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2-2 剣と銃
1 侵食
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目的地こそ決まっていないものの、帰宅中の車内で今日の夕飯は外食に行く事に決めた。
少し考えて食べたい物を食べに行く。
それで沈んだ気持ちを照らせる程簡単な問題では無いのは分かっているが、そういう問題だからこそ思いついた事はやっていきべきだと思う。
やってあげたいと思う。
そして一旦自宅へと帰ってきた後、ディルバインとの戦いで動き回った鉄平は一旦シャワーを浴びて着替えてから、ソファに座って顔を俯かせたユイに言う。
「食べたい物、決まったか?」
「……いや、あんまり思いつかんの」
「でも食欲無い訳じゃないんだろ?」
「まあ……コンビニで補給したけど、それ以上に今日は力を使っているから。その辺は凄いのじゃ」
「そりゃ良かった」
戦闘で力を消耗しているのに食欲すらないなんて事を言われたら、メンタルの問題を通り越して体も心配になるし、そういう体質なのに食欲が湧かないメンタルがより心配な事になる。
とにかく悩んではいて落ち込んではいるけれど、それでも本当に最悪な状態には至っていないようだった。
「ならゆっくり考えよう。元々今日はまだ仕事って感じの日だったんだからさ。食事の時間ズレれて寝るの多少遅くなる位平気だ平気」
「うん」
「とりあえず一旦コーヒーでも入れるか?」
「……お願いするのじゃ」
「了解」
そんな会話をしながらマグカップを取り出しいつも通りインスタントコーヒーと砂糖を入れていく。
ユイの事を色々と考えながら。
そして鉄平自身も元気のないユイを前に普段通りとはいかなかった。
「……あ」
お湯まで注いだ所でようやく気付いたが、ユイの分だけでなく自分の分にも砂糖を入れてしまっている。
「どうしたのじゃ鉄平」
「いやミスって俺のも滅茶苦茶砂糖入れちまってさ」
言いながらマグカップを手にユイの元へと向かう。
「アレじゃったらワシが両方飲もうか? ほら鉄平甘いコーヒー苦手じゃろ?」
「まあな。正直微糖とかでもあんまりだけど、ユイと同じってなるとこれコーヒーか? って位になってるし……」
具体的に言えば苦み成分一切なし。
缶コーヒーに例えるとマッ○スコーヒー辺りに近い味わいとなっている。
愛好家には申し訳ないがこんなものはコーヒーではない。
「じゃあお前が二杯も飲めるなら……」
とにかくあまり得意ではない上にユイの方から申し出てくれた事で、お言葉に甘えさせて貰おうかと、そう思った時だった。
……不思議と、別にそれをしなくても良いんじゃないかという感情が僅かに湧いて来た。
何も考えずに自分のマグカップにも砂糖を入れてしまった事の延長線上にいるように、そんな考えが。
「……いや、やっぱ自分で飲むわ」
「大丈夫か? 苦手なのに無理しなくても……」
「大丈夫」
言いながら考える。
もしかするとユイの事で色々と考え続けた結果、脳が糖分を求めているのかもしれない。
まあ普段考え事をしている時や落ち着きたい時のルーティンがブラックコーヒーを飲む事なのを考えると、その考えは少し無理がある気がするが。
それでも不思議と、普段の自分からすれば唐突に、これを飲んでも良いのではないかという感情がしたのだ。
「言いながらユイの分のマグカップを渡し、自分もソファに座って一口。
「あま……あっめぇ……」
やはり苦手な味である。
ユイには悪いが、此処の好みだけは合わない。
「だから言ったじゃろ? ほらそっちはワシが飲むから。鉄平は来客用のマグカップにでもブラックを注いでくるのじゃ」
「…………いや、いい。口付けたし飲み切る」
苦手だ。
苦手なのは間違いない。
だけど特にきっかけがあった訳でも無く、本当に唐突な事でしか無いのだけれど……これを受け入れようとしている自分が居る。
(……?)
そして分からないながらも、そんなどうでも良い事に思考を割く暇があるなら他にもっと考える事が有る訳で。
甘ったるいコーヒーのような何かを飲みながら、ユイに話を振る。
「まあ俺のコーヒーの話は置いておいてさ、とりあえずどこ食いに行くか決めようぜ。普段節約するタイミングでちゃんと節約もしてるから金の事は気にしなくていいぞ。一人一万円とか掛かる様なヤベー所じゃなきゃどこでも大丈夫だ」
「めっちゃ気にしてるのじゃ」
「そりゃお前…………流石にその辺越えると給料日までの我が家の食卓が大変な事になるぞ」
「分かっているのじゃ。冗談じゃよ……でもほんとに何が食べたいかとか自分でも分からないのじゃ。逆に鉄平は何か食べたい物とかないのかの?」
「……焼肉か……寿司?」
「じゃあそのどっちかでどうじゃ? なんか具体的にそう言われると、何となくそのどっちかが食べたい感じがしてきたのじゃ」
「じゃあじゃんけんで決めるか。俺が勝ったら焼肉で。ユイが勝ったら回転寿司でどうだ?」
「じゃあそれで行くのじゃ。よーし、負けんぞワシが勝つ」
「それだけ強い意思があるならもう寿司で良くね?」
「…………それ答えかもしれん」
「じゃあ回転寿司だな」
決まりである。
「でも良かったのか鉄平」
「何がだ?」
「焼肉なら時間内食べ放題っていうのがあるじゃろ。回転寿司の場合それは無い。場合によっては一人一万円コースもあり得るんじゃないかの?」
「いや高い皿オンリーで食べてもそこまで……いや、行くのかユイの食欲なら。なんならその先へ……」
「ははは冗談じゃよ鉄平。そんな食い方はせんから。鉄平が頑張って稼いだお金で食べる訳じゃし」
「……いや、その理屈はおかしいな。俺の給料は俺達で稼いでるみたいなもんだろ。俺一人じゃウィザードとしては何もできない訳だし」
「いやいや鉄平。ワシは戦う為の力を貸す位の事しかしていない訳じゃし、普段鉄平程頑張ってはいないと思うのじゃ」
「んな事ねえだろ。最近は技術開発課の手伝いしてるんだろ。手伝いどころかエンジニアじゃん今のお前……いや、自分で言っててなんだけど、これ職場同じなだけで、俺の給料云々の話に絡めるのはなんか違うか」
「うん、ちょっと違う気がするのじゃ」
「違うな……っていうかよく考えたら、結構ガッツリ手伝ってるなら、賃金出てねえのおかしくねぇ?」
本気半分冗談半分という風にそう言った鉄平にユイは言う。
「いや、おかしくないじゃろ。ワシはあくまで保護して貰っている側じゃし。何より好きで手伝わせてもらっている訳じゃしな」
それに、とユイは沈んだ声音で言う。
「ワシは居るだけで迷惑が掛かると思うから。求める求めない以前に、そういう立場じゃ──」
「ユイ」
ユイの言葉を押し止めるように鉄平は言う。
「マイナス思考な事言うの止めようぜ。余計しんどくなるぞ」
「う、うん……」
「…………わりぃ、自分で言っておいてアレだけど、それができるなら苦労しないし辛くはないわな。口に出さなきゃセーフって訳でもあるまいし」
鉄平は口に合わないコーヒーを一口飲み、マグカップをガラステーブルに置いてから言う。
「俺で良かったら愚痴ならいくらでも聞くぞ。別にカウンセラーって訳じゃないから、適切な答えどころか気の利いた事も言えないかもしれないけどさ」
「……うん、ありがとうなのじゃ」
小さく、ほんの少しだけ笑みを浮かべてユイはそう言った。
少し考えて食べたい物を食べに行く。
それで沈んだ気持ちを照らせる程簡単な問題では無いのは分かっているが、そういう問題だからこそ思いついた事はやっていきべきだと思う。
やってあげたいと思う。
そして一旦自宅へと帰ってきた後、ディルバインとの戦いで動き回った鉄平は一旦シャワーを浴びて着替えてから、ソファに座って顔を俯かせたユイに言う。
「食べたい物、決まったか?」
「……いや、あんまり思いつかんの」
「でも食欲無い訳じゃないんだろ?」
「まあ……コンビニで補給したけど、それ以上に今日は力を使っているから。その辺は凄いのじゃ」
「そりゃ良かった」
戦闘で力を消耗しているのに食欲すらないなんて事を言われたら、メンタルの問題を通り越して体も心配になるし、そういう体質なのに食欲が湧かないメンタルがより心配な事になる。
とにかく悩んではいて落ち込んではいるけれど、それでも本当に最悪な状態には至っていないようだった。
「ならゆっくり考えよう。元々今日はまだ仕事って感じの日だったんだからさ。食事の時間ズレれて寝るの多少遅くなる位平気だ平気」
「うん」
「とりあえず一旦コーヒーでも入れるか?」
「……お願いするのじゃ」
「了解」
そんな会話をしながらマグカップを取り出しいつも通りインスタントコーヒーと砂糖を入れていく。
ユイの事を色々と考えながら。
そして鉄平自身も元気のないユイを前に普段通りとはいかなかった。
「……あ」
お湯まで注いだ所でようやく気付いたが、ユイの分だけでなく自分の分にも砂糖を入れてしまっている。
「どうしたのじゃ鉄平」
「いやミスって俺のも滅茶苦茶砂糖入れちまってさ」
言いながらマグカップを手にユイの元へと向かう。
「アレじゃったらワシが両方飲もうか? ほら鉄平甘いコーヒー苦手じゃろ?」
「まあな。正直微糖とかでもあんまりだけど、ユイと同じってなるとこれコーヒーか? って位になってるし……」
具体的に言えば苦み成分一切なし。
缶コーヒーに例えるとマッ○スコーヒー辺りに近い味わいとなっている。
愛好家には申し訳ないがこんなものはコーヒーではない。
「じゃあお前が二杯も飲めるなら……」
とにかくあまり得意ではない上にユイの方から申し出てくれた事で、お言葉に甘えさせて貰おうかと、そう思った時だった。
……不思議と、別にそれをしなくても良いんじゃないかという感情が僅かに湧いて来た。
何も考えずに自分のマグカップにも砂糖を入れてしまった事の延長線上にいるように、そんな考えが。
「……いや、やっぱ自分で飲むわ」
「大丈夫か? 苦手なのに無理しなくても……」
「大丈夫」
言いながら考える。
もしかするとユイの事で色々と考え続けた結果、脳が糖分を求めているのかもしれない。
まあ普段考え事をしている時や落ち着きたい時のルーティンがブラックコーヒーを飲む事なのを考えると、その考えは少し無理がある気がするが。
それでも不思議と、普段の自分からすれば唐突に、これを飲んでも良いのではないかという感情がしたのだ。
「言いながらユイの分のマグカップを渡し、自分もソファに座って一口。
「あま……あっめぇ……」
やはり苦手な味である。
ユイには悪いが、此処の好みだけは合わない。
「だから言ったじゃろ? ほらそっちはワシが飲むから。鉄平は来客用のマグカップにでもブラックを注いでくるのじゃ」
「…………いや、いい。口付けたし飲み切る」
苦手だ。
苦手なのは間違いない。
だけど特にきっかけがあった訳でも無く、本当に唐突な事でしか無いのだけれど……これを受け入れようとしている自分が居る。
(……?)
そして分からないながらも、そんなどうでも良い事に思考を割く暇があるなら他にもっと考える事が有る訳で。
甘ったるいコーヒーのような何かを飲みながら、ユイに話を振る。
「まあ俺のコーヒーの話は置いておいてさ、とりあえずどこ食いに行くか決めようぜ。普段節約するタイミングでちゃんと節約もしてるから金の事は気にしなくていいぞ。一人一万円とか掛かる様なヤベー所じゃなきゃどこでも大丈夫だ」
「めっちゃ気にしてるのじゃ」
「そりゃお前…………流石にその辺越えると給料日までの我が家の食卓が大変な事になるぞ」
「分かっているのじゃ。冗談じゃよ……でもほんとに何が食べたいかとか自分でも分からないのじゃ。逆に鉄平は何か食べたい物とかないのかの?」
「……焼肉か……寿司?」
「じゃあそのどっちかでどうじゃ? なんか具体的にそう言われると、何となくそのどっちかが食べたい感じがしてきたのじゃ」
「じゃあじゃんけんで決めるか。俺が勝ったら焼肉で。ユイが勝ったら回転寿司でどうだ?」
「じゃあそれで行くのじゃ。よーし、負けんぞワシが勝つ」
「それだけ強い意思があるならもう寿司で良くね?」
「…………それ答えかもしれん」
「じゃあ回転寿司だな」
決まりである。
「でも良かったのか鉄平」
「何がだ?」
「焼肉なら時間内食べ放題っていうのがあるじゃろ。回転寿司の場合それは無い。場合によっては一人一万円コースもあり得るんじゃないかの?」
「いや高い皿オンリーで食べてもそこまで……いや、行くのかユイの食欲なら。なんならその先へ……」
「ははは冗談じゃよ鉄平。そんな食い方はせんから。鉄平が頑張って稼いだお金で食べる訳じゃし」
「……いや、その理屈はおかしいな。俺の給料は俺達で稼いでるみたいなもんだろ。俺一人じゃウィザードとしては何もできない訳だし」
「いやいや鉄平。ワシは戦う為の力を貸す位の事しかしていない訳じゃし、普段鉄平程頑張ってはいないと思うのじゃ」
「んな事ねえだろ。最近は技術開発課の手伝いしてるんだろ。手伝いどころかエンジニアじゃん今のお前……いや、自分で言っててなんだけど、これ職場同じなだけで、俺の給料云々の話に絡めるのはなんか違うか」
「うん、ちょっと違う気がするのじゃ」
「違うな……っていうかよく考えたら、結構ガッツリ手伝ってるなら、賃金出てねえのおかしくねぇ?」
本気半分冗談半分という風にそう言った鉄平にユイは言う。
「いや、おかしくないじゃろ。ワシはあくまで保護して貰っている側じゃし。何より好きで手伝わせてもらっている訳じゃしな」
それに、とユイは沈んだ声音で言う。
「ワシは居るだけで迷惑が掛かると思うから。求める求めない以前に、そういう立場じゃ──」
「ユイ」
ユイの言葉を押し止めるように鉄平は言う。
「マイナス思考な事言うの止めようぜ。余計しんどくなるぞ」
「う、うん……」
「…………わりぃ、自分で言っておいてアレだけど、それができるなら苦労しないし辛くはないわな。口に出さなきゃセーフって訳でもあるまいし」
鉄平は口に合わないコーヒーを一口飲み、マグカップをガラステーブルに置いてから言う。
「俺で良かったら愚痴ならいくらでも聞くぞ。別にカウンセラーって訳じゃないから、適切な答えどころか気の利いた事も言えないかもしれないけどさ」
「……うん、ありがとうなのじゃ」
小さく、ほんの少しだけ笑みを浮かべてユイはそう言った。
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