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2-2 剣と銃
ex 武器の少女について
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「仲間……ね」
「ああ、仲間だ。何かおかしい事でも……いや、客観的に見ればおかしいのか」
神崎は小さく息を吐いてから言う。
「だがまあ客観的におかしくてもそれは事実だ。そして俺達はその仲間の事について知らない事が多い」
「そうだね。少し妙な位にね」
「妙?」
「君達はどういう訳か彼女と友好的な関係を築いている。それならばそもそも僕に聞こうとしている事全般は彼女から聞けるように思えるんだけど、何故君達は何も知らないのかな?」
「ああ、そういう事か」
神崎は一拍空けてからその問いに答える。
「アイツは記憶喪失だ。この世界に来た時点で自分の名前と、世界征服の使命感みたいな思想しか持ち合わせていなかった」
「……なるほど、記憶喪失か。果たして何かの事故か第三者の介在か」
「第三者?」
「送り付けた張本人達だよ。例えば記憶を消さなければ今のようになる可能性があるとでも思ったとか。まあ結果記憶が無い状態でも今のようになっている訳だが……ああ、そうだ。なっているんだ君達は」
ディルバインは真剣な眼差しと声音で神崎に問いかける。
「記憶の有無はともかく彼女にはこの世界に仇なす思想が備わっていた訳だ。それなのに何故今のようになるに至った? 質問を質問で返して申し訳ないが、こちらからの情報を円滑に伝える為にも教えてくれると助かるんだが」
「……ユイがこの世界に来た時、最初に接触したのは俺達異界管理局のウィザードじゃなく、当時ただの一般人だった杉浦だった。そして俺達の推測では杉浦には良くも悪くもユイみてえなタイプの装備を扱う為の才能が無いと見ている。結果ユイは大幅に弱体化した上に、杉浦の自我を奪えなかった。そうして生まれたのが普通に会話をする余裕だ……で、結果話せばわかる奴だった。こちらの世界を征服しようとする意志事体に本人が疑問を覚える程、根っこの部分は善良だったんだ」
「……それを見せられて信じたのか、なんて野暮な事は聞かない事にするよ。その日その場所で、そう判断するに至った何かは必ずある筈だ。そこにケチを付けるつもりはない。まあとにかく、彼女がキミ達の仲間になっている経緯は大体わかった。情報を何も聞き出せていない理由もね……記憶喪失云々の原因はきな臭いままだけども」
「その辺の理由とかは何か分かったりするのか?」
「流石にそこまでは。たださっきも言った通り事故か送り込んだ側の都合とみて良いだろう。正解は今の僕達には確かめようがないけどね」
だから、とディルバインは言う。
「分からない話よりも分かる話だ。僕が持っている彼女の情報を伝えよう」
「……ああ、頼む」
神崎の言葉にディルバインは一拍空けてから答える。
「まず大前提として彼女は人間だよ」
「……」
最初の情報は、今更感満載に聞こえる言葉だった。
「いや、まあ……そっかぁって感じっすね。正直そのつもりで接していたっすから。え、二人もそうっすよね?」
「……まあ最近は殆どそんなつもりで接していたな。無害なアンノウンというよりは無害な人間みたいな」
柚子の言葉に篠原も同調する。
そして神崎も。
「まあ接していて人間じゃねえって思わねえ方が難しい」
その難しいラインを保たなければならないとはどこかで思ってはいたが、今こうして言われた事を当然のように受け入れている位には、自分を含めた北陸支部の人間の見解は同じだと思う。
「……その微妙な反応、僕は良いと思う。僕は彼女の殺害を試みた側の人間だけれど、それでもどこか安心するよ」
「肯定的に受け止めとくぞ」
「ご自由に」
そう言ったディルバインに篠原が問いかける。
「それでつまりユイは、武器に変身できる人間という事になる訳だが、これはプロリナという世界に住む人間……人種の特色という事なのか?」
「まさか。僕と君達が人という種として殆ど違いが無いように、世界が変わった程度でそこまで大きな変化は無いさ。環境に適応し姿などの特色を変えるのが生物な訳だが、流石に全身が武器になるなんて事は生物の進化に加えたくはない」
「じゃあ一体何なんすか……?」
「生物としての進化というよりは、科学技術の進化の結晶といって良いだろう」
「科学技術?」
神崎の問いにディルバインは言う。
「ざっくり言えば、そういうコンセプトの元に作られたデザイナーチャイルドだよ。通称キリングドール。彼女はその最高傑作だ」
「ああ、仲間だ。何かおかしい事でも……いや、客観的に見ればおかしいのか」
神崎は小さく息を吐いてから言う。
「だがまあ客観的におかしくてもそれは事実だ。そして俺達はその仲間の事について知らない事が多い」
「そうだね。少し妙な位にね」
「妙?」
「君達はどういう訳か彼女と友好的な関係を築いている。それならばそもそも僕に聞こうとしている事全般は彼女から聞けるように思えるんだけど、何故君達は何も知らないのかな?」
「ああ、そういう事か」
神崎は一拍空けてからその問いに答える。
「アイツは記憶喪失だ。この世界に来た時点で自分の名前と、世界征服の使命感みたいな思想しか持ち合わせていなかった」
「……なるほど、記憶喪失か。果たして何かの事故か第三者の介在か」
「第三者?」
「送り付けた張本人達だよ。例えば記憶を消さなければ今のようになる可能性があるとでも思ったとか。まあ結果記憶が無い状態でも今のようになっている訳だが……ああ、そうだ。なっているんだ君達は」
ディルバインは真剣な眼差しと声音で神崎に問いかける。
「記憶の有無はともかく彼女にはこの世界に仇なす思想が備わっていた訳だ。それなのに何故今のようになるに至った? 質問を質問で返して申し訳ないが、こちらからの情報を円滑に伝える為にも教えてくれると助かるんだが」
「……ユイがこの世界に来た時、最初に接触したのは俺達異界管理局のウィザードじゃなく、当時ただの一般人だった杉浦だった。そして俺達の推測では杉浦には良くも悪くもユイみてえなタイプの装備を扱う為の才能が無いと見ている。結果ユイは大幅に弱体化した上に、杉浦の自我を奪えなかった。そうして生まれたのが普通に会話をする余裕だ……で、結果話せばわかる奴だった。こちらの世界を征服しようとする意志事体に本人が疑問を覚える程、根っこの部分は善良だったんだ」
「……それを見せられて信じたのか、なんて野暮な事は聞かない事にするよ。その日その場所で、そう判断するに至った何かは必ずある筈だ。そこにケチを付けるつもりはない。まあとにかく、彼女がキミ達の仲間になっている経緯は大体わかった。情報を何も聞き出せていない理由もね……記憶喪失云々の原因はきな臭いままだけども」
「その辺の理由とかは何か分かったりするのか?」
「流石にそこまでは。たださっきも言った通り事故か送り込んだ側の都合とみて良いだろう。正解は今の僕達には確かめようがないけどね」
だから、とディルバインは言う。
「分からない話よりも分かる話だ。僕が持っている彼女の情報を伝えよう」
「……ああ、頼む」
神崎の言葉にディルバインは一拍空けてから答える。
「まず大前提として彼女は人間だよ」
「……」
最初の情報は、今更感満載に聞こえる言葉だった。
「いや、まあ……そっかぁって感じっすね。正直そのつもりで接していたっすから。え、二人もそうっすよね?」
「……まあ最近は殆どそんなつもりで接していたな。無害なアンノウンというよりは無害な人間みたいな」
柚子の言葉に篠原も同調する。
そして神崎も。
「まあ接していて人間じゃねえって思わねえ方が難しい」
その難しいラインを保たなければならないとはどこかで思ってはいたが、今こうして言われた事を当然のように受け入れている位には、自分を含めた北陸支部の人間の見解は同じだと思う。
「……その微妙な反応、僕は良いと思う。僕は彼女の殺害を試みた側の人間だけれど、それでもどこか安心するよ」
「肯定的に受け止めとくぞ」
「ご自由に」
そう言ったディルバインに篠原が問いかける。
「それでつまりユイは、武器に変身できる人間という事になる訳だが、これはプロリナという世界に住む人間……人種の特色という事なのか?」
「まさか。僕と君達が人という種として殆ど違いが無いように、世界が変わった程度でそこまで大きな変化は無いさ。環境に適応し姿などの特色を変えるのが生物な訳だが、流石に全身が武器になるなんて事は生物の進化に加えたくはない」
「じゃあ一体何なんすか……?」
「生物としての進化というよりは、科学技術の進化の結晶といって良いだろう」
「科学技術?」
神崎の問いにディルバインは言う。
「ざっくり言えば、そういうコンセプトの元に作られたデザイナーチャイルドだよ。通称キリングドール。彼女はその最高傑作だ」
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