人の身にして精霊王

山外大河

文字の大きさ
上 下
427 / 431
七章 白と黒の追跡者

ex 頂上決戦

しおりを挟む
 レベッカが離脱したのを確認しつつ、前方に。
 否、全方向。今自分が居る空間のあらゆる要素に注意を向ける。

 レベッカに言った通り、今ので殺せている筈が無い。
 あの程度で殺せる相手なら、今こうして対峙していない。

「生きてるんだろルミア!」

 シオンは視界の先の土煙の中にいるであろうルミアに対してそう叫ぶ。
 するとシオンの言葉に反応するように、土煙が風のような力で一気に晴れる。
 そこに立っているのは……未だ無傷で立つ、霊装の槍を手にしたルミア・マルティネス。

「やあやあシオン君。待ちわびたよ」

「結構本気で殺しに掛かってきた癖に良く言うよ」

「そりゃまあシオン君で遊ぶのはもういいかなって思ったら殺そうとするよ。ただキミがその度に偶然か必然か生き残って私の考えを狂わせてくれる。まだ遊べる。だから今となっては殺さなくて良かったなって思うよ。だからほんと……うん。ちゃんと面白い対象のまま無事此処まで来てくれて良かった。待ちわびたよ本当に」

「悪いけど僕はあんまりキミとは関わりたくないんだ。待たせてしまって申し訳ないんだけど、早々と幕を下ろさせてもらうよ」

 シオンがそう言うと、ルミアは一拍空けて笑みを浮かべる。

「そういう意味でも本当に待ちわびたよ。これは同業者としての言葉だけどさ……キミがそういう事を言える領域にまで到達するのを待ってたんだ。いや、達するというか……おかえりって言うべきなのかな」


 そう言ったルミアは軽く槍を構える。

「そういうキミを倒して初めて私は、心の底から人生を謳歌できる!」

 そう叫んだルミアはその場で勢いよく槍を振るい、衝撃波を発生させる。
 超高速の衝撃波。

 それ以外の何物でもない衝撃波。

「……」

 それをシオンは横に飛んで躱した。
 その表情に一切の焦りは無い。

「キミにしてはえらく単調な攻撃だね。キミならもっと一癖も二癖もある攻撃をしてきそうなものだけど」

 そうやって煽る余裕すらある。
 対するルミアの表情は、どこまで本気なのかは分からないが、あまり余裕が見られない。

「良く言うよ。そういうの考えなしに放ったらキミの思う壺じゃん」

 そう言ってルミアが再び放った衝撃波も、再びシオンは軽く身を捻り回避。
 回避しながら、改めて目の前の敵の化物染みた力量に驚かされる。

(……たった一度で全部お察しか)

 たった一度こちらの手の内を見せただけで。

 触れてもいない相手の精霊術のコントロールを奪うという秘策を一度見せただけで。

 起きた現象を。
 こちらに起こすことが可能な現象を。
 それを正確に理解し、それに合わせ行動を最適化し始めている。
 ……本当に恐ろしい。
 紛れもなく天才だとシオンは思う。

 だけど此処までは想定内。
 そして事がせめて表面上だけでも想定内に進んでいる時点で、この戦いには今度こそ勝機があるのだと。

 そう、確信する事ができた。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

ここは貴方の国ではありませんよ

水姫
ファンタジー
傲慢な王子は自分の置かれている状況も理解出来ませんでした。 厄介ごとが多いですね。 裏を司る一族は見極めてから調整に働くようです。…まぁ、手遅れでしたけど。 ※過去に投稿したモノを手直し後再度投稿しています。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

処理中です...