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2-1 招かれざる客
ex 負の側面
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少し考えるように間を空けてから杏は言う。
「確かに……それはあまり良くないね」
「ええ。内輪でモメてる場合じゃないのに、余計な火種になる」
「余計……ね。少なくとも私達にとってはそうだ」
杏は一拍空けてから言う。
「私達はもう、そういう事で争う事を余計だと思っているんだ。確かにあの二人にとっては洒落にならない事だけど、ウィザードとしては本当だったらそれは余計な事だと思っちゃ駄目なんだと思う。しっかりと関係各所と話をして真っ向から向かい合わないといけない大きな問題なんだ。もうユイちゃん一個人の善性悪性、人格の問題じゃない」
だけど、と杏は言う。
「私は今、その火種を単なるリスクと捉えている。アンノウンを取り巻く戦いのステージが明確に上がった今でも……マコっちゃんもそうでしょ?」
「…………ええ」
杏の言う通り、それは本来余計な火種ではない。
どういう落としどころを見付けるにせよ、一度国内外を含めたしかるべき機関と情報を共有し、慎重な議論を行わなければならない。
何の比喩でもなくアンノウン……及びそれを送りつけて侵攻してくる異世界からこの世界を守る為の戦いは次のステージに進んだのだから。
だが四月上旬のあの日、神崎達は振りかざした手を収めた。
彼女の事をよく知らない段階で、彼女が善良である事に賭け立ち止まったのだ。
その時点ですら、自分達はそういう判断を下したのだ。
それから二か月弱。
徐々に剣のアンノウンではなくユイという人間の事を各々個人差はあれど知っていき、そして彼女が自分達と共に歩む事に対し異を唱えた者は居なかった。
皆が彼女を普通の人間として、友人として、仲間として受け入れている。
……彼女はもう完全に一時的にそこに居るお客様ではなく、明確に北陸第一の人間なのだ。
そしてユイに限らず北陸第一の人間が、本人に全く落ち度がない無いにも関わらず理不尽な目に合おうとしているのだとすれば、それを回避する為に手を貸してやるべきだ。助けてやるべきだ。
降りかかる火の粉を払ってやるべきだ。
だから。
「……だから可能ならば、ディルバインの存在が本部や他の支部に漏れる事は回避したいですね。それこそその存在が知られてもなお追及されるリスクを跳ね退けるだけ武器が見つかるまでは」
何一つ取りこぼさずに前へと進んでいく為に、可能であれば回避したい。
「そうだね。考えてる事は私も同じ。良くない事なのは分かっているけど、今更ユイちゃんを切り捨てるような事はできない」
そして真剣な声音と表情で、杏は言った。
「ディルバインという捕虜の情報は私達北陸第一で握り潰す。当然彼から得た情報自体は取捨選択はするけど本部に回す。出所はあの巨大なアンノウンから得た情報って事にしておこう」
「賛成です。それならユイを守りながら、ディルバインを隠す事で発生するこの世界にとってのリスクを最小限に抑えられる」
だが問題が一つ。
「ですが今その巨大アンノウンに東京本部の奴がいて思いっきりこの一件と関わってますけど、その辺どうします?」
「私が何とかするよ。可能な限り穏便に」
「……よろしくお願いします」
そういう風に、戦いのステージが一つ上がった今、一つの決断をした。
それが良い事なのか悪い事なのかと言われれば、あまり良い判断ではないのは神崎も分かっている。
……そう、良くはない。
異世界人の捕虜が良い意味で想定されていない事から、別に法や異界管理局のルールを破っている訳ではないが、それでも良くはない。
そういう判断を、自分達は大した葛藤も無く下している。
これはきっと、ユイを受け入れた事の負の側面なのかもしれない。
一度合理性から外れ、感情論に身を委ね始めると制御が効かなくなる。
そう自覚しながらも……それでも。
このやり方で推し進めていくと、そう決めた。
「確かに……それはあまり良くないね」
「ええ。内輪でモメてる場合じゃないのに、余計な火種になる」
「余計……ね。少なくとも私達にとってはそうだ」
杏は一拍空けてから言う。
「私達はもう、そういう事で争う事を余計だと思っているんだ。確かにあの二人にとっては洒落にならない事だけど、ウィザードとしては本当だったらそれは余計な事だと思っちゃ駄目なんだと思う。しっかりと関係各所と話をして真っ向から向かい合わないといけない大きな問題なんだ。もうユイちゃん一個人の善性悪性、人格の問題じゃない」
だけど、と杏は言う。
「私は今、その火種を単なるリスクと捉えている。アンノウンを取り巻く戦いのステージが明確に上がった今でも……マコっちゃんもそうでしょ?」
「…………ええ」
杏の言う通り、それは本来余計な火種ではない。
どういう落としどころを見付けるにせよ、一度国内外を含めたしかるべき機関と情報を共有し、慎重な議論を行わなければならない。
何の比喩でもなくアンノウン……及びそれを送りつけて侵攻してくる異世界からこの世界を守る為の戦いは次のステージに進んだのだから。
だが四月上旬のあの日、神崎達は振りかざした手を収めた。
彼女の事をよく知らない段階で、彼女が善良である事に賭け立ち止まったのだ。
その時点ですら、自分達はそういう判断を下したのだ。
それから二か月弱。
徐々に剣のアンノウンではなくユイという人間の事を各々個人差はあれど知っていき、そして彼女が自分達と共に歩む事に対し異を唱えた者は居なかった。
皆が彼女を普通の人間として、友人として、仲間として受け入れている。
……彼女はもう完全に一時的にそこに居るお客様ではなく、明確に北陸第一の人間なのだ。
そしてユイに限らず北陸第一の人間が、本人に全く落ち度がない無いにも関わらず理不尽な目に合おうとしているのだとすれば、それを回避する為に手を貸してやるべきだ。助けてやるべきだ。
降りかかる火の粉を払ってやるべきだ。
だから。
「……だから可能ならば、ディルバインの存在が本部や他の支部に漏れる事は回避したいですね。それこそその存在が知られてもなお追及されるリスクを跳ね退けるだけ武器が見つかるまでは」
何一つ取りこぼさずに前へと進んでいく為に、可能であれば回避したい。
「そうだね。考えてる事は私も同じ。良くない事なのは分かっているけど、今更ユイちゃんを切り捨てるような事はできない」
そして真剣な声音と表情で、杏は言った。
「ディルバインという捕虜の情報は私達北陸第一で握り潰す。当然彼から得た情報自体は取捨選択はするけど本部に回す。出所はあの巨大なアンノウンから得た情報って事にしておこう」
「賛成です。それならユイを守りながら、ディルバインを隠す事で発生するこの世界にとってのリスクを最小限に抑えられる」
だが問題が一つ。
「ですが今その巨大アンノウンに東京本部の奴がいて思いっきりこの一件と関わってますけど、その辺どうします?」
「私が何とかするよ。可能な限り穏便に」
「……よろしくお願いします」
そういう風に、戦いのステージが一つ上がった今、一つの決断をした。
それが良い事なのか悪い事なのかと言われれば、あまり良い判断ではないのは神崎も分かっている。
……そう、良くはない。
異世界人の捕虜が良い意味で想定されていない事から、別に法や異界管理局のルールを破っている訳ではないが、それでも良くはない。
そういう判断を、自分達は大した葛藤も無く下している。
これはきっと、ユイを受け入れた事の負の側面なのかもしれない。
一度合理性から外れ、感情論に身を委ね始めると制御が効かなくなる。
そう自覚しながらも……それでも。
このやり方で推し進めていくと、そう決めた。
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