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七章 白と黒の追跡者
ex 実質的なスタート地点への到達
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状況が大きく変わった。
ハンマーの霊装を手にしていた敵の姿がエイジごと消滅した。
そして視界の端でも同一の光景。
「……ッ」
同じように、レベッカの姿も消滅した。
……否、消滅という言葉を使うのは間違いだ。
(……空間転移か)
僅かだがそういう精霊術が発動したのを感じ取った。
おそらくは自身と自身に触れている物を転移させる類いの精霊術。それがエイジやレベッカが攻撃の為に直接触れた際に発動した。
(……いや、発動させられたのか)
明らかに自発的に発動したようには見えなかった。そもそも勝手に体が動いているというようなこの状況で自発的に何かができるとも思えない。
そしてここで……戦いは終わる。
「ガバ……ッ」
相対していた白衣の男が激しく吐血した。
それだけでなく血管が浮かび上がり、全身から力が抜けるように崩れ落ちる。
他の連中も同様だ。立っていた連中は皆同じ症状が発症してその場で動けなくなっている。
(なんだこれは……何が起きた?)
あまりにも急な状況の変貌。
(……探ってみるか)
何が起きたかは分からないが、普通に精霊術を使っていれば起こり得ないこの現象にはルミアが関与している事はある程度察する事ができた。
だとすれば向こうの手の内を少しでも探っておく為にも、簡易的にでも探っておくべきだ。
当然時間は無い。急ピッチでの事になるが。
シオンは倒れた白衣の男の前に屈みこみ、起きている事を探るために精霊術を発動させる。
(……無理な精霊術の使用で体の内側からズタボロになってるな。普通に使っていたらこうはならない……僕のような精霊術の運用をやる場合にやり方を誤ったらこうなる……だけど多分、こんな連中にそういう運用のやり方ができるとは思えない)
そして途中から明らかに操られているかのように変わった動き。明確な外部からの干渉。もしかしたらそういう事ができるかもしれない人間の存在。その人間が作った武器。
「……ルミアだな」
今倒れている白衣の男達を霊装を通じて遠隔操作した。そう考えれば起きている状況にも納得が行く。
精霊術の使用に失敗したのは流石に遠隔操作という他人の体を操る無茶苦茶なやり方では本来の技能を発揮できなかったのか、それとも……ただこうして三人バラバラの状況にするのが目的で、それさえできれば後は彼らが邪魔だったのか。
そこまでは分からない。
……だが後者だとすれば。
(……僕も無事に掌の上へと乗れたか)
この状況を作る事が目的だったのだとすれば、遠隔操作が必要なのは二人を飛ばす為の人員だけで事足りた。
それをあえて動けた全員に対しておこない自爆。
シオン・クロウリーという人間をこの場で排除しようとは考えていないようなそんなやり方。
つまり今自分は、最低限度到達すべき状況に。
実質的なスタート地点に立てたと言える。
(なら此処からは……全員無事に掌の上から抜け出す)
そう考えてシオンが立ち上がろうとした時、倒れていた白衣の男が小さく言葉をもらす。
「なんで……なんでこんな……」
起きている状況の意味が分からない。何故自分達が倒れているのかが分からない。そんな困惑にまみれた声。
彼らは言わばルミアに使い捨ての駒として利用されたのだ。
そしてこんな非人道的な扱いも裁かれる事も無いだろう。
ルミアがやった事を立証できるだけの知識はおそらくシオン以外は誰も持ち合わせておらず、ルミアが加害者であるという答えにすら辿り着く事はできないだろう。
ただただ悲惨で。同情に値するような最悪な展開。
だけど同情してる場合じゃない。そんな事はこのさえどうでも良い。
助けたい女の子がいる。
その子の為にもう後には引けない事をやった。
これからも他人の事を踏みにじって罪を重ねて。それでも黒い刻印で繋がった女の子を助けると決めた。
だから……仲間だと思える相手と精霊以外からは、もう目を背け続ける。
踏みにじって前へと進む。
そしてシオンは走り出した。
名前も知らない女の子を助ける為に。
ハンマーの霊装を手にしていた敵の姿がエイジごと消滅した。
そして視界の端でも同一の光景。
「……ッ」
同じように、レベッカの姿も消滅した。
……否、消滅という言葉を使うのは間違いだ。
(……空間転移か)
僅かだがそういう精霊術が発動したのを感じ取った。
おそらくは自身と自身に触れている物を転移させる類いの精霊術。それがエイジやレベッカが攻撃の為に直接触れた際に発動した。
(……いや、発動させられたのか)
明らかに自発的に発動したようには見えなかった。そもそも勝手に体が動いているというようなこの状況で自発的に何かができるとも思えない。
そしてここで……戦いは終わる。
「ガバ……ッ」
相対していた白衣の男が激しく吐血した。
それだけでなく血管が浮かび上がり、全身から力が抜けるように崩れ落ちる。
他の連中も同様だ。立っていた連中は皆同じ症状が発症してその場で動けなくなっている。
(なんだこれは……何が起きた?)
あまりにも急な状況の変貌。
(……探ってみるか)
何が起きたかは分からないが、普通に精霊術を使っていれば起こり得ないこの現象にはルミアが関与している事はある程度察する事ができた。
だとすれば向こうの手の内を少しでも探っておく為にも、簡易的にでも探っておくべきだ。
当然時間は無い。急ピッチでの事になるが。
シオンは倒れた白衣の男の前に屈みこみ、起きている事を探るために精霊術を発動させる。
(……無理な精霊術の使用で体の内側からズタボロになってるな。普通に使っていたらこうはならない……僕のような精霊術の運用をやる場合にやり方を誤ったらこうなる……だけど多分、こんな連中にそういう運用のやり方ができるとは思えない)
そして途中から明らかに操られているかのように変わった動き。明確な外部からの干渉。もしかしたらそういう事ができるかもしれない人間の存在。その人間が作った武器。
「……ルミアだな」
今倒れている白衣の男達を霊装を通じて遠隔操作した。そう考えれば起きている状況にも納得が行く。
精霊術の使用に失敗したのは流石に遠隔操作という他人の体を操る無茶苦茶なやり方では本来の技能を発揮できなかったのか、それとも……ただこうして三人バラバラの状況にするのが目的で、それさえできれば後は彼らが邪魔だったのか。
そこまでは分からない。
……だが後者だとすれば。
(……僕も無事に掌の上へと乗れたか)
この状況を作る事が目的だったのだとすれば、遠隔操作が必要なのは二人を飛ばす為の人員だけで事足りた。
それをあえて動けた全員に対しておこない自爆。
シオン・クロウリーという人間をこの場で排除しようとは考えていないようなそんなやり方。
つまり今自分は、最低限度到達すべき状況に。
実質的なスタート地点に立てたと言える。
(なら此処からは……全員無事に掌の上から抜け出す)
そう考えてシオンが立ち上がろうとした時、倒れていた白衣の男が小さく言葉をもらす。
「なんで……なんでこんな……」
起きている状況の意味が分からない。何故自分達が倒れているのかが分からない。そんな困惑にまみれた声。
彼らは言わばルミアに使い捨ての駒として利用されたのだ。
そしてこんな非人道的な扱いも裁かれる事も無いだろう。
ルミアがやった事を立証できるだけの知識はおそらくシオン以外は誰も持ち合わせておらず、ルミアが加害者であるという答えにすら辿り着く事はできないだろう。
ただただ悲惨で。同情に値するような最悪な展開。
だけど同情してる場合じゃない。そんな事はこのさえどうでも良い。
助けたい女の子がいる。
その子の為にもう後には引けない事をやった。
これからも他人の事を踏みにじって罪を重ねて。それでも黒い刻印で繋がった女の子を助けると決めた。
だから……仲間だと思える相手と精霊以外からは、もう目を背け続ける。
踏みにじって前へと進む。
そしてシオンは走り出した。
名前も知らない女の子を助ける為に。
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