人の身にして精霊王

山外大河

文字の大きさ
上 下
38 / 431
二章 隻腕の精霊使い

19 0.00%

しおりを挟む
「ああああああああああああああああああああああああああッ!」

 ただ、叫び散らした。
 自身を鼓舞する為に。生き残るために。
 だけどそんな事が生存率を上げてくれるわけではない。きっと激痛のショックを多少和らげてくれる位だ。
 全力で地を蹴り向かった先には、それを待ちかまえたかのように精霊が待ちかまえていた。
 その手に携えるは、精霊術で作ったと思わしきハルバード。
 振り下ろされる寸前、左手から風を噴出させ軌道を変えて回避する。だけどその背に激痛が走る。
 俺の行動を読んだかのように、天井間際に跳んでいた男が蹴り飛ばしたのだ。
 そのまま地面にたたき落とされるが、すぐに体勢を整えがむしゃらに正面に跳んだ。
 ハルバードを振り下ろした直後の精霊にタックルをかまし、そのまま突きぬける。
 だが再び背中に激痛。それも先の比では無い。

「が、あああああああああああああああああッ!?」

 激痛と衝撃で一気にバランスを崩し床を転がる。
 その最中に見えたのは精霊の手から離れたハルバートを振るった背の高い女。その女が振るったハルバートは俺の背を確かに切り裂いた。
 だけど、そんな事だけで猛攻は終わらない。

「ぐ……ッ」

 左腕が床に着いた瞬間、地面から文字通りトゲが生えた。
 細く長いそれは俺の左腕を貫き、床に血をまき散らせる。
 そしてまき散らした血が、文字通り飛んできた。

「……ッ!」

 まるで弾丸の様に。重力が真逆になった空間で水滴が落ちた様に。そして銃弾の様に。俺に向かって跳んできた。
 瞬時にトゲから左手を抜いて回避するが左肩を貫かれる。
 そして激痛に顔を歪ませながら体を動かした先には男の拳。

「ッハ……ッ!」

 鳩尾に拳を叩きこまれた。
 意識を失うほどの。否、一瞬意識を失ったんじゃないかと思うほどの重い一撃。その余韻がまるで抜けていない時に、碌に動かなくなった左腕に何かが突き刺さる。
 それは先程の鎖。囲いから脱出しようとする俺を引き戻すが如く、宙に浮いた体は引っ張られる。
「ッそがあああああああああああああああああああッ!」
 俺はそのまま空中に風の塊を出現させ、一気に踏み抜いた。
 自殺行為だ。ある程度体勢を整えられたさっきのとは違う。片腕が動かず、しかも全身の激痛が増しバランスも悪く、更に鎖で引かれて到達地点に大きなズレが生じる。
 元から屋内で使うのは危険が伴うのに、これだけの状況が揃えばもう立派な自殺だ。
 だけど鎖を切ろうとすれば、そのワンクッションの間に畳みこまれる。他の逃げ方をしても畳みかけられる。自らの行動で死ぬかもしれないこの行動が、今俺が取れる唯一の生き残りの道。
 風を踏み浮いた直後。推進力を得ると同時に、左腕に尋常じゃない痛みが走る。
 当然だ。鎖の先に掛る体重が掛っているのだから。きっと抜けにくくなっているソレが人体に与える影響は深刻だ。

 そして抜けにくいは抜けないでは無い。
 ……抜けた。それはまるで、かえしが付いた釣り糸を、無理矢理引き抜いた様に。
 つまりは肉が抉れた。おそらく鎖を切れば自然と消滅するシステムになっているのか、先に足で喰らった時には感じなかった感覚が左腕を中心に発生し、それは意識をも抉り取る。
 そして次に目が覚めた時、目の前にあったのは床だった。
 激しい推進力を纏った体が、受け身を一切取らずに床に叩きつけられる。
 そしてバウンドする様に再び体が宙に浮く。
 揺らぐ視線のその先にはブラックホールの様な何かが展開されていた。
 そしてそれらから、まるでアサルトライフルの様な銃弾が一斉射出される。
 咄嗟に目の前に展開した結界は、数発でひびが入りついに粉砕。全身が銃弾の雨に晒される。
 それでも。
 ……まだ意識は残っていた。
 それはきっと相手にとって想定外だったのだろう。
 俺に当たらない銃弾は後方。奴らの方に飛ぶ。そしてソレらを防ぐ術は持ち合わせている筈だ。だけどそれをしているためか、後方からの追撃は無い。
 つまり奴らはコレで決める気だったのだ。俺を囲んでいた連中の中で、何もしてこなかった奴らが作り上げた戦いを終わらせる術式。アイツらに残されたのは、精々が死体処理位だったんだ。
 だけど俺の意識は確かにある全身に銃弾が当たるが、激痛止まり。何発か貫通するがそれでもまだ死なない。
 ……突破する。
 ……突破、するんだ!

「うおあああああああああああああああああああああああああッ!」

 再び鼓舞する様な雄叫びを上げる。
 意識を失わない様に。生き残るために!
 そして貫いた。ブラックホールを突きぬけた。
 つまりは猛攻を、一時的にでも生き延びた。
 この体でまともに動けるかは分からないが、それでも一歩状況は好転した。
 そう、たかがブラックホールを超えたぐらいでそう思ってしまった。
 精霊術。それは魔法の様な力。少なくとも詳しく知らない俺にとっては魔法と変わらない。何が起きるかなんてわからないのに。
 そして……例えそんな物が絡んでいなくても、何が起きるかなんてのは、まるで分からないのに。
 視界に記憶に残っている顔が映った。
 その手には剣が握られている。
 そして次の瞬間、俺の体から血が吹き出し、着地もできずに再び地に転がる。

「……ァ」

 視界の先が血の海だった。
 俺から流れ出た血液が床を支配する。白かった床を、ただただ赤く染めて行く。
 そして俺を切り捨てた三十代前半程の男は、きっと俺を見降ろしながら言った。

「俺の術が効かない化物だと思ったが、評価すべきはそれだけだ。殺すべきタイミングで殺さなかった。あの時お前は俺を殺しておくべきだった」

 そんな言葉を聞きながら、俺の意識は薄れて行く。
 それは幻覚すらも見せたのだろうか。その先に思わず手を伸ばしたくなる存在が見えた。そんな気がした。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

ダブル魔眼の最強術師 ~前世は散々でしたが、せっかく転生したので今度は最高の人生を目指します!~

雪華慧太
ファンタジー
理不尽なイジメが原因で引きこもっていた俺は、よりにもよって自分の誕生日にあっけなく人生を終えた。魂になった俺は、そこで助けた少女の力で不思議な瞳と前世の記憶を持って異世界に転生する。聖女で超絶美人の母親とエルフの魔法教師! アニメ顔負けの世界の中で今度こそ気楽な学園ライフを送れるかと思いきや、傲慢貴族の息子と戦うことになって……。

異世界転生!ハイハイからの倍人生

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は死んでしまった。 まさか野球観戦で死ぬとは思わなかった。 ホームランボールによって頭を打ち死んでしまった僕は異世界に転生する事になった。 転生する時に女神様がいくら何でも可哀そうという事で特殊な能力を与えてくれた。 それはレベルを減らすことでステータスを無制限に倍にしていける能力だった...

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした

桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。

処理中です...