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第二章〜フューズ王国〜

第28話  決闘

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「えーっと、これはどういう状況?」

 俺たちは午後の授業を終えたあと、先輩(?)に言われた決闘場に向かうことにした。
 決闘場は演習場に近い場所にあるが、作りが異なっている。アンフィテアトルムと呼ばれる円形の闘技場はまるで、コロッセオを彷彿とさせる。まあ、アリーナはコロッセオと違って石畳だがな。滑らないのかな?
 観客席と思われる場所には、30人くらいの野次馬がワーワー騒いでいた。まるでお祭り騒ぎだ。てか、観客いるって聞いてないぞ!

「あー……決闘は数少ない娯楽として人気があるの。だから、決闘があるときは毎回こうやって野次馬が集まるのよね。これでもだいぶ少ない方だと思うわよ?」

 まじか……こんな人がいる中で戦わされるのか。
 負けたらカンナ達を取られてしまうし、勝つと平民が貴族に勝ったとかでうるさそうだし面倒臭いな。
 それに戦う時に実力を隠そうにも、相手が強いから手を抜くことも出来ないしな。

「ふん、逃げずに来たか平民」

 ニタニタといやらしい笑顔で、見下す様にこちらを見ている。
 もうここまで見下してくると、怒りよりも呆れが先に来るんだが……

「きゃー! タルトさまぁ~!」

 あの貴族の名前タルトって名前なのか。女の子の名前みたいだな。
 タルトは、済ました顔で手をヒラヒラと振る。

 ナンパ野郎だけあってモテモテのようだ。

 施設に入ると、授業の時にローブを着る場所だった更衣室と同じような場所がある。どうやら、そこで準備をするらしい。
 あ、そうそう、準備室に行く前にあいつのステータスを確認しないとな


 名称:アースレン・フォン・タルト  年齢:18歳

 種族:人族

 職業:剣闘士

 状態:平常

 ステータス レベル:23

 HP:672 MP:230 腕力:406 体力:210 敏捷:452 知力:211 魔力:102 器用:180

 スキル
 剣術Lv7、火魔術Lv2、騎乗Lv4、宮廷作法Lv3


 称号
 騎士見習い、ナンパ上手


 装備
 レッサードラゴンのスケイルアーマー


 うげぇ、これはキッついな。剣術Lv7か、俺が5だから2個も上だな。それにHP、筋力、体力、敏捷は俺を大きく上回っている。敏捷も高いし、懐に入り込まれないようにしないとな、接近戦に持ち込まれたらかなりキツイだろうし。
 これは簡単には帰らしてはくれなさそうだ。なんたってナンパ上手だしな。


「そういえば、どうやって勝敗を決めるんだ? まさかどっちかが死ぬまでとかないよな?」

「ええ、それに関しては問題ないわ。決闘場にある専用の魔道具を使えば問題ないわよ」

「魔道具?」

「ええ、致命傷になり得る攻撃を自動ガードしてくれる魔道具よ。その魔道具が発動した時点で負けになるわね。それ以外にも相手が降参すれば勝ちになるわ」

 ふむ、それなら安全……そうでは全然ないな。致命傷ってことは致命傷以外の攻撃はバンバン入りそうだしなぁ……

 俺は、先日買ったワイバーンの革で出来たレザーアーマーや、ガントレットをアイテムボックスから取り出し、装着していく。
 まさか、この防具を最初に使うのが決闘になるとはな。買っといて良かった。

「やっちまえ! タルトさま!」

「頑張れ~! タルトさま」

 広いアリーナに出ると、ワーワーと歓声があがる。まあほとんど相手の歓声でめっちゃアウェイなんだが……
 そんな中カンナ達を見つけた。周りの歓声で声はあまり聞こえないが、一生懸命応援してくれてるのが分かる。

 気を引き締める。
 大きく深呼吸をして、円状のアリーナの中心でお互い剣を構え、一礼する。
 なんとも言えない高揚感が、緊張が俺の脈打つ鼓動から伝わってくる。


 ──審判が大きく旗を振り上げる。バサッと布が掠れる音がする。


「──初め!」


「歯食いしばっとけっ──すぐに沈めてやる!」

 そうタルトは言い捨てると、地面を蹴りあげ──距離を詰めてくる。
 流れるような動作で、装飾がされたロングソードを薙ぐ。
 耳に響く金属音と共に、両手にはずっしりとした重みが伝わってくる。

「い……っ!」

 重い、ひたすらに重い一撃だ。今は何とか耐えれたが、若干腕が痺れている。何回も正面から受けると危ないな。

 俺は剣を押し返し、そのままバックステップで距離をとり、二つの魔術を組み合わせ、擬似的に石弾《ストーンバレット 》を再現し──行使する。

「チッ、小賢しいっ!」

 ゴンッという鈍い音をたてながら、タルトは剣の腹で石を弾き、再度距離を詰めてくる。

「うおおおお!」

 ──キンと金切り声のように周囲に金属音が響く。
 1撃、2撃。間を置いて3撃、4撃。

 それまでワーワーと騒いでいた観客も、せめぎあう攻防に固唾を飲んで戦いを見守っている。
 俺は、何とか重心をズラしながら、攻撃をいなし、機を伺う。

 ──5撃目、タルトの顔に焦りが見えた。

 俺は何とか距離を取ろうと、比較的詠唱が短い火球ファイヤーボールを行使する。
 至近距離では避けきれなかったようで、肩に直撃し、よろめいた。

 俺はそのうちに距離を取り、耕作 ランドプラウ土壁アースウォールにより、地形を凸凹に変化させていく。

 こうして距離を取って、地形を変えれば簡単には近づけないだろう。──そんなことを思っていた。

「うおっ!」

 ガガガッと何かが削れるような音がしたかと思うと、進路を塞いであった石の壁が崩れ落ち、砂埃が舞う。一瞬薄らと影が見えたかと思うと、鋭い刀身が姿を現す。

「うおおおぉお!!」

 ──腕をしならせての鋭い突き。


 咄嗟に避けようとするが、不意うちだったのもあって、避けきれず、横腹を掠る。

「う"っ…!」

 腹に冷たい何かが触れたと思った次の瞬間、まるで焼印を押されたのかのような痛みが走る。
 この世界に来て、初めての怪我だ。
 ゲーム感覚で勝てていた今までと違って、命を懸けた戦い、死ぬこともあるのだ、と実感する。



 怖い……死ぬのが、怪我をするのが怖い。


 ……だけど負ける訳にはいかない……!

 痛む横腹を押さえつつ、水球ウォーターボールを相手の顔にぶつける。

「ぬぁっ」

 視界を遮られたタルトの腹を思いっきり蹴飛ばし、距離をとる。

 今のままでは、ジリ貧で不利だ。今はまだ興奮状態のせいか、腹の傷もそこまで気にならないが、集中が切れたら後々響いてくるだろう。

 出し惜しみをしていては勝てない、タルトは当初の見立てよりも何倍も強かった。

 打開策はただ1つ。

 つけ刃だが、試すしかない……

「──才幹接続ステータスコネクト 

 詠唱を行うと、頭の中にカンナとノアのステータスが浮かぶ。

 それは、神聖召喚魔術ホーリーサモンのレベルが上がって使えるようになったトレース機能。

「──模倣トレース

 2人のステータスからひとつずつ、選択し、トレースしていく。

 今回、俺が選んだのは……カンナの聖剣術、そして、ノアの筋力だ。
 今の俺は、タルトに技術も力も及ばない。だが、2人に力を貸してもらえば、上回ることが出来る。

「2人とも……力を貸してくれ……!」

 その時、頭の中に音声が流れてきた。

 ──データベースに接続──完了致しました。
 個体名"カンナ""ノア"の1部ステータスをトレース致します。

 機械のような声だが、どこか心地いい。

 ──トレース、完了致しました。

 ……分かる、剣の扱い方が。分かる、つい先程とは明らかに違うことが。
 俺は再度剣を構え直す。

「……さぁ、ここからが本番だ」

「なにをっ小癪な!」

 タルトが体制を立て直し、此方へと飛びかかってくる。
 剣が軽い、先程とは別のものを持っているようだ。

 剣を薙ぐ。

「なっ!」

 俺が振った剣は、相手の剣を斬っていた。叩き折られた剣先は、地面へと転がり、キンッと音が鳴る。

「そんな……くっ!」

 それでも諦めた様子もなく、再度襲いかかってくる。

 俺は1度剣を受け流した後、剣の面で、タルトの掌を叩く。

「うがっ!」

 あまりの痛さにタルトは剣を手放してしまった。
 明らかに動揺しているタルトの首筋に、俺は剣を突き付ける。

「降参しろ。もういいだろ」

「は、はひ……」

 固唾を呑んでいた審判が旗を上げる。

「そこまで! 勝者トウマ!」

 うおおおおお! という歓声が上がり、やるな! とかいい試合だった。などの言葉をくれる。思っていたような嫌な奴らではなかったようだ。偏見を持っていたのは俺の方かもしれない。

「ほらっ、手貸してやるよ。立て」

 俺はタルトに手を差し伸べる。経緯、動機はどうであれ、相手も真剣に戦ったんだ。敬意を払わないとな。

「お、おう」

 一瞬、戸惑ったが、差し伸べた手をとってくれた。
 何故か目がトロンとしているのだが、なにも見なかったことにしよう。俺にそっちのケはないからな。

「お前……強いんだな。平民だからって侮ってたよ」

「ははっ、過ぎたことはもういいよ。いい試合だったな」

「最後は完敗だったけどな」

 握手を交わして、アリーナから退場をする。

 外にはカンナ達が待っていてくれた。

「ご主人様、カッコよかったですっ!」

「トウマ、いい試合だったわ」

「勝てたのだと思うと、安心して少し腹が減ってきたな」

「じゃあ、みんなでスイーツでも食べよ♪」

 俺たちはいつもより軽い足取りで町へと繰り出す

「うーん、美味しい!」

「美味しいですね!」

「……システム……か」

 試合中は気にする暇がなかったシステムとは何か。

「ん……どうしたんですか?」

「いや、なんでもないよ」

「ふーん」

 そう思いつつも、目の前にある笑顔を見て、「まあ勝てたんだからいいか」とトウマは呟いた。
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