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七章 白と黒の追跡者
63 処遇
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それから俺達はグランから聞けるだけの情報を聞き出した。
とはいえ向こうの霊装の情報を除けばあまり聞ける様な事は無かったのだけれど、それでも何も聞かないよりはマシな訳で、いくつかの情報を絞り出す事は出来た。
まず一つは侵入経路。
ルミア・マルティネスの研究所へ侵入する為の裏ルート的な物がもし存在するのならば、それを聞きだしておきたかった訳だが……答えとしてはそんな物はないという事だった。
まあそもそも一般的にそんなセキュリティーの穴となる様な侵入ルートは生まれないのが普通だ。しっかりとしたセキュリティーを組みつつ、正規の入口の他に非常口などを作るだろう。
ちなみにシオンが単独で侵入した際にどこから侵入したのかを確認した所、ダクトかららしい。結果的に見つかった経緯などは分からないが、シオンが精霊学の神童で超高度な精霊術の運用ができたとしても、そういう直接的な戦闘以外の戦術を立てる天才ではないという事が露骨に現れた結果なのではないだろうか。
とはいえ俺もそれ以外は思いつかない訳だけど。
後は向こうの警備状態。それに関してだが警備員はいないそうだ。
そもそもが治安が良い世界というのもあるのかもしれないが、それでも精霊加工工場には警備員はいた。それでもあの研究所にいない理由は、きっとそんな物が必要ない位の強大な戦力を手にしているからなのだろうか?
そして……警備員がいないという事は、俺が精霊加工工場でカイルに位置を補足されていた様に何かしらの精霊術で侵入者を補足できる筈だ。そしてその精霊術にも対処ができそうなシオンが失敗しているのだから、余程強力な精霊術が張り巡らされているのかもしれない。
警備員が巡回しているよりも遥かに厄介。
……分かったのは精々それだけ。
俺達が挑むべき相手がより強固な事を知っただけ。
「……とりあえず、こんな所かな」
ひとしきり聞き終わった後、シオンは静かにそう呟いた。
するとグランは疲れきった様子でシオンに言う。
「……だったら俺を解放しろよ。もう聞く事がねえならいいだろ」
「良い訳ないだろ」
シオンはグランの申し出をバッサリと断る。
「今キミの手元に霊装は無い。だけど一応キミは今Sランク相当の精霊の精霊術を使えるんだ。迂闊に解放なんてできる訳ないだろう」
そう言ってシオンは人差し指をグランの額へと持っていく。
「な、何する気だ!?」
「暫く眠っていてもらう」
そう言ってシオンの指先が光った瞬間、
「……」
静かに。眠りに落ちる様にグランの意識が掻き消えた。
「何したんだ?」
「見ての通り眠らせた。戦闘中にはとても扱える様な精霊術じゃないけど、無抵抗で止まっている相手に使うには十分なんだ……とりあえずあと数時間は起きないと思うよ」
そう言ったシオンに対し、レベッカが問いかける。
「その……人間にこれを聞くのはおかしいのかもしれないけどさ、殺しておかなくていいの? 目を覚ましたらまた敵に回られるんだから、此処で止めを刺しておいた方がいいんじゃない?」
「……まあ僕達がやろうとしている事を考えれば、そうする事がセオリーだろうね」
だけど、とシオンは言う。
「結局僕も自発的にそれをするのは難しいよ。十分に酷い犯罪者なんだけどね。その一線を超えるのはとても勇気がいる。だけどその勇気は……まあ、今の僕にはまだないんだ」
それに、とシオンは一拍空けてから言う。
「本当に些細な事かもしれないけどさ……昔、何度かグランにご飯を奢ってもらった事がある。僕が学会で有名になりだした時に研究者の中で一番騒いでたのもグランだ……ほんと、その程度なんだけど。それでも……」
「……分かったわ」
レベッカはシオンの言葉を聞いてから頷いた。
レベッカにとっては殺す事になんの躊躇いの無い相手かもしれないけれど、レベッカが信頼を向けたシオンにとってはそうではない。それだけでもレベッカにとっては一応殺さないでおくだけの抑止力になったのだろう。
……それだけ、レベッカにとってシオンに助けられたという事は大きいんだ。
「……ありがとう」
シオンはレベッカに短くそう言った後、俺に言う。
「さて……あまり時間もない事だし少し急ごう。エイジ君。さっき言った通りだ。僕にキミが知っている魔術の知識を教えてくれ」
「ああ、分かった」
言いながら考える。
俺が知っている知識をシオンにどう伝えていけばいいのかを。
今この状況において、短い時間でパワーアップに期待できるのはシオンだけだ。
そしてその鍵を握っているのが俺。
重要なポジションだ。少しでも効率よく分かりやすく無駄の無い説明をシオンにする。
それさえできればきっとシオンなら形にできる筈だから。
そうやって考えていた所で、口を開いたのはレベッカだった。
「……その魔術ってのを教えるってのが、えーっと、シオンを強くするのに繋がるのよね?」
「ああ。独学で実用レベルまで達してるんだ。その穴を埋めればきっと今よりも強くなると思う」
「今よりも強く……ね。確かにそうかもしれない」
レベッカはそう言った後、一拍空けてから俺達に言う。
「だけどもっと確実に、より強い力を手にする方法があるわ」
「……え?」
シオンがレベッカの言葉にそんな間の抜けた声を出したが、俺には自然とレベッカの言わんとしている事が理解できた。
何しろ切り出し方は違っても、きっと同じような申し出を俺は受けているから。
そしてレベッカはシオンに言う。
どこか少し緊張する様子を見せながら。
「シオン……ウチと契約しない?」
人間と精霊。双方がある程度の信頼を向けている事が条件の正規契約。
今契約している精霊の出力でも高い出力を叩き出しているシオンが。普通に精霊術を運用できない程の僅かな力で戦うシオンが行えば、大幅どころではないパワーアップが実現する。
そんな契約を、レベッカは持ちかけてきた。
とはいえ向こうの霊装の情報を除けばあまり聞ける様な事は無かったのだけれど、それでも何も聞かないよりはマシな訳で、いくつかの情報を絞り出す事は出来た。
まず一つは侵入経路。
ルミア・マルティネスの研究所へ侵入する為の裏ルート的な物がもし存在するのならば、それを聞きだしておきたかった訳だが……答えとしてはそんな物はないという事だった。
まあそもそも一般的にそんなセキュリティーの穴となる様な侵入ルートは生まれないのが普通だ。しっかりとしたセキュリティーを組みつつ、正規の入口の他に非常口などを作るだろう。
ちなみにシオンが単独で侵入した際にどこから侵入したのかを確認した所、ダクトかららしい。結果的に見つかった経緯などは分からないが、シオンが精霊学の神童で超高度な精霊術の運用ができたとしても、そういう直接的な戦闘以外の戦術を立てる天才ではないという事が露骨に現れた結果なのではないだろうか。
とはいえ俺もそれ以外は思いつかない訳だけど。
後は向こうの警備状態。それに関してだが警備員はいないそうだ。
そもそもが治安が良い世界というのもあるのかもしれないが、それでも精霊加工工場には警備員はいた。それでもあの研究所にいない理由は、きっとそんな物が必要ない位の強大な戦力を手にしているからなのだろうか?
そして……警備員がいないという事は、俺が精霊加工工場でカイルに位置を補足されていた様に何かしらの精霊術で侵入者を補足できる筈だ。そしてその精霊術にも対処ができそうなシオンが失敗しているのだから、余程強力な精霊術が張り巡らされているのかもしれない。
警備員が巡回しているよりも遥かに厄介。
……分かったのは精々それだけ。
俺達が挑むべき相手がより強固な事を知っただけ。
「……とりあえず、こんな所かな」
ひとしきり聞き終わった後、シオンは静かにそう呟いた。
するとグランは疲れきった様子でシオンに言う。
「……だったら俺を解放しろよ。もう聞く事がねえならいいだろ」
「良い訳ないだろ」
シオンはグランの申し出をバッサリと断る。
「今キミの手元に霊装は無い。だけど一応キミは今Sランク相当の精霊の精霊術を使えるんだ。迂闊に解放なんてできる訳ないだろう」
そう言ってシオンは人差し指をグランの額へと持っていく。
「な、何する気だ!?」
「暫く眠っていてもらう」
そう言ってシオンの指先が光った瞬間、
「……」
静かに。眠りに落ちる様にグランの意識が掻き消えた。
「何したんだ?」
「見ての通り眠らせた。戦闘中にはとても扱える様な精霊術じゃないけど、無抵抗で止まっている相手に使うには十分なんだ……とりあえずあと数時間は起きないと思うよ」
そう言ったシオンに対し、レベッカが問いかける。
「その……人間にこれを聞くのはおかしいのかもしれないけどさ、殺しておかなくていいの? 目を覚ましたらまた敵に回られるんだから、此処で止めを刺しておいた方がいいんじゃない?」
「……まあ僕達がやろうとしている事を考えれば、そうする事がセオリーだろうね」
だけど、とシオンは言う。
「結局僕も自発的にそれをするのは難しいよ。十分に酷い犯罪者なんだけどね。その一線を超えるのはとても勇気がいる。だけどその勇気は……まあ、今の僕にはまだないんだ」
それに、とシオンは一拍空けてから言う。
「本当に些細な事かもしれないけどさ……昔、何度かグランにご飯を奢ってもらった事がある。僕が学会で有名になりだした時に研究者の中で一番騒いでたのもグランだ……ほんと、その程度なんだけど。それでも……」
「……分かったわ」
レベッカはシオンの言葉を聞いてから頷いた。
レベッカにとっては殺す事になんの躊躇いの無い相手かもしれないけれど、レベッカが信頼を向けたシオンにとってはそうではない。それだけでもレベッカにとっては一応殺さないでおくだけの抑止力になったのだろう。
……それだけ、レベッカにとってシオンに助けられたという事は大きいんだ。
「……ありがとう」
シオンはレベッカに短くそう言った後、俺に言う。
「さて……あまり時間もない事だし少し急ごう。エイジ君。さっき言った通りだ。僕にキミが知っている魔術の知識を教えてくれ」
「ああ、分かった」
言いながら考える。
俺が知っている知識をシオンにどう伝えていけばいいのかを。
今この状況において、短い時間でパワーアップに期待できるのはシオンだけだ。
そしてその鍵を握っているのが俺。
重要なポジションだ。少しでも効率よく分かりやすく無駄の無い説明をシオンにする。
それさえできればきっとシオンなら形にできる筈だから。
そうやって考えていた所で、口を開いたのはレベッカだった。
「……その魔術ってのを教えるってのが、えーっと、シオンを強くするのに繋がるのよね?」
「ああ。独学で実用レベルまで達してるんだ。その穴を埋めればきっと今よりも強くなると思う」
「今よりも強く……ね。確かにそうかもしれない」
レベッカはそう言った後、一拍空けてから俺達に言う。
「だけどもっと確実に、より強い力を手にする方法があるわ」
「……え?」
シオンがレベッカの言葉にそんな間の抜けた声を出したが、俺には自然とレベッカの言わんとしている事が理解できた。
何しろ切り出し方は違っても、きっと同じような申し出を俺は受けているから。
そしてレベッカはシオンに言う。
どこか少し緊張する様子を見せながら。
「シオン……ウチと契約しない?」
人間と精霊。双方がある程度の信頼を向けている事が条件の正規契約。
今契約している精霊の出力でも高い出力を叩き出しているシオンが。普通に精霊術を運用できない程の僅かな力で戦うシオンが行えば、大幅どころではないパワーアップが実現する。
そんな契約を、レベッカは持ちかけてきた。
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