人の身にして精霊王

山外大河

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二章 隻腕の精霊使い

15 突入

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 ダクトを匍匐前進で進んで行く。
 しかしまさかダクトを匍匐前進なんてのを実際にやる時が来るとは思わなかった。
 でもアレだ。現状俺は肉体強化全開な訳で、これ相当なスピードである。多分端から見たらすげえ早くて気持ち悪そう。カサカサとかいう効果音が合いそう。
 でもまあそんなスピードを出してでも早くしないと。
 シオンの限界が来る前に、事を終わらせる。
 そんな思いで匍匐前進を続けた。
 シオン曰くこのまま一番奥まで進めば、地下一階一番端の階段の前へと出られるらしい。その階段は地下二階を経由してそのまま地下三階へと続いている。なお、シオンが注意を集めている場所とは正反対の位置で、その位置周辺に出入り口は無い。だとすれば警備も少ないのではないだろうか。

 ……本当にそうか?

 俺は勿論の事、シオンも別にこういう潜入とかの専門ではない筈だ。となればたかが高校生位のガキが考えた策を普通に実行に移している訳で、降りた瞬間に敵がわんさかとかになってる可能性だってある。
 とはいえ今更引くに引けない。
 願わくばシオンがしっかりと敵を引き付けて、尚且つここの連中の構成人数がそれ程多く無くて建物内部を警備しきれない。もしくはそもそも出入り口以外警備してないとか、そういう雑な感じである事を祈る。
 そしてなんとか一番奥まで辿りつく。目の前にあるのはなんかこう……蓋みたいな奴がある。レジスターとでも言うのだっただろうか。何にしてもコイツを外して中に侵入すれば完全に敵地の中だ。
 ……どうやって?
 ……ちょっと待て。これ内側から外せる仕様になって無くないか? 完全に外からドライバーでネジ回して開けるタイプの奴だよな。それ以外のタイプがあるのかはしらねえけど。

「……」

 どうすんだよ。
 一応此処まで最高速を出しながらも音を立てずにやってきた訳で……ぶっ壊すなんて荒々しい真似すれば、絶対に音出るじゃねえかよ。気が進まねえ。
 とはいえ……そうするしかないし止まって居る時間も無い。
 俺は拳に力を入れ、目標に叩きこむ。
 見事に凹みながら音を立ててソレは吹っ飛び……そうして見えたのは内部の様子。
 突然飛んでくる筈のない物が飛んできて、呆気に取られている様な内部の人間が一名いた

「やべッ!」

 こんな碌に身動きのとれねえ所を襲われたら本当にマズい。とにかく早く出るんだ。
 そうして俺がダクトから飛び出たのと、目の前の男が状況を把握したタイミング。それはなんとか俺の方が早かった。

「おらァッ!」

 跳び下りながら、顔面に拳を叩きこむ。
 そのまま地に転がる男の上にマウンドポジションを取り、もう一発顔面に拳を叩きこむ。

「……あっぶねえ」

 なんとか意識を奪えた様だ。あと一歩出てくるのが遅かったらこうなっていたのは俺かもしれない。
 そしてゆっくり立ち上がって当たりを見渡す。付近に敵はいない。どこか遠くの方が騒がしい気がするが、それはシオンがドンパチやってくれているからだろうか。
 まあ今はシオンの方に意識は向けてられねえ。とにかくエルの元に急ぐ。
 願わくば敵と遭遇せずにエルの場所まで行ければ良いけど……そううまくはいかないだろう。
 真っ当な組織とかならちゃんと制服とかが配られていそうなもんだけど、倒した男の服装は完全に普段着だ。奪って変装だとか、そううまくはいきそうもない。

 だからこのまま行く。
 エルがいるのはまだ下の階だ。
 だからとりあえずは、そのまま階段を降りる。
 その先に誰かがいればその都度対応だ。ばれずに通れそうなら通過。それが無理なら不意打ちでぶっ飛ばす。
 卑怯だろうがなんだろうが、速攻で倒せるなら問題は無い。
 雑魚ならともかく、あの分身を使ってくる奴レベルの奴が出てこられたら倒せたとしても時間が掛りすぎる。そうなれば仲間がやってきて終っちまう可能性が高い。

 そう思って下に降りる。静かに、それでいて急いで。
 そしてそのまま地下三階まで降り、慎重に通路の状況を確認した所で疑問が沸き出る。
 ……いくらなんでも人いなさすぎじゃねえか?
 全部シオンの所に敵が回っているのか?
 いや……んな訳ねえだろ。あくまでシオンの目的は敵を極力引き付ける事だ。無茶苦茶暴れて、多くの人材を投入しなければならない様な状況を作り出すことだ。
 だけどそれでも、数は減っても普通に散っている筈。一点集中に兵を集める様な馬鹿共なら、多分こうして組織は成り立っていない。そして実際にダクトの外に敵はいた。だからそれは絶対に無い。
 何が一体どうなっている?

 ……駄目だ。さっぱり読めねえ。
 でも、それでも行くしかない。
 俺のやるべき事は変わらない。
 例え運という偶然が俺に味方をしてくれているのだとしても。
 例え敵の手の平の上で踊らされているのだとしても。
 それでも、何も変わらない。
 だから俺は警戒心を強めながらも、全力で走りだした。
 エルの居る所まで、あと少しだ。
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