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一章 聖女追放の日

7 彼女が眠りについた後《クロード視点》

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「……眠ったか」

 クロードは小さな寝息を耳にして静かにそう呟く。
 静かに眠るクレアは本当に無防備で、端から見て少し心配になる。

 仮にも異性と二人なのだ。
 多少は警戒心を向けてもいいのではないだろうか?

「……まあ最低限、その位は信頼してくれているって事か」

 その事に少し優越感を感じながら、軽い眠気を飛ばすように頬を叩いた。

 ……まだ眠るという選択肢は浮かんでこない。
 眠る訳にはいかない。

 別にクレアの聖結界を信用していない訳ではない。
 今日はこれまで魔物を退けていたし、万が一のリカバリーが可能なように侵入者に対して感知ができる仕様にもなっているという優秀な設計がされているから。

 そしてその言葉を鵜呑みにできるだけの。
 そうした聖結界が張れるようになるまでの積み重ねを、今日までずっと見てきたのだ。
 ……信頼しない訳がない。

 だけど、だからこそ眠れない。

 そうした信頼を向けられる相手だからこそ、彼女が傷つくような事だけは避けたい。
 ……これ以上は、もう避けたい。

 だから可能な限りはもう少し。もう少しだけ頑張ってみる。
 限界が来て眠りに付かざるを得ない時が来るまでは、何かが有っても彼女を守る事ができるように。
 ……だから、もう少しだけ。

 そんな意思を固めながら、クロードはクレアの寝顔に視線を向ける。

 ……恐らくその眠りはあまり深い物ではないだろう。
 聖結界を張る聖女の眠りは浅い。
 眠る事で体力を回復しながらも、それと同時に結界の維持で体力を持っていかれる。
 そして体力を持っていかれて蓄積される疲労が、一種の刺激ともなるのか深い眠りを妨げる。

 ……だから、今日もクレアの眠りは浅いだろう。

(……何がすっごい元気だよ虚勢張りやがって。全然だろ)

 気付いてた。
 ずっと気付いてた。

 今のクレアに掛かっている負担が、王都の聖結界を維持するよりも重いという事は。
 そんな事は、少し接しただけで理解できた。
 ……本人は隠しているつもりだろうけど、全然隠せていない。

 だから少し雑談していた時に、馬車が止まっている間は通常の聖結界に切り替えたらどうかと進言してみたけれど、もう一度移動式の結界を張るのに時間がかかるのと、次はうまく張れるか分からないから駄目だと断られた。

 ……だから、重い負担は残ったままで。
 今も彼女の体を蝕んでいる。

 そして、そんな物をこれまでずっと背負い続けてきたのに。
 そんな物を背負いながらも、これまでずっと頑張って来たのに。

 どうしてクレアという女の子は、こんな碌でもない仕打ちを受けなければならなかったのだろうか。

「……あんな国、滅びちまえばいい」

 思わずそう呟きながら、自然と思い返す。
 楽しい思い出と、それ以上に救いようのない記憶。

 これまでの事。
 彼から見たクレアという少女の話。
 ルドルク王国という歪で碌でもない。自身が仕えていた国家の話。
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