魔剣拾った。同居した。

山外大河

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2-1 招かれざる客

24 最も危惧する事について

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 その後、事を進める前に篠原がアンノウンの内部に上がってきた。
 直接的な戦闘というシンプルな事が終わった以上、此処からは事の勧め方がややデリケートになる。

 四級の鉄平や実質戦闘能力だけで準一級に上がった柚子、そして北陸支部の人間ではない赤坂だけで必ずしも事を進めなければならない状況でなければ、篠原や神崎といった部隊を指揮する立場の人間が現場に居た方が良い。

「一応自己紹介をしておこうか。俺は異界管理局北陸第一支部、実働部隊隊長の篠原圭一郎だ」

 そういう訳で地上のアンノウンの処理などの事後処理の指揮を神崎に任せて此処に戻ってきた篠原は、ディルバインにそう自己紹介する。

「態々どうも。ああ、僕はディルバイン・クランツ。レグルーンの同盟軍所属の研究者だ。よろしく頼む……なんて言葉は僕の立場から言えた事ではないか」

「お前が大人しくしていてくれるのなら、それで良いんじゃないか。その場合最低限人道に基づいた対応をさせてもらう。そしてそうでなくても最低限の配慮はするさ……何せお前はおそらく初の異世界人の捕虜だからな」

「一番乗りは嫌いじゃないが、これはあんまり嬉しくはないな」

 そう言って苦笑いを浮かべた後、ディルバインは言う。

「さて、篠原。キミ以外誰も上がってこないという事は、これで役者は揃ったという事で良いのかな。早い所コイツを着陸させよう。着いて来てくれ」

 そう言って起き上がったディルバインは、立ち上がり歩き出す。

「……助かるがえらく協力的だな。いや聞こえて来る音声でそういう奴な事は把握していたが……」

「ほんと調子狂うっすよね」

「俺なんてほら、異世界から来た奴で意思疎通ができるのってユイが最初でディルバインで二人目な訳だからさ。感覚的にこれ基準になるぜ?」

「いやそれは止めた方が良いな」

 ディルバインは真剣な声音で言う。

「どういう経緯でその手の武器と仲良くなれたのかは知らない。だがキミ達よりこの世界以外の事を知っている身からすれば、それは本当にイレギュラーだ。それに僕自身もその武器を破壊しようとキミ達に戦いを挑んだんだ訳で。キミ達が見て聞いているのはそういう人間の言動。警戒なんていくらしたって足りない。緩み過ぎだ。調子を狂わせるな。今後似たような事が有った時に身を亡ぼす事になるよ」

「その方がアンタにとっては都合が良いんじゃない? アンタユイを破壊したかったんでしょ? コイツの身が滅びればほぼそうなると思うんだけど……なんでアドバイスみたいな事してるの?」

 赤坂の問いにディルバインは答える。

「その似たような状況を作り出すのがその子を連れ戻しに来たプロリナの人間だった場合、結果的に致命的な事になる。そして似たような事というシチュエーションとして最も考えられるのがそれだと僕は思っているんだ……ボクが失敗した以上、青年にはその子を死守して貰わなければならないのさ」

「……」

 それを聞いて鉄平は思う。

(……本当にそれだけか?)

 ディルバインが言った通り、気が緩んだ考えなのだと思う。
 だけどなんとなく、既視感が感じられた。

 彼からは、ユイを殺さずに止まってくれた篠原達と似たような雰囲気を感じる。

 当然、止まってくれた事と止めた事ではまるで話は違うのは分かっている。
 ただ彼の言葉からは、打算以外の何かが確かに感じられた。
 やっている事と並べてみると、あまりにも支離滅裂に感じるがそれでも。

 そしてそれとは別に、自分達にとってもっと大切な事にも思考は巡る。

(ていうか……連れ戻しに、ね)

 ウィザードとして二ヶ月弱活動して、一般的に開示されていない情報も知った今、当初よりもユイが特別な存在という認識を強く持てるようになった。

 だからこそディルバインの言葉が良く思考に馴染む。

(そりゃ来るよな、いずれそういう連中が)

 ディルバインはユイの事を終末兵器と呼んだ。
 分かりやすい例えとして核兵器とすら言った。

 その言葉を自然と受け入れられる位には、弱体化前のユイが規格外のアンノウンだった事は容易に理解できて。
 だからこそ自身がプロリナという世界が決定打として発動したであろう作戦を台無しにした事も理解できて。

 そしてそんな終末兵器が破壊されずにまだ現存しているのだとすれば、奪還に来るのは当然の流れと言える。

(まあ来るのは仕方ねえ。来たら来たでぶっ飛ばす。それで解決だ)

 だが事はきっとそんなに単純な事でも無いだろう。

(問題はユイ自身だな)

 現状、ユイはディルバインが語ったユイに纏わる話に反応はしていない。
 だけどユイは兵器なんて言葉が似合わない程に真っ当で優しい女の子だから。

(……余計な事考えてなければいいけど)

 そういう連中がこの世界に来てしまうかもしれない可能性に余計な責任を感じたりしていないか。
 それが心配だった。

「さ、この下だ。悪いけど誰かハッチを開けてくれないか。この通り手が塞がってるもので」

「じゃあ俺が開けよう」

 そう言ってハッチを開ける篠原を前にユイが言う。

『さて、そのマニュアルとやら、本当にワシに読めるのじゃろうか? 読める前提で話すすんでるけどなんか不安になってきたんじゃが』

「まあ駄目ならその時はその時だ。難しく考えず気軽にな」

『そう言ってくれると助かるのじゃ』

 ユイは安堵するようにそう言う。

(うん、それで良い)

 本当に、あらゆる事に対して。
 それで良いし、それが良い。
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