人の身にして精霊王

山外大河

文字の大きさ
上 下
33 / 431
二章 隻腕の精霊使い

15 突入

しおりを挟む
 ダクトを匍匐前進で進んで行く。
 しかしまさかダクトを匍匐前進なんてのを実際にやる時が来るとは思わなかった。
 でもアレだ。現状俺は肉体強化全開な訳で、これ相当なスピードである。多分端から見たらすげえ早くて気持ち悪そう。カサカサとかいう効果音が合いそう。
 でもまあそんなスピードを出してでも早くしないと。
 シオンの限界が来る前に、事を終わらせる。
 そんな思いで匍匐前進を続けた。
 シオン曰くこのまま一番奥まで進めば、地下一階一番端の階段の前へと出られるらしい。その階段は地下二階を経由してそのまま地下三階へと続いている。なお、シオンが注意を集めている場所とは正反対の位置で、その位置周辺に出入り口は無い。だとすれば警備も少ないのではないだろうか。

 ……本当にそうか?

 俺は勿論の事、シオンも別にこういう潜入とかの専門ではない筈だ。となればたかが高校生位のガキが考えた策を普通に実行に移している訳で、降りた瞬間に敵がわんさかとかになってる可能性だってある。
 とはいえ今更引くに引けない。
 願わくばシオンがしっかりと敵を引き付けて、尚且つここの連中の構成人数がそれ程多く無くて建物内部を警備しきれない。もしくはそもそも出入り口以外警備してないとか、そういう雑な感じである事を祈る。
 そしてなんとか一番奥まで辿りつく。目の前にあるのはなんかこう……蓋みたいな奴がある。レジスターとでも言うのだっただろうか。何にしてもコイツを外して中に侵入すれば完全に敵地の中だ。
 ……どうやって?
 ……ちょっと待て。これ内側から外せる仕様になって無くないか? 完全に外からドライバーでネジ回して開けるタイプの奴だよな。それ以外のタイプがあるのかはしらねえけど。

「……」

 どうすんだよ。
 一応此処まで最高速を出しながらも音を立てずにやってきた訳で……ぶっ壊すなんて荒々しい真似すれば、絶対に音出るじゃねえかよ。気が進まねえ。
 とはいえ……そうするしかないし止まって居る時間も無い。
 俺は拳に力を入れ、目標に叩きこむ。
 見事に凹みながら音を立ててソレは吹っ飛び……そうして見えたのは内部の様子。
 突然飛んでくる筈のない物が飛んできて、呆気に取られている様な内部の人間が一名いた

「やべッ!」

 こんな碌に身動きのとれねえ所を襲われたら本当にマズい。とにかく早く出るんだ。
 そうして俺がダクトから飛び出たのと、目の前の男が状況を把握したタイミング。それはなんとか俺の方が早かった。

「おらァッ!」

 跳び下りながら、顔面に拳を叩きこむ。
 そのまま地に転がる男の上にマウンドポジションを取り、もう一発顔面に拳を叩きこむ。

「……あっぶねえ」

 なんとか意識を奪えた様だ。あと一歩出てくるのが遅かったらこうなっていたのは俺かもしれない。
 そしてゆっくり立ち上がって当たりを見渡す。付近に敵はいない。どこか遠くの方が騒がしい気がするが、それはシオンがドンパチやってくれているからだろうか。
 まあ今はシオンの方に意識は向けてられねえ。とにかくエルの元に急ぐ。
 願わくば敵と遭遇せずにエルの場所まで行ければ良いけど……そううまくはいかないだろう。
 真っ当な組織とかならちゃんと制服とかが配られていそうなもんだけど、倒した男の服装は完全に普段着だ。奪って変装だとか、そううまくはいきそうもない。

 だからこのまま行く。
 エルがいるのはまだ下の階だ。
 だからとりあえずは、そのまま階段を降りる。
 その先に誰かがいればその都度対応だ。ばれずに通れそうなら通過。それが無理なら不意打ちでぶっ飛ばす。
 卑怯だろうがなんだろうが、速攻で倒せるなら問題は無い。
 雑魚ならともかく、あの分身を使ってくる奴レベルの奴が出てこられたら倒せたとしても時間が掛りすぎる。そうなれば仲間がやってきて終っちまう可能性が高い。

 そう思って下に降りる。静かに、それでいて急いで。
 そしてそのまま地下三階まで降り、慎重に通路の状況を確認した所で疑問が沸き出る。
 ……いくらなんでも人いなさすぎじゃねえか?
 全部シオンの所に敵が回っているのか?
 いや……んな訳ねえだろ。あくまでシオンの目的は敵を極力引き付ける事だ。無茶苦茶暴れて、多くの人材を投入しなければならない様な状況を作り出すことだ。
 だけどそれでも、数は減っても普通に散っている筈。一点集中に兵を集める様な馬鹿共なら、多分こうして組織は成り立っていない。そして実際にダクトの外に敵はいた。だからそれは絶対に無い。
 何が一体どうなっている?

 ……駄目だ。さっぱり読めねえ。
 でも、それでも行くしかない。
 俺のやるべき事は変わらない。
 例え運という偶然が俺に味方をしてくれているのだとしても。
 例え敵の手の平の上で踊らされているのだとしても。
 それでも、何も変わらない。
 だから俺は警戒心を強めながらも、全力で走りだした。
 エルの居る所まで、あと少しだ。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

婚約破棄騒動に巻き込まれたモブですが……

こうじ
ファンタジー
『あ、終わった……』王太子の取り巻きの1人であるシューラは人生が詰んだのを感じた。王太子と公爵令嬢の婚約破棄騒動に巻き込まれた結果、全てを失う事になってしまったシューラ、これは元貴族令息のやり直しの物語である。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

チート幼女とSSSランク冒険者

紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】 三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が 過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。 神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。 目を開けると日本人の男女の顔があった。 転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・ 他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・ 転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。 そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語 ※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

処理中です...