気がつかなかったのだろう。
フローラの突然の生活習慣の改善。口にするものに気を使い、アルコールを避け、体を冷やさないように気を付けていた。
更には診察後の大切な話となれば、大病でなかったとすると、それの可能性だって大いにあるではないか。全ての辻褄が合う。
フローラは懐妊したのでは。
自然と立ち上がった。すぐにでも彼女の元へ向かわなければ。
「すみません、急用を思い出しました。」
そう言って足早に戸口へ向かう。
「は?まだ話の途中だろう?」
そのまま流してもよかったが、陛下の言葉がきっかけとなって気がついたわけだから、感謝はするべきかと1度振り返った。
「後日、花のスケッチを持って改めて参ります。」
「呼ばずとも、お前から来てくれるということか?!」
陛下の目が輝いた。まるで顔に嬉しいと文字が書いてあるようだ。心なしか犬のように左右に揺れる尻尾も見える気がする。
何がそんなに嬉しいのやら。
可笑しくて、ふっと笑みが零れた。
「それでは失礼させて頂きます。」
ぽかんと口を開けた陛下を残し、私はその場を後にした。
このラウンジは陛下の趣味の宝庫だ。壁の一面には書物や楽譜が敷き詰められ、部屋の一角にはバーカウンターが、そのすぐ斜め前にはピアノが置かれている。
部屋の至るところにソファとテーブルがセットで置かれていたが、私が来る場合は決まってバーのすぐ横の席だった。そして使用人がバーカウンターに立っている。
私の姿を確認するなり、グラスを持ち上げてカランと鳴らし、「おぉ、プルトン!」と上機嫌だ。すでに何杯か飲んでいるようだ。
一礼をして陛下の前に座ると、陛下が私の分のお酒も注文した。
「御用はなんでしょうか。」
そう訊くと、陛下は上機嫌だった筈の顔をすぐに曇らせた。
「お前は相変わらず冷たい奴だな。会ってすぐに用事を訊くとは。世間話のひとつもできないのか?」
何の為に?そう思ったが御所望ならと、一言挟む。
「本日は小雨が降っていましたが、御用はなんでしょうか?」
「雨だったからか?雨の日に呼んだからそんなに冷たいのか?」
なかなか用件を言わない陛下に多少苛立ち、軽く息を吐くと、グラスに酒を注いで側まで来ていた使用人がびくりと肩を竦ませた。恐る恐る私の前にグラスを置き、そそくさとカウンターに逃げて行く。
そんな反応は慣れていたが、久しぶりだったので少し新鮮だった。
そういえば死神公爵と呼ばれていたのだったと思い出す。
フローラと結婚をしてからというもの、邸内の使用人はどこか明るく、城でも笑顔で挨拶されることが増え、人々に忌み避けられていたことをすっかり忘れていた。
「ありがとう。」
怯える使用人に向けてそう言うと、彼は一瞬呆けた後、いえっ!と畏まった。
余計に怖がらせてしまっただろうか。
ほう、と感嘆の声を漏らしたのは陛下だ。
「変わったな、プルトン。お前から使用人に礼を言うとは。」
「フローラが、よく気さくに話しかけるのです。細かい仕事から髪型を変えたというような個人的なことにまで、使用人のあれこれによく気がつくようで。」
だから若騎士も勘違いをしたのだろう。
「それは、そうだろうな。」
「どういう意味です?」
「お前の良いところを見つけて惚れるような子だろう。」
よく人を見ている証拠だと言われ、なるほどと納得しかけたが、すんでのところで首を捻った。
確か最初は見た目が好みだったと言っていたような。そうなってくると、ただの趣味の変わった女の子だ。
「お前も人間らしくなったというか、近寄るなオーラが薄れたというか。」
「そんなオーラを出していたつもりはありませんが。」
「ともかく、お前が良い嫁を貰ったようで本当に安心したよ。女性でありながらイノシシの脳天をぶち抜くような、肝の据わった方だしな。実にお似合いだ。あっはっは!」
はっとしてグラスを置く。
「それは、フローラの前では仰らないよう、お願い申し上げます。」
「なぜだ?素晴らしい腕前だったのに。」
「どうしてもです。」
フローラが格好良いことは百も承知だ。心の芯がとても強く、包容力もあり人としての器が大きい。
何度も心身共に助けられたし、銃の腕前は男の私も惚れ惚れするほどだった。
しかし、彼女はそう見られることを望んでいないようなのだ。
格好良く場を収めた後は、必ず取り繕ったようにわざとらしく女の子らしさを見せようとする。そうやって甘えてくる姿もまた可愛く、つい騙されたふりをしてしまう。
「ふーん、まぁいいさ。お前がそう言うのなら触れずにおこう。」
「ありがとうございます。」
互いにそれぞれ酒をひと口流し込み、またグラスを置いた。
「それで、ご用件はなんでしょう。」
チッと陛下の舌打ちが鳴った。
「世間話は終了か?」
「ご用件を聞いてからでも世間話はできますよ。」
「嘘をつけ!お前すぐに帰るだろう!」
当たり前だ。早く帰ってフローラと一緒に過ごしたい。夜の時間が短くなった分、日中しかゆっくりできないのだから。
あまり無礼を働きたくはなかったが、自然と重いため息を溢してしまった。
「プルトン、お前、私にそんな態度で許されると思っているのか!」
「はぁ、すみません。」
また出た。あくまでも自然にだ。そうしようと思って出しているわけではない。
わなわなと陛下の手が震え、びしっと私に人差し指が向けられた。
「態度を改めないのなら、お前を宰相に任命してやるぞ!」
「やめてください!」
忙しい城勤めなど絶対にご免被る。
陛下が即位したばかりの頃は本気で打診されたが、全身全霊を込めて断り、それ以来、宰相に任命するぞという言葉が私を脅す常套句となった。
私が首都にいるのも、これが原因だった。
そもそも父の死後は領地でひっそりと静かに過ごし、代官も立てずに自ら領地を運営する予定だった。しかし、首都を出て行こうとするならば、とその常套句で脅され、首都外に住むことを許されなかったのだ。
王というのは全く厄介だ。
「私にどうして欲しいのですか。」
「お前のとこの植物園で、どでかい花が咲いたのだろう?スケッチは無いのか?」
にっこりと笑って見せる陛下。
明確な用件を言わないところを見るに、どうやら話し相手として呼ばれたらしい。
「持ってきていません。」
「なぜだ?!」
「御所望だとは知りませんでしたので。」
「知らなくても、友人である私と喜びを共有しようとは思わないのか?!」
確かに幼い頃から面識はあったが、性格も好きな事柄も真逆の彼とは全くもって馬が合わなかったのに、なぜ友人と見なされているのかいつも疑問に思う。
更に言えば、脅迫して行動を制御しようとする者を果たして友人と呼べるのだろうか。
「共有でしたら妻としました。」
チッと再び陛下の舌打ちが鳴った。目が三角に吊り上っている。
「いいかプルトン。確かに夫人はとても良い嫁だ。若くて可愛いし、お前が優先する気持ちもよく分かる。しかしな、ラブラブなんていつまでも続かないぞ。子ができれば夫なんか後回しにされるのだからな。そんな時に大切なのは愚痴を溢せる友人だとは思わないか?お前の友人といえば、私だろう?」
はっとした。
なぜ気がつかなかったのだろう。
フローラの突然の生活習慣の改善。口にするものに気を使い、アルコールを避け、体を冷やさないように気を付けていた。
更には診察後の大切な話となれば、大病でなかったとすると、それの可能性だって大いにあるではないか。全ての辻褄が合う。
フローラは懐妊したのでは。
自然と立ち上がった。すぐにでも彼女の元へ向かわなければ。
「すみません、急用を思い出しました。」
そう言って足早に戸口へ向かう。
「は?まだ話の途中だろう?」
そのまま流してもよかったが、陛下の言葉がきっかけとなって気がついたわけだから、感謝はするべきかと1度振り返った。
「後日、花のスケッチを持って改めて参ります。」
「呼ばずとも、お前から来てくれるということか?!」
陛下の目が輝いた。まるで顔に嬉しいと文字が書いてあるようだ。心なしか犬のように左右に揺れる尻尾も見える気がする。
何がそんなに嬉しいのやら。
可笑しくて、ふっと笑みが零れた。
「それでは失礼させて頂きます。」
ぽかんと口を開けた陛下を残し、私はその場を後にした。
0
お気に入りに追加
450
あなたにおすすめの小説
旦那様には愛人がいますが気にしません。
りつ
恋愛
イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。
※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。
私の入る余地なんてないことはわかってる。だけど……。
さくしゃ
恋愛
キャロルは知っていた。
許嫁であるリオンと、親友のサンが互いを想い合っていることを。
幼い頃からずっと想ってきたリオン、失いたくない大切な親友であるサン。キャロルは苦悩の末に、リオンへの想いを封じ、身を引くと決めていた——はずだった。
(ああ、もう、)
やり過ごせると思ってた。でも、そんなことを言われたら。
(ずるいよ……)
リオンはサンのことだけを見ていると思っていた。けれど——違った。
こんな私なんかのことを。
友情と恋情の狭間で揺れ動くキャロル、リオン、サンの想い。
彼らが最後に選ぶ答えとは——?
【完結】この胸が痛むのは
Mimi
恋愛
「アグネス嬢なら」
彼がそう言ったので。
私は縁組をお受けすることにしました。
そのひとは、亡くなった姉の恋人だった方でした。
亡き姉クラリスと婚約間近だった第三王子アシュフォード殿下。
殿下と出会ったのは私が先でしたのに。
幼い私をきっかけに、顔を合わせた姉に殿下は恋をしたのです……
姉が亡くなって7年。
政略婚を拒否したい王弟アシュフォードが
『彼女なら結婚してもいい』と、指名したのが最愛のひとクラリスの妹アグネスだった。
亡くなった恋人と同い年になり、彼女の面影をまとうアグネスに、アシュフォードは……
*****
サイドストーリー
『この胸に抱えたものは』全13話も公開しています。
こちらの結末ネタバレを含んだ内容です。
読了後にお立ち寄りいただけましたら、幸いです
* 他サイトで公開しています。
どうぞよろしくお願い致します。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる