207 / 431
六章 君ガ為のカタストロフィ
ex あなたが私を見てくれるなら
しおりを挟む
「お前は今自分のやっている事が、本当に正しいとでも思っているのか……ッ!?」
天野宗也のその言葉に動揺したのはエイジだけではない。エルもまた揺さぶられていた。
その問いにエイジがどういう反応を示すかという事がまず一つだ。
エイジが正しいと思う事を何が何でもやろうとする人間なのはよく知っている。今エイジがその問いに叫んだのもきっと考えを反らそうとしてくれているだけなのだと思う。
きっと正しいと思った事とやりたいと思った事は違うであろうと、そう信じたかったからそう思う事にした。
だけどエイジがどれだけ考えを反らそうとしても、それでも結局それは考えてしまう事で、それをどうやっても考えてしまうから、初めて出会った日に助けてくれた瀬戸栄治という人間が出来上がったのだろう。
そしてきっとエイジは今自分がやっている事を正しいとは思わないだろう。
手段もなく、甚大なリスクだけがそこにある。そんな事を正しいと思うわけがない。
そしてエルの動揺はそれだけでは無かった。
結局エイジがそれを正しいと思わないであろうと思う位には、天野の言葉に対してエル自身が否定してしまっている事だった。
そうだ。だって今の自分はとても危険な存在なんだ。
心から一番大切だと言えるエイジにすら、無意識で首を絞めるような真似をした。
そして思い返してみればそれは他の精霊の物と比べれば軽度な暴走だったかもしれないが、次に同じような事が起こればそれこそ多発天災という形でこの世界を蹂躪した他の精霊と同じような状態に陥ってしまうかもしれない。
そうなれば下手をすれば天野の言う通り、自分は無関係な人間を殺してしまうのかもしれない。
その無関係の人間が向こうの世界。こちらから見て異世界の人間であれば多分何も思わなかっただろう。
向こうの人間が精霊に殺される様な事になれば、それはある意味で因果応報だ。そしてエル自身これまで向こうの人間と戦う時は殺してでも前に進むつもりで戦っていた。だからもし対象となるのが向こうの世界の人間であるならば、本当に何も思わなかっただろう。
だけどこちらの世界の人間なら話は別だ。
こちらの世界の人間は向こうの人間とは違う。
こちらの世界の人間はそんな風に蔑ろな扱いをしてはいけない。
エイジや対策局の人間だけじゃない。この世界で生きていればそれだけこの世界の人間と交流を持つことになる。そうして知り合った人間の中には向こうの世界の人間の様などうしようもない連中はいなかった。皆普通に接してくれるのだ。
だとすればそんな相手を自分の意思とは関係なく殺すかもしれない危険人物を、なんの解決策もなく助けるなんて事はとてもじゃないが思えない。
だから、何も言えなかった。
助けてほしくて助けてほしくて助けてほしくて。
それでも誰かを殺す事になるかもしれない重圧に、何も言えなくなっていた。
だけど。
「……エル、俺を信じてくれ」
エイジに不意に言われたそんな言葉。
その言葉で結局この手は伸びた。
果たしてエイジがそう言った意図がエルが思った様な事なのかどうかは分からない。だけどそれでもエイジがこちらに手を伸ばしてくれている気がして、その手を掴みたいと思った。
エイジの事を信じたいと思った。
この手を掴んで離さないで欲しいと思った。
だから。だから縋るように手を伸ばした。
「はい」
故にエルはそう答え、そしてエイジは天野に言葉を返した。
「いや、そうじゃない。俺は間違ってるよ。こんなのは間違いだ。正しいわけがねえんだ」
そうして出てきた言葉は自分をエルを助けるのが間違いだという言葉。
そういう言葉が出てくるのは予想できていて、それを言葉にされると少し苦しい思いになる。だけどそれでもエイジを信じたいと思ったし、エイジが何かと戦っているんだという事は自然と理解できていた。
だからその先の言葉に。エイジの言葉に身を委ねた。
「俺のやろうとしている事はリスクの塊。大勢の人間を危険に晒すかもしれない。それも可能性が薄い解結策すらもねえ。正直な話何をどうすりゃいいのかすら分かんねえんだよ」
「だったら尚更だ! 何故お前は止まらない!」
「んなもん……決まってんだろ」
そして苦しそうに。それでも力強くエイジは声を絞り出した。
「エルを守りたいからに決まってんだろうが!」
この手を確かに掴んでくれた。
「正しいかどうかなんて関係ねえ! 例え間違っていようがんなもん知るか! 例え無関係の人間を勝手に天秤に掛けるようなクズみてえな真似をしてでも俺はエルを守るぞ!」
その言葉を聞いて自分はどうしようもない奴だなぁと思った。
その言葉はエイジを全否定する言葉だ。
あれだけエイジが大切にしてきた誇りを全て捨て、その誇りとは正反対の道を選んででも自分を助けると言ってくれた。
自分自身を蔑ろにしてまで手を伸ばしてくれたのだ。
それは大切な人に自分で自分を殺させたような物なのだ。
なのに。
そうまでしてエイジの心に自分が写っていたのならこれほど嬉しい事は無いって、泣き出しそうになったんだ。
「お前を倒すぞ天野宗也!」
この先を進む事がどれだけ間違いでも。どうしようもなく身勝手で間違いな物だとしても、救い上げて抱きしめてほしいと、そう思ったのだ。
そして気が付けば自分の姿が変わっていた。
大剣から日本刀へ。まるで自身の意思を根本から捻じ曲げてでも守ろうとしてくれた心に反応するように。
そんな自分を手にしてエイジは動きだす。
間違った選択を。選んでほしかった選択を。
エルの手を引いて進みだす。
天野宗也のその言葉に動揺したのはエイジだけではない。エルもまた揺さぶられていた。
その問いにエイジがどういう反応を示すかという事がまず一つだ。
エイジが正しいと思う事を何が何でもやろうとする人間なのはよく知っている。今エイジがその問いに叫んだのもきっと考えを反らそうとしてくれているだけなのだと思う。
きっと正しいと思った事とやりたいと思った事は違うであろうと、そう信じたかったからそう思う事にした。
だけどエイジがどれだけ考えを反らそうとしても、それでも結局それは考えてしまう事で、それをどうやっても考えてしまうから、初めて出会った日に助けてくれた瀬戸栄治という人間が出来上がったのだろう。
そしてきっとエイジは今自分がやっている事を正しいとは思わないだろう。
手段もなく、甚大なリスクだけがそこにある。そんな事を正しいと思うわけがない。
そしてエルの動揺はそれだけでは無かった。
結局エイジがそれを正しいと思わないであろうと思う位には、天野の言葉に対してエル自身が否定してしまっている事だった。
そうだ。だって今の自分はとても危険な存在なんだ。
心から一番大切だと言えるエイジにすら、無意識で首を絞めるような真似をした。
そして思い返してみればそれは他の精霊の物と比べれば軽度な暴走だったかもしれないが、次に同じような事が起こればそれこそ多発天災という形でこの世界を蹂躪した他の精霊と同じような状態に陥ってしまうかもしれない。
そうなれば下手をすれば天野の言う通り、自分は無関係な人間を殺してしまうのかもしれない。
その無関係の人間が向こうの世界。こちらから見て異世界の人間であれば多分何も思わなかっただろう。
向こうの人間が精霊に殺される様な事になれば、それはある意味で因果応報だ。そしてエル自身これまで向こうの人間と戦う時は殺してでも前に進むつもりで戦っていた。だからもし対象となるのが向こうの世界の人間であるならば、本当に何も思わなかっただろう。
だけどこちらの世界の人間なら話は別だ。
こちらの世界の人間は向こうの人間とは違う。
こちらの世界の人間はそんな風に蔑ろな扱いをしてはいけない。
エイジや対策局の人間だけじゃない。この世界で生きていればそれだけこの世界の人間と交流を持つことになる。そうして知り合った人間の中には向こうの世界の人間の様などうしようもない連中はいなかった。皆普通に接してくれるのだ。
だとすればそんな相手を自分の意思とは関係なく殺すかもしれない危険人物を、なんの解決策もなく助けるなんて事はとてもじゃないが思えない。
だから、何も言えなかった。
助けてほしくて助けてほしくて助けてほしくて。
それでも誰かを殺す事になるかもしれない重圧に、何も言えなくなっていた。
だけど。
「……エル、俺を信じてくれ」
エイジに不意に言われたそんな言葉。
その言葉で結局この手は伸びた。
果たしてエイジがそう言った意図がエルが思った様な事なのかどうかは分からない。だけどそれでもエイジがこちらに手を伸ばしてくれている気がして、その手を掴みたいと思った。
エイジの事を信じたいと思った。
この手を掴んで離さないで欲しいと思った。
だから。だから縋るように手を伸ばした。
「はい」
故にエルはそう答え、そしてエイジは天野に言葉を返した。
「いや、そうじゃない。俺は間違ってるよ。こんなのは間違いだ。正しいわけがねえんだ」
そうして出てきた言葉は自分をエルを助けるのが間違いだという言葉。
そういう言葉が出てくるのは予想できていて、それを言葉にされると少し苦しい思いになる。だけどそれでもエイジを信じたいと思ったし、エイジが何かと戦っているんだという事は自然と理解できていた。
だからその先の言葉に。エイジの言葉に身を委ねた。
「俺のやろうとしている事はリスクの塊。大勢の人間を危険に晒すかもしれない。それも可能性が薄い解結策すらもねえ。正直な話何をどうすりゃいいのかすら分かんねえんだよ」
「だったら尚更だ! 何故お前は止まらない!」
「んなもん……決まってんだろ」
そして苦しそうに。それでも力強くエイジは声を絞り出した。
「エルを守りたいからに決まってんだろうが!」
この手を確かに掴んでくれた。
「正しいかどうかなんて関係ねえ! 例え間違っていようがんなもん知るか! 例え無関係の人間を勝手に天秤に掛けるようなクズみてえな真似をしてでも俺はエルを守るぞ!」
その言葉を聞いて自分はどうしようもない奴だなぁと思った。
その言葉はエイジを全否定する言葉だ。
あれだけエイジが大切にしてきた誇りを全て捨て、その誇りとは正反対の道を選んででも自分を助けると言ってくれた。
自分自身を蔑ろにしてまで手を伸ばしてくれたのだ。
それは大切な人に自分で自分を殺させたような物なのだ。
なのに。
そうまでしてエイジの心に自分が写っていたのならこれほど嬉しい事は無いって、泣き出しそうになったんだ。
「お前を倒すぞ天野宗也!」
この先を進む事がどれだけ間違いでも。どうしようもなく身勝手で間違いな物だとしても、救い上げて抱きしめてほしいと、そう思ったのだ。
そして気が付けば自分の姿が変わっていた。
大剣から日本刀へ。まるで自身の意思を根本から捻じ曲げてでも守ろうとしてくれた心に反応するように。
そんな自分を手にしてエイジは動きだす。
間違った選択を。選んでほしかった選択を。
エルの手を引いて進みだす。
0
お気に入りに追加
372
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
我が家に子犬がやって来た!
もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。
アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。
だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。
この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。
※全102話で完結済。
★『小説家になろう』でも読めます★
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
チート夫婦のお気楽異世界生活
謙虚なサークル
ファンタジー
とある夫婦は結婚式の日、突如雷に打たれた。
目覚めた二人がいたのは異世界。
若返っている上にチートスキルも手にしていた二人はあっさりと異世界に順応し、気楽に生きていくことにする。
どこまでも適当でどこまでものんびりな、そんなお気楽異世界旅。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
八百長試合を引き受けていたが、もう必要ないと言われたので圧勝させてもらいます
海夏世もみじ
ファンタジー
月一に開催されるリーヴェ王国最強決定大会。そこに毎回登場するアッシュという少年は、金をもらう代わりに対戦相手にわざと負けるという、いわゆる「八百長試合」をしていた。
だが次の大会が目前となったある日、もうお前は必要ないと言われてしまう。八百長が必要ないなら本気を出してもいい。
彼は手加減をやめ、“本当の力”を解放する。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
嫌われ聖女さんはとうとう怒る〜今更大切にするなんて言われても、もう知らない〜
𝓝𝓞𝓐
ファンタジー
13歳の時に聖女として認定されてから、身を粉にして人々のために頑張り続けたセレスティアさん。どんな人が相手だろうと、死にかけながらも癒し続けた。
だが、その結果は悲惨の一言に尽きた。
「もっと早く癒せよ! このグズが!」
「お前がもっと早く治療しないせいで、後遺症が残った! 死んで詫びろ!」
「お前が呪いを防いでいれば! 私はこんなに醜くならなかったのに! お前も呪われろ!」
また、日々大人も気絶するほどの魔力回復ポーションを飲み続けながら、国中に魔物を弱らせる結界を張っていたのだが……、
「もっと出力を上げんか! 貴様のせいで我が国の騎士が傷付いたではないか! とっとと癒せ! このウスノロが!」
「チッ。あの能無しのせいで……」
頑張っても頑張っても誰にも感謝されず、それどころか罵られるばかり。
もう我慢ならない!
聖女さんは、とうとう怒った。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる