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朝、というより既に昼に近い時間だったが、目を覚ますとベッドから出る隙もなく公爵様が部屋を訪ねて来た。
「クリング伯爵から、何か聞きましたか?」
私が寝巻なのもお構いなしに、ベッドの横に椅子を置き、そこに座るなりそう言った。別にいいのですが、私はそんなに色気が足りませんか。
「何か、とは?」
「前妻、デボラのことです。」
正直、前妻の話など聞きたくないが、あんなことがあった手前、話さなければならないことなのだろうと覚悟はしていた。ベッドの中でもじもじと指を動かす。
「…子を流した、と。それから…思い詰めて池に飛び込んだとも。」
夫に見放されて、という部分は省略した。恐らく、誤解だろうから。
公爵様は俯いて、すみません、といつも以上に低い声を出した。
「最初にお話ししておくべきことでしたが、知られたら貴女が離れて行ってしまうのでは、と…言い出せずにいました。」
私は静かに耳を傾ける。
* * * * * * * * * *
私とデボラの婚姻は、父同士によって決められたものでした。
当時の私は社交界デビューは果たしたものの、始めたばかりの公爵領の植物園事業にかかりきりで、社交の場には滅多に顔を出しませんでした。
デボラも同じで、人見知りする性格の為に社交場に出ることなく、伯爵領に引きこもっていたようでした。
そんな折に父同士が出会い、子が社交場に出ないと共通の悩みを持っていた2人はすぐに仲良くなったようで、それなら子供同士を結婚させようという流れになり、私とデボラが引き合わされたのです。
デボラは森のように静かな女性でした。それでも次期公爵という地位に惹かれて寄ってくる他のご令嬢方よりは遥に話しやすく、一緒にいて落ち着きました。
燃えるような恋ではなかったものの、夫婦として、お互いに良い関係を築きましょうと約束しました。
結婚をしてからも私は変わらず、父の手伝いをこなしながら植物園の事業にのめり込んでいました。
夫として不甲斐ない私でしたが、デボラはいつも寛容で、植物園の話も楽しそうに聞いてくれて、応援をしてくれました。
彼女はすぐに懐妊しました。待望の子をお腹に宿したのです。デボラは本当に幸せそうで、私もなるべく側にいて手助けできるよう心がけました。
しかしある時デボラは体調を崩し、毎日医者にも見せたのですが、回復しない内にお腹の子も流れてしまいました。本当にあっけなく、あの子はいなくなってしまったのです。
彼女は悲しみ、毎日のように泣いていました。どんどん元気が無くなるものですから、身体もどんどん弱りました。風邪をひきやすくなり、頭痛や不眠に苛まれ、次第に起き上がれなくなりました。
私も子が流れてしまったことは悲しかったですが、私にとってはデボラの体調が第一でしたので、植物園を使って薬を開発する新事業を始めたのです。
不眠に効く薬や、気分を高揚させる薬など、私も学者たちと一緒になって植物園にこもりきりになりました。
新たに植えた植物や、それに伴う新薬の話をしても、彼女は前のように笑ってはくれなくなり、ついに言われてしまいました。
「あなたの顔を見るのも辛い。」
医者は気分転換が大事だと繰り返すばかりで、私は頭を悩ませました。そこで、「1度、実家に帰らせてみてはどうか。」という医者の助言を聴き入れ、そうすることにしたのです。
子のことをなるべく思い出さないよう、手紙も控えました。
しかし、それがいけなかったのです。
程無くして、彼女が亡くなったと知らせが届きました。
死因は溺死。伯爵領にある池に、重いドレスを着たまま飛び込んだのです。子に巻く為の布に刺繍を入れて持っていたと聞きました。
* * * * * * * * * *
「彼女の変わり果てた姿は、20年経った今も目に焼き付いています。」
「…公爵様がちゃんと連絡を取っていれば。」
公爵様が思っているであろうことを代弁すると、公爵様は顔の筋肉を硬直させた。
「実家に帰さなければ。医者の言うことなど聴かなければ。懐妊などしなければ。そもそも結婚などしなければ。そう考える事に何か意味があるでしょうか。」
過去は変えられないし、不幸は不意にやってくるものだ。
「そもそも、なぜ彼女が飛び込んだと分かるのですか?」
公爵様は目を丸くして顔を上げた。
「誰かが見ていたのですか?それなら、なぜその人は助けなかったのでしょう?見ていた人物などいなかったのでは?だとすれば飛び込んだと断定はできませんよね?」
「事故だったというのですか?」
「その可能性はある、ということです。」
公爵様は再び俯いて沈黙した。事故の可能性はあれど、自分を責めることは止められないのだろう。
「公爵様と演劇を観に行きましたね。」
「…はい。」
「あの悲劇を書いた作家の別の作品なのですが、主人公の恋人が、川で死んでしまうお話があるのです。それが事故だったのか本当は自殺だったのかは、はっきりしないのです。」
「フローラはどちらだと思いますか?」
真剣に見つめてくる公爵様に、冷たい言い方かもしれませんが、と前置きをした。ごくりと公爵様が息を呑む。
「どちらでも構いません。」
「…それは、どういう。」
「確定しているのは彼女が死んだという事実であり、その理由は、殺されたのでもない限り、本人しか知りえないことだということです。生きている人間が想像する理由というのは、いずれも信憑性に欠ける勝手な解釈に他ならないのではないでしょうか。」
これはアリスと導き出した私たちなりの答えであったが、こんなことは第三者だから言えることなのかもしれない。
「その作品でも、恋人の兄が主人公に怒りを募らせるのです。まるで公爵様とクリング伯爵のようですね。ただ、この作品の主人公はやられるばかりではありませんでしたが。」
一方、公爵様は非難されることに目を瞑り、何年も自分を責めてきた。
公爵様は決まりが悪そうな顔をして俯いた。
「今回は、やり返しました。」
それを聞いて私はふっと笑った。心から安心したのだ。公爵様の負担が減ったのなら、この婚約も無駄ではなかったと思えた。
「そうですね。悪い縁が断ち切れて良かったです。これからも、何かあればちゃんとやり返してください。」
公爵様も僅かに目を細めた。フローラ、と優しい声で呼ばれる。
「これで貴女にもう隠し事はありません。」
少し前の私なら手放しで喜んだ言葉だったのだろう。今は別の決意が固まりつつある。
にこりと精一杯の笑顔を作った。私の気持ちに感づかれないように。公爵様が新しい罪悪感など持たないように。
「私もお話することが。」
「なんでしょう?」
「先日、王子殿下の件が解決しました。」
「それは良かったですね。臣下としても安心です。」
「はい。なので、無理に結婚する必要がなくなりました。」
公爵様の笑顔が固まったように見えた。私と同じ気持ちではなくとも、少しでも楽しかったと思ってもらえてたら、それだけで嬉しい。
「私は殿下の問題が解決しましたし、公爵様も脅かされていた存在を1つ解決できましたし、互いに利益はありましたよね。」
「…後継ぎ問題を解決する契約だったはずです。」
「それはお父様に相談してみます。私はアルヴィエ家の1人娘なので、実は養子候補がちらほらいるのです。」
「そう、ですか。」
公爵様は、こほっこほっと咳を漏らし、背が丸まった。
「着替えをしたら、荷をまとめて帰ろうと思います。」
じっと見つめてくる黒い瞳に、顔に熱が浮かびそうな気配を察知し、あの、と声を大にした。
「着替えをしたいのですが。」
「…はい。では、失礼します。」
立ち上がり、向けられた背が恋しくて、あの、ともう1度だけ声を掛けた。振り向いた公爵様の姿をしっかりと目に焼きつける。
「契約婚を健全だなどと言わず、心から寄り添える相手を見つけてくださいね。嫉妬くらい、したっていいじゃないですか。」
公爵様は目にかかった黒い前髪を払い、はい、と静かな返事をした。それからもう1度背を向け、今度こそ部屋を出ていった。
「クリング伯爵から、何か聞きましたか?」
私が寝巻なのもお構いなしに、ベッドの横に椅子を置き、そこに座るなりそう言った。別にいいのですが、私はそんなに色気が足りませんか。
「何か、とは?」
「前妻、デボラのことです。」
正直、前妻の話など聞きたくないが、あんなことがあった手前、話さなければならないことなのだろうと覚悟はしていた。ベッドの中でもじもじと指を動かす。
「…子を流した、と。それから…思い詰めて池に飛び込んだとも。」
夫に見放されて、という部分は省略した。恐らく、誤解だろうから。
公爵様は俯いて、すみません、といつも以上に低い声を出した。
「最初にお話ししておくべきことでしたが、知られたら貴女が離れて行ってしまうのでは、と…言い出せずにいました。」
私は静かに耳を傾ける。
* * * * * * * * * *
私とデボラの婚姻は、父同士によって決められたものでした。
当時の私は社交界デビューは果たしたものの、始めたばかりの公爵領の植物園事業にかかりきりで、社交の場には滅多に顔を出しませんでした。
デボラも同じで、人見知りする性格の為に社交場に出ることなく、伯爵領に引きこもっていたようでした。
そんな折に父同士が出会い、子が社交場に出ないと共通の悩みを持っていた2人はすぐに仲良くなったようで、それなら子供同士を結婚させようという流れになり、私とデボラが引き合わされたのです。
デボラは森のように静かな女性でした。それでも次期公爵という地位に惹かれて寄ってくる他のご令嬢方よりは遥に話しやすく、一緒にいて落ち着きました。
燃えるような恋ではなかったものの、夫婦として、お互いに良い関係を築きましょうと約束しました。
結婚をしてからも私は変わらず、父の手伝いをこなしながら植物園の事業にのめり込んでいました。
夫として不甲斐ない私でしたが、デボラはいつも寛容で、植物園の話も楽しそうに聞いてくれて、応援をしてくれました。
彼女はすぐに懐妊しました。待望の子をお腹に宿したのです。デボラは本当に幸せそうで、私もなるべく側にいて手助けできるよう心がけました。
しかしある時デボラは体調を崩し、毎日医者にも見せたのですが、回復しない内にお腹の子も流れてしまいました。本当にあっけなく、あの子はいなくなってしまったのです。
彼女は悲しみ、毎日のように泣いていました。どんどん元気が無くなるものですから、身体もどんどん弱りました。風邪をひきやすくなり、頭痛や不眠に苛まれ、次第に起き上がれなくなりました。
私も子が流れてしまったことは悲しかったですが、私にとってはデボラの体調が第一でしたので、植物園を使って薬を開発する新事業を始めたのです。
不眠に効く薬や、気分を高揚させる薬など、私も学者たちと一緒になって植物園にこもりきりになりました。
新たに植えた植物や、それに伴う新薬の話をしても、彼女は前のように笑ってはくれなくなり、ついに言われてしまいました。
「あなたの顔を見るのも辛い。」
医者は気分転換が大事だと繰り返すばかりで、私は頭を悩ませました。そこで、「1度、実家に帰らせてみてはどうか。」という医者の助言を聴き入れ、そうすることにしたのです。
子のことをなるべく思い出さないよう、手紙も控えました。
しかし、それがいけなかったのです。
程無くして、彼女が亡くなったと知らせが届きました。
死因は溺死。伯爵領にある池に、重いドレスを着たまま飛び込んだのです。子に巻く為の布に刺繍を入れて持っていたと聞きました。
* * * * * * * * * *
「彼女の変わり果てた姿は、20年経った今も目に焼き付いています。」
「…公爵様がちゃんと連絡を取っていれば。」
公爵様が思っているであろうことを代弁すると、公爵様は顔の筋肉を硬直させた。
「実家に帰さなければ。医者の言うことなど聴かなければ。懐妊などしなければ。そもそも結婚などしなければ。そう考える事に何か意味があるでしょうか。」
過去は変えられないし、不幸は不意にやってくるものだ。
「そもそも、なぜ彼女が飛び込んだと分かるのですか?」
公爵様は目を丸くして顔を上げた。
「誰かが見ていたのですか?それなら、なぜその人は助けなかったのでしょう?見ていた人物などいなかったのでは?だとすれば飛び込んだと断定はできませんよね?」
「事故だったというのですか?」
「その可能性はある、ということです。」
公爵様は再び俯いて沈黙した。事故の可能性はあれど、自分を責めることは止められないのだろう。
「公爵様と演劇を観に行きましたね。」
「…はい。」
「あの悲劇を書いた作家の別の作品なのですが、主人公の恋人が、川で死んでしまうお話があるのです。それが事故だったのか本当は自殺だったのかは、はっきりしないのです。」
「フローラはどちらだと思いますか?」
真剣に見つめてくる公爵様に、冷たい言い方かもしれませんが、と前置きをした。ごくりと公爵様が息を呑む。
「どちらでも構いません。」
「…それは、どういう。」
「確定しているのは彼女が死んだという事実であり、その理由は、殺されたのでもない限り、本人しか知りえないことだということです。生きている人間が想像する理由というのは、いずれも信憑性に欠ける勝手な解釈に他ならないのではないでしょうか。」
これはアリスと導き出した私たちなりの答えであったが、こんなことは第三者だから言えることなのかもしれない。
「その作品でも、恋人の兄が主人公に怒りを募らせるのです。まるで公爵様とクリング伯爵のようですね。ただ、この作品の主人公はやられるばかりではありませんでしたが。」
一方、公爵様は非難されることに目を瞑り、何年も自分を責めてきた。
公爵様は決まりが悪そうな顔をして俯いた。
「今回は、やり返しました。」
それを聞いて私はふっと笑った。心から安心したのだ。公爵様の負担が減ったのなら、この婚約も無駄ではなかったと思えた。
「そうですね。悪い縁が断ち切れて良かったです。これからも、何かあればちゃんとやり返してください。」
公爵様も僅かに目を細めた。フローラ、と優しい声で呼ばれる。
「これで貴女にもう隠し事はありません。」
少し前の私なら手放しで喜んだ言葉だったのだろう。今は別の決意が固まりつつある。
にこりと精一杯の笑顔を作った。私の気持ちに感づかれないように。公爵様が新しい罪悪感など持たないように。
「私もお話することが。」
「なんでしょう?」
「先日、王子殿下の件が解決しました。」
「それは良かったですね。臣下としても安心です。」
「はい。なので、無理に結婚する必要がなくなりました。」
公爵様の笑顔が固まったように見えた。私と同じ気持ちではなくとも、少しでも楽しかったと思ってもらえてたら、それだけで嬉しい。
「私は殿下の問題が解決しましたし、公爵様も脅かされていた存在を1つ解決できましたし、互いに利益はありましたよね。」
「…後継ぎ問題を解決する契約だったはずです。」
「それはお父様に相談してみます。私はアルヴィエ家の1人娘なので、実は養子候補がちらほらいるのです。」
「そう、ですか。」
公爵様は、こほっこほっと咳を漏らし、背が丸まった。
「着替えをしたら、荷をまとめて帰ろうと思います。」
じっと見つめてくる黒い瞳に、顔に熱が浮かびそうな気配を察知し、あの、と声を大にした。
「着替えをしたいのですが。」
「…はい。では、失礼します。」
立ち上がり、向けられた背が恋しくて、あの、ともう1度だけ声を掛けた。振り向いた公爵様の姿をしっかりと目に焼きつける。
「契約婚を健全だなどと言わず、心から寄り添える相手を見つけてくださいね。嫉妬くらい、したっていいじゃないですか。」
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