115 / 115
2-2 剣と銃
4 きっと自分の意思で
しおりを挟む
「鉄平、缶コーヒー買ってきたのじゃ」
通話が終わった頃、自分の分の菓子パンとコーヒー牛乳と、鉄平の分の缶コーヒーを手にしたユイが車内に戻ってきた。
「……鉄平? どうした、顔色が悪いぞ」
シートベルトを取り付けながら、どこか心配そうにそう聞いて来るユイに静かに言葉を返す。
「……ああ、だろうな」
どうやら神崎との通話で得た情報は、極力平静を保とうとする自分の表情を変えるには十分すぎるものだったらしい。
「神崎さんからの電話じゃったよな? 今起きている事関連の話じゃろ? どうじゃった!?」
「現場に向かいながら話す。だけど……もしお前が行きたくないって途中で思ったら進路変更するからな」
「鉄平。もうその話は済んだじゃろ。だからこうしてコンビニで補給しているわけで」
「まあそれでも……落ち着いて聞いてくれ」
言いながら車を動かしコンビニを出る。
進路は一先ずは事が起きている現場。
……一先ずは。
***
それから、神崎から聞いた情報をそのままユイへと伝えた。
今回のアンノウンは最初に赤坂の前に出現し、その精神を乗っ取った。
そして彼女を救出すると同時に、かつて自分達の時に選んでくれたように、人間の姿を持つアンノウンの命を奪わない戦い方をしたそうだ。
具体的には赤坂とアンノウンを引き剝がす。
引き剥がしたとして赤坂の意識が真っ当である保障は無いが、赤坂が魔術師である以上、アンノウンの活用という手段を剥奪してしまえば同じ魔術師であるウィザードであれば、魔術師赤坂伊月を無力化できる。
そしてアンノウン側もユイがそうであるように、武器として使われていない間の戦闘能力は決して高くはない筈だ。
故に引き剥がせさえすればその後、半ば強引にでもどうにかできる。
どうにかできるというよりも、どうにかする。
そういう算段だったらしい。
だが誤算があった。
ユイという剣のアンノウンが近くに居たが故の誤算。
通常の手段では、人間とアンノウンのペアリングを切る事が出来ないという先入観。
結論を言えば、向こうがユイと同タイプなら勝てていた。
篠原が後衛でサポートし、柚子が前衛で近接戦闘を優位に運び、そして隙を突いて力尽くで銃の形態のアンノウンを引き剥がしたのだ。
ユイと同じならそれで終わり。
自分とユイで同じことをされれば、自分もユイもほぼ完全に無力化されるから。
だけどそうはならなかった。
きっとかつてのユイが鉄平にしたように。
今回のアンノウンが赤坂にしたように。
同じ事が柚子にも行われた。
そしてその柚子が篠原を戦闘不能に追い込んで今に至る。
……そこまで。
……そこまで話した所でユイが口を開く。
「鉄平……」
買ってきた菓子パンには殆ど口を付けず、血の気の引いた表情を浮かべていたユイは鉄平に問いかける。
「こんなの絶対どうにかしなくちゃいけないじゃろ……なのに、なのに鉄平」
どこか困惑した声音で。
「なんで……こんな状況でワシに配慮したのじゃ?」
それはコンビニを出る前にユイに言った、やりたくないなら進路変更するという事についてだろう。
何でも何も、理由はちゃんとある。
「なんでってお前……相手はお前と同じようなタイプのアンノウンで……」
それと戦わせる事が、ユイに対して精神的に大きな負担となる。
「……」
だからこそ。
だからこそだ。
だけど指摘されてようやく違和感に気付いた。
「違うじゃろ! いくらなんでも優先順位が……ッ!」
「……ッ!」
「鉄平がなんで気を使ってくれているのかは分かるのじゃ! だけど……柚子が乗っ取られて篠原さんも大怪我じゃ! 他の皆もどうなるか分からん。そんなの……ワシの状態がどうであれ、やれる事をやらないといけない時じゃ!」
「……」
「ワシの事を心配してくれてるのは嬉しい……でもそれは違うのじゃ鉄平!」
確かに、今のユイには少しでも負担を掛けたくはない。
だけど今は状況が状況で、流石に優先順位は変わってくる筈で。
いくらなんでもこれはユイに頭を下げてでも協力して貰わないといけないような状況な筈で。
「…………確かに、そうだな。悪い、俺もさっきは気が動転してたんだ」
「……今は?」
「大丈夫。やらねえといけねえ事はちゃんと見えている。俺達にやれる事をやるんだ」
「……うん。ワシらで皆を助けるんじゃ」
「おう」
言いながらこの先の戦いに向けて気合を乗せる。
そう、皆を救うのだ。
ユイがそうしたいと言っているなら。
(……いや、違う。そうじゃねえだろ。俺だって皆を……)
どこか、自分の思考にノイズが走っているように、一瞬考えが纏まらなくなる。
(……まあそんな事はどうでも良い。そんな場合じゃねえ)
纏める必要の無い事は纏めずに、この先へと意識を向ける。
勝つ為に。
救うために。
きっと自分の意思で。
通話が終わった頃、自分の分の菓子パンとコーヒー牛乳と、鉄平の分の缶コーヒーを手にしたユイが車内に戻ってきた。
「……鉄平? どうした、顔色が悪いぞ」
シートベルトを取り付けながら、どこか心配そうにそう聞いて来るユイに静かに言葉を返す。
「……ああ、だろうな」
どうやら神崎との通話で得た情報は、極力平静を保とうとする自分の表情を変えるには十分すぎるものだったらしい。
「神崎さんからの電話じゃったよな? 今起きている事関連の話じゃろ? どうじゃった!?」
「現場に向かいながら話す。だけど……もしお前が行きたくないって途中で思ったら進路変更するからな」
「鉄平。もうその話は済んだじゃろ。だからこうしてコンビニで補給しているわけで」
「まあそれでも……落ち着いて聞いてくれ」
言いながら車を動かしコンビニを出る。
進路は一先ずは事が起きている現場。
……一先ずは。
***
それから、神崎から聞いた情報をそのままユイへと伝えた。
今回のアンノウンは最初に赤坂の前に出現し、その精神を乗っ取った。
そして彼女を救出すると同時に、かつて自分達の時に選んでくれたように、人間の姿を持つアンノウンの命を奪わない戦い方をしたそうだ。
具体的には赤坂とアンノウンを引き剝がす。
引き剥がしたとして赤坂の意識が真っ当である保障は無いが、赤坂が魔術師である以上、アンノウンの活用という手段を剥奪してしまえば同じ魔術師であるウィザードであれば、魔術師赤坂伊月を無力化できる。
そしてアンノウン側もユイがそうであるように、武器として使われていない間の戦闘能力は決して高くはない筈だ。
故に引き剥がせさえすればその後、半ば強引にでもどうにかできる。
どうにかできるというよりも、どうにかする。
そういう算段だったらしい。
だが誤算があった。
ユイという剣のアンノウンが近くに居たが故の誤算。
通常の手段では、人間とアンノウンのペアリングを切る事が出来ないという先入観。
結論を言えば、向こうがユイと同タイプなら勝てていた。
篠原が後衛でサポートし、柚子が前衛で近接戦闘を優位に運び、そして隙を突いて力尽くで銃の形態のアンノウンを引き剥がしたのだ。
ユイと同じならそれで終わり。
自分とユイで同じことをされれば、自分もユイもほぼ完全に無力化されるから。
だけどそうはならなかった。
きっとかつてのユイが鉄平にしたように。
今回のアンノウンが赤坂にしたように。
同じ事が柚子にも行われた。
そしてその柚子が篠原を戦闘不能に追い込んで今に至る。
……そこまで。
……そこまで話した所でユイが口を開く。
「鉄平……」
買ってきた菓子パンには殆ど口を付けず、血の気の引いた表情を浮かべていたユイは鉄平に問いかける。
「こんなの絶対どうにかしなくちゃいけないじゃろ……なのに、なのに鉄平」
どこか困惑した声音で。
「なんで……こんな状況でワシに配慮したのじゃ?」
それはコンビニを出る前にユイに言った、やりたくないなら進路変更するという事についてだろう。
何でも何も、理由はちゃんとある。
「なんでってお前……相手はお前と同じようなタイプのアンノウンで……」
それと戦わせる事が、ユイに対して精神的に大きな負担となる。
「……」
だからこそ。
だからこそだ。
だけど指摘されてようやく違和感に気付いた。
「違うじゃろ! いくらなんでも優先順位が……ッ!」
「……ッ!」
「鉄平がなんで気を使ってくれているのかは分かるのじゃ! だけど……柚子が乗っ取られて篠原さんも大怪我じゃ! 他の皆もどうなるか分からん。そんなの……ワシの状態がどうであれ、やれる事をやらないといけない時じゃ!」
「……」
「ワシの事を心配してくれてるのは嬉しい……でもそれは違うのじゃ鉄平!」
確かに、今のユイには少しでも負担を掛けたくはない。
だけど今は状況が状況で、流石に優先順位は変わってくる筈で。
いくらなんでもこれはユイに頭を下げてでも協力して貰わないといけないような状況な筈で。
「…………確かに、そうだな。悪い、俺もさっきは気が動転してたんだ」
「……今は?」
「大丈夫。やらねえといけねえ事はちゃんと見えている。俺達にやれる事をやるんだ」
「……うん。ワシらで皆を助けるんじゃ」
「おう」
言いながらこの先の戦いに向けて気合を乗せる。
そう、皆を救うのだ。
ユイがそうしたいと言っているなら。
(……いや、違う。そうじゃねえだろ。俺だって皆を……)
どこか、自分の思考にノイズが走っているように、一瞬考えが纏まらなくなる。
(……まあそんな事はどうでも良い。そんな場合じゃねえ)
纏める必要の無い事は纏めずに、この先へと意識を向ける。
勝つ為に。
救うために。
きっと自分の意思で。
0
お気に入りに追加
259
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説

ゲーム中盤で死ぬ悪役貴族に転生したので、外れスキル【テイム】を駆使して最強を目指してみた
八又ナガト
ファンタジー
名作恋愛アクションRPG『剣と魔法のシンフォニア』
俺はある日突然、ゲームに登場する悪役貴族、レスト・アルビオンとして転生してしまう。
レストはゲーム中盤で主人公たちに倒され、最期は哀れな死に様を遂げることが決まっている悪役だった。
「まさかよりにもよって、死亡フラグしかない悪役キャラに転生するとは……だが、このまま何もできず殺されるのは御免だ!」
レストの持つスキル【テイム】に特別な力が秘められていることを知っていた俺は、その力を使えば死亡フラグを退けられるのではないかと考えた。
それから俺は前世の知識を総動員し、独自の鍛錬法で【テイム】の力を引き出していく。
「こうして着実に力をつけていけば、ゲームで決められた最期は迎えずに済むはず……いや、もしかしたら最強の座だって狙えるんじゃないか?」
狙いは成功し、俺は驚くべき程の速度で力を身に着けていく。
その結果、やがて俺はラスボスをも超える世界最強の力を獲得し、周囲にはなぜかゲームのメインヒロイン達まで集まってきてしまうのだった――
別サイトでも投稿しております。
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。
女神様の使い、5歳からやってます
めのめむし
ファンタジー
小桜美羽は5歳の幼女。辛い境遇の中でも、最愛の母親と妹と共に明るく生きていたが、ある日母を事故で失い、父親に放置されてしまう。絶望の淵で餓死寸前だった美羽は、異世界の女神レスフィーナに救われる。
「あなたには私の世界で生きる力を身につけやすくするから、それを使って楽しく生きなさい。それで……私のお友達になってちょうだい」
女神から神気の力を授かった美羽は、女神と同じ色の桜色の髪と瞳を手に入れ、魔法生物のきんちゃんと共に新たな世界での冒険に旅立つ。しかし、転移先で男性が襲われているのを目の当たりにし、街がゴブリンの集団に襲われていることに気づく。「大人の男……怖い」と呟きながらも、ゴブリンと戦うか、逃げるか——。いきなり厳しい世界に送られた美羽の運命はいかに?
優しさと試練が待ち受ける、幼い少女の異世界ファンタジー、開幕!
基本、ほのぼの系ですので進行は遅いですが、着実に進んでいきます。
戦闘描写ばかり望む方はご注意ください。
魔石と神器の物語 ~アイテムショップの美人姉妹は、史上最強の助っ人です!~
エール
ファンタジー
古代遺跡群攻略都市「イフカ」を訪れた新進気鋭の若き冒険者(ハンター)、ライナス。
彼が立ち寄った「魔法堂 白銀の翼」は、一風変わったアイテムを扱う魔道具専門店だった。
経営者は若い美人姉妹。
妹は自ら作成したアイテムを冒険の実践にて試用する、才能溢れる魔道具製作者。
そして姉の正体は、特定冒険者と契約を交わし、召喚獣として戦う闇の狂戦士だった。
最高純度の「超魔石」と「充魔石」を体内に埋め込まれた不死属性の彼女は、呪われし武具を纏い、補充用の魔石を求めて戦場に向かう。いつの日か、「人間」に戻ることを夢見て――。

異世界転生!俺はここで生きていく
おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。
同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。
今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。
だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。
意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった!
魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。
俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。
それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ!
小説家になろうでも投稿しています。
メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。
宜しくお願いします。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

ド田舎からやってきた少年、初めての大都会で無双する~今まで遊び場にしていたダンジョンは、攻略不可能の規格外ダンジョンだったみたい〜
むらくも航
ファンタジー
ド田舎の村で育った『エアル』は、この日旅立つ。
幼少の頃、おじいちゃんから聞いた話に憧れ、大都会で立派な『探索者』になりたいと思ったからだ。
そんなエアルがこれまでにしてきたことは、たった一つ。
故郷にあるダンジョンで体を動かしてきたことだ。
自然と共に生き、魔物たちとも触れ合ってきた。
だが、エアルは知らない。
ただの“遊び場”と化していたダンジョンは、攻略不可能のSSSランクであることを。
遊び相手たちは、全て最低でもAランクオーバーの凶暴な魔物たちであることを。
これは、故郷のダンジョンで力をつけすぎた少年エアルが、大都会で無自覚に無双し、羽ばたいていく物語──。

はぁ?とりあえず寝てていい?
夕凪
ファンタジー
嫌いな両親と同級生から逃げて、アメリカ留学をした帰り道。帰国中の飛行機が事故を起こし、日本の女子高生だった私は墜落死した。特に未練もなかったが、強いて言えば、大好きなもふもふと一緒に暮らしたかった。しかし何故か、剣と魔法の異世界で、貴族の子として転生していた。しかも男の子で。今世の両親はとてもやさしくいい人たちで、さらには前世にはいなかった兄弟がいた。せっかくだから思いっきり、もふもふと戯れたい!惰眠を貪りたい!のんびり自由に生きたい!そう思っていたが、5歳の時に行われる判定の儀という、魔法属性を調べた日を境に、幸せな日常が崩れ去っていった・・・。その後、名を変え別の人物として、相棒のもふもふと共に旅に出る。相棒のもふもふであるズィーリオスの為の旅が、次第に自分自身の未来に深く関わっていき、仲間と共に逃れられない運命の荒波に飲み込まれていく。
※第二章は全体的に説明回が多いです。
<<<小説家になろうにて先行投稿しています>>>
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる