上 下
32 / 41
第二章〜フューズ王国〜

第28話  決闘

しおりを挟む
「えーっと、これはどういう状況?」

 俺たちは午後の授業を終えたあと、先輩(?)に言われた決闘場に向かうことにした。
 決闘場は演習場に近い場所にあるが、作りが異なっている。アンフィテアトルムと呼ばれる円形の闘技場はまるで、コロッセオを彷彿とさせる。まあ、アリーナはコロッセオと違って石畳だがな。滑らないのかな?
 観客席と思われる場所には、30人くらいの野次馬がワーワー騒いでいた。まるでお祭り騒ぎだ。てか、観客いるって聞いてないぞ!

「あー……決闘は数少ない娯楽として人気があるの。だから、決闘があるときは毎回こうやって野次馬が集まるのよね。これでもだいぶ少ない方だと思うわよ?」

 まじか……こんな人がいる中で戦わされるのか。
 負けたらカンナ達を取られてしまうし、勝つと平民が貴族に勝ったとかでうるさそうだし面倒臭いな。
 それに戦う時に実力を隠そうにも、相手が強いから手を抜くことも出来ないしな。

「ふん、逃げずに来たか平民」

 ニタニタといやらしい笑顔で、見下す様にこちらを見ている。
 もうここまで見下してくると、怒りよりも呆れが先に来るんだが……

「きゃー! タルトさまぁ~!」

 あの貴族の名前タルトって名前なのか。女の子の名前みたいだな。
 タルトは、済ました顔で手をヒラヒラと振る。

 ナンパ野郎だけあってモテモテのようだ。

 施設に入ると、授業の時にローブを着る場所だった更衣室と同じような場所がある。どうやら、そこで準備をするらしい。
 あ、そうそう、準備室に行く前にあいつのステータスを確認しないとな


 名称:アースレン・フォン・タルト  年齢:18歳

 種族:人族

 職業:剣闘士

 状態:平常

 ステータス レベル:23

 HP:672 MP:230 腕力:406 体力:210 敏捷:452 知力:211 魔力:102 器用:180

 スキル
 剣術Lv7、火魔術Lv2、騎乗Lv4、宮廷作法Lv3


 称号
 騎士見習い、ナンパ上手


 装備
 レッサードラゴンのスケイルアーマー


 うげぇ、これはキッついな。剣術Lv7か、俺が5だから2個も上だな。それにHP、筋力、体力、敏捷は俺を大きく上回っている。敏捷も高いし、懐に入り込まれないようにしないとな、接近戦に持ち込まれたらかなりキツイだろうし。
 これは簡単には帰らしてはくれなさそうだ。なんたってナンパ上手だしな。


「そういえば、どうやって勝敗を決めるんだ? まさかどっちかが死ぬまでとかないよな?」

「ええ、それに関しては問題ないわ。決闘場にある専用の魔道具を使えば問題ないわよ」

「魔道具?」

「ええ、致命傷になり得る攻撃を自動ガードしてくれる魔道具よ。その魔道具が発動した時点で負けになるわね。それ以外にも相手が降参すれば勝ちになるわ」

 ふむ、それなら安全……そうでは全然ないな。致命傷ってことは致命傷以外の攻撃はバンバン入りそうだしなぁ……

 俺は、先日買ったワイバーンの革で出来たレザーアーマーや、ガントレットをアイテムボックスから取り出し、装着していく。
 まさか、この防具を最初に使うのが決闘になるとはな。買っといて良かった。

「やっちまえ! タルトさま!」

「頑張れ~! タルトさま」

 広いアリーナに出ると、ワーワーと歓声があがる。まあほとんど相手の歓声でめっちゃアウェイなんだが……
 そんな中カンナ達を見つけた。周りの歓声で声はあまり聞こえないが、一生懸命応援してくれてるのが分かる。

 気を引き締める。
 大きく深呼吸をして、円状のアリーナの中心でお互い剣を構え、一礼する。
 なんとも言えない高揚感が、緊張が俺の脈打つ鼓動から伝わってくる。


 ──審判が大きく旗を振り上げる。バサッと布が掠れる音がする。


「──初め!」


「歯食いしばっとけっ──すぐに沈めてやる!」

 そうタルトは言い捨てると、地面を蹴りあげ──距離を詰めてくる。
 流れるような動作で、装飾がされたロングソードを薙ぐ。
 耳に響く金属音と共に、両手にはずっしりとした重みが伝わってくる。

「い……っ!」

 重い、ひたすらに重い一撃だ。今は何とか耐えれたが、若干腕が痺れている。何回も正面から受けると危ないな。

 俺は剣を押し返し、そのままバックステップで距離をとり、二つの魔術を組み合わせ、擬似的に石弾《ストーンバレット 》を再現し──行使する。

「チッ、小賢しいっ!」

 ゴンッという鈍い音をたてながら、タルトは剣の腹で石を弾き、再度距離を詰めてくる。

「うおおおお!」

 ──キンと金切り声のように周囲に金属音が響く。
 1撃、2撃。間を置いて3撃、4撃。

 それまでワーワーと騒いでいた観客も、せめぎあう攻防に固唾を飲んで戦いを見守っている。
 俺は、何とか重心をズラしながら、攻撃をいなし、機を伺う。

 ──5撃目、タルトの顔に焦りが見えた。

 俺は何とか距離を取ろうと、比較的詠唱が短い火球ファイヤーボールを行使する。
 至近距離では避けきれなかったようで、肩に直撃し、よろめいた。

 俺はそのうちに距離を取り、耕作 ランドプラウ土壁アースウォールにより、地形を凸凹に変化させていく。

 こうして距離を取って、地形を変えれば簡単には近づけないだろう。──そんなことを思っていた。

「うおっ!」

 ガガガッと何かが削れるような音がしたかと思うと、進路を塞いであった石の壁が崩れ落ち、砂埃が舞う。一瞬薄らと影が見えたかと思うと、鋭い刀身が姿を現す。

「うおおおぉお!!」

 ──腕をしならせての鋭い突き。


 咄嗟に避けようとするが、不意うちだったのもあって、避けきれず、横腹を掠る。

「う"っ…!」

 腹に冷たい何かが触れたと思った次の瞬間、まるで焼印を押されたのかのような痛みが走る。
 この世界に来て、初めての怪我だ。
 ゲーム感覚で勝てていた今までと違って、命を懸けた戦い、死ぬこともあるのだ、と実感する。



 怖い……死ぬのが、怪我をするのが怖い。


 ……だけど負ける訳にはいかない……!

 痛む横腹を押さえつつ、水球ウォーターボールを相手の顔にぶつける。

「ぬぁっ」

 視界を遮られたタルトの腹を思いっきり蹴飛ばし、距離をとる。

 今のままでは、ジリ貧で不利だ。今はまだ興奮状態のせいか、腹の傷もそこまで気にならないが、集中が切れたら後々響いてくるだろう。

 出し惜しみをしていては勝てない、タルトは当初の見立てよりも何倍も強かった。

 打開策はただ1つ。

 つけ刃だが、試すしかない……

「──才幹接続ステータスコネクト 

 詠唱を行うと、頭の中にカンナとノアのステータスが浮かぶ。

 それは、神聖召喚魔術ホーリーサモンのレベルが上がって使えるようになったトレース機能。

「──模倣トレース

 2人のステータスからひとつずつ、選択し、トレースしていく。

 今回、俺が選んだのは……カンナの聖剣術、そして、ノアの筋力だ。
 今の俺は、タルトに技術も力も及ばない。だが、2人に力を貸してもらえば、上回ることが出来る。

「2人とも……力を貸してくれ……!」

 その時、頭の中に音声が流れてきた。

 ──データベースに接続──完了致しました。
 個体名"カンナ""ノア"の1部ステータスをトレース致します。

 機械のような声だが、どこか心地いい。

 ──トレース、完了致しました。

 ……分かる、剣の扱い方が。分かる、つい先程とは明らかに違うことが。
 俺は再度剣を構え直す。

「……さぁ、ここからが本番だ」

「なにをっ小癪な!」

 タルトが体制を立て直し、此方へと飛びかかってくる。
 剣が軽い、先程とは別のものを持っているようだ。

 剣を薙ぐ。

「なっ!」

 俺が振った剣は、相手の剣を斬っていた。叩き折られた剣先は、地面へと転がり、キンッと音が鳴る。

「そんな……くっ!」

 それでも諦めた様子もなく、再度襲いかかってくる。

 俺は1度剣を受け流した後、剣の面で、タルトの掌を叩く。

「うがっ!」

 あまりの痛さにタルトは剣を手放してしまった。
 明らかに動揺しているタルトの首筋に、俺は剣を突き付ける。

「降参しろ。もういいだろ」

「は、はひ……」

 固唾を呑んでいた審判が旗を上げる。

「そこまで! 勝者トウマ!」

 うおおおおお! という歓声が上がり、やるな! とかいい試合だった。などの言葉をくれる。思っていたような嫌な奴らではなかったようだ。偏見を持っていたのは俺の方かもしれない。

「ほらっ、手貸してやるよ。立て」

 俺はタルトに手を差し伸べる。経緯、動機はどうであれ、相手も真剣に戦ったんだ。敬意を払わないとな。

「お、おう」

 一瞬、戸惑ったが、差し伸べた手をとってくれた。
 何故か目がトロンとしているのだが、なにも見なかったことにしよう。俺にそっちのケはないからな。

「お前……強いんだな。平民だからって侮ってたよ」

「ははっ、過ぎたことはもういいよ。いい試合だったな」

「最後は完敗だったけどな」

 握手を交わして、アリーナから退場をする。

 外にはカンナ達が待っていてくれた。

「ご主人様、カッコよかったですっ!」

「トウマ、いい試合だったわ」

「勝てたのだと思うと、安心して少し腹が減ってきたな」

「じゃあ、みんなでスイーツでも食べよ♪」

 俺たちはいつもより軽い足取りで町へと繰り出す

「うーん、美味しい!」

「美味しいですね!」

「……システム……か」

 試合中は気にする暇がなかったシステムとは何か。

「ん……どうしたんですか?」

「いや、なんでもないよ」

「ふーん」

 そう思いつつも、目の前にある笑顔を見て、「まあ勝てたんだからいいか」とトウマは呟いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生したら人間じゃなくて魔物、それもSSSランクの天狐だったんですが?

きのこすーぷ
ファンタジー
何時もと変わらないはずの日常。 だけれど、この日は違った。教室の床は光り始め、目が覚めるとそこは洞窟の中。 主人公のコハクは頭の中で響く不思議な声と共に、新たな世界を生き抜いていく。 「ん? 殺傷した相手のスキルが吸収できるの?」授かったスキルは強力で、ステータスの上昇値も新たな世界ではトップクラス。 でもでも、魔物だし人間に討伐対象にされたらどうしよう……ふえぇ。 RPGみたいな感じです。 クラス転移も入っています。 感想は基本的に、全て承認いたします。禁止なのは、他サイトのURLや相応目的の感想となっております。 全てに返信させていただくので、暇なときにでも書いてくださると嬉しいです! 小説家になろう様でも掲載を始めました。小説家になろう様では先行で更新しております。 応援してくれるとうれしいです。https://ncode.syosetu.com/n5415ev/

夢じゃなかった!?

Rin’
ファンタジー
主人公佐藤綾子33歳はどこにでもいる普通の人である。スマホの無料小説を1日の始まり前と帰宅後に読むことが日課で日々お気に入りの小説を読んでは気力と体力を回復する糧にして頑張っている。 好きな動物は犬、猫、そして爬虫類。好きな食べ物は本マグロ。好きな季節は夏から秋。 好きな天気は………雷。 そんな主人公が日常から一変して異世界に転移!?どうなるかわからない見切り発進です。 エブリスタさんで先に投稿、更新している長編ファンタジー作品です。 少しずつこちらでも投稿していきますのでよろしくお願いします。

勇者召喚に巻き込まれた俺はのんびりと生活したいがいろいろと巻き込まれていった

九曜
ファンタジー
俺は勇者召喚に巻き込まれた 勇者ではなかった俺は王国からお金だけを貰って他の国に行った だが、俺には特別なスキルを授かったがそのお陰かいろいろな事件に巻き込まれといった この物語は主人公がほのぼのと生活するがいろいろと巻き込まれていく物語

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

若返ったおっさん、第2の人生は異世界無双

たまゆら
ファンタジー
事故で死んだネトゲ廃人のおっさん主人公が、ネトゲと酷似した異世界に転移。 ゲームの知識を活かして成り上がります。 圧倒的効率で金を稼ぎ、レベルを上げ、無双します。

元外科医の俺が異世界で何が出来るだろうか?~現代医療の技術で異世界チート無双~

冒険者ギルド酒場 チューイ
ファンタジー
魔法は奇跡の力。そんな魔法と現在医療の知識と技術を持った俺が異世界でチートする。神奈川県の大和市にある冒険者ギルド酒場の冒険者タカミの話を小説にしてみました。  俺の名前は、加山タカミ。48歳独身。現在、救命救急の医師として現役バリバリ最前線で馬車馬のごとく働いている。俺の両親は、俺が幼いころバスの転落事故で俺をかばって亡くなった。その時の無念を糧に猛勉強して医師になった。俺を育ててくれた、ばーちゃんとじーちゃんも既に亡くなってしまっている。つまり、俺は天涯孤独なわけだ。職場でも患者第一主義で同僚との付き合いは仕事以外にほとんどなかった。しかし、医師としての技量は他の医師と比較しても評価は高い。別に自分以外の人が嫌いというわけでもない。つまり、ボッチ時間が長かったのである意味コミ障気味になっている。今日も相変わらず忙しい日常を過ごしている。 そんなある日、俺は一人の少女を庇って事故にあう。そして、気が付いてみれば・・・ 「俺、死んでるじゃん・・・」 目の前に現れたのは結構”チャラ”そうな自称 創造神。彼とのやり取りで俺は異世界に転生する事になった。 新たな家族と仲間と出会い、翻弄しながら異世界での生活を始める。しかし、医療水準の低い異世界。俺の新たな運命が始まった。  元外科医の加山タカミが持つ医療知識と技術で本来持つ宿命を異世界で発揮する。自分の宿命とは何か翻弄しながら異世界でチート無双する様子の物語。冒険者ギルド酒場 大和支部の冒険者の英雄譚。

追放されたテイマー半年後に従魔が最強になったのでまた冒険する

Miiya
ファンタジー
「テイマーって面白そうだったから入れてたけど使えんから出ていって。」と言われ1ヶ月間いたパーティーを追放されてしまったトーマ=タグス。仕方なく田舎にある実家に戻りそこで農作業と副業をしてなんとか稼いでいた。そんな暮らしも半年が経った後、たまたま飼っていたスライムと小鳥が最強になりもう一度冒険をすることにした。そしてテイマーとして覚醒した彼と追放したパーティーが出会い彼の本当の実力を知ることになる。

異世界召喚された回復術士のおっさんは勇者パーティから追い出されたので子どもの姿で旅をするそうです

かものはし
ファンタジー
この力は危険だからあまり使わないようにしよう――。 そんな風に考えていたら役立たずのポンコツ扱いされて勇者パーティから追い出された保井武・32歳。 とりあえず腹が減ったので近くの町にいくことにしたがあの勇者パーティにいた自分の顔は割れてたりする? パーティから追い出されたなんて噂されると恥ずかしいし……。そうだ別人になろう。 そんなこんなで始まるキュートな少年の姿をしたおっさんの冒険譚。 目指すは復讐? スローライフ? ……それは誰にも分かりません。 とにかく書きたいことを思いつきで進めるちょっとえっちな珍道中、はじめました。

処理中です...