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ニコは襲われて以来、王の部屋で過ごしていた。王妃の部屋はその日のうちに片づけられたが、あの部屋に戻る恐怖が拭えなかったのだ。カルダは快く使用を承諾した。
遅くなると大体ニコは先に寝ていたが、この日は違かった。どうやら話があるようで、ソファに座り静かに本を読みながらカルダの事を待っていたのだ。だから、エイソンに弱音を吐いたばかりのカルダは、部屋に入り感じたいつもと違う雰囲気に、ドキリと体を強張らせた。
エイソンに話した内容がニコに伝わるはずはなかったが、それを口に出したことが、考えてしまったことが、カルダに罪悪感を感じさせた。
「カルダ様、夜遅くまでお疲れ様です。」
こちらへどうぞと促されるまま、カルダはニコの隣に腰かけた。
「こんな時間まで起きていて、体調は大丈夫なのか。」
カルダがニコの黒髪を一房手に取りするりと流す。
「今日は良い方です。大変な時に休んでいてばかりで、申し訳ありません。」
「ニコは自分の体調を最優先に考えてくれ。そうでなければ、余が考え事をできん。」
カルダは、ふふ、と恥じらいながら微笑むニコの唇を奪う。
「今日はお願いしたいことがあって、起きていたのです。」
そう言われてカルダが不安になったのは、ニコの表情に、期待も望みも恥じらいも、とにかく嬉々とした表情が見受けられなかったからだ。
カルダは、なんだ、と聞いてやれなかった。だが、ニコは容赦なく言葉を続けた。
「元の部屋に、…最初に過ごしていたあの塔の一室に、戻りたいのです。」
明るい相談ではないだろうと分かっていてもその衝撃は大きく、ニコに伸ばすカルダの手が震えた。力が入らないその手をニコの背にまわし、縋るように引き寄せる。
「…なぜ、そんなことを言う。」
ニコもそっと身を寄せ、カルダの背に腕を回した。
「せっかくカルダ様に用意してもらったお部屋ですが、…あの部屋はどうしても怖くて…戻れません。」
「ここにいて良いと言ったはずだ。」
「カルダ様のご迷惑に…」
「ならん。」
カルダはニコが言い終わらない内にぴしゃりと返した。どうしようかと頭を悩ませるニコに追い打ちを掛ける。
「塔に戻られた方が会いに行くたび遠くて、余程迷惑だ。」
「…ですが、長く過ごした部屋なので…落ち着きます。」
ちくりとカルダを刺す言葉だと、ニコは分かっていてそう言った。カルダは腕を解き、身体を離す。ニコの真意を知りたかった。しかしそんな視線を、ニコはバツが悪そうに躱す。
「あそこなら人気もほとんどなく、怪しい者も一目瞭然です。」
そんなことを言いながら、泥棒がすんなり侵入したけれど、とも思う。
ちらりと覗けば、カルダの表情は険しい。そこにはカルダの愛情がありありと見え、ニコはその場の雰囲気にもそぐわず、悦びを感じずにはいられなかった。
それを悟られないようにカルダの胸元に顔を埋める。
「カルダ様、王妃を塔に閉じ込めたと、言い広めてください。」
「できるわけがないだろう…。」
「守られているだけでは嫌なのです。もっと私を、有効活用してください。」
カルダがニコの肩を押さえて身体を引き離した。カルダに向けてふわりと微笑むニコはどことなく儚く、なぜだか危なっかしく見える。
「それに、あの塔の部屋が居心地良いのは本当なのですよ。」
嘘をつけ。カルダはもう一度ニコを引き寄せて噛み付くようなキスをした。
だが、ニコのやり方に利があるのは確かだった。
「…余はそなたを傷つけるような真似を、もう二度としたくない。」
「はい。」
「そなたも、何があろうと、余から離れないと誓ってくれ。」
「…はい。塔に戻っても、私はカルダ様から離れません。」
優しく微笑みカルダの頬を撫でながら、ニコは嘘をついた。
カルダが部屋に入るのを見届けて、エイソンはスヴェリオに声を掛けた。
「夜は部屋番に任せて、お前もさっさと休め。」
王の部屋の扉の前に立つ2人の近衛騎士がこくこくと頷く。スヴェリオは1度扉に目を配り、そして素直にエイソンに続いてその場を去った。
昼過ぎのことだった。ハープナーの処刑から日々元気がなくなり、暴動まで起きてすっかりふさぎ込んでいたニコが突然部屋から出てきて、
「決めたわ、スヴェリオ。」
さっぱりとした表情でそう言った。
スヴェリオには訳が分からず、とにかく言われるがまま部屋に入って1人掛け用のソファに座らされる。ニコがその隣の広めのソファに座り、2人は90度の角度で向かい合った。
「何を決めたって?」
ニコはこほんと1つ、咳払いを置く。
「トードでの約束を覚えている?」
スヴェリオは視線を斜め上に向けて記憶を手繰り寄せる。約束?そんなもんしたかな?そう思いながらにこりと笑顔を作った。それを見たニコが顔を引きつらせる。
「覚えていないのね。」
「なんだっけ?」
ニコは不服そうにため息を吐いた。
「まぁ、あれから忙しくて流してしまっていたから仕方がないわ。スヴェリオあなた、私に忠誠を誓うって、そう言ったでしょう?私が叔父様のことを前もって言って欲しかったってカルダ様に伝えたら。」
あぁ、とスヴェリオが左の手の平に右の拳をぽんと乗せた。言った言った、納得したようにそう頷いて、そんなことこだわっていたのかと可笑しくなった。
スヴェリオからしてみたらあの賭けに勝敗はほとんど関係なかった。もしニコが言えなかったら何かプレゼントか特権か貰おうと思っていたし、言えたとしたらとっくに持っていた忠誠心とやらを口に出すだけだ。どちらにせよマイナスが無かった。
「あの時、私ちゃんとカルダ様に言ったわ。だから、スヴェリオは私に忠誠を誓うべきよね。」
なにを今更、とスヴェリオはくつくつ笑う。
「はいはい、誓いますよぉ。身命を賭してニコ様に仕えます。御用の際はなんなりとお申し付けください?」
これでいいかな?と首を傾げれば、ニコは満足そうに、いいわ、と頷いた。
にこにこと互いに笑顔を浮かべたが、次の言葉にスヴェリオは凍りつくことになる。
「ではさっそく、私が死ぬことに協力してください。」
すぐには反応ができなかった。聞き間違いかとも思った。しかし凪いだように穏やかな表情を浮かべるニコに、首を落とされたあの男の姿が重なり、スヴェリオの背にはぞくぞくと悪寒が走り、身体中の毛が逆立つのを感じた。
「な、に…言ってんだ…あんた…。」
「私なりに考えたの。反乱軍は私のフェリディルへの帰還を求めている。暴動を起こしている反王妃は私を国から排除したい。カルダ様が私を返還させればフェリディルとアイローイの決別は決定的になるし、逆に私を守ろうとすれば暴動はますます過激化するでしょう。」
「だからって…あんた1人が犠牲になるつもりなのか?どうせそんなことしても、全て解決することには繋がらねぇよ。」
「全てを解決しようとは思っていないの。ただ、叔父様が火を付けた皆に、同じ方法で水を掛けてやるのよ。」
「そんなの、あんたがやらなきゃいけないことなのか…?」
スヴェリオは頭を抱える。
「叔父様も私も死んだとなれば、反乱軍がアイローイに求める物はなくなるわ。もう領土は取り返したも同然でしょうし。反王妃派にも暴動を起こす理由がなくなる。皆の頭に登った熱が少し下がれば、カルダ様もいろいろとやりやすいはず。」
利点しかないのよ、と言うニコはやはり穏やかで、異論は認めないとその瞳が語っていた。そして優しく自身のお腹をさする。
「これはこの子の為でもあるの。」
スヴェリオが顔を上げた。
「ここは、怖いわ。私が誰の恨みを買っているのか、誰が敵か、見分けがつかないの。またあんなことが起こったらと思うと…この子を守りきれる自信がないわ…。」
ニコの話す矛盾にスヴェリオが首を傾げる。
「つまり…死ぬってのは…?」
「王妃ニコは死んだとそう思わせて、秘密裏に外に出たいの。王都の外、安全にこの子を産める場所に。」
本当に死のうとしているわけではないことにスヴェリオは心から安堵した。
「先に言えよ…。ビビったっての。」
ニコはきょとんとして、さも当然のことのように言った。
「この子がいるのに、本当に死ぬわけないでしょう?」
はぁー、とスヴェリオの深いため息が漏れる。
「…あまり、賛同できない。」
「…突然こんなことを言って、驚くのは分かるけれど。」
「あんたが幸せになれなそうだから言ってんだよ。あんたにはあの男が必要なんだろ、ニコ様。」
もちろんカルダのことだ。ニコも分かっている。けれど、とようやく凪いでいたニコの表情に波が立った。苦い顔をして、その顔に影を落とす。
「…この子の安全が1番大事。」
「外に出たって安全とは限らない。むしろ護衛がいない分危険だ。」
「スヴェリオがいるでしょう!」
真っ直ぐ向けられた潤んだ視線に射抜かれ、スヴェリオの赤茶色の瞳が揺れた。
「あなたも、私に付いてくるのよ。忠誠を誓ったのだから…必ずそうしてもらうわ。」
ニコはその瞳に溜まった雫を溢すことなく、優しい笑みを浮かべて再びお腹をさすった。
「…特別な子だと、言ってもらったの。この世の何にも代えがたい特別な子だと…。この子の為ならなんだってするわ。」
スヴェリオは厳しい表情を浮かべながら、髪をくしゃっと掻いた。
ニコ様は意外と強情だ。こうだと決めたらなかなか譲らない所がある。今回のことも考えに考えて、そうやって決めたことならば、きっと反対したところで意思は覆らないのだろう。スヴェリオはそう思って覚悟を決めた。ならばついて行く他に選択肢はない。
「分かった…協力するよ。」
まずは動きやすいように、部屋を人気のない元の塔に戻してもらうとニコは言っていた。上手く行っただろうかとスヴェリオは心配する。そのどこかで、王が許可しなければいいとも思っていた。ニコ様の企みなど失敗すればいいと。
遅くなると大体ニコは先に寝ていたが、この日は違かった。どうやら話があるようで、ソファに座り静かに本を読みながらカルダの事を待っていたのだ。だから、エイソンに弱音を吐いたばかりのカルダは、部屋に入り感じたいつもと違う雰囲気に、ドキリと体を強張らせた。
エイソンに話した内容がニコに伝わるはずはなかったが、それを口に出したことが、考えてしまったことが、カルダに罪悪感を感じさせた。
「カルダ様、夜遅くまでお疲れ様です。」
こちらへどうぞと促されるまま、カルダはニコの隣に腰かけた。
「こんな時間まで起きていて、体調は大丈夫なのか。」
カルダがニコの黒髪を一房手に取りするりと流す。
「今日は良い方です。大変な時に休んでいてばかりで、申し訳ありません。」
「ニコは自分の体調を最優先に考えてくれ。そうでなければ、余が考え事をできん。」
カルダは、ふふ、と恥じらいながら微笑むニコの唇を奪う。
「今日はお願いしたいことがあって、起きていたのです。」
そう言われてカルダが不安になったのは、ニコの表情に、期待も望みも恥じらいも、とにかく嬉々とした表情が見受けられなかったからだ。
カルダは、なんだ、と聞いてやれなかった。だが、ニコは容赦なく言葉を続けた。
「元の部屋に、…最初に過ごしていたあの塔の一室に、戻りたいのです。」
明るい相談ではないだろうと分かっていてもその衝撃は大きく、ニコに伸ばすカルダの手が震えた。力が入らないその手をニコの背にまわし、縋るように引き寄せる。
「…なぜ、そんなことを言う。」
ニコもそっと身を寄せ、カルダの背に腕を回した。
「せっかくカルダ様に用意してもらったお部屋ですが、…あの部屋はどうしても怖くて…戻れません。」
「ここにいて良いと言ったはずだ。」
「カルダ様のご迷惑に…」
「ならん。」
カルダはニコが言い終わらない内にぴしゃりと返した。どうしようかと頭を悩ませるニコに追い打ちを掛ける。
「塔に戻られた方が会いに行くたび遠くて、余程迷惑だ。」
「…ですが、長く過ごした部屋なので…落ち着きます。」
ちくりとカルダを刺す言葉だと、ニコは分かっていてそう言った。カルダは腕を解き、身体を離す。ニコの真意を知りたかった。しかしそんな視線を、ニコはバツが悪そうに躱す。
「あそこなら人気もほとんどなく、怪しい者も一目瞭然です。」
そんなことを言いながら、泥棒がすんなり侵入したけれど、とも思う。
ちらりと覗けば、カルダの表情は険しい。そこにはカルダの愛情がありありと見え、ニコはその場の雰囲気にもそぐわず、悦びを感じずにはいられなかった。
それを悟られないようにカルダの胸元に顔を埋める。
「カルダ様、王妃を塔に閉じ込めたと、言い広めてください。」
「できるわけがないだろう…。」
「守られているだけでは嫌なのです。もっと私を、有効活用してください。」
カルダがニコの肩を押さえて身体を引き離した。カルダに向けてふわりと微笑むニコはどことなく儚く、なぜだか危なっかしく見える。
「それに、あの塔の部屋が居心地良いのは本当なのですよ。」
嘘をつけ。カルダはもう一度ニコを引き寄せて噛み付くようなキスをした。
だが、ニコのやり方に利があるのは確かだった。
「…余はそなたを傷つけるような真似を、もう二度としたくない。」
「はい。」
「そなたも、何があろうと、余から離れないと誓ってくれ。」
「…はい。塔に戻っても、私はカルダ様から離れません。」
優しく微笑みカルダの頬を撫でながら、ニコは嘘をついた。
カルダが部屋に入るのを見届けて、エイソンはスヴェリオに声を掛けた。
「夜は部屋番に任せて、お前もさっさと休め。」
王の部屋の扉の前に立つ2人の近衛騎士がこくこくと頷く。スヴェリオは1度扉に目を配り、そして素直にエイソンに続いてその場を去った。
昼過ぎのことだった。ハープナーの処刑から日々元気がなくなり、暴動まで起きてすっかりふさぎ込んでいたニコが突然部屋から出てきて、
「決めたわ、スヴェリオ。」
さっぱりとした表情でそう言った。
スヴェリオには訳が分からず、とにかく言われるがまま部屋に入って1人掛け用のソファに座らされる。ニコがその隣の広めのソファに座り、2人は90度の角度で向かい合った。
「何を決めたって?」
ニコはこほんと1つ、咳払いを置く。
「トードでの約束を覚えている?」
スヴェリオは視線を斜め上に向けて記憶を手繰り寄せる。約束?そんなもんしたかな?そう思いながらにこりと笑顔を作った。それを見たニコが顔を引きつらせる。
「覚えていないのね。」
「なんだっけ?」
ニコは不服そうにため息を吐いた。
「まぁ、あれから忙しくて流してしまっていたから仕方がないわ。スヴェリオあなた、私に忠誠を誓うって、そう言ったでしょう?私が叔父様のことを前もって言って欲しかったってカルダ様に伝えたら。」
あぁ、とスヴェリオが左の手の平に右の拳をぽんと乗せた。言った言った、納得したようにそう頷いて、そんなことこだわっていたのかと可笑しくなった。
スヴェリオからしてみたらあの賭けに勝敗はほとんど関係なかった。もしニコが言えなかったら何かプレゼントか特権か貰おうと思っていたし、言えたとしたらとっくに持っていた忠誠心とやらを口に出すだけだ。どちらにせよマイナスが無かった。
「あの時、私ちゃんとカルダ様に言ったわ。だから、スヴェリオは私に忠誠を誓うべきよね。」
なにを今更、とスヴェリオはくつくつ笑う。
「はいはい、誓いますよぉ。身命を賭してニコ様に仕えます。御用の際はなんなりとお申し付けください?」
これでいいかな?と首を傾げれば、ニコは満足そうに、いいわ、と頷いた。
にこにこと互いに笑顔を浮かべたが、次の言葉にスヴェリオは凍りつくことになる。
「ではさっそく、私が死ぬことに協力してください。」
すぐには反応ができなかった。聞き間違いかとも思った。しかし凪いだように穏やかな表情を浮かべるニコに、首を落とされたあの男の姿が重なり、スヴェリオの背にはぞくぞくと悪寒が走り、身体中の毛が逆立つのを感じた。
「な、に…言ってんだ…あんた…。」
「私なりに考えたの。反乱軍は私のフェリディルへの帰還を求めている。暴動を起こしている反王妃は私を国から排除したい。カルダ様が私を返還させればフェリディルとアイローイの決別は決定的になるし、逆に私を守ろうとすれば暴動はますます過激化するでしょう。」
「だからって…あんた1人が犠牲になるつもりなのか?どうせそんなことしても、全て解決することには繋がらねぇよ。」
「全てを解決しようとは思っていないの。ただ、叔父様が火を付けた皆に、同じ方法で水を掛けてやるのよ。」
「そんなの、あんたがやらなきゃいけないことなのか…?」
スヴェリオは頭を抱える。
「叔父様も私も死んだとなれば、反乱軍がアイローイに求める物はなくなるわ。もう領土は取り返したも同然でしょうし。反王妃派にも暴動を起こす理由がなくなる。皆の頭に登った熱が少し下がれば、カルダ様もいろいろとやりやすいはず。」
利点しかないのよ、と言うニコはやはり穏やかで、異論は認めないとその瞳が語っていた。そして優しく自身のお腹をさする。
「これはこの子の為でもあるの。」
スヴェリオが顔を上げた。
「ここは、怖いわ。私が誰の恨みを買っているのか、誰が敵か、見分けがつかないの。またあんなことが起こったらと思うと…この子を守りきれる自信がないわ…。」
ニコの話す矛盾にスヴェリオが首を傾げる。
「つまり…死ぬってのは…?」
「王妃ニコは死んだとそう思わせて、秘密裏に外に出たいの。王都の外、安全にこの子を産める場所に。」
本当に死のうとしているわけではないことにスヴェリオは心から安堵した。
「先に言えよ…。ビビったっての。」
ニコはきょとんとして、さも当然のことのように言った。
「この子がいるのに、本当に死ぬわけないでしょう?」
はぁー、とスヴェリオの深いため息が漏れる。
「…あまり、賛同できない。」
「…突然こんなことを言って、驚くのは分かるけれど。」
「あんたが幸せになれなそうだから言ってんだよ。あんたにはあの男が必要なんだろ、ニコ様。」
もちろんカルダのことだ。ニコも分かっている。けれど、とようやく凪いでいたニコの表情に波が立った。苦い顔をして、その顔に影を落とす。
「…この子の安全が1番大事。」
「外に出たって安全とは限らない。むしろ護衛がいない分危険だ。」
「スヴェリオがいるでしょう!」
真っ直ぐ向けられた潤んだ視線に射抜かれ、スヴェリオの赤茶色の瞳が揺れた。
「あなたも、私に付いてくるのよ。忠誠を誓ったのだから…必ずそうしてもらうわ。」
ニコはその瞳に溜まった雫を溢すことなく、優しい笑みを浮かべて再びお腹をさすった。
「…特別な子だと、言ってもらったの。この世の何にも代えがたい特別な子だと…。この子の為ならなんだってするわ。」
スヴェリオは厳しい表情を浮かべながら、髪をくしゃっと掻いた。
ニコ様は意外と強情だ。こうだと決めたらなかなか譲らない所がある。今回のことも考えに考えて、そうやって決めたことならば、きっと反対したところで意思は覆らないのだろう。スヴェリオはそう思って覚悟を決めた。ならばついて行く他に選択肢はない。
「分かった…協力するよ。」
まずは動きやすいように、部屋を人気のない元の塔に戻してもらうとニコは言っていた。上手く行っただろうかとスヴェリオは心配する。そのどこかで、王が許可しなければいいとも思っていた。ニコ様の企みなど失敗すればいいと。
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