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七章 白と黒の追跡者
51 切り札
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「で、レベッカ。どうやって不意打ち仕掛ける」
「理想を言えば二人で同時に跳びかかって、三人の内二人を潰すのがベストだろうけど、そう簡単にはいかないと思うし……どうしよっか」
そう、ベストを言えばそういう事になる。
二人で不意を突く。
敵二人に対しそれぞれ最大火力の一撃を叩き込んで鎮める。
そして逃走。
これらがうまく行くようなら、シオンと合流した時点で三対一。
レベッカが一人でなんとか武器にした精霊を扱う人間と相対できる事を考えると、一気に戦局がこちらに傾く。
だけどそううまくは行かないだろう。
レベッカはさっきシオンに、なんとか一人潰してくると言ったのだ。
一人。そしてなんとか。
「狙いを定めるのは一人だな。二人潰そうと思っても下手すれば一人も潰せず作戦失敗って事になりかねねえ」
向こうは近くにいたレベッカの存在に気付かない程度には危機察知能力が引くい。
だけどそれでも警戒はしているんだ。故に比較的接近しやすい相手ではあるものの、そのまま突っ込んで確実に攻撃を当てられる保証なんてのはない。
向こうの出力を考えれば、ある程反応が遅れてもそれでも対応できる。
何しろ戦いの素人を今日この日まで生き残らせてきた程強力な力なのだから。
そうした相手に対しては一欠片の油断も慢心も許されない。
最新の注意を払って、万全の準備をして初めて成功が見えてくるんだ。
だから、狙うべきは一人。
「だから俺かお前か。どちらかが相手に攻撃を叩き込む。そんで余った方がその隙を作る。それでいこう」
「うん、じゃあそれで。じゃあ後はどっちが何を担うかね」
「……正直な話、俺じゃ向こうの連中の動きを止める事は難しいと思う」
俺が動きを止める手段とすれば、直接噴出するか、風の塊を利用して突風、暴風を巻き起こす位だけれど、それでもそれが効果的かどうかと言えば首を振らざるを得ない。
かつて後者をエルがエルドさん達に対して放って俺を連れだす隙を作ってくれた事がある。
だけどあの人達に対して効果的だったのは、それこそ足場の悪さや意識が多分俺に対して強く向けられていた事で、完璧な形で不意打ちとして成功したからだという事が言える。
だけどあの時ですらエルドさんが踏み止まった。踏みとどまってエルの肩を打ち抜いた。
もっともエルドさんは今冷静に考えれば、少なくとも今の俺よりも劣る出力でエルを大剣にした俺とある程度戦えた強者だった訳で、比較材料にするのは適切ではないかもしれないけれど、それでも今の俺が圧倒的な出力を誇る向こうの連中を足止めする事は難しいだろう。
だとすれば、それを担えるのは必然的にレベッカという事になる。
「じゃあウチが隙を作って残り二人の足止めをする。元々ウチの力はそういう方向性の方が向いてるし」
「まあ確かにそうかもな」
重力変動。
確かに重力を操る能力というのは、うまく扱う事さえできれば相手の動きを止めるという役目を担うのに最適な能力なのかもしれない。
特にレベッカの場合、出力云々の前に通常の精霊術を超える様な運用方法ができる。
一応此処に来るまでに聞いた話の中では、対象に触れなくても掛かる重力を変動させられる力がそれに当たるだろう。無茶苦茶で、そして超強力な能力。
多分これ程までに隙を作ったり足止めしたりに有効な能力はないのかもしれない。
「というかまあ、ウチの場合そっちじゃないと駄目だと思う」
「というと?」
「一撃の火力がない。仮に重力で押し潰すにしても一瞬でという訳にはいかない。動きを止めて普通に攻撃しても多分一撃じゃ沈められない。つまりそういう事」
「なるほど。じゃあ端から役割を変えようがなかった訳だ」
「そ。ウチじゃ沈められない。アンタじゃ止められない。だからこれで……ってちょっと待って」
レベッカがここに来て不安そうな声を上げる。
「どうした?」
「いや、えーっと、凄く言いにくいんだけど……アンタ、アイツら一撃でどうにかできるの?」
絶対言われると思った。
言われなくても絶対どこかで不安に思われるとは思った。
当然だ。なにしろ俺は本来この戦いでは完全に戦力外の様な出力をしているんだ。
そして俺には搦め手もない。とてもシンプルな一撃しか放つ事ができない。
……だけどだ。
「その辺は大丈夫だ。心配すんな。当てさえすれば潰せる」
俺はレベッカにそう言ってやる。
「本当に?」
「信用しろよ。どちらにしてもそれしかねえんだから」
「……分かった。アンタを信じるよ」
「じゃあマジでサポートは頼むわ。当てられなきゃどうにもならねえんだから」
「その辺は全力を尽くすよ。尽くせない位なら此処にいない」
「聞くまでもなかったか」
大丈夫だ。レベッカはきっとうまくやってくれる。
とにかく俺は一人潰す事だけを考えればいい。
……そうだ。信じろ。俺ならやれる。
何しろ俺は知っている。
精霊を武器にしたとしても。それで出力を桁違いに上昇させても。
それでもまともに喰らった攻撃は死に追い込まれてもおかしくない程に重い。
俺が契約していたのがエルでなければいつ死んでもおかしく無かった程に、酷く重いんだ。
だったら……俺の全身全霊の攻撃で昏倒させる。一撃で叩き潰して見せる。
そう、全身全霊の一撃で。
まだ実戦では一度も使った事の無い切り札で。
そして俺は右手の平に風を集め始めた。
「理想を言えば二人で同時に跳びかかって、三人の内二人を潰すのがベストだろうけど、そう簡単にはいかないと思うし……どうしよっか」
そう、ベストを言えばそういう事になる。
二人で不意を突く。
敵二人に対しそれぞれ最大火力の一撃を叩き込んで鎮める。
そして逃走。
これらがうまく行くようなら、シオンと合流した時点で三対一。
レベッカが一人でなんとか武器にした精霊を扱う人間と相対できる事を考えると、一気に戦局がこちらに傾く。
だけどそううまくは行かないだろう。
レベッカはさっきシオンに、なんとか一人潰してくると言ったのだ。
一人。そしてなんとか。
「狙いを定めるのは一人だな。二人潰そうと思っても下手すれば一人も潰せず作戦失敗って事になりかねねえ」
向こうは近くにいたレベッカの存在に気付かない程度には危機察知能力が引くい。
だけどそれでも警戒はしているんだ。故に比較的接近しやすい相手ではあるものの、そのまま突っ込んで確実に攻撃を当てられる保証なんてのはない。
向こうの出力を考えれば、ある程反応が遅れてもそれでも対応できる。
何しろ戦いの素人を今日この日まで生き残らせてきた程強力な力なのだから。
そうした相手に対しては一欠片の油断も慢心も許されない。
最新の注意を払って、万全の準備をして初めて成功が見えてくるんだ。
だから、狙うべきは一人。
「だから俺かお前か。どちらかが相手に攻撃を叩き込む。そんで余った方がその隙を作る。それでいこう」
「うん、じゃあそれで。じゃあ後はどっちが何を担うかね」
「……正直な話、俺じゃ向こうの連中の動きを止める事は難しいと思う」
俺が動きを止める手段とすれば、直接噴出するか、風の塊を利用して突風、暴風を巻き起こす位だけれど、それでもそれが効果的かどうかと言えば首を振らざるを得ない。
かつて後者をエルがエルドさん達に対して放って俺を連れだす隙を作ってくれた事がある。
だけどあの人達に対して効果的だったのは、それこそ足場の悪さや意識が多分俺に対して強く向けられていた事で、完璧な形で不意打ちとして成功したからだという事が言える。
だけどあの時ですらエルドさんが踏み止まった。踏みとどまってエルの肩を打ち抜いた。
もっともエルドさんは今冷静に考えれば、少なくとも今の俺よりも劣る出力でエルを大剣にした俺とある程度戦えた強者だった訳で、比較材料にするのは適切ではないかもしれないけれど、それでも今の俺が圧倒的な出力を誇る向こうの連中を足止めする事は難しいだろう。
だとすれば、それを担えるのは必然的にレベッカという事になる。
「じゃあウチが隙を作って残り二人の足止めをする。元々ウチの力はそういう方向性の方が向いてるし」
「まあ確かにそうかもな」
重力変動。
確かに重力を操る能力というのは、うまく扱う事さえできれば相手の動きを止めるという役目を担うのに最適な能力なのかもしれない。
特にレベッカの場合、出力云々の前に通常の精霊術を超える様な運用方法ができる。
一応此処に来るまでに聞いた話の中では、対象に触れなくても掛かる重力を変動させられる力がそれに当たるだろう。無茶苦茶で、そして超強力な能力。
多分これ程までに隙を作ったり足止めしたりに有効な能力はないのかもしれない。
「というかまあ、ウチの場合そっちじゃないと駄目だと思う」
「というと?」
「一撃の火力がない。仮に重力で押し潰すにしても一瞬でという訳にはいかない。動きを止めて普通に攻撃しても多分一撃じゃ沈められない。つまりそういう事」
「なるほど。じゃあ端から役割を変えようがなかった訳だ」
「そ。ウチじゃ沈められない。アンタじゃ止められない。だからこれで……ってちょっと待って」
レベッカがここに来て不安そうな声を上げる。
「どうした?」
「いや、えーっと、凄く言いにくいんだけど……アンタ、アイツら一撃でどうにかできるの?」
絶対言われると思った。
言われなくても絶対どこかで不安に思われるとは思った。
当然だ。なにしろ俺は本来この戦いでは完全に戦力外の様な出力をしているんだ。
そして俺には搦め手もない。とてもシンプルな一撃しか放つ事ができない。
……だけどだ。
「その辺は大丈夫だ。心配すんな。当てさえすれば潰せる」
俺はレベッカにそう言ってやる。
「本当に?」
「信用しろよ。どちらにしてもそれしかねえんだから」
「……分かった。アンタを信じるよ」
「じゃあマジでサポートは頼むわ。当てられなきゃどうにもならねえんだから」
「その辺は全力を尽くすよ。尽くせない位なら此処にいない」
「聞くまでもなかったか」
大丈夫だ。レベッカはきっとうまくやってくれる。
とにかく俺は一人潰す事だけを考えればいい。
……そうだ。信じろ。俺ならやれる。
何しろ俺は知っている。
精霊を武器にしたとしても。それで出力を桁違いに上昇させても。
それでもまともに喰らった攻撃は死に追い込まれてもおかしくない程に重い。
俺が契約していたのがエルでなければいつ死んでもおかしく無かった程に、酷く重いんだ。
だったら……俺の全身全霊の攻撃で昏倒させる。一撃で叩き潰して見せる。
そう、全身全霊の一撃で。
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