412 / 431
七章 白と黒の追跡者
78 倒す力、殺す力
しおりを挟む
誰かを殺そうとしてエルを刀に変えたのは初めての経験だった。
だから初めて踏み込んだその領域に、一体何があるのかを俺は知らなくて。
何かがある事すらも気付けなくて。
だけど踏み込んだ今、そこに力がある事に気付いた。
エルと契約を交わして初めての戦いで手に触れて、そこでエルを剣にする精霊術が浮かんできた。
この世界から地球へと飛ぶあの場所で、そうする為の精霊術が浮かんできた。
そういう風に精霊術には時が来て初めて使えるようになる類の物が存在する。
エルを剣にして戦う時、自分の正しさを貫き通すための、敵を倒す為の力を手にした。
エルを天野から守る時、せめて手の届く範囲だけでも守る事ができるように、風の防壁という守りの力を手にした。
そういう風に何かの拍子で、武器化したエルは姿形も与えてくれる力も変える。
では、今は。
それらを踏まえて今は。
「……」
姿形は変わらない。
手の届く範囲にだけ届くような、美しい美術品の様な日本刀。
だけど思考の海に浮かんでいる。
倒す力もある。
守る力もある。
それらに不純物が混じるように……殺す力が。
目の前のサイコパスを殺害する為の力が此処に。
「うわ、どういう感情その表情。こわっ」
「……」
言葉はいらない。
目の前の敵を見据えろ。
刀を振るえ。
「うわッ!」
その場で刀を振るい吹き荒れる。
激しく強い暴風が。
殺傷能力を有した無数の風の刃が内包された暴風の刃が。
少なくとも躱しきれない。
無傷で逃がすような事があってたまるか。
「ヤバイヤバイヤバイ! これ完全に殺す気の奴じゃん! ひゃー!」
そう言ってルミアは自身の周囲に無数の細かな結界を展開する。
展開して、こちらの暴風の刃全てに対応してくる。
文字通り……全てに。
「……は?」
……こちらの攻撃の本質を一瞬で見抜かれている。
攻撃範囲が広く手数もあり、当たりさえすればその切断能力でダメージを与えられる。
代わりに一撃性は斬撃はおろか、接近しての剣撃にも劣る。俺が放てる中でも最弱の一撃。
だけどそれでも、生半可な結界では一発で削り切り刃を到達させ、辛うじて人体に届かせる事ができるだけの威力はある。
これが直観的に分かるこの技の本質。
それを少し見ただけで完璧に見抜いた。
それは理解できる。
見抜くだろう。天才なら。
シオンにはきっとそれができるし、畑違いかもしれないが天野や誠一の兄貴にだって多分その本質は見抜かれる。
だけど……目の前の光景は冗談でも見せられているようだった。
不規則に高速で迫りくる刃に、的確に強度を上げた細かな結界を出し続ける。
出し続け、その全てを相殺する。
結界を細かくしたという事は、ルミアの結界の強度そのものは特出した物ではない筈だ。
故に出されたのは的確に見抜いた上で、出せる最適解。
空上の机論のような最適解。
それを目の前で、わざとらしい焦った表情を浮かべたルミアが実施している。
最低限のダメージを与えるつもりで放った一撃が、そんな冗談みたいなやり方で掻き消されていく。
……それでも。動きを止めるな。
自分が目の前の相手より技術的に劣っている事は最初から分かっている。
そこで一々圧倒されるな。
まだこちらの攻撃は終わっていない。
元より今の一撃で高出力の霊装を使う相手を殺しきれるとは思っていない。
結界のリソースも集中力も散らした。
そしてあと数秒、暴風の刃の効力は続く。
だとすればそこに次を叩き込むんだ。
接近して、剣撃による本命の一撃を。
だから初めて踏み込んだその領域に、一体何があるのかを俺は知らなくて。
何かがある事すらも気付けなくて。
だけど踏み込んだ今、そこに力がある事に気付いた。
エルと契約を交わして初めての戦いで手に触れて、そこでエルを剣にする精霊術が浮かんできた。
この世界から地球へと飛ぶあの場所で、そうする為の精霊術が浮かんできた。
そういう風に精霊術には時が来て初めて使えるようになる類の物が存在する。
エルを剣にして戦う時、自分の正しさを貫き通すための、敵を倒す為の力を手にした。
エルを天野から守る時、せめて手の届く範囲だけでも守る事ができるように、風の防壁という守りの力を手にした。
そういう風に何かの拍子で、武器化したエルは姿形も与えてくれる力も変える。
では、今は。
それらを踏まえて今は。
「……」
姿形は変わらない。
手の届く範囲にだけ届くような、美しい美術品の様な日本刀。
だけど思考の海に浮かんでいる。
倒す力もある。
守る力もある。
それらに不純物が混じるように……殺す力が。
目の前のサイコパスを殺害する為の力が此処に。
「うわ、どういう感情その表情。こわっ」
「……」
言葉はいらない。
目の前の敵を見据えろ。
刀を振るえ。
「うわッ!」
その場で刀を振るい吹き荒れる。
激しく強い暴風が。
殺傷能力を有した無数の風の刃が内包された暴風の刃が。
少なくとも躱しきれない。
無傷で逃がすような事があってたまるか。
「ヤバイヤバイヤバイ! これ完全に殺す気の奴じゃん! ひゃー!」
そう言ってルミアは自身の周囲に無数の細かな結界を展開する。
展開して、こちらの暴風の刃全てに対応してくる。
文字通り……全てに。
「……は?」
……こちらの攻撃の本質を一瞬で見抜かれている。
攻撃範囲が広く手数もあり、当たりさえすればその切断能力でダメージを与えられる。
代わりに一撃性は斬撃はおろか、接近しての剣撃にも劣る。俺が放てる中でも最弱の一撃。
だけどそれでも、生半可な結界では一発で削り切り刃を到達させ、辛うじて人体に届かせる事ができるだけの威力はある。
これが直観的に分かるこの技の本質。
それを少し見ただけで完璧に見抜いた。
それは理解できる。
見抜くだろう。天才なら。
シオンにはきっとそれができるし、畑違いかもしれないが天野や誠一の兄貴にだって多分その本質は見抜かれる。
だけど……目の前の光景は冗談でも見せられているようだった。
不規則に高速で迫りくる刃に、的確に強度を上げた細かな結界を出し続ける。
出し続け、その全てを相殺する。
結界を細かくしたという事は、ルミアの結界の強度そのものは特出した物ではない筈だ。
故に出されたのは的確に見抜いた上で、出せる最適解。
空上の机論のような最適解。
それを目の前で、わざとらしい焦った表情を浮かべたルミアが実施している。
最低限のダメージを与えるつもりで放った一撃が、そんな冗談みたいなやり方で掻き消されていく。
……それでも。動きを止めるな。
自分が目の前の相手より技術的に劣っている事は最初から分かっている。
そこで一々圧倒されるな。
まだこちらの攻撃は終わっていない。
元より今の一撃で高出力の霊装を使う相手を殺しきれるとは思っていない。
結界のリソースも集中力も散らした。
そしてあと数秒、暴風の刃の効力は続く。
だとすればそこに次を叩き込むんだ。
接近して、剣撃による本命の一撃を。
0
お気に入りに追加
372
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
我が家に子犬がやって来た!
もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。
アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。
だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。
この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。
※全102話で完結済。
★『小説家になろう』でも読めます★
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
ここは貴方の国ではありませんよ
水姫
ファンタジー
傲慢な王子は自分の置かれている状況も理解出来ませんでした。
厄介ごとが多いですね。
裏を司る一族は見極めてから調整に働くようです。…まぁ、手遅れでしたけど。
※過去に投稿したモノを手直し後再度投稿しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる