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六章 君ガ為のカタストロフィ
40 イルミナティ Ⅰ
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「……さて、とりあえずキミ達は客人だ。何か飲み物を用意しよう。何か希望はあるか?」
「……んなもんどうだっていい。さっさと話に入れよ」
「それもそうか。ならばお望み通りこちらも本題に入らせてもらうとしよう」
そして男は一拍空けてから言う。
「名前はエルと言ったか。我々はあの精霊を救いたい。その為に力を貸してほしい……いや、違うな。力を貸させてくれ」
男が口にした単刀直入な頼みに思わず絶句した。
精霊を救いたい。エルを救いたい。
その言葉は俺達が思っている事そのもので、それだけを聞けば俺達と目の前の男たちは同じ方向を向いているのではないかと錯覚させる。
だけど錯覚だ。錯覚でなければおかしいんだ。
……だってそうだろ。
「何のつもりだよお前……力を貸すも何もてめえらが元凶だろうが!」
「ちょ、馬鹿落着け栄治!」
思わず声を荒げて立ち上がった俺の手を誠一が掴んで、無理矢理引き戻される。
だが言葉は止まらない。
「お前らがやってる事止めれば全部丸く収まんだよ! さっさとお前らが使ってる訳のわかんねえ魔術を止めろ! そうすりゃそれだけでエルは救われるんだ!」
「……救われない」
「なに!?」
「それでは誰も救われんよ。あの精霊もキミ達も、そして我々も。全員揃って救われない」
「そもそもだ」
俺が何かを言い返す前に、誠一が流れを断ち切るようにそう話に切りこんで、男に問う。
「何故アンタらは精霊を暴走なんてさせてる。精霊を暴走させて一体なんのメリットがあった」
「メリットなんて何もないさ」
さも当然の事を口にするように、男はそう断言して続ける。
「精霊の暴走。それで一体今まで何人の人間が死んだ? 一体何人の精霊が死んだ? それによりこの世界に齎された幸福があったか? その答えはキミ達も良く分かっている筈だ。件の多発天災だけでも約三十億人の人間が亡くなっている。その元凶となった精霊もまた皆殺しだ。そして残った物は重苦しい感情と、瓦礫と遺体の山。私達がそこにメリットなどを見出せる存在なのだとすれば、もう私達は人間などではないさ。ただの狂った人の形をした何かだ」
「だったら……なんであなた達はそんな事をしてるの」
宮村が怒りを押し殺すようにしながら、改めてそう問いかける。
それに対して男は躊躇う事も無くこんな事を言いだした。
「世界を救う為」
そんな訳の分からない事を。
「ふざけてんのかてめえ!」
だけど取り乱す様子もなく男は言う。
「ふざけてなどいない。だがキミ達がそう思うのも無理はないさ。何しろキミ達はこの世界の事を……そして精霊の事を何も知らない表側の人間だからな」
「表側……だと?」
誠一がそう反応を返す。
一般的に認知されていない魔術を駆使して精霊と戦う組織である対策局。俺の様な元々普通の立場だった人間に言わせれば、明確に世界の裏側に存在する様な組織。その一員である誠一や宮村。
俺だけならともかくその二人も纏めて目の前の男は表側扱いをした。だからその言葉には大きな違和感を感じる。
「表側だよ。キミ達は確かに一般人には知られていない情報や技術を数多く有している。それは認めよう。だがそれでも知らない事も多々ある筈だ。例えばキミ達は……そもそも精霊がどういう存在かを知っているか?」
精霊が、どういう存在か。
「ちなみに言っておくが人と同じ姿をした人成らざる存在という風な、率直な感想ではない答えは無しだ。具体的に精霊という存在がどういった経緯で何の目的で生まれてくるか。それを知っているなら答えてみるがいい」
「……」
……その問いに俺は答えられない。
少なくとも俺はそういう話をエルとしてこなかった。俺にとって精霊は人間と変わらない存在という位置づけで、それ以上の事はあまり深く考える事は無かった。
そしてそれは誠一や宮村も同じ事で……精霊であるエルですらも同じ事だった。
「答えられねえよ。ただ気が付けば異世界の何処かに生まれてくる。それだけの事しかエルも……精霊自身も知らないみたいだったからな」
俺が眠っている間に、エルは色々と対策局の人間に情報を求められてそれに答えている。その中でそういう問いが出て来たのだろう。そしてエルは何も知らなかった。
……エルですらその事は分からなかったのだ。
だとすれば少しおかしな話だ。
誠一はそのまま俺が思っている事と同じ言葉を続ける。
「なのにアンタは知っているって言いたいのか? 精霊も知らない精霊の事を」
「知っているとも。でなければこんな問いかけはしない」
間髪空けずに男はそう返した。
精霊ですら知らない情報を、堂々と知っていると言ったのだ。
「なら言ってみろよ」
そして俺の言葉に対して男は答えを口にする。
「そうだな……簡潔に纏めれば精霊は人間に利用される為に生まれてくる存在なんだ」
それは何度も何度も耳にした最悪な言葉。
「言わば人間の為の資源だよ」
異世界の人間が精霊に向ける感情と、同じ言葉。
「……んなもんどうだっていい。さっさと話に入れよ」
「それもそうか。ならばお望み通りこちらも本題に入らせてもらうとしよう」
そして男は一拍空けてから言う。
「名前はエルと言ったか。我々はあの精霊を救いたい。その為に力を貸してほしい……いや、違うな。力を貸させてくれ」
男が口にした単刀直入な頼みに思わず絶句した。
精霊を救いたい。エルを救いたい。
その言葉は俺達が思っている事そのもので、それだけを聞けば俺達と目の前の男たちは同じ方向を向いているのではないかと錯覚させる。
だけど錯覚だ。錯覚でなければおかしいんだ。
……だってそうだろ。
「何のつもりだよお前……力を貸すも何もてめえらが元凶だろうが!」
「ちょ、馬鹿落着け栄治!」
思わず声を荒げて立ち上がった俺の手を誠一が掴んで、無理矢理引き戻される。
だが言葉は止まらない。
「お前らがやってる事止めれば全部丸く収まんだよ! さっさとお前らが使ってる訳のわかんねえ魔術を止めろ! そうすりゃそれだけでエルは救われるんだ!」
「……救われない」
「なに!?」
「それでは誰も救われんよ。あの精霊もキミ達も、そして我々も。全員揃って救われない」
「そもそもだ」
俺が何かを言い返す前に、誠一が流れを断ち切るようにそう話に切りこんで、男に問う。
「何故アンタらは精霊を暴走なんてさせてる。精霊を暴走させて一体なんのメリットがあった」
「メリットなんて何もないさ」
さも当然の事を口にするように、男はそう断言して続ける。
「精霊の暴走。それで一体今まで何人の人間が死んだ? 一体何人の精霊が死んだ? それによりこの世界に齎された幸福があったか? その答えはキミ達も良く分かっている筈だ。件の多発天災だけでも約三十億人の人間が亡くなっている。その元凶となった精霊もまた皆殺しだ。そして残った物は重苦しい感情と、瓦礫と遺体の山。私達がそこにメリットなどを見出せる存在なのだとすれば、もう私達は人間などではないさ。ただの狂った人の形をした何かだ」
「だったら……なんであなた達はそんな事をしてるの」
宮村が怒りを押し殺すようにしながら、改めてそう問いかける。
それに対して男は躊躇う事も無くこんな事を言いだした。
「世界を救う為」
そんな訳の分からない事を。
「ふざけてんのかてめえ!」
だけど取り乱す様子もなく男は言う。
「ふざけてなどいない。だがキミ達がそう思うのも無理はないさ。何しろキミ達はこの世界の事を……そして精霊の事を何も知らない表側の人間だからな」
「表側……だと?」
誠一がそう反応を返す。
一般的に認知されていない魔術を駆使して精霊と戦う組織である対策局。俺の様な元々普通の立場だった人間に言わせれば、明確に世界の裏側に存在する様な組織。その一員である誠一や宮村。
俺だけならともかくその二人も纏めて目の前の男は表側扱いをした。だからその言葉には大きな違和感を感じる。
「表側だよ。キミ達は確かに一般人には知られていない情報や技術を数多く有している。それは認めよう。だがそれでも知らない事も多々ある筈だ。例えばキミ達は……そもそも精霊がどういう存在かを知っているか?」
精霊が、どういう存在か。
「ちなみに言っておくが人と同じ姿をした人成らざる存在という風な、率直な感想ではない答えは無しだ。具体的に精霊という存在がどういった経緯で何の目的で生まれてくるか。それを知っているなら答えてみるがいい」
「……」
……その問いに俺は答えられない。
少なくとも俺はそういう話をエルとしてこなかった。俺にとって精霊は人間と変わらない存在という位置づけで、それ以上の事はあまり深く考える事は無かった。
そしてそれは誠一や宮村も同じ事で……精霊であるエルですらも同じ事だった。
「答えられねえよ。ただ気が付けば異世界の何処かに生まれてくる。それだけの事しかエルも……精霊自身も知らないみたいだったからな」
俺が眠っている間に、エルは色々と対策局の人間に情報を求められてそれに答えている。その中でそういう問いが出て来たのだろう。そしてエルは何も知らなかった。
……エルですらその事は分からなかったのだ。
だとすれば少しおかしな話だ。
誠一はそのまま俺が思っている事と同じ言葉を続ける。
「なのにアンタは知っているって言いたいのか? 精霊も知らない精霊の事を」
「知っているとも。でなければこんな問いかけはしない」
間髪空けずに男はそう返した。
精霊ですら知らない情報を、堂々と知っていると言ったのだ。
「なら言ってみろよ」
そして俺の言葉に対して男は答えを口にする。
「そうだな……簡潔に纏めれば精霊は人間に利用される為に生まれてくる存在なんだ」
それは何度も何度も耳にした最悪な言葉。
「言わば人間の為の資源だよ」
異世界の人間が精霊に向ける感情と、同じ言葉。
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