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五章 絶界の楽園
ex 暗闇の中で a
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ゆっくりと海の底に沈んでいく様な、そんな気分だった。
体も動かず、何が起きているのかもよく頭に入ってこない。ただ頭も回らず目の前の光景をぼんやりと見ている様な、そんな時間が流れていた。
そうしてぼんやりと視界に映る光景に対して何か思うわけではない。自分のやっているであろう事に対して端から抵抗を感じないからなのか……それとも何一つ物事を考えられない程に頭が回っていないのか。
結果的にそれは少なくとも後者ではない。
抱いた感情は確かにあった。
こちらに向かって飛んで来る一人の人間がいた。
それが誰だかは認識できる。
ずっと何を考えているのか理解できなかった。ずっとどういう感情を向ければいいのか分からなかった。
ずっと……信用する事が出来なかった。人間らしくない人間だ。
その人間がこちらに向かって飛んできた。
本当に情けない表情で。今まで見せてこなかったような表情で。
こちらに縋りつく様な表情で、こちらに向かって手を伸ばしてきたのだ。
目の前の人間の事は今まで何も理解できなかった。
……だけど今なら分かる気がする。全てとは言えなくとも、その片鱗位は理解できるような気がする。
その縋りつく様な表情を見て。裏表の無いような酷い表情を見て。目の前の人間が今まで自分達にどういう感情を向けていたのか。それは偶然か必然か理解する事ができた様な、そんな気がした。
何も分からないこの状況で、何も分からなかった人間の片鱗だけは確かに伝わってきたような、そんな気がした。
だから手を握られて発動した何かを、自然と受け入れたのだと思う。
そして左手に焼けるような痛みが走って、唐突に意識が鮮明になってくる。
結局今何が起きていて、何がどうなったかなんてのは何も分からない。
だけどずっと心の中の掛かっていた靄は晴れ……自然とその手を握り返した。
体も動かず、何が起きているのかもよく頭に入ってこない。ただ頭も回らず目の前の光景をぼんやりと見ている様な、そんな時間が流れていた。
そうしてぼんやりと視界に映る光景に対して何か思うわけではない。自分のやっているであろう事に対して端から抵抗を感じないからなのか……それとも何一つ物事を考えられない程に頭が回っていないのか。
結果的にそれは少なくとも後者ではない。
抱いた感情は確かにあった。
こちらに向かって飛んで来る一人の人間がいた。
それが誰だかは認識できる。
ずっと何を考えているのか理解できなかった。ずっとどういう感情を向ければいいのか分からなかった。
ずっと……信用する事が出来なかった。人間らしくない人間だ。
その人間がこちらに向かって飛んできた。
本当に情けない表情で。今まで見せてこなかったような表情で。
こちらに縋りつく様な表情で、こちらに向かって手を伸ばしてきたのだ。
目の前の人間の事は今まで何も理解できなかった。
……だけど今なら分かる気がする。全てとは言えなくとも、その片鱗位は理解できるような気がする。
その縋りつく様な表情を見て。裏表の無いような酷い表情を見て。目の前の人間が今まで自分達にどういう感情を向けていたのか。それは偶然か必然か理解する事ができた様な、そんな気がした。
何も分からないこの状況で、何も分からなかった人間の片鱗だけは確かに伝わってきたような、そんな気がした。
だから手を握られて発動した何かを、自然と受け入れたのだと思う。
そして左手に焼けるような痛みが走って、唐突に意識が鮮明になってくる。
結局今何が起きていて、何がどうなったかなんてのは何も分からない。
だけどずっと心の中の掛かっていた靄は晴れ……自然とその手を握り返した。
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