386 / 431
七章 白と黒の追跡者
70 手の平の上の安全地帯
しおりを挟む
「遠方……つまり此処だね。此処からルミアのラボに精霊術を撃ち込む」
「……つまりあれか。屋内の人間を外に出すような便利な精霊術があるって事か?」
だとすればかなり無茶苦茶な精霊術だとは思ったが、そうした存在も否定できないし、シオンならやれてもおかしくない。
そう思って問いかけたが、シオンは首を振る。
「流石にそんな無茶苦茶な事はできないよ。それが出来るなら、僕はあの子とエルだけを外に出して君達と逃亡を図るさ」
「……まあそうだよな」
当然と言えば当然だけど、そう簡単にはいかないか。
……でも、だとすれば。
「じゃあ一体どういう精霊術を撃ち込むつもりなんだ? そんな無茶苦茶な精霊術以外に、どんな精霊術を使えば向こうを誘き出せる」
「遠距離から攻撃できる類いの精霊術だよ。特別な力じゃなくていい。向こうに攻撃だと認識させる事ができる程度の威力。それさえクリアできればなんでもいいんだ」
「それさえクリアできればって……まってくれ。それで本当に誘い出せるのか?」
「こっちがさっきの戦いを生き残って、それで攻撃してくるから増援部隊を送るって感じ……要は挑発よね。正直あまり言いたくないんだけど、うまく行く気がしないんだけど……」
シオンの言葉に俺とレベッカは苦言を呈する。
確かにこちらがそうした行動を取れば、向こうはこちらに対して何かしらのアクションを見せるかもしれない。
なにしろ雑というか……そんな事で真剣に中の戦力を差し向けてくるなら俺達が戦おうとしている相手は馬鹿なんじゃないかって思う。
寧ろ俺達は実質的に向こうに人質を取られている様な状態の訳で、シオンの口にしたやり方がマイナス的な作用を起こす可能性も考えられる。
だけどシオンの表情は変わらない。
「大丈夫。一見愚作にしか思えないし、普通に考えて愚作以外の何者でも無いけれど……事、今回に限っては僕らが望んだ結果をもたらしてくれる可能性が高いと思ってる」
「根拠は?」
「ルミアの性格が無茶苦茶悪いからとでも言っておこうかな」
「……?」
確かにそもそも精霊を資源として見ないのにこういう事をしている時点で、自分が知る限り最悪な人間だとは思うけど……それがどうしてこの作戦を有効にする根拠になるんだ?
全く理解が及ばない。
俺と同じくレベッカも理解できてないらしく、小さく唸りながら首を傾げていた。
そしてそんな俺達に、シオンは少々苦い表情で俺達に言う。
「ルミアが普通に確実に僕を殺そうとしているならば、例えグラン達を退けたとしても早急に次の手を打ってくる筈だ。だけどそれがない。つまりはこちらの出方を伺っているんだ……多分自分が楽しむ為にね」
「楽しむ為……?」
「強い嗜虐心を満たすためとでも言った方がいいかな。効率重視ではなく、いかにこちらの精神を踏みにじるか。ルミアの場合だと……こちらが講じた策を真正面かへし折って、こちらの気力もプライドも。徹底的にへし折ってくる……実際最悪な気分だったよ。必死になって発動まで漕ぎ着けた策を。あえて漕ぎ着けるまで半殺しで生かされ続けて発動させて貰った策を。こちらに勝利を確信させてからへし折られるのは。上げて落とすって言うのかな、こういうの」
「……」
「ルミアが僕らを殺すことを中断したのは、自分の手の平の上に僕らがいることを知った上で遊んでいるからだよ。こちらの出方を見て叩き潰すのを楽しみにしているんだ」
そこまで言ってシオンは……語れば語るほど苦しげな表情になっていたシオンは、緩やかに笑みを浮かべ、そして言う。
「今回、僕らはそれを利用する」
「利用?」
「ルミアにこちらのやりたい事を分かりやすく教えて乗せるんだ。そして出し抜く。今の僕らはルミアの手の平の上というある意味安全地帯にいて準備時間もあり、策に乗せられるという最大の関門も突破できる可能性も高い。肝心の策さえ良ければ手の平の上を脱する事ができる筈だ」
そしてシオンは一拍開けて言う。
「今度こそ、出し抜いてみせる」
「……なるほど」
シオンの言葉を聞いて納得できた。
確かにそれなら利用できる。シオンの言う通り、策さえ良ければ成功する。
策さえ良ければ。
それに関して言えば着々という一点以外はなんの心配もなかった。
向こうの想定を越える超スピード。障害物や重力による減速を全く考慮しない機動力。それらはエルを武器に変えての高速戦闘を何度も経験してる俺からしても異常な速度だ。
そしてそれに辛うじて適応できる攻撃を放たれたとしても。
……この三人ならば辛うじて対応できる筈だ。
つまりは誘き出せさえすればきっとうまく行く。
「キミ達の組んだ作戦が精霊術や魔術だけで遂行するような策でなくて良かった。少なくともルミアの頭に確実に存在しない物を使った、頭がおかしいとしか思えないエキセントリックな作戦。こんなもの、看破して突破されてたまるか」
そう言ってシオンは一拍開けてから俺達に言う。
「さて、じゃあ最後に手短にやれる事をやっておこうか」
「ああ」
俺はそう言葉を返し、レベッカもそれに頷いた。
作戦の変更はない。後はやると決めた事を全力でやるだけ。
「……つまりあれか。屋内の人間を外に出すような便利な精霊術があるって事か?」
だとすればかなり無茶苦茶な精霊術だとは思ったが、そうした存在も否定できないし、シオンならやれてもおかしくない。
そう思って問いかけたが、シオンは首を振る。
「流石にそんな無茶苦茶な事はできないよ。それが出来るなら、僕はあの子とエルだけを外に出して君達と逃亡を図るさ」
「……まあそうだよな」
当然と言えば当然だけど、そう簡単にはいかないか。
……でも、だとすれば。
「じゃあ一体どういう精霊術を撃ち込むつもりなんだ? そんな無茶苦茶な精霊術以外に、どんな精霊術を使えば向こうを誘き出せる」
「遠距離から攻撃できる類いの精霊術だよ。特別な力じゃなくていい。向こうに攻撃だと認識させる事ができる程度の威力。それさえクリアできればなんでもいいんだ」
「それさえクリアできればって……まってくれ。それで本当に誘い出せるのか?」
「こっちがさっきの戦いを生き残って、それで攻撃してくるから増援部隊を送るって感じ……要は挑発よね。正直あまり言いたくないんだけど、うまく行く気がしないんだけど……」
シオンの言葉に俺とレベッカは苦言を呈する。
確かにこちらがそうした行動を取れば、向こうはこちらに対して何かしらのアクションを見せるかもしれない。
なにしろ雑というか……そんな事で真剣に中の戦力を差し向けてくるなら俺達が戦おうとしている相手は馬鹿なんじゃないかって思う。
寧ろ俺達は実質的に向こうに人質を取られている様な状態の訳で、シオンの口にしたやり方がマイナス的な作用を起こす可能性も考えられる。
だけどシオンの表情は変わらない。
「大丈夫。一見愚作にしか思えないし、普通に考えて愚作以外の何者でも無いけれど……事、今回に限っては僕らが望んだ結果をもたらしてくれる可能性が高いと思ってる」
「根拠は?」
「ルミアの性格が無茶苦茶悪いからとでも言っておこうかな」
「……?」
確かにそもそも精霊を資源として見ないのにこういう事をしている時点で、自分が知る限り最悪な人間だとは思うけど……それがどうしてこの作戦を有効にする根拠になるんだ?
全く理解が及ばない。
俺と同じくレベッカも理解できてないらしく、小さく唸りながら首を傾げていた。
そしてそんな俺達に、シオンは少々苦い表情で俺達に言う。
「ルミアが普通に確実に僕を殺そうとしているならば、例えグラン達を退けたとしても早急に次の手を打ってくる筈だ。だけどそれがない。つまりはこちらの出方を伺っているんだ……多分自分が楽しむ為にね」
「楽しむ為……?」
「強い嗜虐心を満たすためとでも言った方がいいかな。効率重視ではなく、いかにこちらの精神を踏みにじるか。ルミアの場合だと……こちらが講じた策を真正面かへし折って、こちらの気力もプライドも。徹底的にへし折ってくる……実際最悪な気分だったよ。必死になって発動まで漕ぎ着けた策を。あえて漕ぎ着けるまで半殺しで生かされ続けて発動させて貰った策を。こちらに勝利を確信させてからへし折られるのは。上げて落とすって言うのかな、こういうの」
「……」
「ルミアが僕らを殺すことを中断したのは、自分の手の平の上に僕らがいることを知った上で遊んでいるからだよ。こちらの出方を見て叩き潰すのを楽しみにしているんだ」
そこまで言ってシオンは……語れば語るほど苦しげな表情になっていたシオンは、緩やかに笑みを浮かべ、そして言う。
「今回、僕らはそれを利用する」
「利用?」
「ルミアにこちらのやりたい事を分かりやすく教えて乗せるんだ。そして出し抜く。今の僕らはルミアの手の平の上というある意味安全地帯にいて準備時間もあり、策に乗せられるという最大の関門も突破できる可能性も高い。肝心の策さえ良ければ手の平の上を脱する事ができる筈だ」
そしてシオンは一拍開けて言う。
「今度こそ、出し抜いてみせる」
「……なるほど」
シオンの言葉を聞いて納得できた。
確かにそれなら利用できる。シオンの言う通り、策さえ良ければ成功する。
策さえ良ければ。
それに関して言えば着々という一点以外はなんの心配もなかった。
向こうの想定を越える超スピード。障害物や重力による減速を全く考慮しない機動力。それらはエルを武器に変えての高速戦闘を何度も経験してる俺からしても異常な速度だ。
そしてそれに辛うじて適応できる攻撃を放たれたとしても。
……この三人ならば辛うじて対応できる筈だ。
つまりは誘き出せさえすればきっとうまく行く。
「キミ達の組んだ作戦が精霊術や魔術だけで遂行するような策でなくて良かった。少なくともルミアの頭に確実に存在しない物を使った、頭がおかしいとしか思えないエキセントリックな作戦。こんなもの、看破して突破されてたまるか」
そう言ってシオンは一拍開けてから俺達に言う。
「さて、じゃあ最後に手短にやれる事をやっておこうか」
「ああ」
俺はそう言葉を返し、レベッカもそれに頷いた。
作戦の変更はない。後はやると決めた事を全力でやるだけ。
0
お気に入りに追加
372
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
最後に言い残した事は
白羽鳥(扇つくも)
ファンタジー
どうして、こんな事になったんだろう……
断頭台の上で、元王妃リテラシーは呆然と己を罵倒する民衆を見下ろしていた。世界中から尊敬を集めていた宰相である父の暗殺。全てが狂い出したのはそこから……いや、もっと前だったかもしれない。
本日、リテラシーは公開処刑される。家族ぐるみで悪魔崇拝を行っていたという謂れなき罪のために王妃の位を剥奪され、邪悪な魔女として。
「最後に、言い残した事はあるか?」
かつての夫だった若き国王の言葉に、リテラシーは父から教えられていた『呪文』を発する。
※ファンタジーです。ややグロ表現注意。
※「小説家になろう」にも掲載。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
我が家に子犬がやって来た!
もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。
アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。
だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。
この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。
※全102話で完結済。
★『小説家になろう』でも読めます★
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
ここは貴方の国ではありませんよ
水姫
ファンタジー
傲慢な王子は自分の置かれている状況も理解出来ませんでした。
厄介ごとが多いですね。
裏を司る一族は見極めてから調整に働くようです。…まぁ、手遅れでしたけど。
※過去に投稿したモノを手直し後再度投稿しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
八百長試合を引き受けていたが、もう必要ないと言われたので圧勝させてもらいます
海夏世もみじ
ファンタジー
月一に開催されるリーヴェ王国最強決定大会。そこに毎回登場するアッシュという少年は、金をもらう代わりに対戦相手にわざと負けるという、いわゆる「八百長試合」をしていた。
だが次の大会が目前となったある日、もうお前は必要ないと言われてしまう。八百長が必要ないなら本気を出してもいい。
彼は手加減をやめ、“本当の力”を解放する。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる