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二章 聖女という存在について
2 異変
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「止まってクロード」
やや周囲の視線が恥ずかしくなりながらもクロードに抱き抱えられてしばらく移動した所でクロードにそう声を掛ける。
「は、はい……で、お嬢。此処に一体何が? 見た所異常は無いようですが……」
辿り着いたのは特別変わった様子の無い市街地の一画。
クロードの言う通り、何の異常も視界的には入らない。
……視界的には、だけど。
「……嫌な感じの正体はこれだ。うん、急いで来て良かった」
クロードに地面に下ろされた私は、空に視線を向けて呟く。
「……この一画だけ、聖結界が壊れかかってる」
「なるほど、一大事じゃないですか……流石お嬢、良く分かりましたね」
クロードが感心するようにそう言ってくれる。
だけどそれに素直に喜んでいる場合じゃない。
「それでお嬢、此処に足を運んでどうするおつもりで?」
「……多分こんな事になってたらこの国の聖女の人も異変に気付くと思う。だから何かしらの対策はしにに来る筈だけどまだ来てない。だったら……私が応急処置をする」
「できるんですか? 他人が張った結界ですよ?」
「そんなに難しい話じゃないよ。やるのはあくまで応急処置。穴が空いた所に被せるように蓋をするみたいな感じだから」
「なるほど……」
「とにかく急がないと……始めるよ」
そう言って私は空に向かって手を伸ばし、結界を張る為の魔術を構築し始めた。
大丈夫。簡単。
この位なら私でも満足にやれる。
……時間もそれ程掛からない。
そして体感時間にして約一分程。
「よし、できた」
「は、早いですね。一分掛かってないですよ」
「まあ馬車で使ってた結界みたいに特殊なものでもないし、規模も凄く小規模。この位ならすぐにできるし体への負担も殆ど掛からないよ」
「……とりあえず最後の一言を聞けて俺も一安心ですよ」
多分その辺りも心配してくれてそうだったから言って良かった。
……とにかく、これで一安心だ。
そしてお互い一安心した所でクロードが言う。
「それでお嬢。これからどうします? これから宿探し続行、なんて状況じゃ無くなっていると思うんですが」
「そうだね。多分だけどこの国の聖女も異常には気付いていると思うし、何かしらの手を打つ為に聖女かクロードみたいな立ち位置の人が此処に来るんじゃないかって思う。だったら私は応急処置しただけだから。ちゃんと引き継ぎやらないと」
「なるほど、分かりました」
だから少し此処で待つ必要がある。
待って……穏便に話が進めば良いけど。
「クロード、もし何かあったら、その……お願いね」
「分かってますよ」
どうやらクロードも、もしかしたら今やった事について穏便に終わらないかもしれない可能性がある事を察してくれたみたいで、私が思っている事と同じ事を言ってくれる。
「善意でやった事とはいえ、人様の国の国防の要に勝手に手を出している訳ですからね。異常が起きてからの処置なので妙な責任を押し付けられる事は無いとは思いますが……とにかく、話が分かる相手なら良いですね」
「そうだね」
と、そんなやり取りをしていた時だった。
「……あの人達じゃないですか?」
クロードがこちらに向かってくる人影に視線を向けながら言う。
「そうかもしれない……なんか既視感感じるし」
視界の先。
そこには私とクロードがそうだったように、人一人を抱えて爆走するスーツの青年と、抱えられる赤髪の女の子が見える。
……あの子がこの国の聖女……なのかな?
そして向こうも私達に気付いたみたいで。
「ちょっとそこの二人、そこから動かんといて!」
明確に私達に向けてそう声を掛けてきた。
「お嬢、念の為俺の後ろに」
そして私の一歩前にクロードが立つ。
……念の為。
「うん。でも多分大丈夫だと思うけどね」
クロードも私もその程度の警戒しかしない位には、走ってくる二人からは敵意のような物は感じられない。
そしてその印象が変わらないまま、二人は私達の前で立ち止まり、赤髪の少女は地面に着地しながら言う。
「此処の結界の補強してくれたのアンタ達っすね。誰だか知らないけど助かったっすよ! ありがとうございました!」
そんな、敵意とは真逆で好意的な言葉を。
やや周囲の視線が恥ずかしくなりながらもクロードに抱き抱えられてしばらく移動した所でクロードにそう声を掛ける。
「は、はい……で、お嬢。此処に一体何が? 見た所異常は無いようですが……」
辿り着いたのは特別変わった様子の無い市街地の一画。
クロードの言う通り、何の異常も視界的には入らない。
……視界的には、だけど。
「……嫌な感じの正体はこれだ。うん、急いで来て良かった」
クロードに地面に下ろされた私は、空に視線を向けて呟く。
「……この一画だけ、聖結界が壊れかかってる」
「なるほど、一大事じゃないですか……流石お嬢、良く分かりましたね」
クロードが感心するようにそう言ってくれる。
だけどそれに素直に喜んでいる場合じゃない。
「それでお嬢、此処に足を運んでどうするおつもりで?」
「……多分こんな事になってたらこの国の聖女の人も異変に気付くと思う。だから何かしらの対策はしにに来る筈だけどまだ来てない。だったら……私が応急処置をする」
「できるんですか? 他人が張った結界ですよ?」
「そんなに難しい話じゃないよ。やるのはあくまで応急処置。穴が空いた所に被せるように蓋をするみたいな感じだから」
「なるほど……」
「とにかく急がないと……始めるよ」
そう言って私は空に向かって手を伸ばし、結界を張る為の魔術を構築し始めた。
大丈夫。簡単。
この位なら私でも満足にやれる。
……時間もそれ程掛からない。
そして体感時間にして約一分程。
「よし、できた」
「は、早いですね。一分掛かってないですよ」
「まあ馬車で使ってた結界みたいに特殊なものでもないし、規模も凄く小規模。この位ならすぐにできるし体への負担も殆ど掛からないよ」
「……とりあえず最後の一言を聞けて俺も一安心ですよ」
多分その辺りも心配してくれてそうだったから言って良かった。
……とにかく、これで一安心だ。
そしてお互い一安心した所でクロードが言う。
「それでお嬢。これからどうします? これから宿探し続行、なんて状況じゃ無くなっていると思うんですが」
「そうだね。多分だけどこの国の聖女も異常には気付いていると思うし、何かしらの手を打つ為に聖女かクロードみたいな立ち位置の人が此処に来るんじゃないかって思う。だったら私は応急処置しただけだから。ちゃんと引き継ぎやらないと」
「なるほど、分かりました」
だから少し此処で待つ必要がある。
待って……穏便に話が進めば良いけど。
「クロード、もし何かあったら、その……お願いね」
「分かってますよ」
どうやらクロードも、もしかしたら今やった事について穏便に終わらないかもしれない可能性がある事を察してくれたみたいで、私が思っている事と同じ事を言ってくれる。
「善意でやった事とはいえ、人様の国の国防の要に勝手に手を出している訳ですからね。異常が起きてからの処置なので妙な責任を押し付けられる事は無いとは思いますが……とにかく、話が分かる相手なら良いですね」
「そうだね」
と、そんなやり取りをしていた時だった。
「……あの人達じゃないですか?」
クロードがこちらに向かってくる人影に視線を向けながら言う。
「そうかもしれない……なんか既視感感じるし」
視界の先。
そこには私とクロードがそうだったように、人一人を抱えて爆走するスーツの青年と、抱えられる赤髪の女の子が見える。
……あの子がこの国の聖女……なのかな?
そして向こうも私達に気付いたみたいで。
「ちょっとそこの二人、そこから動かんといて!」
明確に私達に向けてそう声を掛けてきた。
「お嬢、念の為俺の後ろに」
そして私の一歩前にクロードが立つ。
……念の為。
「うん。でも多分大丈夫だと思うけどね」
クロードも私もその程度の警戒しかしない位には、走ってくる二人からは敵意のような物は感じられない。
そしてその印象が変わらないまま、二人は私達の前で立ち止まり、赤髪の少女は地面に着地しながら言う。
「此処の結界の補強してくれたのアンタ達っすね。誰だか知らないけど助かったっすよ! ありがとうございました!」
そんな、敵意とは真逆で好意的な言葉を。
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