人の身にして精霊王

山外大河

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七章 白と黒の追跡者

ex 最強の帰還

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 契約精霊に触れている間、脳裏に浮かび続けたシオンの脳内に存在しない精霊術が、精霊を霊装化する精霊術だというのはエイジから得た知識から容易に理解できて。
 治療という必ず踏むべきプロセスを終えた今、その精霊術を発動しない理由は無い。

 その結果変化した彼女の姿は、シオンにとって欠けていた物を埋める義手だった。

(てっきり武器にでもなるのだと思っていたけれど……なるほど、こういう事もあるんだな)

 心中でそう考えながらシオンは義手の左手を軽く握る。

(不思議な感覚だ……元の腕よりよく馴染む)

 その感覚を得られた時点で、他のどんな優秀な武器が選ばれるよりも最適解だった。
 失い崩れて狂いだし、慣れてもそれでも元通りにならなかった人体のバランスが。
 体内で繊細に術式を組み上げる彼にとって、下手な出力よりも最も必要とされるパラメータが元に戻ったのだから。
 上方修正されたのだから。

(これなら……やれるな)

 最低限度の出力と、バランスを取る為の片腕を手にした今。
 もう彼の脳内に描いた選択を阻む障害は何もない。

 シオンは構えを取って言う。

「ランディ。キミには悪いけどこの戦い、速攻でけりを付けさせて貰うよ」

 ……悠長に目の前の雑魚と戦っている時間は無い。

 今現在、この研究所内で何が起きているのかは分からない。
 だがルミアの手の平の上で動かされている以上、碌な状況では無い事は察する事ができて。
 そうなれば一緒に突入した二人の事が心配だ。
 あの二人は自分にとって運命共同体と言える存在だ。
 何が何でも助けに行かなければならない。
 こうして契約を結ぶ事までが手の平の上で踊らされた結果なのだとしても、ここからルミアの想像を超えて勝利を勝ち取り全てを救わなければならない。

 その為には、こんな雑魚を相手にしている時間は勿体無い。

「くそ……突然イキリ始めやがって!」

 ランディが叫びと共に霊装の銃をシオンに向け、撃ち放つ。
 超高速でシオンに迫る精霊術の銃弾。
 それがシオンから数メートル離れた地点で、突然軌道が逸れてあらぬ方向に飛んでいく。

「……は?」

「良いだろ、少し位」

 困惑するランディに対して原理の説明をする事も無く、シオンは一歩前進する。
 それに対して放たれる攻撃全てを反らしながら。

「振るう力の根底にある物は決して胸を張って言えるような物じゃない。誰かに誇れる強さじゃない事は百も承知さ……だけど」

 そう言ってシオンは走り出す。
 一直線に。攻撃を躱す事無く全て反らして。

「それでも今だけは……もう大丈夫だって所を、この子に見せてあげたい」

 当たらない銃による攻撃を止め、接近してきたシオンに対して放たれた蹴りを跳んで躱す。
 そして体を捻り、ランディの頭部で逆立ちするように頭を掴み、そして。

「チェックメイトだ」

 精霊術を発動し、的確に脳を揺らして脳震盪を引き起こす。

 仮に相手の肉体がどんな強度を誇っていても、超高確率で相手を殺さず無力化できる。
 シオン・クロウリーの必殺技の一つ。

(……これでいい)

 ランディはシオンの目の前で契約精霊の脚を撃ち抜いた。
 それだけで殺したくなる程の殺意は湧く。
 だけどその殺意を向ける権利が自分に無い事も理解していて。
 自分の方が遥かに醜い事をやり続けてきた事は知っていて。

 だからランディに関してはこれでいい。
 この後、目を覚ました後も動けないように精霊術で拘束する。
 それでいい。


 ランディに関してはこれでいい。
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