人の身にして精霊王

山外大河

文字の大きさ
上 下
83 / 431
三章 誇りに塗れた英雄譚

19 そして彼らは止められない

しおりを挟む
「……よし」

 これで俺達とカイルとの戦いは、終わりを迎えた。
 だけど戦いそのものは何も終わってはいない。
 ……多分、エルは此処まで来る際に相対した相手を全て倒してきたわけではないだろう。経験の有無なんかを考えれば、俺よりもエルの方が実力が上だとは思うけど、だとしても警備を全て倒す様な事は出来ないと思う。できたとしても、警報が鳴ってから此処にエルが辿り着いた時間を考えると、まともに相手をしていたらきっとまだ到達していないだろう。
 ……つまりは、追手が来る。というより、俺達の目の前に現れた。

「動くな! 大人しくしろ!」

 ドール化された精霊を連れた警備員がぞろぞろと入ってくる。精霊を合わせて総勢八名と言った所か。
 きっと確実に制圧する為に、突入前に態勢を整えたのだろう。生半可な人数では精霊一人止めることができなかった事を、きっとエルが証明したからだ。
 だけどその基準で態勢を整えたのならば、それは間違いだ。
 無意味とは言わない。こちらが取れる行動に確実の二文字なんてない。何がどうなるかなんて分かったもんじゃない。
 だけど少なくとも……今の状態であるならば、八人ならなんとかなる。
 つまりは、抑え込むには数が足りない。

「ってオイ……あの精霊はどうした。反応は確かに此処に――」

 いる筈の精霊が居ない。その事に戸惑う警備員達に、それを考える猶予など持たせない。
 片っ端からぶっ飛ばす。
 そんな思いで俺は剣を構える。それと同時、そもそもそんな事など考えないドール化された精霊が。そして早々と状況に適応できた二名の警備員がそれぞれ動き出した。
 精霊三人と警備員一人が前衛として此方に接近し、残り二人がその場で何かしらの精霊術の構築にかかる。
 ……迎え撃つ。
 俺は全力で地面を蹴り、前衛部隊に突っ込む。
 そして一閃。一番先頭に居た精霊を薙ぎ払う。
 その隙を突くように作り出した剣を握った精霊と警備員が同時に攻撃を仕掛けてくるが、俺もその攻撃の隙を突くように前進してくぐりぬける。
 そして僅かに遅れて連携攻撃を取ろうとしていた精霊に全力の突きを放ち突き飛ばした。
 そのまま体を捻って背後を向き、風を操りながら全力で剣を振り上げ、竜巻を発生させ、追い抜いた二人に攻撃を与えつつ、天井まで打ち上げる。
 そして次の瞬間、エルの声が届く。

『エイジさん、跳んでください!』

 その声を聞いた瞬間、俺はそのまま上へと飛ぶ。
 すると俺の真下を炎を纏った巨大な鳥の様な物が通過していた。
 おそらくは後方で精霊術の構築を行っていた連中の攻撃。
 俺の次のターゲットが放った攻撃。
 俺は再び体を捻り、空中で方向転換。そのままの勢いで斜め下。その炎の鳥を作り出した連中と、そしてやや遅れて戦闘に参加し、術式を構築し始めている警備員に向かって、斬撃を放った。
 同時にその場に居た精霊が腕を振るい、水を丸鋸のようにして飛ばしてくるが、それはいとも簡単に斬撃に打ち壊され、斬撃はそのまま精霊と警備員一人をなぎ倒す。
 そしてそれを辛うじて躱した警備員の一人が右手に紫色の球体を作り出し、地面に着地した直後の俺にむけて放ってくる。
 そして勢いよく放たれたそれを更に上回る速度の斬撃が、もう一人の警備員が腕を振るうことにより発生。そのまま球体に衝突し、球体は破裂。直後にそこから紫色のガスの様な者が噴出され、俺達を包囲する。

『エイジさん!』

「分かってる!」

 どういう効果かは知らない。だけど間違いなく俺達に害を与える物。多分毒。そして毒の怖さはあの路地裏での襲撃で嫌という程味わっている。
 だけど相手が刃物に塗られた薬物とかで無いのなら……ガスとかなら、どうにかなる。
 要は吸わなければいい。そしてできることなら、触れなければいい。
 俺は風を操作して、全身に風を纏わせる。
 エルドさんとの戦いで、エルが光の剣を素手で受け止める為に使った応用技と同じ。俺がこの一カ月で身につけた成果。
 顔が隠れる。故に息はできない。でもその間に突破して、大剣を叩きつける位の事は、容易にできる。
 そして俺はガスを突っ切り、目の前で此方に追撃の術を発動させようとしていた警備員の男を薙ぎ払う。その瞬間、ガスが消滅する。どうやら術者が倒れれば消えるようになっていたらしい。

 そして、あと一人。
 俺がガスを突っ切った次の瞬間には、水で剣を形成してもうこちらに飛びかかってきていた。
 あと一人になっても、それでも戦意とは失われていない。流石はプロという所だろうか。
 でも、戦意があろうが無かろうが、関係無い。
 俺達の敵である事に、変わりは無い。
 完全に攻撃の隙を突くその攻撃に、エルが反応した。
 避けられるか五分だったその攻撃は、エルの介入により防げる確率が大きく上がる。
 相手に取って予想外のエルの登場。大怪我で全力は出せなくても、確かに放った蹴り。
 それは敵を倒すには至らないが、激痛と共に動きを止める。そして一瞬でも止まればそこで決着だ。
 俺は再びエルの手を握り剣にする。そして勢いそのままで警備員を薙ぎ払った。
 何度もバウンドして壁に叩きつけた警備員は起き上がってこない。

「……よし」

 少なくとも、目に映る敵は全員倒した。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

八百長試合を引き受けていたが、もう必要ないと言われたので圧勝させてもらいます

海夏世もみじ
ファンタジー
 月一に開催されるリーヴェ王国最強決定大会。そこに毎回登場するアッシュという少年は、金をもらう代わりに対戦相手にわざと負けるという、いわゆる「八百長試合」をしていた。  だが次の大会が目前となったある日、もうお前は必要ないと言われてしまう。八百長が必要ないなら本気を出してもいい。  彼は手加減をやめ、“本当の力”を解放する。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

嫌われ聖女さんはとうとう怒る〜今更大切にするなんて言われても、もう知らない〜

𝓝𝓞𝓐
ファンタジー
13歳の時に聖女として認定されてから、身を粉にして人々のために頑張り続けたセレスティアさん。どんな人が相手だろうと、死にかけながらも癒し続けた。 だが、その結果は悲惨の一言に尽きた。 「もっと早く癒せよ! このグズが!」 「お前がもっと早く治療しないせいで、後遺症が残った! 死んで詫びろ!」 「お前が呪いを防いでいれば! 私はこんなに醜くならなかったのに! お前も呪われろ!」 また、日々大人も気絶するほどの魔力回復ポーションを飲み続けながら、国中に魔物を弱らせる結界を張っていたのだが……、 「もっと出力を上げんか! 貴様のせいで我が国の騎士が傷付いたではないか! とっとと癒せ! このウスノロが!」 「チッ。あの能無しのせいで……」 頑張っても頑張っても誰にも感謝されず、それどころか罵られるばかり。 もう我慢ならない! 聖女さんは、とうとう怒った。

処理中です...