魔剣拾った。同居した。

山外大河

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2-2 剣と銃

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 晩御飯をどこにするか。
 その目的地を回転寿司へと決めた鉄平達は、車に乗り込み移動を始めていた。

「ちなみに鉄平はウニって食べた事あるかの?」

「ウニか……食べた事あるけどなんか苦手だったんだよな。それこそ回転寿司で食た」

「回転寿司のウニを悪く言う訳ではないのじゃが、本当に美味しい奴食べたら苦手意識なくなるらしいのじゃ」

「へぇ…………少なくとも今日は回転寿司だから食わねえなぁ」

「そうじゃな……でも先週からウニフェアやってるそうじゃぞ? なんか先週テレビで特集されてたのじゃ」

「……行ってみるか、ウニ」

「いいのか? 高い皿だと思うのじゃ」

「この流れで食わねえってのはねえだろ。ユイも食いたいだろ。寧ろ食いたいからこの話題出してきてるだろ」

「うん……食べたい。食べた事無いしの」

「……具体的に何食べたいかまで出てきてるんなら少し安心だよ」

「そういえば丁度今その番組やってる時間じゃ。毎週色々な飲食店を紹介している奴」

「それで焼肉でも特集されてたら目的地変わるんじゃねえの?」

「一理あるのじゃ」

「一理あるなよ。まあそれならそれで良いんだけどよ」

 そんな会話をしながら、自然な流れでユイはカーナビのモニターを操作してテレビを付ける。
 だが、毎週この時間帯にやっている飲食店を紹介する番組は映らない。
 代わりに映ったのは臨時ニュース。

 伝えている内容はアンノウンの出現と交通規制の情報。

「……鉄平、これ」

「目的地の近くだな……大丈夫かこれ。着いたとしてちゃんと店入れんのか?」

「いや心配するのそこじゃないじゃろう!」

 ユイは驚いたように声を上げる。

「そこは皆の心配をしたりとか、ワシらも行かなくて良いかとか、そういう事じゃないかの!?」

「まあ普段ならそう。その通りだよ」

 色々な意味で、このまま進む訳には行かなくなるかもしれない訳で、一旦近くのコンビニの駐車場に入りながら鉄平は言う。

「でも今はもう少し、自分の事考えた方が良いんじゃねえか?」

「……」

「それに俺は普通に皆の事を信頼して任せていても良いと思うぜ? 本当にヤバい時は今日のさっきみたいに非番の面々にも召集は掛かるわけだからさ。呼ばれてないって事は大丈夫って事だよ。俺達は普通に飯食いに行けば良いんだ」

「……でも」

「……」

 ……一応それらしい事は言ってみたが、自分が実の所普通に心配なのと同じように、というよりユイの場合だと性格上もっと心配なのは分かっていて。
 だからそんなユイに問いかける。

「ユイはどう思う? 一応加勢しに行った方が良いと思うか?」

「……うん」

 ユイは静かにそう頷く。
 頷く……が、その意思を鵜呑みにする事はできない。
 そのまま肯定してやる事はできない。

「それ、義務感で言ってないよな」

「……」

「自分が普段迷惑掛けてるから頑張らないといけないみたいな、そんなつもりで言ってる訳じゃないよな? もしそうだったら止めた方が良いと思う。いや、止めた方がいいというか駄目だ」

 今のユイの状態を考えれば、そういう動機で行動を決めてしまうのは本当に良くない。重ねれば重ねる程悪化していってしまう気がする。
 だから杏からの休んでも良いという免罪符も出ている以上、余程の事が無ければユイを戦いに参加させるつもりはない。
 させてはいけない。

 そしてユイは鉄平の問いに答える。

「……正直それが無いとは言いきれん。皆に迷惑を掛けてるんじゃないかって思えば思う程、やれる事はやらないとって思う」

「だったら──」

「だけど鉄平」

 ユイは少しだけ覇気の籠った声音で、その答えをぶつけてくる。

「それよりも普通に心配なのじゃ! 正直もう何が起きてもおかしくない、今まで以上に危険な状況な訳で……だからワシは……!」

「…………分かったよ。じゃあ行くか」

 言いながら車を停車させ、シートベルトを外す。

「そうなってくると、もう少し何か食べて栄養補給しといた方が良いな。再出発の前に此処のコンビニで何か買おう。何事も無かったら寿司食う量も減っちまうだろうけど、仕方ねえよな」

「いいのか、鉄平」

「良いも何も俺はお前に意地悪していた訳じゃねえ。行かない方が、行かせない方が良いんじゃないかって思っただけで……お前がそう考えてるなら、俺は止めねえ」

 今のユイの精神状態は不安定だ。
 正直争いから遠ざけて、極力穏やかな環境で落ち着かせた方が良いのは間違いない。
 その考え事態は曲げるつもりは無い。

 だけど動こうとする意思が真っ当な物なのなら……それを押さえ付けるのはかえって良くない気もして。
 そういう意思ならば可能な限り肯定してやりたくて。
 だから今は、ユイが進みたいと思っている方に進もうと思う。
 当然、最大限のケアは忘れずに。

「ただし、向こうが大丈夫そうって判断できたり、ユイがあんまり大丈夫そうじゃなかったら帰るからな。そのまま晩飯食いに行くからな」

「分かったのじゃ……というか、鉄平は良いのかの?」

「俺?」

「ほら、今は仕事じゃない訳じゃし……それなのに危ないかもしれない所に向かうのはどうなのかなと」

「まあ俺だって心配だからな……まあ入ったばっかりの新人が心配するのはちょっと失礼かもしれないけど」

「それだとワシもじゃな」

「確かに……まあとにかくサクッと何か買っていこう」

 そう言いながら車を降りたところで、ポケットに入れたスマホに着信が入る。

「……神崎さんだ」

「タイムリーじゃの」

 おそらく現場に出ている可能性が高い神崎からの着信だ。これはもしかすると、自分達がこういう話をしなかったとしても現場に赴く事になっていたかもしれない。

 ……それは即ち戦況的にあまり良くない事を示すので、その推測は外れていて欲しい訳だが。

 そう考えながら、鉄平はユイに言う。

「悪い、俺車の中で話聞くからさ。一人で買ってきてくれねえか」

「了解じゃ。あまり大っぴらに話せない事かもしれないからの。すぐ戻るのじゃ……鉄平は何かいるかの?」

「じゃあ缶コーヒーブラックで」

「はーい」

 明確にやる事ができたのが少し薬になったのかもしれない。
 先程までよりはどこか元気そうな足取りでコンビニに入っていくユイを見送りながら、車内に戻った鉄平は通話に出る。

「もしもし神崎さん。すみませんお待たせしました」

『いやいい。とにかく時間がねえから単刀直入に聞くぞ』

 どこか切羽詰まった様子の神崎は、鉄平に問いかける。

『今ユイは戦いの場に出して良いような状態か!?』

 そこまで聞いて確信した。
 きっとユイの心配は。
 自分が電話に出る前にした推測は当たっている。

 だから自然と恐る恐るといった風に、鉄平は神崎に言葉を返す。

「正直微妙な所ですけど……これ今ニュースで流れている一件の話ですよね。だったら俺達も向かった方が良いんじゃないかって話してて──」

『だったら丁度良い……最悪な状況になった。悪いが今すぐ現場に向かってくれ』

「……最悪って、一体何が有ったんですか」

 鉄平の問いに神崎は少し間を空けて……重苦しい声音で静かに答える。

「……風間の精神がアンノウンに乗っ取られた」

 そんな、自分の想定を遥かに超えるような最悪な事態の概要を。
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