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EXTRA CHAPTER 歪な世界 差し込んだ光
1 歪な世界 正しい世界
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果たしてシオン・クロウリーにはこの世界がどういう風に映っているのだろうか?
一体精霊という資源は、彼にとってどういう風に映っているのだろうか?
果たして今目の前にいる存在は一体何なのだろうか?
「……」
あれから半月が経過した。
カイル・バーンは今だに答えを出せていない。
カイルはシオンを止める事が出来なかった。
例え彼を力でねじ伏せたとしても、彼の意思を折ることができないと思ったから。
そして言葉でも。彼の思想の片鱗も理解できない自分ではどうにもならないと思ったから。
そしてあまりに違いすぎる思想に、一人戦いに臨む彼に着いていく事すらできなかった。
だから知ろうと思った。
シオン・クロウリーの見ている世界を正しく認識した上で、正しい道に引き戻す為に。
だがどれだけ考えても理解が及ばない。
本当に何も分からないのだ。
だけど一つ変わった事があったとすれば。
「……お前は一体なんなんだ」
シオンの視線で世界を見ようとして、無理矢理にでも歪んだ見かたをしようとして。
そうした普通の人間ならばそもそもやろうともしない視点で精霊を見続けて。
結果的に精霊という存在が一体何なのかが分からなくなってきた。
精霊は資源だ。それは分かっている。
だけど本当にそうなのかと。違った側面があるのではないかと。
精霊の見方を変えるという小さな歪みがら生まれた何かは確かに大きくなって、そうした思考に捕らわれて、抜け出そうと思考にふければ更なる深みへと嵌る。
かつてのシオン・クロウリーの様に精神的な強いショックで足を踏み入れたのではなく、小さなきっかけから足を踏み入れた彼は、そこから容易に抜け出せない。
「……なあ、シオン」
もう此処にはいない。自分とは違う世界を見て戦いに臨んだ親友に問う。
「……一体何が正しいんだ。俺は本当に……正しいのか?」
その答えを返す者は此処にはいない。
だから今日も彼は一人でそれを抱え込む。
目の前の資源である筈の何かの正体について、今日も思い悩む。
そして思い悩み続けた結果、どうやら精神的に病んでしまったのかもしれない。
かつて瀬戸栄治やシオン・クロウリーが歪な世界を視界に捉えたのとはまた違う。
食事の為にホテルを出たカイルの視界に映った世界は、より歪な何かだった。
「……ッ」
今まで当たり前の様に見てきた光景だ。
人間がドール化した精霊を連れて歩く。そんな自分自身が当たり前の様にしてきた光景。
そして今現在自分自身もしている事。
そんな世界がついに精神的に負荷をかける程に歪な光景に思えてきたのだ。
「……」
例えばその光景の正体が分かれば。瀬戸栄治やシオン・クロウリーの様にその光景が何故歪なものなのかを理解できれば、ひとまず割り切る事ができたかもしれない。
だけどこの日初めて世界が歪に見えた彼には、その知識も耐性も何もなくて。
原因不明の何かに精神を狂わされていくような、そんな感覚に陥る。
(……普通の光景だ。普通だろ。なのになんで俺は……)
考えても答えが出ず、嫌な汗まで掻いてきて。気が付けば半ば放心状態にまで陥っていた。
そんな彼を現実に引き戻したのは人の声だった。
「……アンタ、大丈夫っすか?」
気が付けば知らない男が目の前に立っていた。
二十代前半程のチャラい容姿の男。
「どうしたんすか。世界の終わりでも見たような顔をして」
「あ、いや……」
突然現れた男に何を返したらいいか分からず、思わずそんな言葉を返す。
そしてその直後、彼もまた隣りにドール化された精霊を連れているのをみて、思わずそこに視線を集中させてしまう。
果たして自分はどんな目でその精霊を見たのだろうか。それは分からない。
だけどその視線に気付いたのか男はカイルに言う。
「……一ついいっすか」
その言葉には彼の衣服から漂う軽さがなく、とても重い物。
その重い言葉で彼はカイルに問いかける。
「今のアンタには精霊がどういう風に見えてるっすか?」
「……ッ!」
突然そんな事を聞かれて思わず言葉が出なかった。
そして畳みかけるように男は言う。
「アンタは俺の同類かもしれない」
「……同類?」
思わず返した言葉に男は答える。
「精霊が資源に思えない。この世界が歪なものに見える。さっきのアンタは少し前の俺みたいだった。さあ、どうっすか。アンタに精霊はどういう風に見える?」
「……分からない」
カイルは素直にそう答えていた。
分かってる。精霊は資源だ。それ以外の答えは頭のおかしい回答だ。そんな事を知らない人間相手に言ってはならない事は分かっている。
だけど目の前の人間は明らかに他の人間とは違っていて。もしかすると今の状況を打破するきっかけになるかもしれなくて。
「……精霊は資源の筈だ。だけど……なんかもう、分かんねえんだ」
「そこまで言えればもうアンタは立派に俺と同じ頭のおかしい人間っすよ」
頭のおかしいという言葉に思わず反論しようとして、それでもどこか反論できなくて。
そんなカイルに男は言う。
「今、時間大丈夫っすか?」
「あ、ああ」
「なら一緒に飯でもどうっすか。アンタとは少し話がしたいっす」
そう言って彼は思いだしたように付け加える。
「ああ、でも流石に飯誘う前に自己紹介位しとかねえと。俺はナイル。アンタは?」
「カイル・バーンだ。とりあえず俺もアンタから話を聞きたい」
「じゃあ決まりっすね。とりあえず行きますか」
そして先導してナイルと名乗った男は歩きだし、カイルはその後ろを付いていく。
当然警戒はしながら。
それでもその先に全ての打開策が待っているかもしれないという期待を抱きながら。
この歪な世界に耐えながら歩みを進めた。
一体精霊という資源は、彼にとってどういう風に映っているのだろうか?
果たして今目の前にいる存在は一体何なのだろうか?
「……」
あれから半月が経過した。
カイル・バーンは今だに答えを出せていない。
カイルはシオンを止める事が出来なかった。
例え彼を力でねじ伏せたとしても、彼の意思を折ることができないと思ったから。
そして言葉でも。彼の思想の片鱗も理解できない自分ではどうにもならないと思ったから。
そしてあまりに違いすぎる思想に、一人戦いに臨む彼に着いていく事すらできなかった。
だから知ろうと思った。
シオン・クロウリーの見ている世界を正しく認識した上で、正しい道に引き戻す為に。
だがどれだけ考えても理解が及ばない。
本当に何も分からないのだ。
だけど一つ変わった事があったとすれば。
「……お前は一体なんなんだ」
シオンの視線で世界を見ようとして、無理矢理にでも歪んだ見かたをしようとして。
そうした普通の人間ならばそもそもやろうともしない視点で精霊を見続けて。
結果的に精霊という存在が一体何なのかが分からなくなってきた。
精霊は資源だ。それは分かっている。
だけど本当にそうなのかと。違った側面があるのではないかと。
精霊の見方を変えるという小さな歪みがら生まれた何かは確かに大きくなって、そうした思考に捕らわれて、抜け出そうと思考にふければ更なる深みへと嵌る。
かつてのシオン・クロウリーの様に精神的な強いショックで足を踏み入れたのではなく、小さなきっかけから足を踏み入れた彼は、そこから容易に抜け出せない。
「……なあ、シオン」
もう此処にはいない。自分とは違う世界を見て戦いに臨んだ親友に問う。
「……一体何が正しいんだ。俺は本当に……正しいのか?」
その答えを返す者は此処にはいない。
だから今日も彼は一人でそれを抱え込む。
目の前の資源である筈の何かの正体について、今日も思い悩む。
そして思い悩み続けた結果、どうやら精神的に病んでしまったのかもしれない。
かつて瀬戸栄治やシオン・クロウリーが歪な世界を視界に捉えたのとはまた違う。
食事の為にホテルを出たカイルの視界に映った世界は、より歪な何かだった。
「……ッ」
今まで当たり前の様に見てきた光景だ。
人間がドール化した精霊を連れて歩く。そんな自分自身が当たり前の様にしてきた光景。
そして今現在自分自身もしている事。
そんな世界がついに精神的に負荷をかける程に歪な光景に思えてきたのだ。
「……」
例えばその光景の正体が分かれば。瀬戸栄治やシオン・クロウリーの様にその光景が何故歪なものなのかを理解できれば、ひとまず割り切る事ができたかもしれない。
だけどこの日初めて世界が歪に見えた彼には、その知識も耐性も何もなくて。
原因不明の何かに精神を狂わされていくような、そんな感覚に陥る。
(……普通の光景だ。普通だろ。なのになんで俺は……)
考えても答えが出ず、嫌な汗まで掻いてきて。気が付けば半ば放心状態にまで陥っていた。
そんな彼を現実に引き戻したのは人の声だった。
「……アンタ、大丈夫っすか?」
気が付けば知らない男が目の前に立っていた。
二十代前半程のチャラい容姿の男。
「どうしたんすか。世界の終わりでも見たような顔をして」
「あ、いや……」
突然現れた男に何を返したらいいか分からず、思わずそんな言葉を返す。
そしてその直後、彼もまた隣りにドール化された精霊を連れているのをみて、思わずそこに視線を集中させてしまう。
果たして自分はどんな目でその精霊を見たのだろうか。それは分からない。
だけどその視線に気付いたのか男はカイルに言う。
「……一ついいっすか」
その言葉には彼の衣服から漂う軽さがなく、とても重い物。
その重い言葉で彼はカイルに問いかける。
「今のアンタには精霊がどういう風に見えてるっすか?」
「……ッ!」
突然そんな事を聞かれて思わず言葉が出なかった。
そして畳みかけるように男は言う。
「アンタは俺の同類かもしれない」
「……同類?」
思わず返した言葉に男は答える。
「精霊が資源に思えない。この世界が歪なものに見える。さっきのアンタは少し前の俺みたいだった。さあ、どうっすか。アンタに精霊はどういう風に見える?」
「……分からない」
カイルは素直にそう答えていた。
分かってる。精霊は資源だ。それ以外の答えは頭のおかしい回答だ。そんな事を知らない人間相手に言ってはならない事は分かっている。
だけど目の前の人間は明らかに他の人間とは違っていて。もしかすると今の状況を打破するきっかけになるかもしれなくて。
「……精霊は資源の筈だ。だけど……なんかもう、分かんねえんだ」
「そこまで言えればもうアンタは立派に俺と同じ頭のおかしい人間っすよ」
頭のおかしいという言葉に思わず反論しようとして、それでもどこか反論できなくて。
そんなカイルに男は言う。
「今、時間大丈夫っすか?」
「あ、ああ」
「なら一緒に飯でもどうっすか。アンタとは少し話がしたいっす」
そう言って彼は思いだしたように付け加える。
「ああ、でも流石に飯誘う前に自己紹介位しとかねえと。俺はナイル。アンタは?」
「カイル・バーンだ。とりあえず俺もアンタから話を聞きたい」
「じゃあ決まりっすね。とりあえず行きますか」
そして先導してナイルと名乗った男は歩きだし、カイルはその後ろを付いていく。
当然警戒はしながら。
それでもその先に全ての打開策が待っているかもしれないという期待を抱きながら。
この歪な世界に耐えながら歩みを進めた。
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