人の身にして精霊王

山外大河

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六章 君ガ為のカタストロフィ

36 友達の友達

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 俺達が和室の前へとやってきたのとほぼ同時に、宮村茜は疲れが見える表情を浮かべながら和室から出てきた。

「一時中断か?」

「うん、流石に疲れたよ……体がなまり過ぎてヤバイね。んで、とりあえず瀬戸君起きたっぽいやり取り聞こえてきたから、中断するなら今かなって思って出てきた」

「成果は?」

「あれば疲れなんてお構いなしだよ。難しいね」

 不甲斐なさそうに宮村はそう言った後、一拍空けてから言う。

「これは真っちゃんさんが手こずってるのも分かるよ。碌に情報を辿れない。なんか魔術相手じゃなく違う何かを相手にしてるんじゃないかって位ガード固いんだ」

「真っちゃんさん?」

「兄貴ん所の班の人で、全体的にハイスペックだけど特に何かを探知したりする魔術に長けてる。皆は親しみを込めて真っちゃんと呼んでんだ」

「さんいる?」

「いるだろ、先輩だぞ」

 ……絶対いらないだろう。付けるにしても真っさんとかの方がいいんじゃねえの?
 まあそんな事はどうでもいい。そんなどうでもいい事を考えている場合じゃない。
 そんな事を考えられるだけの余裕を、誠一や宮村という味方がいる事でほんの少しだけでも得られているのかもしれないけれど、それでもそうして余裕を得たのならばそれは他の事に使うべきだ。

「……まあそれはともかくだ」

 誠一が話を仕切りなおす。

「栄治が知っていて俺達が知らない事やその逆もあるかもしれねえ。その辺の情報の擦り合わせも必要だろ。茜も疲れ切ってるわけだし……ここらで情報交換も含めて飯でも行かねえか? 時間も丁度昼時だろ」

「飯か」

 まあ確かに丁度昼前ではあるし、空腹感があるかどうかと言われればあるのは間違いない。
 ……正直そういう時間を惜しんででも動かなければならないとは思うけれど、誠一の言う通り情報の擦り合わせはしなくてはならないだろうし、そして宮村も疲れきっているのは目に見えて分かる。確かにここらで休憩の意味も含めて飯にでもいくべきなのかもしれない。

「まあごもっともだな。俺はそれでいいよ」

「茜は?」

「そうだね。実際私も疲れて一時中断してるわけだし……ご飯いこっか」

「んじゃ決まりだな。とりあえずファミレスで良いか?」

「それは良いんだけどさ、情報の擦り合わせすんだろ? だったら外で飯食うと不都合起きねえか?」

 魔術や精霊絡みの話は世間一般には知られていない、対策局を始めとした精霊に関わる世界中の機関が隠し通している話だ。それを外で話すのはどうかとは思ったけれど、冷静に考えればその辺りは大丈夫なのだろう。
 例えば天野と何事もなく話をしたように、誠一達には魔術がある。

「その点は大丈夫だ。都合の悪い話が外に聞こえない様に魔術で細工できる。寧ろそれで反応が出るようなら……ソイツは黒だと思った方がいい」

 誠一は一拍空けてから言う。

「やってる事の規模考えると、どこにそういう連中がいるのか分かったもんじゃねえからな。もしかすると俺達も何度かすれちがってるかもしれねえ」

「……それでうまく見つかってくれりゃいいけどな」

「まあこれに関しては居ればラッキー程度に考えとけ。だけどいた場合は……分かってるな?」

「何がなんでも情報を聞き出す、だよね」

「ああ。場の状況は魔術でなんとでもなる。んでこっちには俺に茜に栄治。もし戦闘になっても戦力としては申し分ない。だから情報を聞きだせる。ま、何度も言うが、そううまくはいかねえだろうけども、そうなったらって事は頭入れとけ」

 ……まあ確率としては薄いよな。店内にそういうやつがいる可能性なんて。
 でもいれば。いてくれれば。

「ああ」

 エルを救える。

「じゃあとりあえずさっさと行くか……っとその前に、ちょっと待っててくれ」

「どした?」

「どうもお前の部屋にスマホ忘れてきたっぽい。取ってくるわ」

 そう言って誠一は部屋を出て行く。
 まあ別に待つのはいい。正直一分もかからない待機時間だ。だから全然その事に対して文句などは無い。
 だけどまあ、誠一がいなくなった後は……妙に居心地が悪かった。

「……そういえば誠一君やエルちゃん無しでキミと二人になるのは初めてじゃないかな、瀬戸君」

「多分そうだろうな」

 結果的に俺と宮村茜が部屋に取り残された形になったわけだが、俺達は別に友達でもなんでもない。
 俺にとってはエルの親友で、そして誠一の……彼女でいいのか? 宮村って。
 まあとにかく友達の友達の様な状態なわけだ。だからこう、やや気まずい感じはあるだろう。
 それに俺はエルを心配する宮村……正確には誠一の電話だったのだけれど、それをこっちの判断で一方的に遮断したわけで、それに関してかどうかは分からないが、あの時助けられた時に言いたい事が色々あると言われたという経緯もある。
 事が事だけに何言われるのだろうと考えると、それがまた気まずさを上昇させる。
 そして宮村は言う。

「……瀬戸君は、エルちゃんの事が大事だよね?」

「ああ。多分……いや、間違いなく、俺にとっては何よりも大事な存在だよ」

「私もね、何よりもって言葉は付けられるかどうかは分からないけど、それでも私の大切な友達なんだ。親友だって胸張って言える様な、私にとっても大切な存在なんだ」

 だから、と宮村は言う。

「この先、あの時みたいにエルちゃんの事を一人で抱え込むのは止めてほしいな」

 宮村は一拍空けてから言う。

「気持ちは分かるよ。それは良くわかるんだ。だけどエルちゃんの為に何かしてあげたいって思う人はいるから。こんな状況になっても、味方になろうって思える人はキミ以外にもちゃんといるから。だから……エルちゃんが危ない時は除け者にしないでよ」 

 ……分かってる。それは多分あの時の俺も分かっていた筈なんだ。
 だけどリスクが大きいように思えたから、そういう判断はしなかった。
 だけど……今なら。
 あの場にあの状況で助けに来てくれた誠一と宮村ならば、もう、そんなリスクは感じない。
 だから誰にでもという訳にはいかないさ。だけど誠一と宮村なら。

「ああ、悪かった。もっと頼らせてもらうよ」

 二人のなら、差し伸べられた手を取ることができる。

「それでいいよ、約束ね」

「ああ」

 宮村の言葉にそう答えた時、丁度誠一も部屋へと戻ってきた。

「あったか?」

「あったぞ。普通に落ちてた。ってことで改めて昼行くか」

「行こうぜ」

「賛成」

「じゃあ行きますか」

 そんなやり取りを交わして俺達はファミレスに向かう事にした。
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