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七章 白と黒の追跡者
70 手の平の上の安全地帯
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「遠方……つまり此処だね。此処からルミアのラボに精霊術を撃ち込む」
「……つまりあれか。屋内の人間を外に出すような便利な精霊術があるって事か?」
だとすればかなり無茶苦茶な精霊術だとは思ったが、そうした存在も否定できないし、シオンならやれてもおかしくない。
そう思って問いかけたが、シオンは首を振る。
「流石にそんな無茶苦茶な事はできないよ。それが出来るなら、僕はあの子とエルだけを外に出して君達と逃亡を図るさ」
「……まあそうだよな」
当然と言えば当然だけど、そう簡単にはいかないか。
……でも、だとすれば。
「じゃあ一体どういう精霊術を撃ち込むつもりなんだ? そんな無茶苦茶な精霊術以外に、どんな精霊術を使えば向こうを誘き出せる」
「遠距離から攻撃できる類いの精霊術だよ。特別な力じゃなくていい。向こうに攻撃だと認識させる事ができる程度の威力。それさえクリアできればなんでもいいんだ」
「それさえクリアできればって……まってくれ。それで本当に誘い出せるのか?」
「こっちがさっきの戦いを生き残って、それで攻撃してくるから増援部隊を送るって感じ……要は挑発よね。正直あまり言いたくないんだけど、うまく行く気がしないんだけど……」
シオンの言葉に俺とレベッカは苦言を呈する。
確かにこちらがそうした行動を取れば、向こうはこちらに対して何かしらのアクションを見せるかもしれない。
なにしろ雑というか……そんな事で真剣に中の戦力を差し向けてくるなら俺達が戦おうとしている相手は馬鹿なんじゃないかって思う。
寧ろ俺達は実質的に向こうに人質を取られている様な状態の訳で、シオンの口にしたやり方がマイナス的な作用を起こす可能性も考えられる。
だけどシオンの表情は変わらない。
「大丈夫。一見愚作にしか思えないし、普通に考えて愚作以外の何者でも無いけれど……事、今回に限っては僕らが望んだ結果をもたらしてくれる可能性が高いと思ってる」
「根拠は?」
「ルミアの性格が無茶苦茶悪いからとでも言っておこうかな」
「……?」
確かにそもそも精霊を資源として見ないのにこういう事をしている時点で、自分が知る限り最悪な人間だとは思うけど……それがどうしてこの作戦を有効にする根拠になるんだ?
全く理解が及ばない。
俺と同じくレベッカも理解できてないらしく、小さく唸りながら首を傾げていた。
そしてそんな俺達に、シオンは少々苦い表情で俺達に言う。
「ルミアが普通に確実に僕を殺そうとしているならば、例えグラン達を退けたとしても早急に次の手を打ってくる筈だ。だけどそれがない。つまりはこちらの出方を伺っているんだ……多分自分が楽しむ為にね」
「楽しむ為……?」
「強い嗜虐心を満たすためとでも言った方がいいかな。効率重視ではなく、いかにこちらの精神を踏みにじるか。ルミアの場合だと……こちらが講じた策を真正面かへし折って、こちらの気力もプライドも。徹底的にへし折ってくる……実際最悪な気分だったよ。必死になって発動まで漕ぎ着けた策を。あえて漕ぎ着けるまで半殺しで生かされ続けて発動させて貰った策を。こちらに勝利を確信させてからへし折られるのは。上げて落とすって言うのかな、こういうの」
「……」
「ルミアが僕らを殺すことを中断したのは、自分の手の平の上に僕らがいることを知った上で遊んでいるからだよ。こちらの出方を見て叩き潰すのを楽しみにしているんだ」
そこまで言ってシオンは……語れば語るほど苦しげな表情になっていたシオンは、緩やかに笑みを浮かべ、そして言う。
「今回、僕らはそれを利用する」
「利用?」
「ルミアにこちらのやりたい事を分かりやすく教えて乗せるんだ。そして出し抜く。今の僕らはルミアの手の平の上というある意味安全地帯にいて準備時間もあり、策に乗せられるという最大の関門も突破できる可能性も高い。肝心の策さえ良ければ手の平の上を脱する事ができる筈だ」
そしてシオンは一拍開けて言う。
「今度こそ、出し抜いてみせる」
「……なるほど」
シオンの言葉を聞いて納得できた。
確かにそれなら利用できる。シオンの言う通り、策さえ良ければ成功する。
策さえ良ければ。
それに関して言えば着々という一点以外はなんの心配もなかった。
向こうの想定を越える超スピード。障害物や重力による減速を全く考慮しない機動力。それらはエルを武器に変えての高速戦闘を何度も経験してる俺からしても異常な速度だ。
そしてそれに辛うじて適応できる攻撃を放たれたとしても。
……この三人ならば辛うじて対応できる筈だ。
つまりは誘き出せさえすればきっとうまく行く。
「キミ達の組んだ作戦が精霊術や魔術だけで遂行するような策でなくて良かった。少なくともルミアの頭に確実に存在しない物を使った、頭がおかしいとしか思えないエキセントリックな作戦。こんなもの、看破して突破されてたまるか」
そう言ってシオンは一拍開けてから俺達に言う。
「さて、じゃあ最後に手短にやれる事をやっておこうか」
「ああ」
俺はそう言葉を返し、レベッカもそれに頷いた。
作戦の変更はない。後はやると決めた事を全力でやるだけ。
「……つまりあれか。屋内の人間を外に出すような便利な精霊術があるって事か?」
だとすればかなり無茶苦茶な精霊術だとは思ったが、そうした存在も否定できないし、シオンならやれてもおかしくない。
そう思って問いかけたが、シオンは首を振る。
「流石にそんな無茶苦茶な事はできないよ。それが出来るなら、僕はあの子とエルだけを外に出して君達と逃亡を図るさ」
「……まあそうだよな」
当然と言えば当然だけど、そう簡単にはいかないか。
……でも、だとすれば。
「じゃあ一体どういう精霊術を撃ち込むつもりなんだ? そんな無茶苦茶な精霊術以外に、どんな精霊術を使えば向こうを誘き出せる」
「遠距離から攻撃できる類いの精霊術だよ。特別な力じゃなくていい。向こうに攻撃だと認識させる事ができる程度の威力。それさえクリアできればなんでもいいんだ」
「それさえクリアできればって……まってくれ。それで本当に誘い出せるのか?」
「こっちがさっきの戦いを生き残って、それで攻撃してくるから増援部隊を送るって感じ……要は挑発よね。正直あまり言いたくないんだけど、うまく行く気がしないんだけど……」
シオンの言葉に俺とレベッカは苦言を呈する。
確かにこちらがそうした行動を取れば、向こうはこちらに対して何かしらのアクションを見せるかもしれない。
なにしろ雑というか……そんな事で真剣に中の戦力を差し向けてくるなら俺達が戦おうとしている相手は馬鹿なんじゃないかって思う。
寧ろ俺達は実質的に向こうに人質を取られている様な状態の訳で、シオンの口にしたやり方がマイナス的な作用を起こす可能性も考えられる。
だけどシオンの表情は変わらない。
「大丈夫。一見愚作にしか思えないし、普通に考えて愚作以外の何者でも無いけれど……事、今回に限っては僕らが望んだ結果をもたらしてくれる可能性が高いと思ってる」
「根拠は?」
「ルミアの性格が無茶苦茶悪いからとでも言っておこうかな」
「……?」
確かにそもそも精霊を資源として見ないのにこういう事をしている時点で、自分が知る限り最悪な人間だとは思うけど……それがどうしてこの作戦を有効にする根拠になるんだ?
全く理解が及ばない。
俺と同じくレベッカも理解できてないらしく、小さく唸りながら首を傾げていた。
そしてそんな俺達に、シオンは少々苦い表情で俺達に言う。
「ルミアが普通に確実に僕を殺そうとしているならば、例えグラン達を退けたとしても早急に次の手を打ってくる筈だ。だけどそれがない。つまりはこちらの出方を伺っているんだ……多分自分が楽しむ為にね」
「楽しむ為……?」
「強い嗜虐心を満たすためとでも言った方がいいかな。効率重視ではなく、いかにこちらの精神を踏みにじるか。ルミアの場合だと……こちらが講じた策を真正面かへし折って、こちらの気力もプライドも。徹底的にへし折ってくる……実際最悪な気分だったよ。必死になって発動まで漕ぎ着けた策を。あえて漕ぎ着けるまで半殺しで生かされ続けて発動させて貰った策を。こちらに勝利を確信させてからへし折られるのは。上げて落とすって言うのかな、こういうの」
「……」
「ルミアが僕らを殺すことを中断したのは、自分の手の平の上に僕らがいることを知った上で遊んでいるからだよ。こちらの出方を見て叩き潰すのを楽しみにしているんだ」
そこまで言ってシオンは……語れば語るほど苦しげな表情になっていたシオンは、緩やかに笑みを浮かべ、そして言う。
「今回、僕らはそれを利用する」
「利用?」
「ルミアにこちらのやりたい事を分かりやすく教えて乗せるんだ。そして出し抜く。今の僕らはルミアの手の平の上というある意味安全地帯にいて準備時間もあり、策に乗せられるという最大の関門も突破できる可能性も高い。肝心の策さえ良ければ手の平の上を脱する事ができる筈だ」
そしてシオンは一拍開けて言う。
「今度こそ、出し抜いてみせる」
「……なるほど」
シオンの言葉を聞いて納得できた。
確かにそれなら利用できる。シオンの言う通り、策さえ良ければ成功する。
策さえ良ければ。
それに関して言えば着々という一点以外はなんの心配もなかった。
向こうの想定を越える超スピード。障害物や重力による減速を全く考慮しない機動力。それらはエルを武器に変えての高速戦闘を何度も経験してる俺からしても異常な速度だ。
そしてそれに辛うじて適応できる攻撃を放たれたとしても。
……この三人ならば辛うじて対応できる筈だ。
つまりは誘き出せさえすればきっとうまく行く。
「キミ達の組んだ作戦が精霊術や魔術だけで遂行するような策でなくて良かった。少なくともルミアの頭に確実に存在しない物を使った、頭がおかしいとしか思えないエキセントリックな作戦。こんなもの、看破して突破されてたまるか」
そう言ってシオンは一拍開けてから俺達に言う。
「さて、じゃあ最後に手短にやれる事をやっておこうか」
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俺はそう言葉を返し、レベッカもそれに頷いた。
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