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七章 白と黒の追跡者
14 幸せな眠り
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エルに引っ張られて隅っこの方に陣取った。
とりあえずずっと担いでいたリュックサックを下ろす。そういやエルの荷物と俺が手に持っていた荷物は先の戦闘で全部置いてきちまったな……色々入ってるし後で回収しねえと。
「……」
で、何故エルは不機嫌なのだろうか。
それは分からないし、なんか分かったらしいハスカは周囲の精霊に俺達に聞こえないような声で何かを話している。
とりあえず教えてくれ。分かりやすいジェスチャーで。
そしてどうも話が終わったらしいハスカは、俺達に向かっていう。
「あ、とりあえず私達は外いるね。ゆっくりしてなよ」
そしてハスカは集団を率いて小屋から出ていく。その際エリスが小さく手を振ってきたのでとりあえず振り返しておいた。
その際なんかエルがムッとなる。
……あ、なんかこう……今のでようやく色々分かった気がするぞ。
多分これは……アレだ。エル、嫉妬してんじゃねえのか?
だとすれば今までの違和感感色々と納得いくんだけど……だとしたらマジでか。
なんかこう……嫉妬される位に俺の事を好きでいてくれると思ったらそれはとても幸せな事なのだろうけど、だとしてもエルの機嫌がこのままなのは不味い気がする。
だから今そういう事に気付けたのなら。俺はきっとはっきりとエルに言っておくべきだと、そう思った。
「……なあエル」
「なんですか?」
「その……なんつーか、別にアイツらの事をそういう変な目で見てるわけじゃないからな」
だから話を切りだした。
もし俺の予想したエルの不機嫌の理由が全く的外れなら、俺は突然何を言いだしたのか良く分からない奴みたいな事になるが、まあそうなったらそうなっで笑って済ませる。だから言葉を紡いでいく。
「……本当ですか?」
そしてどうやら俺の予想は当たっていたらしく、エルが食いついてきた。
「本当だって」
「じゃあさっきあのエリスって子に抱き付かれて、普通に嬉しいとか言ってたのはなんなんですか」
「いや、普通にありがとうって言われて嬉しかったから…ああ、なるほど。ごめん、エル。これ端から見れば完全に誤解を生む発言してるわ」
なんかこう……あの時俺は普通に嬉しかったんだけどさぁ、エルのあの質問に答える回答じゃ無かったよな。
うん、どう考えてもそんな感じだ。
「だからその……別に気移りとかそういうクズい事はしてねえし、しないから」
「……本当ですか?」
「本当だよ。今もこれからも、そういう事は一切ない」
「……」
なんだろう。なんか少し安心した様な表情見せてくれたけど、でもなんかこう……イマイチ信用されていない気がする。何故に?
「……あの、エルさん」
「なんですか?」
「俺、あんまり信用ないかな?」
やっぱりエルの表情から、イマイチ俺の発言が信用されていない様に思えてしまう。
だけどエルが慌てて首を振った。
「え、いや、そういう訳じゃなくて……そりゃさっきの発言聞いたときは、少しなに言ってんだこの人とは思いましたけど、別にエイジさんを信頼してないとかそういう訳じゃなくて……」
そしてそこまで言って、言いにくいのか少し黙りこんで……それでもエルは俺に言う。
「……女の子、一杯いるじゃないですか」
「……」
「……みんなすっごく可愛いじゃないですか。だからなんか、不安で」
「……そっか」
どうやらエルの機嫌は嫉妬や、俺の失言によるものだけでは無かったらしい。
考えてみればハスカ達と会う前から様子がおかしかった事を考えると、今のエルの発言の主に前半部分で納得が行く。そもそもそういう環境にあまり俺を入れたくなかったのだろう。
理由はエルが口にした通り、不安だったから。
だけど当の俺からすればエルの不安という奴は、本来抱く必要のない不安だと思う。
だって、不安になる要素が俺からすればあまりにも弱いんだ。
だってそうだろ。
「でもお前が一番……その、えーっと、可愛いからさ、なんの問題もないだろ」
面と向かって言うのは恥ずかしい事の様な気がするけど、結局そういう事なのだ。
確かにまあ、俺も思うよ。基本的にどの精霊も無茶苦茶可愛いんだ。エルの前では言いにくいけどそれは否定しない。
だけどそれ以上に、圧倒的にエルの方が可愛い。俺の彼女が世界で一番可愛い。それだけは揺るがない。揺るぎようがない。
というかそもそも、それが揺るいだところで何なんだって話だ。
「つーか、そんな程度でどうにかしちまう様な関係じゃねえだろ俺ら。そんなんだったら俺達はこんな所にいねえよ」
きっと何処かで終わっている筈だ。
だけど俺達は今此処にいる。二人で生きながらえてる。
「……だからまあ、大丈夫だ。心配すんな」
俺の大丈夫という言葉ほど信用ならない言葉はないんじゃないかとも思うが、これだけは絶対だ。
……俺はエルがいないと生きられなくて。
そしてそうでなくとも、エルと生きたいのだから。
その思いに嘘偽りはないのだから。
「……そうですか。なるほど……エイジさんがそう言ってくれるなら安心ですね」
なんんか少し顔を赤らめながらエルが言う。
その様子に安心していると、一拍明けてからエルに言われる。
「……いいですか?」
「え?」
「もう一回言ってもらっていいですか? 可愛いって」
「……可愛いよ、お前が一番」
「……えへへ」
……やべーよ、なにこれ。
思っている事をそのまま口にしてるだけなのにすっげえ恥ずかしい。というかそれ以上にすげえエルが可愛い。
何この充実感というか幸せな感じ。もしかしてこれ、八月上旬から今日この時までの中で一番幸せな気分なんじゃないか? 置かれてる状況は大変なのに。
とりあえず、とにかくすげえ幸せな気分。
願わくばこの幸せが、崩れてなくなってしまいませんように。
そんな風に考えながら、そこから先、エルとの会話を楽しんだ後に力尽きるように俺は眠りに落ちた。
久しぶりに、怖くもなく辛くもなく、幸せな気分に浸りながら。
……きっと俺にはもう睡眠薬なんていらない。
とりあえずずっと担いでいたリュックサックを下ろす。そういやエルの荷物と俺が手に持っていた荷物は先の戦闘で全部置いてきちまったな……色々入ってるし後で回収しねえと。
「……」
で、何故エルは不機嫌なのだろうか。
それは分からないし、なんか分かったらしいハスカは周囲の精霊に俺達に聞こえないような声で何かを話している。
とりあえず教えてくれ。分かりやすいジェスチャーで。
そしてどうも話が終わったらしいハスカは、俺達に向かっていう。
「あ、とりあえず私達は外いるね。ゆっくりしてなよ」
そしてハスカは集団を率いて小屋から出ていく。その際エリスが小さく手を振ってきたのでとりあえず振り返しておいた。
その際なんかエルがムッとなる。
……あ、なんかこう……今のでようやく色々分かった気がするぞ。
多分これは……アレだ。エル、嫉妬してんじゃねえのか?
だとすれば今までの違和感感色々と納得いくんだけど……だとしたらマジでか。
なんかこう……嫉妬される位に俺の事を好きでいてくれると思ったらそれはとても幸せな事なのだろうけど、だとしてもエルの機嫌がこのままなのは不味い気がする。
だから今そういう事に気付けたのなら。俺はきっとはっきりとエルに言っておくべきだと、そう思った。
「……なあエル」
「なんですか?」
「その……なんつーか、別にアイツらの事をそういう変な目で見てるわけじゃないからな」
だから話を切りだした。
もし俺の予想したエルの不機嫌の理由が全く的外れなら、俺は突然何を言いだしたのか良く分からない奴みたいな事になるが、まあそうなったらそうなっで笑って済ませる。だから言葉を紡いでいく。
「……本当ですか?」
そしてどうやら俺の予想は当たっていたらしく、エルが食いついてきた。
「本当だって」
「じゃあさっきあのエリスって子に抱き付かれて、普通に嬉しいとか言ってたのはなんなんですか」
「いや、普通にありがとうって言われて嬉しかったから…ああ、なるほど。ごめん、エル。これ端から見れば完全に誤解を生む発言してるわ」
なんかこう……あの時俺は普通に嬉しかったんだけどさぁ、エルのあの質問に答える回答じゃ無かったよな。
うん、どう考えてもそんな感じだ。
「だからその……別に気移りとかそういうクズい事はしてねえし、しないから」
「……本当ですか?」
「本当だよ。今もこれからも、そういう事は一切ない」
「……」
なんだろう。なんか少し安心した様な表情見せてくれたけど、でもなんかこう……イマイチ信用されていない気がする。何故に?
「……あの、エルさん」
「なんですか?」
「俺、あんまり信用ないかな?」
やっぱりエルの表情から、イマイチ俺の発言が信用されていない様に思えてしまう。
だけどエルが慌てて首を振った。
「え、いや、そういう訳じゃなくて……そりゃさっきの発言聞いたときは、少しなに言ってんだこの人とは思いましたけど、別にエイジさんを信頼してないとかそういう訳じゃなくて……」
そしてそこまで言って、言いにくいのか少し黙りこんで……それでもエルは俺に言う。
「……女の子、一杯いるじゃないですか」
「……」
「……みんなすっごく可愛いじゃないですか。だからなんか、不安で」
「……そっか」
どうやらエルの機嫌は嫉妬や、俺の失言によるものだけでは無かったらしい。
考えてみればハスカ達と会う前から様子がおかしかった事を考えると、今のエルの発言の主に前半部分で納得が行く。そもそもそういう環境にあまり俺を入れたくなかったのだろう。
理由はエルが口にした通り、不安だったから。
だけど当の俺からすればエルの不安という奴は、本来抱く必要のない不安だと思う。
だって、不安になる要素が俺からすればあまりにも弱いんだ。
だってそうだろ。
「でもお前が一番……その、えーっと、可愛いからさ、なんの問題もないだろ」
面と向かって言うのは恥ずかしい事の様な気がするけど、結局そういう事なのだ。
確かにまあ、俺も思うよ。基本的にどの精霊も無茶苦茶可愛いんだ。エルの前では言いにくいけどそれは否定しない。
だけどそれ以上に、圧倒的にエルの方が可愛い。俺の彼女が世界で一番可愛い。それだけは揺るがない。揺るぎようがない。
というかそもそも、それが揺るいだところで何なんだって話だ。
「つーか、そんな程度でどうにかしちまう様な関係じゃねえだろ俺ら。そんなんだったら俺達はこんな所にいねえよ」
きっと何処かで終わっている筈だ。
だけど俺達は今此処にいる。二人で生きながらえてる。
「……だからまあ、大丈夫だ。心配すんな」
俺の大丈夫という言葉ほど信用ならない言葉はないんじゃないかとも思うが、これだけは絶対だ。
……俺はエルがいないと生きられなくて。
そしてそうでなくとも、エルと生きたいのだから。
その思いに嘘偽りはないのだから。
「……そうですか。なるほど……エイジさんがそう言ってくれるなら安心ですね」
なんんか少し顔を赤らめながらエルが言う。
その様子に安心していると、一拍明けてからエルに言われる。
「……いいですか?」
「え?」
「もう一回言ってもらっていいですか? 可愛いって」
「……可愛いよ、お前が一番」
「……えへへ」
……やべーよ、なにこれ。
思っている事をそのまま口にしてるだけなのにすっげえ恥ずかしい。というかそれ以上にすげえエルが可愛い。
何この充実感というか幸せな感じ。もしかしてこれ、八月上旬から今日この時までの中で一番幸せな気分なんじゃないか? 置かれてる状況は大変なのに。
とりあえず、とにかくすげえ幸せな気分。
願わくばこの幸せが、崩れてなくなってしまいませんように。
そんな風に考えながら、そこから先、エルとの会話を楽しんだ後に力尽きるように俺は眠りに落ちた。
久しぶりに、怖くもなく辛くもなく、幸せな気分に浸りながら。
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