魔剣拾った。同居した。

山外大河

文字の大きさ
上 下
102 / 115
2-2 剣と銃

ex 敵の敵は味方

しおりを挟む
「取引……?」

 神崎が問い返すとディルバインは言う。

「ああ、取引だ。求めるのは情報の交換だよ。僕の知っている情報をそのままキミ達に渡す事は時間さえ貰えれば可能になるだろうが、おそらくそれでは正確な形では伝わらないと思う。なにせ全く違う世界の技術だ。ダンジョンの突破に応用しているだけで僕らの科学はキミ達のダンジョン……というより魔術という技術とはそもそものフォーマットがまるで違う訳だからね」

 その為に、とディルバインは言う。

「まず僕がダンジョンの事を理解し、その上でキミ達のやり方での回答を示す。その必要があると僕は考えているんだ」

「……それはつまり先にダンジョンの構造を教えろという事か」

 篠原の問いにディルバインは頷く。

「ああ。そしてその情報を僕達の世界に送らせてほしいんだ」

「「「……ッ」」」

「当初から僕らの目的は自分達の世界にダンジョンという防衛システムを築く事だった。その為に必要な情報を送りたい……それに理由はもう一つ。いや二つか」

「……なんだ」

「僕は当初元の世界に帰還する筈だった。その僕がこのザマだ。不相応だがこれでもそれなりの立場にあるものでね。場合によっては僕を捜索する為の何かが……もしくは誰かが送られてくるかもしれない。その争いは正直に言って無益だ。起きる前に止めたい」

「もう一つは?」

 篠原の問いにディルバインは答える。

「それが起きるのがこちらの世界で対策を終えた後だった場合、従来の手段ではその誰かもダンジョンに送られる事になるだろう。それは避けたいんだ」

「…………」

 その言葉に篠原は長考の構えに入る。
 それを見て神崎は思った。

(……尋問役、二人体制で良かったな)

 その長考はきっと良くも悪くも甘い篠原のやり方の悪い側面だ。

「駄目だ。まずはこちらのやり方に合わせる必要はねえ。お前達のやり方そのままで良いから俺達に教えろ」

「神崎、お前……」

「篠原さん。いくらなんでもこの取引は考えるまでもなく却下だ。確かに早急に確実な情報が欲しいのも事実だし、ディルバインの提案に乗るのが手っ取り早い。だけど俺達の生命線を晒すにはあまりにもコイツとの信頼関係を俺達は築けていません」

「……」

「アンタが都合良く利用するやり方を取れる人なら任せますけど、良くも悪くもアンタはそうじゃない。人が好過ぎる。もう一度言いますけどこれは駄目だ。考えるまでもないですよ」

「……成程」

 その言葉を聞いてディルバインはどこか安心するように頷く。

「僕は馬鹿正直に双方の利益を考えてこの提案を出したつもりだよ。だけどきっとこれは受けないのが正解だ。神崎と言ったね。キミの言う通りキミ達の世界の生命線はそう簡単に他の世界の人間に晒すべきではない。もしレグルーンが……僕達の世界が碌でも無い世界だった場合、それは僕達の世界にとっては相手の城の内堀も外堀も埋めて丸裸にしたのと同義になる」

「なるほど……関ケ原の戦いで大阪城の堀埋められたみたいなもんすかね」

「いやそれ関ケ原じゃねえよ!? てめえどんな覚え方してんだよ!」

「え、違うんすか……じゃ、じゃあ桶狭間?」

「大阪の陣な!? お前それ高校生の発言じゃねえよ大丈夫かよ本当に……」

「……キミ達の世界の学問の事は分からないが、これ子供が戦っている弊害じゃないのか?」

「いや関係ない。コイツが此処に顔出すずっと前に習うような事だから今の……悪いな、変な空気になった」

「いや、良い。僕が変な例えをしたのが悪い」

「いやこれに関してはここぞとばかりに間違った知識披露してきたウチの馬鹿が悪い」

 そう言ってため息を吐いた後、大阪の陣についての捕捉を軽く柚子に教えている篠原の声を聞き流しながら神崎はディルバインに言う。

「……で、お前はずっと何考えてやがるんだ」

「何とは?」

「ウチの杉浦やそこの馬鹿と戦っていた時から今に至るまで、お前の立ち振る舞いは妙なんだ。そのこちらに寄りそうみてえな態度はなんだ……そうやって取り入って事をうまく勧めようとしているのか。わりいが俺はそうはいかねえぞ」

「その姿勢は忘れるな」

 ディルバインは言う。

「キミ達はおそらく甘い。どういう経緯かは分からないが、ユイと呼ばれていた少女がキミ達の元に居る事もつまりそういう事なのではないかな。とにかく先の提案の是非を真面目に考え始めたりするその姿勢はあまりに良くない。いつか痛い目を見る」

「……」

 ばつの悪そうな表情を浮かべる篠原に視線を向けた後、ディルバインは神崎に視線を向ける。

「だがキミはこの世界で見た中で一番僕の事を正常に警戒しているな。それで良い。別に組織にこの類いの甘さがある事が必ずしも悪い訳では無いが、いざという時キミみたいな人間が居るかどうかが分かれ目になる。こういう事を言う立場では無いのは重々承知しているが、それでも忘れないでくれ」

「それだ。まさしくそういう話だディルバイン」

 神崎は言う。

「なんの目的でそういう事を言ってんだ。甘いのはお前の方もだろ」

「……まあキミの推測通り、良い印象を持たれるようにというのは否定しないよ。だがそもそもの話だ」

 ディルバインは小さく息を吐いてから言う。

「キミ達にとって僕らは敵。その認識を持つのは正しい事だ。実際無断で領土に踏み入れ活動している訳だからね。今回に至っては実力行使にも出た。だがまあ僕らにとっては別にキミ達は敵じゃないんだ。敵の敵は味方という意味でもそうだし、そもそも争う理由でもない。単純に僕はキミ達に負けて欲しくないんだ」

「敵じゃない……か」

「信じろとは言わない。ただ一応はそういう立場のつもりである事は表明しておくよ。僕はキミ達が勝てるように動くつもりだし、キミ達は僕を都合の良い様に利用して貰えば良い」

「……都合良く利用はさせてもらう。慎重にな」

 そう言った後、神崎はため息を吐いてから問いかける。

「で、お前の居た世界との通信は容易に行えるのか?」

「それを聞いてどうするつもりだい?」

「お前にこちらの機密情報を渡すつもりは今の所ない。ただ余計な衝突を避けたいってのもまた事実だ。他の連中がこの世界の俺達以外の管轄の地域に到達する事で、結果的にお前の存在が他のウィザードに露呈する事も避けたい訳で……最低限連絡を取らせる事位は、戦略的に俺達の方にもメリットがある。そう考えた訳だ」

「……いいのか?」

「あくまでそれが俺達にとって都合が良いからだ。それで良いですよね篠原さん」

「あ、ああ…………良いんじゃないかな」

 どこか自信なさげにそう答える篠原。

「篠原さん、隊長なんすからもっとしっかりするっすよ」

「いや流石にお前に言われるのは傷付くな……」

「えぇ……」

「……とにかく」

 仕切り直すように神崎はそう言って続ける。

「通信事態は簡単にできるのか?」

「ああ。簡単だよ。それもできないならそもそもこの世界に来れていない」

「その時は俺達も立ち会うからな」

「当然だ。なんなら会話に参加してくると良い。おそらくこの世界とレグルーンの間での初めての外交となるだろう」

「外交……か」

「なんか凄い事になってきたっすね……状況的に仕方ないっすけど、北陸第一だけで進めていいか微妙な位スケールが大きくなってきたっすね」

「でもやるしかねえだろ。今の段階ではまだ、ディルバイン絡みの話は外には出せない」

「それは結果的にユイの立場が危うくならないように、だったか。一体何がどうなればそうやって大切にしてもらえるような事になるのか」

「色々有ったんすよ色々と」

「だろうね……っとそうだ。この話もキミ達とはしておいた方が良さそうだ。僕が破壊できない以上、管理するキミ達はより詳しい情報を知っておいた方が良い」

「……ああ。お前にはダンジョンの事以外にも色々と聞きたい話はあるけど、これもその一つだ」

 そして神崎は問いかける。

「ユイについて知っている事を教えろ。アイツのバックボーンが想定しているより遥かに深刻かもしれない以上、仲間として俺達はそれを知ってかなければならない」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

初めて入ったダンジョンに閉じ込められました。死にたくないので死ぬ気で修行したら常識外れの縮地とすべてを砕く正拳突きを覚えました

陽好
ファンタジー
 ダンジョンの発生から50年、今ではダンジョンの難易度は9段階に設定されていて、最も難易度の低いダンジョンは「ノーマーク」と呼ばれ、簡単な試験に合格すれば誰でも入ることが出来るようになっていた。  東京に住む19才の男子学生『熾 火天(おき あぐに)』は大学の授業はそれほどなく、友人もほとんどおらず、趣味と呼べるような物もなく、自分の意思さえほとんどなかった。そんな青年は高校時代の友人からダンジョン探索に誘われ、遺跡探索許可を取得して探索に出ることになった。  青年の探索しに行ったダンジョンは「ノーマーク」の簡単なダンジョンだったが、それでもそこで採取できる鉱物や発掘物は仲介業者にそこそこの値段で買い取ってもらえた。  彼らが順調に探索を進めていると、ほとんどの生物が駆逐されたはずのその遺跡の奥から青年の2倍はあろうかという大きさの真っ白な動物が現れた。  彼を誘った高校時代の友人達は火天をおいて一目散に逃げてしまったが、彼は一足遅れてしまった。火天が扉にたどり着くと、ちょうど火天をおいていった奴らが扉を閉めるところだった。  無情にも扉は火天の目の前で閉じられてしまった。しかしこの時初めて、常に周りに流され、何も持っていなかった男が「生きたい!死にたくない!」と強く自身の意思を持ち、必死に生き延びようと戦いはじめる。白いバケモノから必死に逃げ、隠れては見つかり隠れては見つかるということをひたすら繰り返した。  火天は粘り強く隠れ続けることでなんとか白いバケモノを蒔くことに成功した。  そして火天はダンジョンの中で生き残るため、暇を潰すため、体を鍛え、精神を鍛えた。  瞬発力を鍛え、膂力を鍛え、何事にも動じないような精神力を鍛えた。気づくと火天は一歩で何メートルも進めるようになり、拳で岩を砕けるようになっていた。  力を手にした火天はそのまま外の世界へと飛び出し、いろいろと巻き込まれながら遺跡の謎を解明していく。

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

魔石と神器の物語 ~アイテムショップの美人姉妹は、史上最強の助っ人です!~

エール
ファンタジー
 古代遺跡群攻略都市「イフカ」を訪れた新進気鋭の若き冒険者(ハンター)、ライナス。  彼が立ち寄った「魔法堂 白銀の翼」は、一風変わったアイテムを扱う魔道具専門店だった。  経営者は若い美人姉妹。  妹は自ら作成したアイテムを冒険の実践にて試用する、才能溢れる魔道具製作者。  そして姉の正体は、特定冒険者と契約を交わし、召喚獣として戦う闇の狂戦士だった。  最高純度の「超魔石」と「充魔石」を体内に埋め込まれた不死属性の彼女は、呪われし武具を纏い、補充用の魔石を求めて戦場に向かう。いつの日か、「人間」に戻ることを夢見て――。

ここは貴方の国ではありませんよ

水姫
ファンタジー
傲慢な王子は自分の置かれている状況も理解出来ませんでした。 厄介ごとが多いですね。 裏を司る一族は見極めてから調整に働くようです。…まぁ、手遅れでしたけど。 ※過去に投稿したモノを手直し後再度投稿しています。

はぁ?とりあえず寝てていい?

夕凪
ファンタジー
嫌いな両親と同級生から逃げて、アメリカ留学をした帰り道。帰国中の飛行機が事故を起こし、日本の女子高生だった私は墜落死した。特に未練もなかったが、強いて言えば、大好きなもふもふと一緒に暮らしたかった。しかし何故か、剣と魔法の異世界で、貴族の子として転生していた。しかも男の子で。今世の両親はとてもやさしくいい人たちで、さらには前世にはいなかった兄弟がいた。せっかくだから思いっきり、もふもふと戯れたい!惰眠を貪りたい!のんびり自由に生きたい!そう思っていたが、5歳の時に行われる判定の儀という、魔法属性を調べた日を境に、幸せな日常が崩れ去っていった・・・。その後、名を変え別の人物として、相棒のもふもふと共に旅に出る。相棒のもふもふであるズィーリオスの為の旅が、次第に自分自身の未来に深く関わっていき、仲間と共に逃れられない運命の荒波に飲み込まれていく。 ※第二章は全体的に説明回が多いです。 <<<小説家になろうにて先行投稿しています>>>

削除予定です

伊藤ほほほ
ファンタジー
削除します

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす

黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。 4年前に書いたものをリライトして載せてみます。

処理中です...