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8最終話(2)
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道路横に集まり手を振る都民に手を振り返しながら、馬車はようやく教会へ到着した。
馬車を降り、公爵様に手を引かれながら、司祭の待つ講壇へと続く赤いカーペットの上を歩く。
3度目の邪魔が入ったのは教会へ入る手前、今度は前ではなく後ろに現れた。
「待ってください!フローラ嬢!」
振り向くと、美しい正装をぷっくりと膨らませたおでこニキビ男爵令息が、息を切らしていた。
銃があったら撃ってやるところだが、私が手を下すまでもなく、当然その乱入者は2人の騎士にあっという間に取り押さえられた。
しかししぶとい乱入者は、両膝を着いて腕を後ろに回されても、まだ唾を飛ばしていた。
「この婚姻にどれだけの貴族が反対していると思っていますか!どうすることが得かよく考えてください!僕は準備ができていると言ったはずです!僕と結婚をするべきだ!そして2人でアルヴィ…!」
「連れて行け。」
乱入者の主張が終わる前に、まるで体が押しつぶされそうになるほど重々しい声で、公爵様は騎士たちに指示をした。
その声に、私でも驚いて鼓動が速まっているのだから、周囲に集まった参列者たちが青ざめるのも無理はない。
はぁ、とため息を吐く公爵様。
「大丈夫ですか?」
「すみません、少々鬱憤が…。」
次に邪魔が入ったら私が片付けようと思っていたのに、公爵様が相手の言い分も聞かずに排除するとは思わなかった。
頬が弛み、それとは逆に公爵様の腕に絡める手には力が入った。
「素敵な低音ボイスでした。」
「嫉妬の矢を受ける覚悟はしていましたが、貴女は本当に人気者ですね。」
困ったような表情を浮かべる公爵様を覗きこむ。
「諦めますか?」
冗談めいてそう言うと、公爵様の真っ黒な瞳に射抜かれた。
「もう、何をしても貴女が私から逃れる事はできませんよ。」
逃げるつもりはないけれど。
「それなら早く式を済ませましょう。いい加減ヴェールが邪魔です。」
そうしましょう、と公爵様は頷き、再び歩みを再開する。さすがにこれ以上邪魔は入らなかった。
司祭の前で、手を取り合い、誓いの言葉を繰り返し、司祭の説教に耳を傾ける。いや、初めは真面目に聴いていたのだが、公爵さまがこほっこほっと弱々しく咳をしたせいで、疲れたようなその表情に目が釘付けになっていた。おかげで退屈な説教は気が付けば終わっていた。
司祭から指輪に祝福が与えられ、公爵様がその指輪を取って私の左の薬指にはめる。
「これで貴女は、私の妻です、フローラ。」
「最愛の、と付けてください。」
ふ、と歯を見せた公爵様に、参列者がどよめいたのが分かった。見たか、私の夫の笑顔は可愛いかろう。
「最愛の、世界一美しい妻です。」
「はい。」
その言葉に満足してにっこり笑う。
そうしてようやくヴェールを上げて貰い、公爵様と口づけを交わした。そのまま顔を見合わせて微笑み合う。
クリアな視界に、未だに泣いているお父様が見えた。お母様がばしっと肩を叩いている。国王夫妻の前で2人揃って頭を下げ、アリスとマーセル王子殿下から祝福の言葉を貰った。夫人や令嬢がたからは羨望の眼差しを向けられ、渋いナイスガイの前では足早に公爵様に手を引かれた。アリスから例のリストを買ったな、と気づく。
教会を後にしたら今度は披露宴だ。披露宴は3度邪魔が入った結婚式よりも目まぐるしかった。尽きない参列客に一生分の挨拶をした気がする。
終わった頃にはもう声も枯れかけていて、ずっと立ち続けて足もくたくただった。
しかし、それでもまだ終わらない。
公爵邸に帰るなり、今度は気合の入ったメイドたちに念入りな入浴と肌や髪、爪先の手入れをされ、薄い夜着を着つけられ、一度落としたというのに今度は薄化粧を施された。
そうやってこれから2人で過ごす主寝室に押し込められた。
公爵様を待っている間に、ソファに座り用意されていたお酒とお菓子をつまむ。本当は公爵様を待ってから手を付けるべきなのだろうが、朝から何も食べておらず空腹の限界だったのだ。
ぼうっと窓の外を見ると街の方がまだ明るいのが見えた。
ふらふらと近づきバルコニーに出た。
夜風が少し冷たいが、お酒を飲んでぽかぽかとしていた顔には気持ちが良い。
ベンチに腰掛け見上げると、まるで空まで私たちを祝福しているかのように星が瞬き、真円の月に左手をかざせば、公爵様にはめてもらった指輪がきらきらと輝き、私は目を細めた。
暫くそうやって輝く指輪を眺めていると、そっとその手を掴まれた。視界に入ってきた白く細い指が、公爵様の手だとすぐに分かる。
「風邪をひきますよ。」
そう言って公爵様は指輪にキスをした。私に上着を掛けて、隣に座る。
「どうして外に?」
「祝宴の灯りが見えて。」
公爵様は頭を預ける私を腕に閉じ込め、遠くに視線を投げた。
「これが3日続きますよ。」
「毎日でも見ていられそうです。…挨拶周りは疲れましたが。」
「お疲れ様でした。1日、よく頑張りましたね。」
「子ども扱いしていますか?」
「していたらこんな風にキスはしません。」
顔を見上げると、間髪入れずに唇が重なった。熱で意識が蕩けそうになる。
「顔が熱いですね。お酒でも飲みましたか?」
「少し。」
ふにゃりと笑って再び公爵様の胸元に頭を預けた。
「公爵様も温かいです。」
私の背に回された公爵様の腕に力が入った。
その心地良さに、自然と瞼が落ちる。
「そろそろ名前で呼んで頂けませんか。」
耳元に落とされた言葉がまどろむ意識の中に溶け込んでいったが、「プルトン様。」となんとか口に出せた気がする。「はい。」と返事も聞こえた気がした。
ふわふわと、私は意識を手放した。
「フローラ。」
「フローラ、寝てしまいましたか?」
「貴女は不思議な人ですね。この歳で、こんなに恋い焦がれることになるとは思いませんでした。こんなに心が温かくなる日々が来るとは思っていませんでした。」
「フローラ、貴女といると、自分がずいぶんと良い物になった気がするのです。淀みが全て無くなり、汚れが落ちて、真っ白に生まれ変わったような気になるのです。」
「貴女のお陰で、目に映る景色がとても色鮮やかに美しく見えるのですよ。」
「ありがとうございます。私の前に現れてくれて。私を一心に愛してくれて。」
「約束します。私の全てを掛けて、貴女を幸せにします。」
【死神公爵と契約結婚…と見せかけてバリバリの大本命婚を成し遂げます! 完】
御拝読ありがとうございました^^
daru
●作中劇の参考
ウィリアム・シェイクスピアより『オセロー』『ハムレット』
馬車を降り、公爵様に手を引かれながら、司祭の待つ講壇へと続く赤いカーペットの上を歩く。
3度目の邪魔が入ったのは教会へ入る手前、今度は前ではなく後ろに現れた。
「待ってください!フローラ嬢!」
振り向くと、美しい正装をぷっくりと膨らませたおでこニキビ男爵令息が、息を切らしていた。
銃があったら撃ってやるところだが、私が手を下すまでもなく、当然その乱入者は2人の騎士にあっという間に取り押さえられた。
しかししぶとい乱入者は、両膝を着いて腕を後ろに回されても、まだ唾を飛ばしていた。
「この婚姻にどれだけの貴族が反対していると思っていますか!どうすることが得かよく考えてください!僕は準備ができていると言ったはずです!僕と結婚をするべきだ!そして2人でアルヴィ…!」
「連れて行け。」
乱入者の主張が終わる前に、まるで体が押しつぶされそうになるほど重々しい声で、公爵様は騎士たちに指示をした。
その声に、私でも驚いて鼓動が速まっているのだから、周囲に集まった参列者たちが青ざめるのも無理はない。
はぁ、とため息を吐く公爵様。
「大丈夫ですか?」
「すみません、少々鬱憤が…。」
次に邪魔が入ったら私が片付けようと思っていたのに、公爵様が相手の言い分も聞かずに排除するとは思わなかった。
頬が弛み、それとは逆に公爵様の腕に絡める手には力が入った。
「素敵な低音ボイスでした。」
「嫉妬の矢を受ける覚悟はしていましたが、貴女は本当に人気者ですね。」
困ったような表情を浮かべる公爵様を覗きこむ。
「諦めますか?」
冗談めいてそう言うと、公爵様の真っ黒な瞳に射抜かれた。
「もう、何をしても貴女が私から逃れる事はできませんよ。」
逃げるつもりはないけれど。
「それなら早く式を済ませましょう。いい加減ヴェールが邪魔です。」
そうしましょう、と公爵様は頷き、再び歩みを再開する。さすがにこれ以上邪魔は入らなかった。
司祭の前で、手を取り合い、誓いの言葉を繰り返し、司祭の説教に耳を傾ける。いや、初めは真面目に聴いていたのだが、公爵さまがこほっこほっと弱々しく咳をしたせいで、疲れたようなその表情に目が釘付けになっていた。おかげで退屈な説教は気が付けば終わっていた。
司祭から指輪に祝福が与えられ、公爵様がその指輪を取って私の左の薬指にはめる。
「これで貴女は、私の妻です、フローラ。」
「最愛の、と付けてください。」
ふ、と歯を見せた公爵様に、参列者がどよめいたのが分かった。見たか、私の夫の笑顔は可愛いかろう。
「最愛の、世界一美しい妻です。」
「はい。」
その言葉に満足してにっこり笑う。
そうしてようやくヴェールを上げて貰い、公爵様と口づけを交わした。そのまま顔を見合わせて微笑み合う。
クリアな視界に、未だに泣いているお父様が見えた。お母様がばしっと肩を叩いている。国王夫妻の前で2人揃って頭を下げ、アリスとマーセル王子殿下から祝福の言葉を貰った。夫人や令嬢がたからは羨望の眼差しを向けられ、渋いナイスガイの前では足早に公爵様に手を引かれた。アリスから例のリストを買ったな、と気づく。
教会を後にしたら今度は披露宴だ。披露宴は3度邪魔が入った結婚式よりも目まぐるしかった。尽きない参列客に一生分の挨拶をした気がする。
終わった頃にはもう声も枯れかけていて、ずっと立ち続けて足もくたくただった。
しかし、それでもまだ終わらない。
公爵邸に帰るなり、今度は気合の入ったメイドたちに念入りな入浴と肌や髪、爪先の手入れをされ、薄い夜着を着つけられ、一度落としたというのに今度は薄化粧を施された。
そうやってこれから2人で過ごす主寝室に押し込められた。
公爵様を待っている間に、ソファに座り用意されていたお酒とお菓子をつまむ。本当は公爵様を待ってから手を付けるべきなのだろうが、朝から何も食べておらず空腹の限界だったのだ。
ぼうっと窓の外を見ると街の方がまだ明るいのが見えた。
ふらふらと近づきバルコニーに出た。
夜風が少し冷たいが、お酒を飲んでぽかぽかとしていた顔には気持ちが良い。
ベンチに腰掛け見上げると、まるで空まで私たちを祝福しているかのように星が瞬き、真円の月に左手をかざせば、公爵様にはめてもらった指輪がきらきらと輝き、私は目を細めた。
暫くそうやって輝く指輪を眺めていると、そっとその手を掴まれた。視界に入ってきた白く細い指が、公爵様の手だとすぐに分かる。
「風邪をひきますよ。」
そう言って公爵様は指輪にキスをした。私に上着を掛けて、隣に座る。
「どうして外に?」
「祝宴の灯りが見えて。」
公爵様は頭を預ける私を腕に閉じ込め、遠くに視線を投げた。
「これが3日続きますよ。」
「毎日でも見ていられそうです。…挨拶周りは疲れましたが。」
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「子ども扱いしていますか?」
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顔を見上げると、間髪入れずに唇が重なった。熱で意識が蕩けそうになる。
「顔が熱いですね。お酒でも飲みましたか?」
「少し。」
ふにゃりと笑って再び公爵様の胸元に頭を預けた。
「公爵様も温かいです。」
私の背に回された公爵様の腕に力が入った。
その心地良さに、自然と瞼が落ちる。
「そろそろ名前で呼んで頂けませんか。」
耳元に落とされた言葉がまどろむ意識の中に溶け込んでいったが、「プルトン様。」となんとか口に出せた気がする。「はい。」と返事も聞こえた気がした。
ふわふわと、私は意識を手放した。
「フローラ。」
「フローラ、寝てしまいましたか?」
「貴女は不思議な人ですね。この歳で、こんなに恋い焦がれることになるとは思いませんでした。こんなに心が温かくなる日々が来るとは思っていませんでした。」
「フローラ、貴女といると、自分がずいぶんと良い物になった気がするのです。淀みが全て無くなり、汚れが落ちて、真っ白に生まれ変わったような気になるのです。」
「貴女のお陰で、目に映る景色がとても色鮮やかに美しく見えるのですよ。」
「ありがとうございます。私の前に現れてくれて。私を一心に愛してくれて。」
「約束します。私の全てを掛けて、貴女を幸せにします。」
【死神公爵と契約結婚…と見せかけてバリバリの大本命婚を成し遂げます! 完】
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