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三章 誇りに塗れた英雄譚
ex とある旅芸人の話
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とある少年が大罪人と成り得る前。
そんな彼に……ではなく、その隣に立つ少女に興味を示した旅芸人の青年がいた。
かつてその少女は悪い意味で注目を受ける存在だったが、今はそういう存在でもない。基本的に周りの人間と何も変わらない。そんな風に視界に移り、注目される様な事はない。
だがとある旅芸人の青年は、自然と彼女に視線を向けた。
そしてその視線には一切の歪みも悪意も存在しない。ただ純粋な一目惚れだったのだと思う。
基本青年は軽い性格だ。軽い気持ちで旅芸人になったし、軽い気持ちで人に接する。だからきっと隣を歩く少年がいなければ声を掛けていただろう。
だけど居たから声は掛けなかった。略奪愛だとか、そう言った類は好きではない。だからあくまで青年にとっての少女は、思わず一目惚れしてしまった程度の印象で終わる。
だけど確かに印象には残っていた。彼が思っている以上に胸に深く刻みこまれていたのだろう。
だからこそ、彼はその場に立ち尽くしてしまったのかもしれない。
夜。飛び込み営業を無事に終えた青年は、思わぬ形で少女との邂逅を果たす。
いや、それが本当に彼女だったのかどうかは分からない。
そんな存在が、窓から飛び降りる姿を彼は目撃した。
自分が一目惚れした女の子と、瓜二つの精霊がそこには居た。
青年が茫然とする中、当然こちらに視線は向けられず、そのまま勢いよく彼女はその場から立ち去った。
そして残された青年は茫然としながら考える。
どう見たって目の前に飛び出してきたのは精霊にしか見えない。それは視界に移った瞬間から直感的にそう理解できる。
なのにどうして一瞬でもあの子だと思ってしまったのだろうか?
何故今に至っても、そうなのではないかという思いを捨てられないのだろうか?
もしそうだとすれば……自分はどうして今も精霊に好意的な感情を抱いている?
ただの顔見知りなら、適当な理由を付けて自分から切り離せたかもしれない。似ているだけと思えたかもしれない。
だけど心に深く刻まれた傷は、そう簡単に事を運ばない。
結局目の前の精霊が昼間の少女本人だったかも、そして自問自答の答えも見つけられない。
故に彼は暫く呆然と立ち尽くすことしかできなかった。
だけどやがて彼も動き出す。
歩き出した方向が、本当に正しいのかも分からないまま。
きっとこうして、世界は姿を変えて行く。
そんな彼に……ではなく、その隣に立つ少女に興味を示した旅芸人の青年がいた。
かつてその少女は悪い意味で注目を受ける存在だったが、今はそういう存在でもない。基本的に周りの人間と何も変わらない。そんな風に視界に移り、注目される様な事はない。
だがとある旅芸人の青年は、自然と彼女に視線を向けた。
そしてその視線には一切の歪みも悪意も存在しない。ただ純粋な一目惚れだったのだと思う。
基本青年は軽い性格だ。軽い気持ちで旅芸人になったし、軽い気持ちで人に接する。だからきっと隣を歩く少年がいなければ声を掛けていただろう。
だけど居たから声は掛けなかった。略奪愛だとか、そう言った類は好きではない。だからあくまで青年にとっての少女は、思わず一目惚れしてしまった程度の印象で終わる。
だけど確かに印象には残っていた。彼が思っている以上に胸に深く刻みこまれていたのだろう。
だからこそ、彼はその場に立ち尽くしてしまったのかもしれない。
夜。飛び込み営業を無事に終えた青年は、思わぬ形で少女との邂逅を果たす。
いや、それが本当に彼女だったのかどうかは分からない。
そんな存在が、窓から飛び降りる姿を彼は目撃した。
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青年が茫然とする中、当然こちらに視線は向けられず、そのまま勢いよく彼女はその場から立ち去った。
そして残された青年は茫然としながら考える。
どう見たって目の前に飛び出してきたのは精霊にしか見えない。それは視界に移った瞬間から直感的にそう理解できる。
なのにどうして一瞬でもあの子だと思ってしまったのだろうか?
何故今に至っても、そうなのではないかという思いを捨てられないのだろうか?
もしそうだとすれば……自分はどうして今も精霊に好意的な感情を抱いている?
ただの顔見知りなら、適当な理由を付けて自分から切り離せたかもしれない。似ているだけと思えたかもしれない。
だけど心に深く刻まれた傷は、そう簡単に事を運ばない。
結局目の前の精霊が昼間の少女本人だったかも、そして自問自答の答えも見つけられない。
故に彼は暫く呆然と立ち尽くすことしかできなかった。
だけどやがて彼も動き出す。
歩き出した方向が、本当に正しいのかも分からないまま。
きっとこうして、世界は姿を変えて行く。
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