98 / 115
2-1 招かれざる客
ex 招かれざる客 下
しおりを挟む「納得いかないんだけど」
昼休みになると、ハルが爆発しそうになっていたので空き教室へと連れ出した。
ここならハルが変な事を口走っても問題ないからだ。
連れてきて開口一番に飛び出したのが、この発言だ。
「ハル、落ち着いて」
「なんであたしが白雪姫なんだよ、どう考えてもおかしいだろっ」
アウトローなハルが大勢で作り上げる“演劇”の“主役”を演じるというのは確かにキャラクターではないように思う。
しかもそれを他人に決められたとなれば、ハルの気持ちも穏やかではないだろう。
「それでも、黙って受け入れてくれたのね」
佐野さんに推薦された瞬間のハルは立ち上がって今にも掴みかかりそうな勢いだった。
でも、それをせずに堪えてくれた。
それは彼女の変化だ。
「澪が“大人しくしろ”って目で訴えてきたからな、我慢したよ」
分かってはいたつもりだが、改めて私による変化だと本人の口から言われると心の奥がどこかムズムズとする感覚があった。
「ありがとう、ハルのおかげで無事に事は進んだわ」
あの後、私が王子役を引き受けるという展開は佐野さんにとっても予想外だったはずだ。
主役級さえ決まってしまえば後は自ずと決まっていくため、特に波乱も起きる事なく進行する事が出来た。
「ふん、本当だったら佐野に白雪姫やらせるか、当日サボるかの二択だったからな」
「……うん、どちらも選ばないでくれて良かったわ」
そんな無理矢理な事をしたらクラスの空気がどんな事になるか、想像するだけで恐ろしい。
今の流れも決して褒められたものではないが、それでも見返す事は出来ると思う。
「ていうか、王子役を澪が引き受けんのもけっこービックリしたけど……」
話を聞いている内にハルの怒りの留飲も下がって来たのか、話題は私に移った。
「そうね、あの流れで田中さんに任せるのは可哀想だったし。私がなればそれ以上は嫌がらせも出来ないでしょ」
私には良くも悪くも“生徒会”という看板がある。
その砦には“青崎梨乃”というカリスマも控えており、自分で言うのも何だが生徒会を敵に回したいと思う人はそう多くはない。
まるで虎の威を借りる狐のようなので、好ましくは思っていないのだけれど。
他人にはそう映っているのは自覚しているので、仕方がない事でもあった。
とにかく今回はその立場を使って、佐野さんの独壇場を止めたような形になる。
「じゃあ、白雪姫の時点で澪がやってくれたら良かったのに」
唇をとがらせて不満げなハル。
「……その発想はなかったわね」
「なんでだよ、あたしより田中優先かよ」
「いえ、そういうわけじゃなくて……」
佐野さんを始め、皆はハルが白雪姫を演じることにギャップを感じた事だろう。
だが、私はハルの白雪姫を想像して思ったのだ。
「似合いそうって思ったのよ」
「なにが?」
「ハルの白雪姫」
ハルの目が点になって、一瞬時が止まる。
「……マジで言ってんの?」
「ええ、マジね」
「あたしのどこに姫要素があるんだよっ」
「肌の白さとか?」
「漠然としすぎだろっ」
とにかく、私はハルの白雪姫がそう悪いものではないと思ってしまったのだ。
主役になれば周りとコミュニケーションをとる機会も増えるだろうし。
いいきっかけにもなるのではないかと思ったのだ。
「それより王子様役の方が気が重いわね……」
裏方でサポートが私の得意分野なのに。
成り行きで仕方ないとは言え、まさかの演者側に回るだなんて。
キャラじゃないにも程がある。
落ち着いてくると、その重圧に心が耐えかねている。
「いや、あたしも姫とか気分わりぃし……」
“はぁ……”と、お互いに重い溜め息を吐く。
こんな消極的なお姫様と王子様がいるだろうか。
心配だ、この演劇。
「でも、やるからには全力でやりきるわよ」
それでも、嘆いてばかりでも仕方ない。
私は気持ちを入れ替える。
「うお、真面目モード」
「良い演劇にして見返してやりたいもの」
「見返す?」
「ええ、佐野さんは遊び半分でキャスティングしたんでしょうけど。私達が本気を出して最高の物を見せつけるのよ」
きっと佐野さんは普段やる気のないハルを主役に押し出すことで、恥をかかせるつもりだったのだろう。
そこで上下関係なるものを付けようとも考えていたのかもしれない。
だけど、そうはいかない。
私がいる限りそんな中途半端なものを見せたりはしない。
むしろハルの魅力を引き出し、観客すらも驚かせてみせる。
「なんか珍しいな、澪がそこまで対抗心を燃やすなんて」
「……そう、かも」
言われてみれば確かに、ハルの白雪姫に関しては対抗心なるものが芽生えている。
これ以上ない正攻法だから問題はないのだけれど、根底にある感情が私には珍しいものだった。
「ハルを馬鹿にした扱いが気に入らなかったのね」
そして、そうさせてしまった私自身にも責任を感じている。
だから、ハルの魅力を私は知らしめたいのだと思う。
「な、なんだよ、そうなら最初からそう言えよなっ」
ハルは急に体をもじもじとさせて視線が彷徨っていた。
そのまま落ち着かない様子で、ハルの体が私の肩を押した。
「じゃあ、頼んだぜっ。あたしの王子様っ!」
ハルが満面の笑みを咲かせる。
その輝くような華を見れば彼女こそ白雪姫だと、疑う者はいないだろう。
0
お気に入りに追加
259
あなたにおすすめの小説
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。
魔石と神器の物語 ~アイテムショップの美人姉妹は、史上最強の助っ人です!~
エール
ファンタジー
古代遺跡群攻略都市「イフカ」を訪れた新進気鋭の若き冒険者(ハンター)、ライナス。
彼が立ち寄った「魔法堂 白銀の翼」は、一風変わったアイテムを扱う魔道具専門店だった。
経営者は若い美人姉妹。
妹は自ら作成したアイテムを冒険の実践にて試用する、才能溢れる魔道具製作者。
そして姉の正体は、特定冒険者と契約を交わし、召喚獣として戦う闇の狂戦士だった。
最高純度の「超魔石」と「充魔石」を体内に埋め込まれた不死属性の彼女は、呪われし武具を纏い、補充用の魔石を求めて戦場に向かう。いつの日か、「人間」に戻ることを夢見て――。

ここは貴方の国ではありませんよ
水姫
ファンタジー
傲慢な王子は自分の置かれている状況も理解出来ませんでした。
厄介ごとが多いですね。
裏を司る一族は見極めてから調整に働くようです。…まぁ、手遅れでしたけど。
※過去に投稿したモノを手直し後再度投稿しています。

はぁ?とりあえず寝てていい?
夕凪
ファンタジー
嫌いな両親と同級生から逃げて、アメリカ留学をした帰り道。帰国中の飛行機が事故を起こし、日本の女子高生だった私は墜落死した。特に未練もなかったが、強いて言えば、大好きなもふもふと一緒に暮らしたかった。しかし何故か、剣と魔法の異世界で、貴族の子として転生していた。しかも男の子で。今世の両親はとてもやさしくいい人たちで、さらには前世にはいなかった兄弟がいた。せっかくだから思いっきり、もふもふと戯れたい!惰眠を貪りたい!のんびり自由に生きたい!そう思っていたが、5歳の時に行われる判定の儀という、魔法属性を調べた日を境に、幸せな日常が崩れ去っていった・・・。その後、名を変え別の人物として、相棒のもふもふと共に旅に出る。相棒のもふもふであるズィーリオスの為の旅が、次第に自分自身の未来に深く関わっていき、仲間と共に逃れられない運命の荒波に飲み込まれていく。
※第二章は全体的に説明回が多いです。
<<<小説家になろうにて先行投稿しています>>>


冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない
一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。
クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。
さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。
両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。
……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。
それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。
皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。
※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす
黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。
4年前に書いたものをリライトして載せてみます。

ド田舎からやってきた少年、初めての大都会で無双する~今まで遊び場にしていたダンジョンは、攻略不可能の規格外ダンジョンだったみたい〜
むらくも航
ファンタジー
ド田舎の村で育った『エアル』は、この日旅立つ。
幼少の頃、おじいちゃんから聞いた話に憧れ、大都会で立派な『探索者』になりたいと思ったからだ。
そんなエアルがこれまでにしてきたことは、たった一つ。
故郷にあるダンジョンで体を動かしてきたことだ。
自然と共に生き、魔物たちとも触れ合ってきた。
だが、エアルは知らない。
ただの“遊び場”と化していたダンジョンは、攻略不可能のSSSランクであることを。
遊び相手たちは、全て最低でもAランクオーバーの凶暴な魔物たちであることを。
これは、故郷のダンジョンで力をつけすぎた少年エアルが、大都会で無自覚に無双し、羽ばたいていく物語──。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる