424 / 431
七章 白と黒の追跡者
ex 最強の帰還
しおりを挟む
契約精霊に触れている間、脳裏に浮かび続けたシオンの脳内に存在しない精霊術が、精霊を霊装化する精霊術だというのはエイジから得た知識から容易に理解できて。
治療という必ず踏むべきプロセスを終えた今、その精霊術を発動しない理由は無い。
その結果変化した彼女の姿は、シオンにとって欠けていた物を埋める義手だった。
(てっきり武器にでもなるのだと思っていたけれど……なるほど、こういう事もあるんだな)
心中でそう考えながらシオンは義手の左手を軽く握る。
(不思議な感覚だ……元の腕よりよく馴染む)
その感覚を得られた時点で、他のどんな優秀な武器が選ばれるよりも最適解だった。
失い崩れて狂いだし、慣れてもそれでも元通りにならなかった人体のバランスが。
体内で繊細に術式を組み上げる彼にとって、下手な出力よりも最も必要とされるパラメータが元に戻ったのだから。
上方修正されたのだから。
(これなら……やれるな)
最低限度の出力と、バランスを取る為の片腕を手にした今。
もう彼の脳内に描いた選択を阻む障害は何もない。
シオンは構えを取って言う。
「ランディ。キミには悪いけどこの戦い、速攻でけりを付けさせて貰うよ」
……悠長に目の前の雑魚と戦っている時間は無い。
今現在、この研究所内で何が起きているのかは分からない。
だがルミアの手の平の上で動かされている以上、碌な状況では無い事は察する事ができて。
そうなれば一緒に突入した二人の事が心配だ。
あの二人は自分にとって運命共同体と言える存在だ。
何が何でも助けに行かなければならない。
こうして契約を結ぶ事までが手の平の上で踊らされた結果なのだとしても、ここからルミアの想像を超えて勝利を勝ち取り全てを救わなければならない。
その為には、こんな雑魚を相手にしている時間は勿体無い。
「くそ……突然イキリ始めやがって!」
ランディが叫びと共に霊装の銃をシオンに向け、撃ち放つ。
超高速でシオンに迫る精霊術の銃弾。
それがシオンから数メートル離れた地点で、突然軌道が逸れてあらぬ方向に飛んでいく。
「……は?」
「良いだろ、少し位」
困惑するランディに対して原理の説明をする事も無く、シオンは一歩前進する。
それに対して放たれる攻撃全てを反らしながら。
「振るう力の根底にある物は決して胸を張って言えるような物じゃない。誰かに誇れる強さじゃない事は百も承知さ……だけど」
そう言ってシオンは走り出す。
一直線に。攻撃を躱す事無く全て反らして。
「それでも今だけは……もう大丈夫だって所を、この子に見せてあげたい」
当たらない銃による攻撃を止め、接近してきたシオンに対して放たれた蹴りを跳んで躱す。
そして体を捻り、ランディの頭部で逆立ちするように頭を掴み、そして。
「チェックメイトだ」
精霊術を発動し、的確に脳を揺らして脳震盪を引き起こす。
仮に相手の肉体がどんな強度を誇っていても、超高確率で相手を殺さず無力化できる。
シオン・クロウリーの必殺技の一つ。
(……これでいい)
ランディはシオンの目の前で契約精霊の脚を撃ち抜いた。
それだけで殺したくなる程の殺意は湧く。
だけどその殺意を向ける権利が自分に無い事も理解していて。
自分の方が遥かに醜い事をやり続けてきた事は知っていて。
だからランディに関してはこれでいい。
この後、目を覚ました後も動けないように精霊術で拘束する。
それでいい。
ランディに関してはこれでいい。
治療という必ず踏むべきプロセスを終えた今、その精霊術を発動しない理由は無い。
その結果変化した彼女の姿は、シオンにとって欠けていた物を埋める義手だった。
(てっきり武器にでもなるのだと思っていたけれど……なるほど、こういう事もあるんだな)
心中でそう考えながらシオンは義手の左手を軽く握る。
(不思議な感覚だ……元の腕よりよく馴染む)
その感覚を得られた時点で、他のどんな優秀な武器が選ばれるよりも最適解だった。
失い崩れて狂いだし、慣れてもそれでも元通りにならなかった人体のバランスが。
体内で繊細に術式を組み上げる彼にとって、下手な出力よりも最も必要とされるパラメータが元に戻ったのだから。
上方修正されたのだから。
(これなら……やれるな)
最低限度の出力と、バランスを取る為の片腕を手にした今。
もう彼の脳内に描いた選択を阻む障害は何もない。
シオンは構えを取って言う。
「ランディ。キミには悪いけどこの戦い、速攻でけりを付けさせて貰うよ」
……悠長に目の前の雑魚と戦っている時間は無い。
今現在、この研究所内で何が起きているのかは分からない。
だがルミアの手の平の上で動かされている以上、碌な状況では無い事は察する事ができて。
そうなれば一緒に突入した二人の事が心配だ。
あの二人は自分にとって運命共同体と言える存在だ。
何が何でも助けに行かなければならない。
こうして契約を結ぶ事までが手の平の上で踊らされた結果なのだとしても、ここからルミアの想像を超えて勝利を勝ち取り全てを救わなければならない。
その為には、こんな雑魚を相手にしている時間は勿体無い。
「くそ……突然イキリ始めやがって!」
ランディが叫びと共に霊装の銃をシオンに向け、撃ち放つ。
超高速でシオンに迫る精霊術の銃弾。
それがシオンから数メートル離れた地点で、突然軌道が逸れてあらぬ方向に飛んでいく。
「……は?」
「良いだろ、少し位」
困惑するランディに対して原理の説明をする事も無く、シオンは一歩前進する。
それに対して放たれる攻撃全てを反らしながら。
「振るう力の根底にある物は決して胸を張って言えるような物じゃない。誰かに誇れる強さじゃない事は百も承知さ……だけど」
そう言ってシオンは走り出す。
一直線に。攻撃を躱す事無く全て反らして。
「それでも今だけは……もう大丈夫だって所を、この子に見せてあげたい」
当たらない銃による攻撃を止め、接近してきたシオンに対して放たれた蹴りを跳んで躱す。
そして体を捻り、ランディの頭部で逆立ちするように頭を掴み、そして。
「チェックメイトだ」
精霊術を発動し、的確に脳を揺らして脳震盪を引き起こす。
仮に相手の肉体がどんな強度を誇っていても、超高確率で相手を殺さず無力化できる。
シオン・クロウリーの必殺技の一つ。
(……これでいい)
ランディはシオンの目の前で契約精霊の脚を撃ち抜いた。
それだけで殺したくなる程の殺意は湧く。
だけどその殺意を向ける権利が自分に無い事も理解していて。
自分の方が遥かに醜い事をやり続けてきた事は知っていて。
だからランディに関してはこれでいい。
この後、目を覚ました後も動けないように精霊術で拘束する。
それでいい。
ランディに関してはこれでいい。
0
お気に入りに追加
372
あなたにおすすめの小説
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
双子の姉妹は無双仕様
satomi
ファンタジー
双子の姉妹であるルカ=フォレストとルリ=フォレストは文武両道というか他の人の2~3倍なんでもできる。周りはその事実を知らずに彼女たちを貶めようと画策するが……
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
八百長試合を引き受けていたが、もう必要ないと言われたので圧勝させてもらいます
海夏世もみじ
ファンタジー
月一に開催されるリーヴェ王国最強決定大会。そこに毎回登場するアッシュという少年は、金をもらう代わりに対戦相手にわざと負けるという、いわゆる「八百長試合」をしていた。
だが次の大会が目前となったある日、もうお前は必要ないと言われてしまう。八百長が必要ないなら本気を出してもいい。
彼は手加減をやめ、“本当の力”を解放する。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
嫌われ聖女さんはとうとう怒る〜今更大切にするなんて言われても、もう知らない〜
𝓝𝓞𝓐
ファンタジー
13歳の時に聖女として認定されてから、身を粉にして人々のために頑張り続けたセレスティアさん。どんな人が相手だろうと、死にかけながらも癒し続けた。
だが、その結果は悲惨の一言に尽きた。
「もっと早く癒せよ! このグズが!」
「お前がもっと早く治療しないせいで、後遺症が残った! 死んで詫びろ!」
「お前が呪いを防いでいれば! 私はこんなに醜くならなかったのに! お前も呪われろ!」
また、日々大人も気絶するほどの魔力回復ポーションを飲み続けながら、国中に魔物を弱らせる結界を張っていたのだが……、
「もっと出力を上げんか! 貴様のせいで我が国の騎士が傷付いたではないか! とっとと癒せ! このウスノロが!」
「チッ。あの能無しのせいで……」
頑張っても頑張っても誰にも感謝されず、それどころか罵られるばかり。
もう我慢ならない!
聖女さんは、とうとう怒った。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる