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七章 白と黒の追跡者
ex 立ち向かえ、たった一人でも 上
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同時刻。
(……一体今何が起きているんだ)
シオンは研究所内を走りながら、今の状況を考察する。
先程から自身の契約精霊の反応が移動している。
それがつまりどういう事なのか。
(エイジ君かレベッカが到達した……のか?)
現状自分達はルミアの手の平の上で踊らされている。
その一環でどちらか二人が拘束されていた場所の近くへと辿り着いた可能性も十分考えられる。
とはいえ狙ってそこに辿り着いたのならば、ルミアのシナリオ通りになってしまう訳だが。
(……いずれにしてもだ)
その仮定がどうであれ、今もう既にシオンと自身の契約精霊との距離は近かった。
うまくこちらの進行方向に会わせるように向かってきてくれている。
……もう手を伸ばせば届きそうな、そんな距離。
……だからこそ。
(……気は抜くな)
そこに彼女がいる理由にルミアが関わっていようがいまいが、常に最悪の事態を想定して動かなければならない。
何がどう動いても、楽観視できるような状況ではないのだから。
そしてしばらく走って、開けた部屋の入り口まで辿り着いたシオンは、入り口付近に身を隠しながら精霊術を使って部屋の中に探りを入れる。
(……中には誰もいないか)
……そして。
(もうすぐあの子が此処に来る)
その誰もいない部屋に向かって、シオンの契約精霊が向かってきていた。
(……頼む)
彼女が移動している。
それが最悪な事態を現在進行形でもたらしている結果で無いことを。
ただそれだけを願って、シオンは部屋へと足を踏み入れた。
それとほぼ同時だった。
部屋の中に金髪の契約精霊が。
ずっと会いたかった女の子が、部屋の中に走って入って来たのは。
「……ッ」
彼女の名前を知っていれば、即座に呼んでいただろう。
だけどそれは分からなくて、出来なくて。
それでも一瞬目が合った彼女の表情が、どこかこちらの姿を見て安堵してくれたように思えて。
今はそれで十分で。
それを見て泣きそうになって。
そして。
銃声が聞こえた。
「……ぇ?」
そんな間の抜けた声が溢れ出した。
彼女の左足から血飛沫が舞い、思考が白く染まる。
(何だ、何が起きた? 撃たれた……撃たれたのか!? 早く止血……回復術を使わないと……)
と、そこまでなんとか思考を巡らせて。
走り出して。
それから……背筋が凍った。
(……まさか)
否定したい可能性があった。
だけどこの状況でこの場所で銃声が聞こえたのならば、嫌でもその可能性をかき消せなくて。
そしてその最悪な可能性は、最悪な形で目の前に展開される。
突然部屋に第三者が入ってきた。
逃げるようにこの部屋へと入ってきた彼女を追ってきたように。
白衣を着た男が、倒れた契約精霊の本まで一瞬で辿り付き、なんとか体を起こそうとしていた所を無理矢理力ずくで押さえ込んだ。
白衣を纏った研究者が。
「ランディ……」
本来まだこの研究所の外に居る筈の、マスケット銃の霊装を手にした男が。
最悪な形でこの場に現れた。
(……一体今何が起きているんだ)
シオンは研究所内を走りながら、今の状況を考察する。
先程から自身の契約精霊の反応が移動している。
それがつまりどういう事なのか。
(エイジ君かレベッカが到達した……のか?)
現状自分達はルミアの手の平の上で踊らされている。
その一環でどちらか二人が拘束されていた場所の近くへと辿り着いた可能性も十分考えられる。
とはいえ狙ってそこに辿り着いたのならば、ルミアのシナリオ通りになってしまう訳だが。
(……いずれにしてもだ)
その仮定がどうであれ、今もう既にシオンと自身の契約精霊との距離は近かった。
うまくこちらの進行方向に会わせるように向かってきてくれている。
……もう手を伸ばせば届きそうな、そんな距離。
……だからこそ。
(……気は抜くな)
そこに彼女がいる理由にルミアが関わっていようがいまいが、常に最悪の事態を想定して動かなければならない。
何がどう動いても、楽観視できるような状況ではないのだから。
そしてしばらく走って、開けた部屋の入り口まで辿り着いたシオンは、入り口付近に身を隠しながら精霊術を使って部屋の中に探りを入れる。
(……中には誰もいないか)
……そして。
(もうすぐあの子が此処に来る)
その誰もいない部屋に向かって、シオンの契約精霊が向かってきていた。
(……頼む)
彼女が移動している。
それが最悪な事態を現在進行形でもたらしている結果で無いことを。
ただそれだけを願って、シオンは部屋へと足を踏み入れた。
それとほぼ同時だった。
部屋の中に金髪の契約精霊が。
ずっと会いたかった女の子が、部屋の中に走って入って来たのは。
「……ッ」
彼女の名前を知っていれば、即座に呼んでいただろう。
だけどそれは分からなくて、出来なくて。
それでも一瞬目が合った彼女の表情が、どこかこちらの姿を見て安堵してくれたように思えて。
今はそれで十分で。
それを見て泣きそうになって。
そして。
銃声が聞こえた。
「……ぇ?」
そんな間の抜けた声が溢れ出した。
彼女の左足から血飛沫が舞い、思考が白く染まる。
(何だ、何が起きた? 撃たれた……撃たれたのか!? 早く止血……回復術を使わないと……)
と、そこまでなんとか思考を巡らせて。
走り出して。
それから……背筋が凍った。
(……まさか)
否定したい可能性があった。
だけどこの状況でこの場所で銃声が聞こえたのならば、嫌でもその可能性をかき消せなくて。
そしてその最悪な可能性は、最悪な形で目の前に展開される。
突然部屋に第三者が入ってきた。
逃げるようにこの部屋へと入ってきた彼女を追ってきたように。
白衣を着た男が、倒れた契約精霊の本まで一瞬で辿り付き、なんとか体を起こそうとしていた所を無理矢理力ずくで押さえ込んだ。
白衣を纏った研究者が。
「ランディ……」
本来まだこの研究所の外に居る筈の、マスケット銃の霊装を手にした男が。
最悪な形でこの場に現れた。
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