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2-2 剣と銃
ex 敵の敵は味方
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「取引……?」
神崎が問い返すとディルバインは言う。
「ああ、取引だ。求めるのは情報の交換だよ。僕の知っている情報をそのままキミ達に渡す事は時間さえ貰えれば可能になるだろうが、おそらくそれでは正確な形では伝わらないと思う。なにせ全く違う世界の技術だ。ダンジョンの突破に応用しているだけで僕らの科学はキミ達のダンジョン……というより魔術という技術とはそもそものフォーマットがまるで違う訳だからね」
その為に、とディルバインは言う。
「まず僕がダンジョンの事を理解し、その上でキミ達のやり方での回答を示す。その必要があると僕は考えているんだ」
「……それはつまり先にダンジョンの構造を教えろという事か」
篠原の問いにディルバインは頷く。
「ああ。そしてその情報を僕達の世界に送らせてほしいんだ」
「「「……ッ」」」
「当初から僕らの目的は自分達の世界にダンジョンという防衛システムを築く事だった。その為に必要な情報を送りたい……それに理由はもう一つ。いや二つか」
「……なんだ」
「僕は当初元の世界に帰還する筈だった。その僕がこのザマだ。不相応だがこれでもそれなりの立場にあるものでね。場合によっては僕を捜索する為の何かが……もしくは誰かが送られてくるかもしれない。その争いは正直に言って無益だ。起きる前に止めたい」
「もう一つは?」
篠原の問いにディルバインは答える。
「それが起きるのがこちらの世界で対策を終えた後だった場合、従来の手段ではその誰かもダンジョンに送られる事になるだろう。それは避けたいんだ」
「…………」
その言葉に篠原は長考の構えに入る。
それを見て神崎は思った。
(……尋問役、二人体制で良かったな)
その長考はきっと良くも悪くも甘い篠原のやり方の悪い側面だ。
「駄目だ。まずはこちらのやり方に合わせる必要はねえ。お前達のやり方そのままで良いから俺達に教えろ」
「神崎、お前……」
「篠原さん。いくらなんでもこの取引は考えるまでもなく却下だ。確かに早急に確実な情報が欲しいのも事実だし、ディルバインの提案に乗るのが手っ取り早い。だけど俺達の生命線を晒すにはあまりにもコイツとの信頼関係を俺達は築けていません」
「……」
「アンタが都合良く利用するやり方を取れる人なら任せますけど、良くも悪くもアンタはそうじゃない。人が好過ぎる。もう一度言いますけどこれは駄目だ。考えるまでもないですよ」
「……成程」
その言葉を聞いてディルバインはどこか安心するように頷く。
「僕は馬鹿正直に双方の利益を考えてこの提案を出したつもりだよ。だけどきっとこれは受けないのが正解だ。神崎と言ったね。キミの言う通りキミ達の世界の生命線はそう簡単に他の世界の人間に晒すべきではない。もしレグルーンが……僕達の世界が碌でも無い世界だった場合、それは僕達の世界にとっては相手の城の内堀も外堀も埋めて丸裸にしたのと同義になる」
「なるほど……関ケ原の戦いで大阪城の堀埋められたみたいなもんすかね」
「いやそれ関ケ原じゃねえよ!? てめえどんな覚え方してんだよ!」
「え、違うんすか……じゃ、じゃあ桶狭間?」
「大阪の陣な!? お前それ高校生の発言じゃねえよ大丈夫かよ本当に……」
「……キミ達の世界の学問の事は分からないが、これ子供が戦っている弊害じゃないのか?」
「いや関係ない。コイツが此処に顔出すずっと前に習うような事だから今の……悪いな、変な空気になった」
「いや、良い。僕が変な例えをしたのが悪い」
「いやこれに関してはここぞとばかりに間違った知識披露してきたウチの馬鹿が悪い」
そう言ってため息を吐いた後、大阪の陣についての捕捉を軽く柚子に教えている篠原の声を聞き流しながら神崎はディルバインに言う。
「……で、お前はずっと何考えてやがるんだ」
「何とは?」
「ウチの杉浦やそこの馬鹿と戦っていた時から今に至るまで、お前の立ち振る舞いは妙なんだ。そのこちらに寄りそうみてえな態度はなんだ……そうやって取り入って事をうまく勧めようとしているのか。わりいが俺はそうはいかねえぞ」
「その姿勢は忘れるな」
ディルバインは言う。
「キミ達はおそらく甘い。どういう経緯かは分からないが、ユイと呼ばれていた少女がキミ達の元に居る事もつまりそういう事なのではないかな。とにかく先の提案の是非を真面目に考え始めたりするその姿勢はあまりに良くない。いつか痛い目を見る」
「……」
ばつの悪そうな表情を浮かべる篠原に視線を向けた後、ディルバインは神崎に視線を向ける。
「だがキミはこの世界で見た中で一番僕の事を正常に警戒しているな。それで良い。別に組織にこの類いの甘さがある事が必ずしも悪い訳では無いが、いざという時キミみたいな人間が居るかどうかが分かれ目になる。こういう事を言う立場では無いのは重々承知しているが、それでも忘れないでくれ」
「それだ。まさしくそういう話だディルバイン」
神崎は言う。
「なんの目的でそういう事を言ってんだ。甘いのはお前の方もだろ」
「……まあキミの推測通り、良い印象を持たれるようにというのは否定しないよ。だがそもそもの話だ」
ディルバインは小さく息を吐いてから言う。
「キミ達にとって僕らは敵。その認識を持つのは正しい事だ。実際無断で領土に踏み入れ活動している訳だからね。今回に至っては実力行使にも出た。だがまあ僕らにとっては別にキミ達は敵じゃないんだ。敵の敵は味方という意味でもそうだし、そもそも争う理由でもない。単純に僕はキミ達に負けて欲しくないんだ」
「敵じゃない……か」
「信じろとは言わない。ただ一応はそういう立場のつもりである事は表明しておくよ。僕はキミ達が勝てるように動くつもりだし、キミ達は僕を都合の良い様に利用して貰えば良い」
「……都合良く利用はさせてもらう。慎重にな」
そう言った後、神崎はため息を吐いてから問いかける。
「で、お前の居た世界との通信は容易に行えるのか?」
「それを聞いてどうするつもりだい?」
「お前にこちらの機密情報を渡すつもりは今の所ない。ただ余計な衝突を避けたいってのもまた事実だ。他の連中がこの世界の俺達以外の管轄の地域に到達する事で、結果的にお前の存在が他のウィザードに露呈する事も避けたい訳で……最低限連絡を取らせる事位は、戦略的に俺達の方にもメリットがある。そう考えた訳だ」
「……いいのか?」
「あくまでそれが俺達にとって都合が良いからだ。それで良いですよね篠原さん」
「あ、ああ…………良いんじゃないかな」
どこか自信なさげにそう答える篠原。
「篠原さん、隊長なんすからもっとしっかりするっすよ」
「いや流石にお前に言われるのは傷付くな……」
「えぇ……」
「……とにかく」
仕切り直すように神崎はそう言って続ける。
「通信事態は簡単にできるのか?」
「ああ。簡単だよ。それもできないならそもそもこの世界に来れていない」
「その時は俺達も立ち会うからな」
「当然だ。なんなら会話に参加してくると良い。おそらくこの世界とレグルーンの間での初めての外交となるだろう」
「外交……か」
「なんか凄い事になってきたっすね……状況的に仕方ないっすけど、北陸第一だけで進めていいか微妙な位スケールが大きくなってきたっすね」
「でもやるしかねえだろ。今の段階ではまだ、ディルバイン絡みの話は外には出せない」
「それは結果的にユイの立場が危うくならないように、だったか。一体何がどうなればそうやって大切にしてもらえるような事になるのか」
「色々有ったんすよ色々と」
「だろうね……っとそうだ。この話もキミ達とはしておいた方が良さそうだ。僕が破壊できない以上、管理するキミ達はより詳しい情報を知っておいた方が良い」
「……ああ。お前にはダンジョンの事以外にも色々と聞きたい話はあるけど、これもその一つだ」
そして神崎は問いかける。
「ユイについて知っている事を教えろ。アイツのバックボーンが想定しているより遥かに深刻かもしれない以上、仲間として俺達はそれを知ってかなければならない」
神崎が問い返すとディルバインは言う。
「ああ、取引だ。求めるのは情報の交換だよ。僕の知っている情報をそのままキミ達に渡す事は時間さえ貰えれば可能になるだろうが、おそらくそれでは正確な形では伝わらないと思う。なにせ全く違う世界の技術だ。ダンジョンの突破に応用しているだけで僕らの科学はキミ達のダンジョン……というより魔術という技術とはそもそものフォーマットがまるで違う訳だからね」
その為に、とディルバインは言う。
「まず僕がダンジョンの事を理解し、その上でキミ達のやり方での回答を示す。その必要があると僕は考えているんだ」
「……それはつまり先にダンジョンの構造を教えろという事か」
篠原の問いにディルバインは頷く。
「ああ。そしてその情報を僕達の世界に送らせてほしいんだ」
「「「……ッ」」」
「当初から僕らの目的は自分達の世界にダンジョンという防衛システムを築く事だった。その為に必要な情報を送りたい……それに理由はもう一つ。いや二つか」
「……なんだ」
「僕は当初元の世界に帰還する筈だった。その僕がこのザマだ。不相応だがこれでもそれなりの立場にあるものでね。場合によっては僕を捜索する為の何かが……もしくは誰かが送られてくるかもしれない。その争いは正直に言って無益だ。起きる前に止めたい」
「もう一つは?」
篠原の問いにディルバインは答える。
「それが起きるのがこちらの世界で対策を終えた後だった場合、従来の手段ではその誰かもダンジョンに送られる事になるだろう。それは避けたいんだ」
「…………」
その言葉に篠原は長考の構えに入る。
それを見て神崎は思った。
(……尋問役、二人体制で良かったな)
その長考はきっと良くも悪くも甘い篠原のやり方の悪い側面だ。
「駄目だ。まずはこちらのやり方に合わせる必要はねえ。お前達のやり方そのままで良いから俺達に教えろ」
「神崎、お前……」
「篠原さん。いくらなんでもこの取引は考えるまでもなく却下だ。確かに早急に確実な情報が欲しいのも事実だし、ディルバインの提案に乗るのが手っ取り早い。だけど俺達の生命線を晒すにはあまりにもコイツとの信頼関係を俺達は築けていません」
「……」
「アンタが都合良く利用するやり方を取れる人なら任せますけど、良くも悪くもアンタはそうじゃない。人が好過ぎる。もう一度言いますけどこれは駄目だ。考えるまでもないですよ」
「……成程」
その言葉を聞いてディルバインはどこか安心するように頷く。
「僕は馬鹿正直に双方の利益を考えてこの提案を出したつもりだよ。だけどきっとこれは受けないのが正解だ。神崎と言ったね。キミの言う通りキミ達の世界の生命線はそう簡単に他の世界の人間に晒すべきではない。もしレグルーンが……僕達の世界が碌でも無い世界だった場合、それは僕達の世界にとっては相手の城の内堀も外堀も埋めて丸裸にしたのと同義になる」
「なるほど……関ケ原の戦いで大阪城の堀埋められたみたいなもんすかね」
「いやそれ関ケ原じゃねえよ!? てめえどんな覚え方してんだよ!」
「え、違うんすか……じゃ、じゃあ桶狭間?」
「大阪の陣な!? お前それ高校生の発言じゃねえよ大丈夫かよ本当に……」
「……キミ達の世界の学問の事は分からないが、これ子供が戦っている弊害じゃないのか?」
「いや関係ない。コイツが此処に顔出すずっと前に習うような事だから今の……悪いな、変な空気になった」
「いや、良い。僕が変な例えをしたのが悪い」
「いやこれに関してはここぞとばかりに間違った知識披露してきたウチの馬鹿が悪い」
そう言ってため息を吐いた後、大阪の陣についての捕捉を軽く柚子に教えている篠原の声を聞き流しながら神崎はディルバインに言う。
「……で、お前はずっと何考えてやがるんだ」
「何とは?」
「ウチの杉浦やそこの馬鹿と戦っていた時から今に至るまで、お前の立ち振る舞いは妙なんだ。そのこちらに寄りそうみてえな態度はなんだ……そうやって取り入って事をうまく勧めようとしているのか。わりいが俺はそうはいかねえぞ」
「その姿勢は忘れるな」
ディルバインは言う。
「キミ達はおそらく甘い。どういう経緯かは分からないが、ユイと呼ばれていた少女がキミ達の元に居る事もつまりそういう事なのではないかな。とにかく先の提案の是非を真面目に考え始めたりするその姿勢はあまりに良くない。いつか痛い目を見る」
「……」
ばつの悪そうな表情を浮かべる篠原に視線を向けた後、ディルバインは神崎に視線を向ける。
「だがキミはこの世界で見た中で一番僕の事を正常に警戒しているな。それで良い。別に組織にこの類いの甘さがある事が必ずしも悪い訳では無いが、いざという時キミみたいな人間が居るかどうかが分かれ目になる。こういう事を言う立場では無いのは重々承知しているが、それでも忘れないでくれ」
「それだ。まさしくそういう話だディルバイン」
神崎は言う。
「なんの目的でそういう事を言ってんだ。甘いのはお前の方もだろ」
「……まあキミの推測通り、良い印象を持たれるようにというのは否定しないよ。だがそもそもの話だ」
ディルバインは小さく息を吐いてから言う。
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「敵じゃない……か」
「信じろとは言わない。ただ一応はそういう立場のつもりである事は表明しておくよ。僕はキミ達が勝てるように動くつもりだし、キミ達は僕を都合の良い様に利用して貰えば良い」
「……都合良く利用はさせてもらう。慎重にな」
そう言った後、神崎はため息を吐いてから問いかける。
「で、お前の居た世界との通信は容易に行えるのか?」
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「篠原さん、隊長なんすからもっとしっかりするっすよ」
「いや流石にお前に言われるのは傷付くな……」
「えぇ……」
「……とにかく」
仕切り直すように神崎はそう言って続ける。
「通信事態は簡単にできるのか?」
「ああ。簡単だよ。それもできないならそもそもこの世界に来れていない」
「その時は俺達も立ち会うからな」
「当然だ。なんなら会話に参加してくると良い。おそらくこの世界とレグルーンの間での初めての外交となるだろう」
「外交……か」
「なんか凄い事になってきたっすね……状況的に仕方ないっすけど、北陸第一だけで進めていいか微妙な位スケールが大きくなってきたっすね」
「でもやるしかねえだろ。今の段階ではまだ、ディルバイン絡みの話は外には出せない」
「それは結果的にユイの立場が危うくならないように、だったか。一体何がどうなればそうやって大切にしてもらえるような事になるのか」
「色々有ったんすよ色々と」
「だろうね……っとそうだ。この話もキミ達とはしておいた方が良さそうだ。僕が破壊できない以上、管理するキミ達はより詳しい情報を知っておいた方が良い」
「……ああ。お前にはダンジョンの事以外にも色々と聞きたい話はあるけど、これもその一つだ」
そして神崎は問いかける。
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