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七章 白と黒の追跡者
57 悪党染みた卑劣な最善策
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「良い事?」
俺がそう聞き返すとシオンは言う。
「僕はね、大体だけれど相手がどういう精霊術を使えるのかを見ただけで把握する事ができるんだ」
「……マジで?」
まあ確かにシオンならできても不思議じゃないんだけど。
「まあ僕の様に……あと僕しかいないと思っていたらルミアもできてたんだけど、そういう本来使える筈の無い別の精霊の精霊術とか、そういう類いじゃなければいけるさ。精度は70パーセントっていった所か」
「で、良いことってのは一体……」
「多分グランは回復術を使える」
「……ッ」
シオンのやろうとしている事が、大体理解できた。
正直考えもしなかったけど、それでもとても合理的に思える手段だ。
「まさか……グランに俺達を治療させるのか?」
「そのつもりだよ」
正解だった。
やっぱりシオンは敵にこちらの治療をさせようとしている。
「まずグランを拘束する。そしてその拘束の元でまともに抵抗できない程度まで回復させ、意識を取り戻したグランに僕ら三人を治療させる。限界までね」
「なるほどね」
「グランも素直にやってくれると思うよ。なにせこちらには……国営の工場に単身乗り込み再起不能にする頭のおかしいテロリストがいるんだから」
「……」
「あ、いや、僕がそう思っている訳じゃないからね」
「いや、分かってるってそれは流石に……」
一応心配そうに言ってきたシオンにそう返す。
流石にこの局面で本心からそんな事言われてたら流石に傷付くわ。
まあでもシオン以外の異世界人からすれば、まさしくその通りなんだけども。
まあとにかく。
「まあお前がなにやろうとしてんのかは分かった」
……だからこそ効果がある。
冗談の通じない頭のおかしい奴。
俺がいる事によって。何かそういう素振りを見せる事によって。
グランからすれば、そういう頭のおかしな奴に銃口を突きつけられているのと同じ様に思うだろう。
確かにシオンは良い事を思いついた。
「……しかしいよいよやってる事悪党みてえだな」
「何を今更。どちらにしたってこれから僕達は、世界的な権威の学者のラボを襲撃しにいく犯罪者になるのだから」
「ま、確かに今更だな。悪党上等だよそうなったら」
ああそうだ。それでもいい。
最終的にエルを助けられればそれでいい。その過程がどれだけ汚くても良いんだ。
といっても越えてはならない一線はあるのだろうけど……まあ、少なくともグランに無理矢理俺達を直させる事は、全く一線を越えていないと思う。
だから俺はシオンの発案に乗る。
「ま、なんにしても今はお前の治療だ。お前をまず動けるようにしないと何も始まらない」
「そうだね。よろしく頼むよ」
と、そんなやり取りを交わしていた時だった。
視界の端で起き上がる影があった。
だけどそれはグランではない。起き上がる事によって安堵する存在。
……レベッカだ。
レベッカも随分と酷い怪我を負っている。
そんな状態でそれでもなんとかという風に体を起こしていた。
「……生きてる。戦いは一体どうなって……」
「レベッカ」
おそらくはまだこちらの事に気付いていない……それどころか戦いが終わったかどうかですら判断が付いていないようだったレベッカの名前を呼ぶ。
するとレベッカは静かにこちらに視線を向け、そしてとても安堵した様な表情を浮かべる。
「……勝ったんだ、ウチ達」
「……ああ」
レベッカの言葉に俺はそう言って頷いて、そして問いかける。
「大丈夫か?」
「ウチより遥かに大怪我なアンタがそれを言うか。大丈夫よウチは。アンタに比べれば」
言いながらレベッカはゆっくりと立ち上がり、ふらついた足取りでこちらに向かって歩いてくる。
そしてそんなレベッカに問いかける。
「それで……お前が相手にしてた奴はどうした?」
聞いておかなければならなかった。
倒した。それは間違いないのだろうけど、倒した末にどうなっているかでこれからの対処は大きく変わる。
だから大体答えは見えていても。分かっていても、一応聞いておく必要があった。
「殺した」
そして帰ってくるのは予想通りの言葉。
当然だ。分かってた。殺さない筈がないんだ。
そしてレベッカは一拍空けてから続ける。
「あと……エイジが最初にぶっ飛ばした奴も大丈夫」
その大丈夫が精霊にとってどういう意味合いかは簡単に理解できる。
「こっちに戻ってくる時に見かけたから。息の根は止めておいた」
「……そうか」
「エイジ」
そしてレベッカはどこか気を使う様に俺に言う。
「殺したのはウチ。アンタじゃない。だから……アンタは人間を殺してなんていないから」
「……ありがと」
気を使う様にというか、完全に気を使ってくれていた。
やっぱりレベッカは本当にいい奴なんだと改めて思う。
そんなレベッカを早く治療してやりたかったけど……それでも今はシオンが優秀だ。
この三人全員で次に進むために。まずそれからしなきゃいけない。
そしてフラフラと俺達の元に辿りついたレベッカは、そこで力尽きる様に崩れ落ち、そして言う。
「とにかく……二人共、無事で良かった」
そしてそんなレベッカにシオンは言う。
「キミも生きていてくれて嬉しいよ」
その言葉を聞いたレベッカはどこか恥ずかしそうに……それでもどこか嬉しそうに、笑みを浮かべた。
そしてそんな笑みを見ていると思うんだ。
改めて俺達は勝ったんだって。
俺がそう聞き返すとシオンは言う。
「僕はね、大体だけれど相手がどういう精霊術を使えるのかを見ただけで把握する事ができるんだ」
「……マジで?」
まあ確かにシオンならできても不思議じゃないんだけど。
「まあ僕の様に……あと僕しかいないと思っていたらルミアもできてたんだけど、そういう本来使える筈の無い別の精霊の精霊術とか、そういう類いじゃなければいけるさ。精度は70パーセントっていった所か」
「で、良いことってのは一体……」
「多分グランは回復術を使える」
「……ッ」
シオンのやろうとしている事が、大体理解できた。
正直考えもしなかったけど、それでもとても合理的に思える手段だ。
「まさか……グランに俺達を治療させるのか?」
「そのつもりだよ」
正解だった。
やっぱりシオンは敵にこちらの治療をさせようとしている。
「まずグランを拘束する。そしてその拘束の元でまともに抵抗できない程度まで回復させ、意識を取り戻したグランに僕ら三人を治療させる。限界までね」
「なるほどね」
「グランも素直にやってくれると思うよ。なにせこちらには……国営の工場に単身乗り込み再起不能にする頭のおかしいテロリストがいるんだから」
「……」
「あ、いや、僕がそう思っている訳じゃないからね」
「いや、分かってるってそれは流石に……」
一応心配そうに言ってきたシオンにそう返す。
流石にこの局面で本心からそんな事言われてたら流石に傷付くわ。
まあでもシオン以外の異世界人からすれば、まさしくその通りなんだけども。
まあとにかく。
「まあお前がなにやろうとしてんのかは分かった」
……だからこそ効果がある。
冗談の通じない頭のおかしい奴。
俺がいる事によって。何かそういう素振りを見せる事によって。
グランからすれば、そういう頭のおかしな奴に銃口を突きつけられているのと同じ様に思うだろう。
確かにシオンは良い事を思いついた。
「……しかしいよいよやってる事悪党みてえだな」
「何を今更。どちらにしたってこれから僕達は、世界的な権威の学者のラボを襲撃しにいく犯罪者になるのだから」
「ま、確かに今更だな。悪党上等だよそうなったら」
ああそうだ。それでもいい。
最終的にエルを助けられればそれでいい。その過程がどれだけ汚くても良いんだ。
といっても越えてはならない一線はあるのだろうけど……まあ、少なくともグランに無理矢理俺達を直させる事は、全く一線を越えていないと思う。
だから俺はシオンの発案に乗る。
「ま、なんにしても今はお前の治療だ。お前をまず動けるようにしないと何も始まらない」
「そうだね。よろしく頼むよ」
と、そんなやり取りを交わしていた時だった。
視界の端で起き上がる影があった。
だけどそれはグランではない。起き上がる事によって安堵する存在。
……レベッカだ。
レベッカも随分と酷い怪我を負っている。
そんな状態でそれでもなんとかという風に体を起こしていた。
「……生きてる。戦いは一体どうなって……」
「レベッカ」
おそらくはまだこちらの事に気付いていない……それどころか戦いが終わったかどうかですら判断が付いていないようだったレベッカの名前を呼ぶ。
するとレベッカは静かにこちらに視線を向け、そしてとても安堵した様な表情を浮かべる。
「……勝ったんだ、ウチ達」
「……ああ」
レベッカの言葉に俺はそう言って頷いて、そして問いかける。
「大丈夫か?」
「ウチより遥かに大怪我なアンタがそれを言うか。大丈夫よウチは。アンタに比べれば」
言いながらレベッカはゆっくりと立ち上がり、ふらついた足取りでこちらに向かって歩いてくる。
そしてそんなレベッカに問いかける。
「それで……お前が相手にしてた奴はどうした?」
聞いておかなければならなかった。
倒した。それは間違いないのだろうけど、倒した末にどうなっているかでこれからの対処は大きく変わる。
だから大体答えは見えていても。分かっていても、一応聞いておく必要があった。
「殺した」
そして帰ってくるのは予想通りの言葉。
当然だ。分かってた。殺さない筈がないんだ。
そしてレベッカは一拍空けてから続ける。
「あと……エイジが最初にぶっ飛ばした奴も大丈夫」
その大丈夫が精霊にとってどういう意味合いかは簡単に理解できる。
「こっちに戻ってくる時に見かけたから。息の根は止めておいた」
「……そうか」
「エイジ」
そしてレベッカはどこか気を使う様に俺に言う。
「殺したのはウチ。アンタじゃない。だから……アンタは人間を殺してなんていないから」
「……ありがと」
気を使う様にというか、完全に気を使ってくれていた。
やっぱりレベッカは本当にいい奴なんだと改めて思う。
そんなレベッカを早く治療してやりたかったけど……それでも今はシオンが優秀だ。
この三人全員で次に進むために。まずそれからしなきゃいけない。
そしてフラフラと俺達の元に辿りついたレベッカは、そこで力尽きる様に崩れ落ち、そして言う。
「とにかく……二人共、無事で良かった」
そしてそんなレベッカにシオンは言う。
「キミも生きていてくれて嬉しいよ」
その言葉を聞いたレベッカはどこか恥ずかしそうに……それでもどこか嬉しそうに、笑みを浮かべた。
そしてそんな笑みを見ていると思うんだ。
改めて俺達は勝ったんだって。
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