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七章 白と黒の追跡者
69 戦術家ではないから
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「これだ」
「機械……だね? とりあえずタイヤも付いてるし間違いなくこれだって事は分かるんだけど」
シオンは間違いなく初めてみるであろうバイクを前に、少々不安げになりながら俺達に聞いてくる。
「これで300キロも出るのかい? 大きさ的に考えてそこまで凄いスピードが出るとは思えないんだけど。というかトップスピード出した時の安全性とかどうなってるんだいこれ……」
「出る。実際それに近い速度出てた。そんでマジで死ぬかと思った程度にはそんな考慮はされてねえ。そもそもレースでもなきゃそんな速度普通出さねえし……うん、普通じゃねえんだよ300キロって」
「よく青ざめた顔で語る様な事を作戦に組み込んだねキミは」
苦笑いを浮かべてそう言うシオンに改めて言う。
「まあとにかくそれだけのスピードは出る。当然三人乗りなんて想定してねえし、総重量増えりゃ最高速は落ちるだろうけど……まあ、さっき言った通りその辺は重力弄くって最高速を叩き出す。そんで最高速さえ出て飛べれば……そこからは更に弄くって無重力。この作戦、着地以外は大体完璧な筈だ」
「いや着地一番大切だよね? そこふわふわしてたら何も完璧じゃないと思うんだけど……」
シオンは少し呆れたようにそう言うけれど、それでも一拍空けてから言う。
「まあ色々と精霊術を駆使すればどうとでもなるか」
シオンがそう言うのなら、その辺り周りも心配なさそうだった。
一応俺達も重力の操作と風の逆噴射。後はレベッカのテクニックと最悪体の丈夫さでどうにかする程度には考えていたけれど、シオンがどうとでもなると言いながら考えているであろう事と比べれば、随分と酷い策だっただろうから、本当に安心できる。
そしてその辺りの事を安堵しながら、俺はシオンに言う。
「じゃあ侵入はそういう形でやるとして、中に入ってからの事をもう少し詰めようぜ」
「そうだね」
敵を誘き出す。そこに侵入する。だとしても敵陣がもぬけの殻になる訳がなくて。そこまで相手が馬鹿なら多分シオンはこんな事にはなっていなくて。
だから本当に重要なのは此処からの筈だ。
そしてシオンは言う。
「まず大前提として極力戦わない。回避できる戦闘は全力で回避する。そして後は……極力この三人で固まって動く」
「ま、そりゃそうだわな」
基本的にこの先戦う可能性がある相手は、こちらよりも遥かに強い可能性が高くて、そして敵陣のど真ん中で満身創痍になんてなってられない。だから積極的に戦うなんてのは論外だ。
そして戦うなら三人で。唯一敵とまともに相対できるレベッカを主軸に俺とシオンでサポートする。それで迅速に確実に潰せる様な陣形を組む。それが望ましいし、それ以外は多分最悪だ。
だから最低限、可能な限りこれは貫く。それは確定事項だ。
「で、その上でどうするかだな」
「それなんだけど……まあ、情けない話だとは思うんだけどね、今回の場合だとごり押しというか……強行突破以外に取れる手段がないと思うんだ」
「……」
「一応僕が一人で突入した時もやれる事はやったさ。そもそもまともな戦闘で分が悪い事が分かっていたから隠密行動を行う為の策をね。だけど結局何も通用しなかった。相手がただの人間ならそれでも超えられるかもしれないけれど、ルミアが相手なら技術だけじゃ出し抜けない。戦術家の戦術がいると思ったよ」
そして、とシオンは言う。
「僕達は誰一人として戦術家じゃない。多分下手に策を考えて行動を鈍らせる事が返って致命傷になりかねないと僕は思うんだ。それこそやるなら、時速300キロで空を飛ぶようなイカレタ策でも組まないとね……それを組むのは難しいだろう」
「まあ……確かに、な」
例えばの話、此処に誠一が居れば話は変わってくるだろう。
多分アイツなら策を組める。実践的な戦術を組める筈だ。
だけど俺達はどこまでも素人で。素人ながらも技能だけで難関を乗り切る事ができるであろうシオンが攻略に失敗した時点で、俺達にまともな戦術を組める人間がいない時点で碌な答えは出てこない。
そして……当然の事ながら、俺とレベッカが考えた様なエキセントリックな作戦もそう簡単に出てくるものではなくて、完全に偶然の産物だ。
そういう方向性を主軸に考えた所で雲を掴む様な話で、恐らく碌な事にならない。
だから結局、俺達はその場凌ぎを繰り返して進んでいかなければならない。
「じゃあやれる事はその都度やって、とにかく死に物狂いでエル達の元へと向かう。頭にはそれだけ入れ解きゃいいか」
「まあそういう事になるね。あ、でも作戦開始までに何か思いつけば言ってくれると助かるよ」
「ああ」
とにかく決まりだ。此処から先俺達の作戦は荒々しくも必死こいて前に進んでいく。それだけだ。
だからそのそれだけを成功させる為に、唯一思いつけたエキセントリックな案だけは絶対にうまく行かせなければならない。
そう考えながら、シオンに聞いてみる。
「で、シオン。どうやって向こうの連中をこっちに誘き出すつもりだ?」
レベッカの重力操作と同等に作戦の要となってくる、敵の戦力を引き付ける為の策を。
「機械……だね? とりあえずタイヤも付いてるし間違いなくこれだって事は分かるんだけど」
シオンは間違いなく初めてみるであろうバイクを前に、少々不安げになりながら俺達に聞いてくる。
「これで300キロも出るのかい? 大きさ的に考えてそこまで凄いスピードが出るとは思えないんだけど。というかトップスピード出した時の安全性とかどうなってるんだいこれ……」
「出る。実際それに近い速度出てた。そんでマジで死ぬかと思った程度にはそんな考慮はされてねえ。そもそもレースでもなきゃそんな速度普通出さねえし……うん、普通じゃねえんだよ300キロって」
「よく青ざめた顔で語る様な事を作戦に組み込んだねキミは」
苦笑いを浮かべてそう言うシオンに改めて言う。
「まあとにかくそれだけのスピードは出る。当然三人乗りなんて想定してねえし、総重量増えりゃ最高速は落ちるだろうけど……まあ、さっき言った通りその辺は重力弄くって最高速を叩き出す。そんで最高速さえ出て飛べれば……そこからは更に弄くって無重力。この作戦、着地以外は大体完璧な筈だ」
「いや着地一番大切だよね? そこふわふわしてたら何も完璧じゃないと思うんだけど……」
シオンは少し呆れたようにそう言うけれど、それでも一拍空けてから言う。
「まあ色々と精霊術を駆使すればどうとでもなるか」
シオンがそう言うのなら、その辺り周りも心配なさそうだった。
一応俺達も重力の操作と風の逆噴射。後はレベッカのテクニックと最悪体の丈夫さでどうにかする程度には考えていたけれど、シオンがどうとでもなると言いながら考えているであろう事と比べれば、随分と酷い策だっただろうから、本当に安心できる。
そしてその辺りの事を安堵しながら、俺はシオンに言う。
「じゃあ侵入はそういう形でやるとして、中に入ってからの事をもう少し詰めようぜ」
「そうだね」
敵を誘き出す。そこに侵入する。だとしても敵陣がもぬけの殻になる訳がなくて。そこまで相手が馬鹿なら多分シオンはこんな事にはなっていなくて。
だから本当に重要なのは此処からの筈だ。
そしてシオンは言う。
「まず大前提として極力戦わない。回避できる戦闘は全力で回避する。そして後は……極力この三人で固まって動く」
「ま、そりゃそうだわな」
基本的にこの先戦う可能性がある相手は、こちらよりも遥かに強い可能性が高くて、そして敵陣のど真ん中で満身創痍になんてなってられない。だから積極的に戦うなんてのは論外だ。
そして戦うなら三人で。唯一敵とまともに相対できるレベッカを主軸に俺とシオンでサポートする。それで迅速に確実に潰せる様な陣形を組む。それが望ましいし、それ以外は多分最悪だ。
だから最低限、可能な限りこれは貫く。それは確定事項だ。
「で、その上でどうするかだな」
「それなんだけど……まあ、情けない話だとは思うんだけどね、今回の場合だとごり押しというか……強行突破以外に取れる手段がないと思うんだ」
「……」
「一応僕が一人で突入した時もやれる事はやったさ。そもそもまともな戦闘で分が悪い事が分かっていたから隠密行動を行う為の策をね。だけど結局何も通用しなかった。相手がただの人間ならそれでも超えられるかもしれないけれど、ルミアが相手なら技術だけじゃ出し抜けない。戦術家の戦術がいると思ったよ」
そして、とシオンは言う。
「僕達は誰一人として戦術家じゃない。多分下手に策を考えて行動を鈍らせる事が返って致命傷になりかねないと僕は思うんだ。それこそやるなら、時速300キロで空を飛ぶようなイカレタ策でも組まないとね……それを組むのは難しいだろう」
「まあ……確かに、な」
例えばの話、此処に誠一が居れば話は変わってくるだろう。
多分アイツなら策を組める。実践的な戦術を組める筈だ。
だけど俺達はどこまでも素人で。素人ながらも技能だけで難関を乗り切る事ができるであろうシオンが攻略に失敗した時点で、俺達にまともな戦術を組める人間がいない時点で碌な答えは出てこない。
そして……当然の事ながら、俺とレベッカが考えた様なエキセントリックな作戦もそう簡単に出てくるものではなくて、完全に偶然の産物だ。
そういう方向性を主軸に考えた所で雲を掴む様な話で、恐らく碌な事にならない。
だから結局、俺達はその場凌ぎを繰り返して進んでいかなければならない。
「じゃあやれる事はその都度やって、とにかく死に物狂いでエル達の元へと向かう。頭にはそれだけ入れ解きゃいいか」
「まあそういう事になるね。あ、でも作戦開始までに何か思いつけば言ってくれると助かるよ」
「ああ」
とにかく決まりだ。此処から先俺達の作戦は荒々しくも必死こいて前に進んでいく。それだけだ。
だからそのそれだけを成功させる為に、唯一思いつけたエキセントリックな案だけは絶対にうまく行かせなければならない。
そう考えながら、シオンに聞いてみる。
「で、シオン。どうやって向こうの連中をこっちに誘き出すつもりだ?」
レベッカの重力操作と同等に作戦の要となってくる、敵の戦力を引き付ける為の策を。
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