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七章 白と黒の追跡者
ex 博打の結果
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だとすればもうまともではいられない。
(仕方ない……もう、腹を括れ)
ここから先、シオン・クロウリーにできる戦い方は一つしかない。
そこには勝機が確かにあって。
だけどあらゆる意味で勇気が必要で。
言わば最終手段と言えるような戦い方だった。
「じゃあそろそろ消えて貰うぞ、シオン・クロウリー」
ランディの言葉と共に、シオンも発動させる術式を組み替える。
精霊術と魔術。その全てを束ねる。
手足は震えた。
失敗すれば全てが終わる。
成功する確率は著しく低いように思えて、あらゆる不安要素が脳裏を駆け巡って。
その全てが全身にのし掛かってくる。
それらを全部踏み越えて。
全部全部最高の形で終わらせる為に。
(……行くぞ)
こちらに向けて打ち出された超高速かつ超高威力の光線状の銃撃に対して、持ちうる全ての力をぶつける。
まずは第一段階。
成功率は一割未満。
失敗すれば待っているのは死。
此処を越えてもその先に、今以上の難関が立ちふさがっている。
それでも……それでも。
(取り戻すんだ……あの子を!)
そして。
シオンの正面に展開された結界と霊装の銃撃がぶつかり合い轟音が鳴り響く。
(……やったか?)
ルミア・マルティネスの元で助手を勤める銃の霊装持ちの研究者、ランディは、自身の攻撃とシオン・クロウリーの防御行動に対し、そんな感情を抱く。
屋内で打てるだけの最大限の破壊力。
威力を削った分の出力を弾速とホーミングの制度向上へと割り振った。
結界との衝突で発生した土煙で姿は確認できないが、回避して飛び出して来る様子も無く、反撃が飛んでくる様子も無い。
……ランディの読みでは結界を破壊してシオンの殺害に成功している。
(……だが目を離すな)
相手はルミアと並ぶ神童だ。
例えゴミのような精霊と契約を結び、大きく力が制限されていても、その知識技量が自分よりも遥かに上回っているのは間違いないのだから。
何が起こるか分からない。
確実に殺したと確信を得られるまで、警戒は怠れない。
いつでも次が撃ち込めるように意識を向け続けなければならない。
そしてそれからすぐに……土煙で見えなくなっていた視界が開けた。
するとそこにシオン・クロウリーの姿が見えてくる。
「……」
血塗れでその場に横たわるシオンの姿が見えてくる。
「動かねえ……死んだか? ……死んだよな」
肉体の原型は留めている。
つまりそれが可能な位には威力を殺す事に成功したのだろう。
だけどそこまで。
今のシオン・クロウリーにできたのはそこまでだった。
(……いや、待て)
それでも相手はシオン・クロウリーだ。
例えば今自分が見ている、動かない神童の遺体は幻術関係の精霊術である可能性も否定できない。
既に自身は術中に嵌まっていて、どこかで反撃の機会を伺っているかもしれない。
……故に、確認が必要だ。
と、その時だった。
「……」
後ろ首を付かんで盾として利用していたシオンの契約精霊が腕を動かした。
そして……目の前に手の甲を持って来ている。
震えた手で。
そこにあった筈の黒い刻印が消失している手の甲を。
それがつまり何を意味するのか。
「……勝った」
この戦いの最中で自発的に契約を解消するのは、武器を捨てて丸腰になる自殺行為で。
では何故そこに刻印が無いのかと言われれば、理由は一つに絞られる。
契約精霊が死ねば刻印が自動的に消える。
契約者が死んでも刻印は自動的に消える。
つまりその刻印の消失は、シオン・クロウリーという人間の死を意味している。
「悪いな、シオン。この戦い、俺の勝ちだ」
ようやく自らの勝利に確信が持てた。
最後の瞬間まで、ランディから見たシオンの目には闘志が消えていなかった。
つまり彼なりにこの戦力差を覆す意思があった筈だ。
彼なりに何かしらの博打に賭けていた筈だ。
だけどこれがその結果。
終着点。
あまりにもあっけなく。
この戦いはシオン・クロウリーという少年の死で幕を閉じる。
(仕方ない……もう、腹を括れ)
ここから先、シオン・クロウリーにできる戦い方は一つしかない。
そこには勝機が確かにあって。
だけどあらゆる意味で勇気が必要で。
言わば最終手段と言えるような戦い方だった。
「じゃあそろそろ消えて貰うぞ、シオン・クロウリー」
ランディの言葉と共に、シオンも発動させる術式を組み替える。
精霊術と魔術。その全てを束ねる。
手足は震えた。
失敗すれば全てが終わる。
成功する確率は著しく低いように思えて、あらゆる不安要素が脳裏を駆け巡って。
その全てが全身にのし掛かってくる。
それらを全部踏み越えて。
全部全部最高の形で終わらせる為に。
(……行くぞ)
こちらに向けて打ち出された超高速かつ超高威力の光線状の銃撃に対して、持ちうる全ての力をぶつける。
まずは第一段階。
成功率は一割未満。
失敗すれば待っているのは死。
此処を越えてもその先に、今以上の難関が立ちふさがっている。
それでも……それでも。
(取り戻すんだ……あの子を!)
そして。
シオンの正面に展開された結界と霊装の銃撃がぶつかり合い轟音が鳴り響く。
(……やったか?)
ルミア・マルティネスの元で助手を勤める銃の霊装持ちの研究者、ランディは、自身の攻撃とシオン・クロウリーの防御行動に対し、そんな感情を抱く。
屋内で打てるだけの最大限の破壊力。
威力を削った分の出力を弾速とホーミングの制度向上へと割り振った。
結界との衝突で発生した土煙で姿は確認できないが、回避して飛び出して来る様子も無く、反撃が飛んでくる様子も無い。
……ランディの読みでは結界を破壊してシオンの殺害に成功している。
(……だが目を離すな)
相手はルミアと並ぶ神童だ。
例えゴミのような精霊と契約を結び、大きく力が制限されていても、その知識技量が自分よりも遥かに上回っているのは間違いないのだから。
何が起こるか分からない。
確実に殺したと確信を得られるまで、警戒は怠れない。
いつでも次が撃ち込めるように意識を向け続けなければならない。
そしてそれからすぐに……土煙で見えなくなっていた視界が開けた。
するとそこにシオン・クロウリーの姿が見えてくる。
「……」
血塗れでその場に横たわるシオンの姿が見えてくる。
「動かねえ……死んだか? ……死んだよな」
肉体の原型は留めている。
つまりそれが可能な位には威力を殺す事に成功したのだろう。
だけどそこまで。
今のシオン・クロウリーにできたのはそこまでだった。
(……いや、待て)
それでも相手はシオン・クロウリーだ。
例えば今自分が見ている、動かない神童の遺体は幻術関係の精霊術である可能性も否定できない。
既に自身は術中に嵌まっていて、どこかで反撃の機会を伺っているかもしれない。
……故に、確認が必要だ。
と、その時だった。
「……」
後ろ首を付かんで盾として利用していたシオンの契約精霊が腕を動かした。
そして……目の前に手の甲を持って来ている。
震えた手で。
そこにあった筈の黒い刻印が消失している手の甲を。
それがつまり何を意味するのか。
「……勝った」
この戦いの最中で自発的に契約を解消するのは、武器を捨てて丸腰になる自殺行為で。
では何故そこに刻印が無いのかと言われれば、理由は一つに絞られる。
契約精霊が死ねば刻印が自動的に消える。
契約者が死んでも刻印は自動的に消える。
つまりその刻印の消失は、シオン・クロウリーという人間の死を意味している。
「悪いな、シオン。この戦い、俺の勝ちだ」
ようやく自らの勝利に確信が持てた。
最後の瞬間まで、ランディから見たシオンの目には闘志が消えていなかった。
つまり彼なりにこの戦力差を覆す意思があった筈だ。
彼なりに何かしらの博打に賭けていた筈だ。
だけどこれがその結果。
終着点。
あまりにもあっけなく。
この戦いはシオン・クロウリーという少年の死で幕を閉じる。
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