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六章 君ガ為のカタストロフィ
35 タイムリミット
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「……そのタイムリミットの詳細は?」
薬でどうにかなるという希望がほぼ確実に潰えた今、残されたタイムリミットで全てを解決しなければならない。
果たしてその新薬は俺達にどれだけの時間を用意してくれたのだろうか?
「二日半って所だな。だから今の時間から考えると残り二日。それが霞先生が確実に正気を保っていられるって判断したボーダーラインだ」
「二日……それを超えれば……エルは暴走するのか?」
「……すぐにとは言わねえけど、おそおらく徐々にな」
徐々に。
あの時エルが正気と暴走を繰り返していたように、どっち付かづの状況になるって訳か。
「だとすりゃ残された時間は二日プラスアルファって所か……短いけど確実にそこで終わっちまう事が確定してねえだけマシか」
「いや、そのプラスアルファは無いものだと思った方がいい」
「なんでだよ」
「多分対策局は待ってその二日の可能性が高い」
「……は? ど、どういう事だよ誠一」
俺の言葉に誠一は言いにくそうに答える。
「エルをこういう風に例えるのが不適切だってのは分かるけどな、分かりやすく言うと今のアイツは時限爆弾だよ。二日を超えればいつ暴走するか分からない。そして暴走すれば……例え僅かな時間でも最強クラスの精霊の力が都市防衛の要ともいえる施設内で振るわれる。これがどういう事か分かるか?」
「……対策局にとってリスクが大きすぎる」
「ああ。対策局には今すぐ代替が容易できない重要な装置なんてのも置かれている。だから最悪の自体が起きる前に……っていう可能性が高いだろうよ。その事について多分上で色々揉めてる筈だが……もう感情論で動ける段階じゃない。結果は見えてる」
だから、と誠一は言う。
「俺達に残されたタイムリミットは約二日。その時間でエルを助ける為の手段を探さなきゃいけない」
「……ッ」
二日。このままではエルがあと二日で死ぬ。殺される。
不確定な期限じゃない。こうして明確なリミットを告げられると、不安を逃がす抜け道も見つからなくて、考えている最悪の自体が驚くほど鮮明に現実味を醸し出していて、息が苦しくなる。
「……どうすりゃいいんだよ」
「それをこれから考えよう」
一拍空けてから誠一は言う。
「どれだけ役に立つかは分かんねえけど、お前には内部事情にそこそこ詳しいダチと天才魔術師が付いてる。三人で考えりゃ何にか良い手が思い付くかもしれない」
「……悪いな、誠一」
「いいって。昨日も言ったろ? 一緒に足掻くって」
「……こりゃ終ったらマジでラーメン奢らねえといけねえな」
「楽しみにしてんぞ」
「ああ」
……本当に助かるよ、誠一。
「で、三人って事は宮村もいるのか」
「ああ。一応俺が此処にいるのは、お前が下手な動きしないように見張るって命令が下ったからでな。それは茜の奴も同じだ。だから俺達二人で此処にいるんだ」
「その宮村は?」
「とりあえず和室借りてる」
「……和室? 何故に?」
「……お前は直接聞いてたんだろ。エルが暴走するそもそもの原因の話」
「……ああ」
エルの体内のSB細胞とやらが増加する事によって暴走する。
そして……そうさせている人間がいる。
「訳わかんねえよな。誰が何の目的でこんな事してんのか……で、対策局は今その犯人の捜索を急ピッチで行ってる。当然、俺もな」
「じゃあお前がさっき使っていた魔術も、ソイツらを探す為の魔術か?」
「そうだ。まあ結果はお察しというか、まるで分かんなかったんだけどよ」
……だけど、と誠一は言う。
「茜は俺とは違ってマジな天才だよ。そりゃ流石にブランクはあるけどよ……だけど俺には使えないような高度な術も多く使える。俺のよりも遥かに精度の高い探知魔術もな」
「……で、それを和室で使ってるって事か?」
「そういう事。まあ和室である事に意味はあんまりねえけど。ただ片付いてたのと、茜の奴が個人的に和室の方が落ち着くからって。それだけの理由。まあお前も起きた事だし、一回様子見にいくか」
「……そうだな」
どちらにしても、色々協力してくれている宮村にも改めて礼は言わなければならない。
俺は誠一と共に部屋から出た。
そして歩きだそうとした誠一を、そういえばと呼び止める。
「宮村は相当な魔術の使い手なんだよな?」
「そうだ。俺とお前が二人掛かりで挑んでもまず間違いなく勝てねえ」
「……だろうな」
……間違いなく、今の俺どころかエルを刀にした俺よりも宮村茜は強い。あの短い戦いの中でそれは理解できた。
だからこそ疑問が残る。
「で、茜の奴がどうした」
「いや、一応対策局はエルのタイムリミットを迎える前に、その犯人を見付けようとしてくれているんだよな?」
「まあな。少なくとも大半の連中はエルを救えるなら救いたいって連中だ。でなけりゃ今までエルが対策局に通える様な環境は作れていなかっただろうし……俺の兄貴も厳重注意と減俸と始末書なんてクソ甘い処罰で済んでねえ……それがどうした」
「いや、正直天野に匹敵する実力者なら、なんで俺の監視なんかに寄越したんだって思ってさ。だって貴重な戦力だろ。俺を見てれば少なからず片手間になる筈だ」
「ああ、それか。そりゃ俺の憶測でしかねえが、答えは割と簡単だ」
誠一は一拍空けてから言う。
「扱いがお前と殆ど変わらねえんだよ。この状況下で何をやらかすか分からない人間にカテゴライズされてんだろ。だからこうしてエルと接触できない状態にされてる。何せ今はともかく昔の茜は精霊を助ける為に必死になっていたような人間で……そして今じゃエルの親友だからな。そしてそこに天野さんクラスの実力が伴えば流石に対策はされる」
「……成程」
そう考えれば宮村も俺の様に行動を起こそうとする可能性がある。そして動けば俺以上に厄介だ。
だとすれば色々と腑に落ちる。
腑に落ちて、そしてもう一つ誠一に問いかけた。
「……お前もか?」
「……俺はそもそも呼んでも呼ばなくても大差ねえ。そんな程度だ俺の探知は。だから単純に俺はストッパーか何かのつもりで此処に送られたのかもしれない」
だけど、と誠一は言う。
「結果的にストッパーなんてのは今この場所にいない訳だが」
「さっき止めたじゃねえか」
「アレは軌道修正っていうんだよ」
そんなやり取りを交わした後、俺達は和室に向けて歩きだした。
薬でどうにかなるという希望がほぼ確実に潰えた今、残されたタイムリミットで全てを解決しなければならない。
果たしてその新薬は俺達にどれだけの時間を用意してくれたのだろうか?
「二日半って所だな。だから今の時間から考えると残り二日。それが霞先生が確実に正気を保っていられるって判断したボーダーラインだ」
「二日……それを超えれば……エルは暴走するのか?」
「……すぐにとは言わねえけど、おそおらく徐々にな」
徐々に。
あの時エルが正気と暴走を繰り返していたように、どっち付かづの状況になるって訳か。
「だとすりゃ残された時間は二日プラスアルファって所か……短いけど確実にそこで終わっちまう事が確定してねえだけマシか」
「いや、そのプラスアルファは無いものだと思った方がいい」
「なんでだよ」
「多分対策局は待ってその二日の可能性が高い」
「……は? ど、どういう事だよ誠一」
俺の言葉に誠一は言いにくそうに答える。
「エルをこういう風に例えるのが不適切だってのは分かるけどな、分かりやすく言うと今のアイツは時限爆弾だよ。二日を超えればいつ暴走するか分からない。そして暴走すれば……例え僅かな時間でも最強クラスの精霊の力が都市防衛の要ともいえる施設内で振るわれる。これがどういう事か分かるか?」
「……対策局にとってリスクが大きすぎる」
「ああ。対策局には今すぐ代替が容易できない重要な装置なんてのも置かれている。だから最悪の自体が起きる前に……っていう可能性が高いだろうよ。その事について多分上で色々揉めてる筈だが……もう感情論で動ける段階じゃない。結果は見えてる」
だから、と誠一は言う。
「俺達に残されたタイムリミットは約二日。その時間でエルを助ける為の手段を探さなきゃいけない」
「……ッ」
二日。このままではエルがあと二日で死ぬ。殺される。
不確定な期限じゃない。こうして明確なリミットを告げられると、不安を逃がす抜け道も見つからなくて、考えている最悪の自体が驚くほど鮮明に現実味を醸し出していて、息が苦しくなる。
「……どうすりゃいいんだよ」
「それをこれから考えよう」
一拍空けてから誠一は言う。
「どれだけ役に立つかは分かんねえけど、お前には内部事情にそこそこ詳しいダチと天才魔術師が付いてる。三人で考えりゃ何にか良い手が思い付くかもしれない」
「……悪いな、誠一」
「いいって。昨日も言ったろ? 一緒に足掻くって」
「……こりゃ終ったらマジでラーメン奢らねえといけねえな」
「楽しみにしてんぞ」
「ああ」
……本当に助かるよ、誠一。
「で、三人って事は宮村もいるのか」
「ああ。一応俺が此処にいるのは、お前が下手な動きしないように見張るって命令が下ったからでな。それは茜の奴も同じだ。だから俺達二人で此処にいるんだ」
「その宮村は?」
「とりあえず和室借りてる」
「……和室? 何故に?」
「……お前は直接聞いてたんだろ。エルが暴走するそもそもの原因の話」
「……ああ」
エルの体内のSB細胞とやらが増加する事によって暴走する。
そして……そうさせている人間がいる。
「訳わかんねえよな。誰が何の目的でこんな事してんのか……で、対策局は今その犯人の捜索を急ピッチで行ってる。当然、俺もな」
「じゃあお前がさっき使っていた魔術も、ソイツらを探す為の魔術か?」
「そうだ。まあ結果はお察しというか、まるで分かんなかったんだけどよ」
……だけど、と誠一は言う。
「茜は俺とは違ってマジな天才だよ。そりゃ流石にブランクはあるけどよ……だけど俺には使えないような高度な術も多く使える。俺のよりも遥かに精度の高い探知魔術もな」
「……で、それを和室で使ってるって事か?」
「そういう事。まあ和室である事に意味はあんまりねえけど。ただ片付いてたのと、茜の奴が個人的に和室の方が落ち着くからって。それだけの理由。まあお前も起きた事だし、一回様子見にいくか」
「……そうだな」
どちらにしても、色々協力してくれている宮村にも改めて礼は言わなければならない。
俺は誠一と共に部屋から出た。
そして歩きだそうとした誠一を、そういえばと呼び止める。
「宮村は相当な魔術の使い手なんだよな?」
「そうだ。俺とお前が二人掛かりで挑んでもまず間違いなく勝てねえ」
「……だろうな」
……間違いなく、今の俺どころかエルを刀にした俺よりも宮村茜は強い。あの短い戦いの中でそれは理解できた。
だからこそ疑問が残る。
「で、茜の奴がどうした」
「いや、一応対策局はエルのタイムリミットを迎える前に、その犯人を見付けようとしてくれているんだよな?」
「まあな。少なくとも大半の連中はエルを救えるなら救いたいって連中だ。でなけりゃ今までエルが対策局に通える様な環境は作れていなかっただろうし……俺の兄貴も厳重注意と減俸と始末書なんてクソ甘い処罰で済んでねえ……それがどうした」
「いや、正直天野に匹敵する実力者なら、なんで俺の監視なんかに寄越したんだって思ってさ。だって貴重な戦力だろ。俺を見てれば少なからず片手間になる筈だ」
「ああ、それか。そりゃ俺の憶測でしかねえが、答えは割と簡単だ」
誠一は一拍空けてから言う。
「扱いがお前と殆ど変わらねえんだよ。この状況下で何をやらかすか分からない人間にカテゴライズされてんだろ。だからこうしてエルと接触できない状態にされてる。何せ今はともかく昔の茜は精霊を助ける為に必死になっていたような人間で……そして今じゃエルの親友だからな。そしてそこに天野さんクラスの実力が伴えば流石に対策はされる」
「……成程」
そう考えれば宮村も俺の様に行動を起こそうとする可能性がある。そして動けば俺以上に厄介だ。
だとすれば色々と腑に落ちる。
腑に落ちて、そしてもう一つ誠一に問いかけた。
「……お前もか?」
「……俺はそもそも呼んでも呼ばなくても大差ねえ。そんな程度だ俺の探知は。だから単純に俺はストッパーか何かのつもりで此処に送られたのかもしれない」
だけど、と誠一は言う。
「結果的にストッパーなんてのは今この場所にいない訳だが」
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「アレは軌道修正っていうんだよ」
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