1 / 23
プロローグ
しおりを挟む
フローラという名前だけあって壁の花という言葉がよく似合う、と我ながら感心する。もちろんただの花ではなく、それなりに壁を美しく飾っている自覚もあるが。
王宮で開かれた舞踏会とはいえ、そもそもダンスというものに興味が無い。侯爵令嬢の嗜みとして子供の頃から教わっていたから、踊れないわけではないけれど。
きらびやかなホールには優雅な音楽が流れ、華やかに着飾った貴族たちがくるくると踊っている。どの夜会もだいたい同じ景色だし、私好みの殿方も見当たらない。お父様のご友人と話している方がどれほど楽しいことか。
自然とため息が出た。
すると、下がった視線に男性のものと思しき手の平が滑り込んできた。
またダンスの申し込みか。うんざりした。しかしこちらも結婚相手を探さなければならない身。一応チェックはしておくべきだ。
カフスにはいかにも高級そうな宝石が埋め込まれている。なかなかの金持ちなようだ。
そして、視線を上げて唖然とした。
ふわりと靡かせる金髪に、宝石のように輝く碧眼。おとぎ話に出てくる王子様のような容貌のこの男は、正真正銘この国の第1王子だ。
「フローラ嬢、よければ僕に、貴女と踊る栄誉を頂けませんか?」
「申し訳ありません、マーセル王子殿下。恥ずかしながら、踵が擦り切れ痛むのです。」
嘘の言葉に嘘の笑顔を重ねる。
「それは気付かず失礼をした。それなら休憩室に案内しよう。僕用の休憩室だからゆっくり休んでいいよ。」
心配そうに見つめてくるが、その瞳に違和感を覚えた。見知った仲とはいえ、未婚の異性を安々と自身の休憩室に誘うものだろうか。それも、婚約者のいる方が。
「ええと…。」
私が言い淀んで口元に手を充てると、ヒーロー登場!と言わんばかりにタイミング良く、私と同じ侯爵令嬢である親友アリスが現れた。
艶めく黒髪に妖美な目鼻立ち。美しい紅色のドレスが彼女の抜群のプロポーションを際立たせている。誰もが振り向く社交界の華だ。
「マーセル殿下、お義母様がお呼びでしたよ。」
「あぁ、アリス嬢…分かったよ。」
殿下は後ろ髪を引かれているかのように振り返り、私を見つめるその目は、やはりどこか熱を感じた。
気のせいだといいけれど。
殿下の背中を見送ると、アリスと目が合う。
「殿下とどんな話をしていたの?」
「ダンスに誘われたの。踵が痛いからって断ったわ。」
「それで?」
「今度は休憩室に誘われて。アリスが来てくれて助かったわ。」
私がため息をつくと、やっぱりね、とアリスも軽く息を吐いた。
一体、何がやっぱりなのだろう。
「前からそうなのではないかしら、とは思っていたのよ。」
「そうって?」
眉間に力が入った。私の顔は歪んでいることだろう。
アリスは私の手を引いて、バルコニーに場所を移した。確かに予想がその通りなら、人がたくさんいるところでできる話ではない。
外の空気は室内よりはいくらか涼しく、コルセットできつく締まった胸にも気持ちが良かった。
「それで?」
話の続きを促す私に、アリスは冷静に腕を組んだ。
「あなた本当に鈍感ねぇ。」
そうではない。気が付きたくないだけだ。
「殿下はあなたに惹かれているのよ。間違いないわ。」
気が付きたくない現実に、がっくりと首が折れた。
「無理もないわ。わたくしから見たってあなたは魅力的だもの。ピンクアッシュの髪も、グリーンの瞳も、愛らしい顔立ちも、名前の通り花の女神のようだわ。」
老若男女、全ての人が見惚れるほどの絶世の美女に微笑まれ、そう褒められると悪い気はしない。それどころかじわじわと頬が熱を持つのを感じた。
私は目を逸らし、口を尖らせる。
「そんなこと言っている場合、アリス?親友と王子の板挟みなんて絶対に嫌よ。」
アリスは指先を頬に充て、困ったように息を吐いた。
「わたくしも怪しいと感じた時に、これ以上あなたに惹かれることのないように、一応あなたの好みをそれとなく伝えたのよ?」
「どうして私の好みを伝えると惹かれることがなくなるの?」
「でも、わたくしの話を信じていないようで。」
「私の質問は無視?」
「あなたに恋人でもできれば証明できるのだけれど。」
「流す気なのね、分かったわ。」
私の質問に対して一切の反応を見せないアリスは、再び大きなため息を吐いた。
そしてじっと、秋の快晴のような色の薄い空色の瞳に閉じ込められる。
「フローラ、あなた少しは好みの殿方とお近づきになったらどう?」
秋じゃない。この視線は氷点下だ。本気の目だ。
酷いわアリス、知っているくせに。
「私の好みの殿方は、ほとんど既婚者じゃない。」
私は渋めの年上至上主義。魅力を感じるオジサマ方はほとんどが既婚者で、言い寄るなど以ての外。別に涙が出たわけでもなかったが、嘆くように両手で顔を覆った。
「あらあら、フローラいち押しのあの方は独身でしょう?」
「独身というか、寡夫。」
「いいじゃない、いいじゃない。」
何が?
顔を上げた私の脳裏にはクエスチョンマークが浮かぶばかりだったが、アリスは清々しくうんうん頷いている。
「だって、あのお顔、好きなのでしょう?」
あの方を思い浮かべる。それだけでどきどきできる。私は再び赤くなったであろう顔を隠した。
「好き。」
「あの雰囲気も好きなのでしょう?」
「好き。」
「それなら何も問題無いじゃない。」
フローラさえやる気になれば、と念を押されるが、絶対にそんなことはない。問題は山積みだ。
まず相手は格上の公爵であるし、年齢も25歳離れている。王子妃となるアリスと違って、接点も全くと言っていいほど無い。その上、社交界にも滅多に出てこず、このような王家主催の宴会の場でようやく遠目に拝見することができるだけの、手の届かない存在だった。
「あなたにその気があるのなら、口利きするくらいはできるわよ?どうする?」
自分の婚約者が好意を持っている相手に対し、妬むでも嫌味を言うでもなく、丸く収まる解決策を探しているあたり、さすがアリスだ。冷静沈着、本当に王子妃に相応しい。親友としても鼻が高くなる。ちょっと強引なところはあるけれど。
アリスと王子は政略的に結ばれた立場であるし、アリスがその為に準備や妃教育で忙しくしていることも知っている。
私も絶対にアリスの邪魔にはなりたくない。
「分かったわ。」
自分の唾を飲みこむ、決意の音が大きく鳴った。
王宮で開かれた舞踏会とはいえ、そもそもダンスというものに興味が無い。侯爵令嬢の嗜みとして子供の頃から教わっていたから、踊れないわけではないけれど。
きらびやかなホールには優雅な音楽が流れ、華やかに着飾った貴族たちがくるくると踊っている。どの夜会もだいたい同じ景色だし、私好みの殿方も見当たらない。お父様のご友人と話している方がどれほど楽しいことか。
自然とため息が出た。
すると、下がった視線に男性のものと思しき手の平が滑り込んできた。
またダンスの申し込みか。うんざりした。しかしこちらも結婚相手を探さなければならない身。一応チェックはしておくべきだ。
カフスにはいかにも高級そうな宝石が埋め込まれている。なかなかの金持ちなようだ。
そして、視線を上げて唖然とした。
ふわりと靡かせる金髪に、宝石のように輝く碧眼。おとぎ話に出てくる王子様のような容貌のこの男は、正真正銘この国の第1王子だ。
「フローラ嬢、よければ僕に、貴女と踊る栄誉を頂けませんか?」
「申し訳ありません、マーセル王子殿下。恥ずかしながら、踵が擦り切れ痛むのです。」
嘘の言葉に嘘の笑顔を重ねる。
「それは気付かず失礼をした。それなら休憩室に案内しよう。僕用の休憩室だからゆっくり休んでいいよ。」
心配そうに見つめてくるが、その瞳に違和感を覚えた。見知った仲とはいえ、未婚の異性を安々と自身の休憩室に誘うものだろうか。それも、婚約者のいる方が。
「ええと…。」
私が言い淀んで口元に手を充てると、ヒーロー登場!と言わんばかりにタイミング良く、私と同じ侯爵令嬢である親友アリスが現れた。
艶めく黒髪に妖美な目鼻立ち。美しい紅色のドレスが彼女の抜群のプロポーションを際立たせている。誰もが振り向く社交界の華だ。
「マーセル殿下、お義母様がお呼びでしたよ。」
「あぁ、アリス嬢…分かったよ。」
殿下は後ろ髪を引かれているかのように振り返り、私を見つめるその目は、やはりどこか熱を感じた。
気のせいだといいけれど。
殿下の背中を見送ると、アリスと目が合う。
「殿下とどんな話をしていたの?」
「ダンスに誘われたの。踵が痛いからって断ったわ。」
「それで?」
「今度は休憩室に誘われて。アリスが来てくれて助かったわ。」
私がため息をつくと、やっぱりね、とアリスも軽く息を吐いた。
一体、何がやっぱりなのだろう。
「前からそうなのではないかしら、とは思っていたのよ。」
「そうって?」
眉間に力が入った。私の顔は歪んでいることだろう。
アリスは私の手を引いて、バルコニーに場所を移した。確かに予想がその通りなら、人がたくさんいるところでできる話ではない。
外の空気は室内よりはいくらか涼しく、コルセットできつく締まった胸にも気持ちが良かった。
「それで?」
話の続きを促す私に、アリスは冷静に腕を組んだ。
「あなた本当に鈍感ねぇ。」
そうではない。気が付きたくないだけだ。
「殿下はあなたに惹かれているのよ。間違いないわ。」
気が付きたくない現実に、がっくりと首が折れた。
「無理もないわ。わたくしから見たってあなたは魅力的だもの。ピンクアッシュの髪も、グリーンの瞳も、愛らしい顔立ちも、名前の通り花の女神のようだわ。」
老若男女、全ての人が見惚れるほどの絶世の美女に微笑まれ、そう褒められると悪い気はしない。それどころかじわじわと頬が熱を持つのを感じた。
私は目を逸らし、口を尖らせる。
「そんなこと言っている場合、アリス?親友と王子の板挟みなんて絶対に嫌よ。」
アリスは指先を頬に充て、困ったように息を吐いた。
「わたくしも怪しいと感じた時に、これ以上あなたに惹かれることのないように、一応あなたの好みをそれとなく伝えたのよ?」
「どうして私の好みを伝えると惹かれることがなくなるの?」
「でも、わたくしの話を信じていないようで。」
「私の質問は無視?」
「あなたに恋人でもできれば証明できるのだけれど。」
「流す気なのね、分かったわ。」
私の質問に対して一切の反応を見せないアリスは、再び大きなため息を吐いた。
そしてじっと、秋の快晴のような色の薄い空色の瞳に閉じ込められる。
「フローラ、あなた少しは好みの殿方とお近づきになったらどう?」
秋じゃない。この視線は氷点下だ。本気の目だ。
酷いわアリス、知っているくせに。
「私の好みの殿方は、ほとんど既婚者じゃない。」
私は渋めの年上至上主義。魅力を感じるオジサマ方はほとんどが既婚者で、言い寄るなど以ての外。別に涙が出たわけでもなかったが、嘆くように両手で顔を覆った。
「あらあら、フローラいち押しのあの方は独身でしょう?」
「独身というか、寡夫。」
「いいじゃない、いいじゃない。」
何が?
顔を上げた私の脳裏にはクエスチョンマークが浮かぶばかりだったが、アリスは清々しくうんうん頷いている。
「だって、あのお顔、好きなのでしょう?」
あの方を思い浮かべる。それだけでどきどきできる。私は再び赤くなったであろう顔を隠した。
「好き。」
「あの雰囲気も好きなのでしょう?」
「好き。」
「それなら何も問題無いじゃない。」
フローラさえやる気になれば、と念を押されるが、絶対にそんなことはない。問題は山積みだ。
まず相手は格上の公爵であるし、年齢も25歳離れている。王子妃となるアリスと違って、接点も全くと言っていいほど無い。その上、社交界にも滅多に出てこず、このような王家主催の宴会の場でようやく遠目に拝見することができるだけの、手の届かない存在だった。
「あなたにその気があるのなら、口利きするくらいはできるわよ?どうする?」
自分の婚約者が好意を持っている相手に対し、妬むでも嫌味を言うでもなく、丸く収まる解決策を探しているあたり、さすがアリスだ。冷静沈着、本当に王子妃に相応しい。親友としても鼻が高くなる。ちょっと強引なところはあるけれど。
アリスと王子は政略的に結ばれた立場であるし、アリスがその為に準備や妃教育で忙しくしていることも知っている。
私も絶対にアリスの邪魔にはなりたくない。
「分かったわ。」
自分の唾を飲みこむ、決意の音が大きく鳴った。
1
お気に入りに追加
450
あなたにおすすめの小説
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。
愛すべきマリア
志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。
学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。
家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。
早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。
頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。
その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。
体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。
しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。
他サイトでも掲載しています。
表紙は写真ACより転載しました。
私の入る余地なんてないことはわかってる。だけど……。
さくしゃ
恋愛
キャロルは知っていた。
許嫁であるリオンと、親友のサンが互いを想い合っていることを。
幼い頃からずっと想ってきたリオン、失いたくない大切な親友であるサン。キャロルは苦悩の末に、リオンへの想いを封じ、身を引くと決めていた——はずだった。
(ああ、もう、)
やり過ごせると思ってた。でも、そんなことを言われたら。
(ずるいよ……)
リオンはサンのことだけを見ていると思っていた。けれど——違った。
こんな私なんかのことを。
友情と恋情の狭間で揺れ動くキャロル、リオン、サンの想い。
彼らが最後に選ぶ答えとは——?
【完結】この胸が痛むのは
Mimi
恋愛
「アグネス嬢なら」
彼がそう言ったので。
私は縁組をお受けすることにしました。
そのひとは、亡くなった姉の恋人だった方でした。
亡き姉クラリスと婚約間近だった第三王子アシュフォード殿下。
殿下と出会ったのは私が先でしたのに。
幼い私をきっかけに、顔を合わせた姉に殿下は恋をしたのです……
姉が亡くなって7年。
政略婚を拒否したい王弟アシュフォードが
『彼女なら結婚してもいい』と、指名したのが最愛のひとクラリスの妹アグネスだった。
亡くなった恋人と同い年になり、彼女の面影をまとうアグネスに、アシュフォードは……
*****
サイドストーリー
『この胸に抱えたものは』全13話も公開しています。
こちらの結末ネタバレを含んだ内容です。
読了後にお立ち寄りいただけましたら、幸いです
* 他サイトで公開しています。
どうぞよろしくお願い致します。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる