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六章 君ガ為のカタストロフィ
8 策略の考察
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「で、どうする。家まで送るか?」
「そうしてくれると助かる」
対策局での特訓を終えた俺は、来た時と同じく誠一のバイクの後ろに乗り家へと向かってい始めた。
時刻は午後六時。特訓を始めたのが四時過ぎだったから約一時間半程の特訓という事になる。本来そういう装置の存在すらも知れない一般人が講師付きで使わせてもらえた時間としては十分すぎる程に長いだろう。
その成果がすぐに現れるかというとそれは違うだろうが、少しくらいは前へと進めているだろうとは思う。
それでもまだ間違いなく誠一にも勝てないし、エルと比べても見劣りするかもしれないけれど。
それでも少しはその差は埋まっただろうか。
埋まっていてくれればいいなと思う。
そんな事を考えていた時だった。
「なあ栄治」
誠一がこんな話題を投げかけてきた。
いや、それを話題という捉え方で受け取ってはいけないのかもしれない。
そういう類の話。まだ差がまるで埋まっていない話。
「改めて俺からも言っとくがな……天野さんには気を付けろ」
今この世界できっともっとも警戒しなければならない男の話。
多分何度も話をしておかなければならない話。
「あの人の事だ。対策局の外でもお前らに接触してくるかもしれない」
「……マジか」
「マジだよ」
これまでもエルに嫌悪感を示す対策局の人間は一定数居た。だけどそれでもやってくる事と言えばすれ違った際に嫌悪感の籠った視線を向けてくる事位だった。
それは精々できる事がその程度だからという事が大きいのだと思う。ありがたいことに対策局全体で見ればエルを歓迎するムードが漂っているし、言いたくないが精霊の研究材料としての利用価値という後ろ楯も存在している事が大きい。その中でエルに直接手を出すような事はそうできる事ではないだろう。
だけど考えてみれば態々警戒する様に言われる相手だ。俺はその人の事を何も知らないが、そんな後ろ楯程度で止まる相手では無いのかも知れない。
少なくとも他の人間より一歩先まで踏み込んでくる可能性は高い。
まあそれでもだ。
「でも直接手を出してくる可能性は低いんだろ。関わってほしくはないし警戒もするけどそれだけは救いだよな」
向こうの人間を相手にするよりはずっと気分は楽だ。それだけ面倒な奴でもそれでもエルとの間に一枚隔たりがある。向こうの様にいきなり直接危害を加えてくる事がないだろうという憶測だけでもあるだけで俺達にとっては充分に救いだ。
「まあ兄貴も言ってたが下手に手は出してこねえだろうさ。接触はしてきてもな。今の状況ならおそらくは何も起きない可能性が高いだろうよ」
誠一はそう言って今の俺の言葉と誠一の兄貴の言葉を肯定する。
だけど続けて面倒臭そうに言葉を続けた。
「今の状況のままならな」
「どういう事だよ」
不穏な言葉に思わず反応してしまう。そしてそんな俺に更に誠一は不穏な言葉を投げかける。
「エルの奴を攻撃できない位には後ろ盾がある。だけどこの後ろ盾がなくなっちまえばどう事が進むと思う?」
後ろ盾が……なくなる?
「後ろ盾がなくなるってそれこそどういう事だよ」
「やり様はいくらでもあるって事だ。難しいがそういう状況を作りだせるように立ち回られる可能性。そういう風に流れを持っていく為の接触。お前らがあの人との接触で危惧しなきゃいけねえのは多分そういう事だよ」
「……」
なるほど、そういう事か。
例えば具体的に接触の仕方がそうしたことに当てはまるのかは分からないが、だけどももし接触してくるようならエルに危害を直接加える為というよりそういう回りくどいが確実なそういう事の方が可能性が高いように思える。
「まあこれも俺の憶測にすぎねえ。だけどもう一度釘は刺しとくぞ。警戒しとけ。ちゃんと守ってやれよ」
「言われなくても分かってるよ」
「ならいい。俺らも出来る限りサポートはするつもりだ。なんかあったら呼べ。可能な限り駈けつける」
「……頼ってばっかで悪いな」
本当に色々と助けてもらってばかりだ。
「いいんだよ。何もこっちもタダで助けてやるって言ってるわけじゃねえんだ」
「ちげえのか?」
「今度暇な時ラーメン屋でも巡ろうぜ。それでどうだ」
「……地獄巡りだな」
「例の一件に関しちゃ正直すまんかったと思ってる。だからそう言うな、ラーメン屋巡りを地獄とか言うんじゃねえぶっ殺すぞ」
「謝ってんのかキレてんのかどっちだ」
「どっちでもねえよ。ただの雑談だこんなもん」
誠一は軽く笑いながらそう言ってバイクを減速させる。赤信号だ。
と、そうしてバイクを止めた俺達の視界の先に事の中心人物が現れた。
「……エルだ」
視界の先に買い物袋をもってスーパー出てくるエルの姿が映った。
「悪い誠一、此処まででいいわ」
「言うと思った行ってこい。女の子にあんまり重い物とか持たすな」
「了解」
そんな会話を交わしながらバイクから降りる。
まだ信号は変わらない。その間に最後に誠一が俺に言う。
「まあ天野さんが帰ってくるのは明日だ。今日くらいはゆっくりしとけ……っと青だ。じゃあ俺はこれで」
そんな会話を交わした後、誠一はそのままバイクで走り去っていく。
そしてその場に残された俺は小走りでエルの元へと動きだした。
自然と心を落ち着かせながら。
「そうしてくれると助かる」
対策局での特訓を終えた俺は、来た時と同じく誠一のバイクの後ろに乗り家へと向かってい始めた。
時刻は午後六時。特訓を始めたのが四時過ぎだったから約一時間半程の特訓という事になる。本来そういう装置の存在すらも知れない一般人が講師付きで使わせてもらえた時間としては十分すぎる程に長いだろう。
その成果がすぐに現れるかというとそれは違うだろうが、少しくらいは前へと進めているだろうとは思う。
それでもまだ間違いなく誠一にも勝てないし、エルと比べても見劣りするかもしれないけれど。
それでも少しはその差は埋まっただろうか。
埋まっていてくれればいいなと思う。
そんな事を考えていた時だった。
「なあ栄治」
誠一がこんな話題を投げかけてきた。
いや、それを話題という捉え方で受け取ってはいけないのかもしれない。
そういう類の話。まだ差がまるで埋まっていない話。
「改めて俺からも言っとくがな……天野さんには気を付けろ」
今この世界できっともっとも警戒しなければならない男の話。
多分何度も話をしておかなければならない話。
「あの人の事だ。対策局の外でもお前らに接触してくるかもしれない」
「……マジか」
「マジだよ」
これまでもエルに嫌悪感を示す対策局の人間は一定数居た。だけどそれでもやってくる事と言えばすれ違った際に嫌悪感の籠った視線を向けてくる事位だった。
それは精々できる事がその程度だからという事が大きいのだと思う。ありがたいことに対策局全体で見ればエルを歓迎するムードが漂っているし、言いたくないが精霊の研究材料としての利用価値という後ろ楯も存在している事が大きい。その中でエルに直接手を出すような事はそうできる事ではないだろう。
だけど考えてみれば態々警戒する様に言われる相手だ。俺はその人の事を何も知らないが、そんな後ろ楯程度で止まる相手では無いのかも知れない。
少なくとも他の人間より一歩先まで踏み込んでくる可能性は高い。
まあそれでもだ。
「でも直接手を出してくる可能性は低いんだろ。関わってほしくはないし警戒もするけどそれだけは救いだよな」
向こうの人間を相手にするよりはずっと気分は楽だ。それだけ面倒な奴でもそれでもエルとの間に一枚隔たりがある。向こうの様にいきなり直接危害を加えてくる事がないだろうという憶測だけでもあるだけで俺達にとっては充分に救いだ。
「まあ兄貴も言ってたが下手に手は出してこねえだろうさ。接触はしてきてもな。今の状況ならおそらくは何も起きない可能性が高いだろうよ」
誠一はそう言って今の俺の言葉と誠一の兄貴の言葉を肯定する。
だけど続けて面倒臭そうに言葉を続けた。
「今の状況のままならな」
「どういう事だよ」
不穏な言葉に思わず反応してしまう。そしてそんな俺に更に誠一は不穏な言葉を投げかける。
「エルの奴を攻撃できない位には後ろ盾がある。だけどこの後ろ盾がなくなっちまえばどう事が進むと思う?」
後ろ盾が……なくなる?
「後ろ盾がなくなるってそれこそどういう事だよ」
「やり様はいくらでもあるって事だ。難しいがそういう状況を作りだせるように立ち回られる可能性。そういう風に流れを持っていく為の接触。お前らがあの人との接触で危惧しなきゃいけねえのは多分そういう事だよ」
「……」
なるほど、そういう事か。
例えば具体的に接触の仕方がそうしたことに当てはまるのかは分からないが、だけどももし接触してくるようならエルに危害を直接加える為というよりそういう回りくどいが確実なそういう事の方が可能性が高いように思える。
「まあこれも俺の憶測にすぎねえ。だけどもう一度釘は刺しとくぞ。警戒しとけ。ちゃんと守ってやれよ」
「言われなくても分かってるよ」
「ならいい。俺らも出来る限りサポートはするつもりだ。なんかあったら呼べ。可能な限り駈けつける」
「……頼ってばっかで悪いな」
本当に色々と助けてもらってばかりだ。
「いいんだよ。何もこっちもタダで助けてやるって言ってるわけじゃねえんだ」
「ちげえのか?」
「今度暇な時ラーメン屋でも巡ろうぜ。それでどうだ」
「……地獄巡りだな」
「例の一件に関しちゃ正直すまんかったと思ってる。だからそう言うな、ラーメン屋巡りを地獄とか言うんじゃねえぶっ殺すぞ」
「謝ってんのかキレてんのかどっちだ」
「どっちでもねえよ。ただの雑談だこんなもん」
誠一は軽く笑いながらそう言ってバイクを減速させる。赤信号だ。
と、そうしてバイクを止めた俺達の視界の先に事の中心人物が現れた。
「……エルだ」
視界の先に買い物袋をもってスーパー出てくるエルの姿が映った。
「悪い誠一、此処まででいいわ」
「言うと思った行ってこい。女の子にあんまり重い物とか持たすな」
「了解」
そんな会話を交わしながらバイクから降りる。
まだ信号は変わらない。その間に最後に誠一が俺に言う。
「まあ天野さんが帰ってくるのは明日だ。今日くらいはゆっくりしとけ……っと青だ。じゃあ俺はこれで」
そんな会話を交わした後、誠一はそのままバイクで走り去っていく。
そしてその場に残された俺は小走りでエルの元へと動きだした。
自然と心を落ち着かせながら。
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