魔剣拾った。同居した。

山外大河

文字の大きさ
上 下
81 / 115
2-1 招かれざる客

19 それぞれの正義

しおりを挟む
 柚子が張った結界は強固だ。生半可な攻撃では出られないのは、過去に閉じ込められた事があるから知っている
 だがその主目的は閉じ込める事には無い。
 事が終わるその時まで相手を閉じ込めておく。
 最終的に出られる事が前提となる結界だ。

「ナイス柚子」

 一旦バックステップを踏み距離を取った鉄平がそう言うと、柚子は結界に右手を向け続けながら言う。

「まあ無事時間を稼いで貰ったっすから」

 そんなやり取りを交わす二人に対し、ディルバインは結界に手を振れ言う

「捕縛用……いや、違うな。まあ何にしてもやる事は変わらない」

 そして再び左手で右腕のガントレットをアップしたディルバインは、右手の光のブレードの形状を変化させて拳に纏わせ、勢い任せの右ストレートを叩き込む。
 次の瞬間、柚子の結界が破壊された。

「……思ったより早く出て来たけどどうだ?」

「ああ、大丈夫っす。なんとか解析完了っすね」

 そう言って柚子は構えを取る。

「向うは滅茶苦茶固いっす。少なくとも私の拳や杉浦さんの全力で一撃叩き込んでも即死って事はねえっすよ」

「了解。それ聞きたかった。マジでナイス柚子」

「へへへ、どういたしまして」

 そう言って微かに笑みを浮かべる柚子が張っていた先程の結界の神髄は、敵の解析にある。
 当然、短期間では得られる情報は少ない。

 だが最低限、どの位の力なら相手が壊れないかの判断をする為の情報程度なら、この短期間でも得られる。
 ……つまり十分だ。

「成程、そういう仕様か……全く、勝てる事が前提の強者の立ち回りで参るね」

 そう言ったディルバインは徒手空拳で構えを取る。
 先程のブレードを出す様子は無い。

 おそらく先程結界を破壊した際の攻撃で、一時的に使用できなくなっているのかもしれない。
 使用できたとしても一対一で押せただろうが、今ならより優位に立てる。

 そして此処からは二対一だ。

「「……」」

 柚子と軽くアイコンタクトを交わし、二人同時に動いた。
 僅かに素早くディルバインの前に到達した柚子が、放たれた右ストレートを躱して顎にアッパーを叩き込む。

「ぐ……ッ!」

 苦悶の声を絞り出し、体が宙に浮いたディルバイン。
 そこに追撃する。

「っらああああああッ!」

 僅かに遅れて接近した鉄平がそこに飛び掛かり、無防備な腹部目掛けて全力でユイを振り抜いた。

 次の瞬間、勢いよく弾き飛ばされたディルバインの肉体は壁に叩き付けられ、そのまま床に落下し倒れ込む。

「やったか!?」

『それやってないフラグじゃ! ……まあこれで終わってくれていた方が良いのじゃが。色んな意味で』

 そう言ったユイの言葉とは裏腹に、ディルバインはゆっくりと立ちあがる。

「杉浦さんが妙なフラグ立てるからっすよ」

「俺の所為かこれ」

「関係ないさ、僕の気合だよ」

 フラフラになりながら立ち上がったディルバインは再び左手でガントレットをタップする。

 すると先程ブレードを出現させていたように、右手に巨大な回転式シリンダーが特徴の光の塊のような銃が装備される。
 そしてその銃口をこちらに向けたその瞬間だった。

「……ッ!?」

 その銃を、光の矢が弾き飛ばした。

(あれは……)

 光の矢。そういう魔術を少し前にみたばかりだ。
 そう考えながら飛んできた方角に視線を向けると、そこに彼女は居た。

「こっちの方がヤバそうな状況らしいから。戻ってきてあげたわ! このエリートが!」

 こちらとしてはただでさえ優性だったのに戦力が増強され、ディルバインからしたらより窮地に陥られた形になる。
 そして柚子と鉄平は構えながら言った。

「いやこっち私ら二人で大丈夫っすよ!」

「下戻ってください下!」

「その下がもう大体大丈夫な感じ。篠原さんと私である程度潰したし、それにあの準一級含めて他の連中もよくやってる……それに、アンタらの会話はアンタら通じて聞いてたけど、その特撮ヒーローっぽい奴が言うように、やり方が生温かった」

 そしてこちらに歩み寄りながら、自身の周囲に光の矢を複数展開して言う。

「そんな訳だから下は統率が取れて連携ができる連中でやればいい。元々浮いてた駒の私はこっちでしょ」

「生温い……か。ちなみにそちらの死者は?」

「誰かが死んでたらこんな穏やかじゃないでしょ。今の所そういう報告は無い」

「……そうか」

 どこか安堵するようにそう呟いたディルバインは、再び徒手空拳で構えを取る。

「本来の目的は完全に失敗。追加ミッションもより厳しくなったようだが……この程度では僕は折れないさ。なにせ学生時代ベースボールをやっていたからね!」

 そしてディルバインは拳を握り絞めて力強く踏み出し、鉄平の方に飛び掛かってきた。

 そこには光のブレードも無く、当然拳がそれを纏っている訳でもない。
 それどころか鉄平と柚子のそれぞれの一撃でダメージが蓄積しているのか動きが鈍く、これだけは成し遂げるという強い意思だけが鋭い。

 それでも力の出力、技量以前に意思の強さでも負けているつもりはないから。

「悪いな、此処は折れてくれ」

 その拳を回避して、それから全力でユイを振り抜いた。

「ガ……ッ!?」

 再び腹部への直撃。
 それを喰らったディルバインはもう一度弾き飛ばされ壁へと叩き付けられる。

 そして再び床へと倒れ伏せ……それでも今度は立ち上がって来る事は無い。
 変身は解け元の人間の姿へと戻り、それが戦いの終わりを告げる。

「……アンタがより良い未来の為にマジになって頑張ってるのは分かったけどさ、俺だって負けられねえんだよ」

 とにかく、この一連の戦いはこちらの勝ちだ。
 ……きっとその筈だ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

異世界転生!俺はここで生きていく

おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。 同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。 今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。 だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。 意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった! 魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。 俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。 それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ! 小説家になろうでも投稿しています。 メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。 宜しくお願いします。

異世界から日本に帰ってきたら魔法学院に入学 パーティーメンバーが順調に強くなっていくのは嬉しいんだが、妹の暴走だけがどうにも止まらない!

枕崎 削節
ファンタジー
〔小説家になろうローファンタジーランキング日間ベストテン入り作品〕 タイトルを変更しました。旧タイトル【異世界から帰ったらなぜか魔法学院に入学。この際遠慮なく能力を発揮したろ】 3年間の異世界生活を経て日本に戻ってきた楢崎聡史と桜の兄妹。二人は生活の一部分に組み込まれてしまった冒険が忘れられなくてここ数年日本にも発生したダンジョンアタックを目論むが、年齢制限に壁に撥ね返されて入場を断られてしまう。ガックリと項垂れる二人に救いの手を差し伸べたのは魔法学院の学院長と名乗る人物。喜び勇んで入学したはいいものの、この学院長はとにかく無茶振りが過ぎる。異世界でも経験したことがないとんでもないミッションに次々と駆り出される兄妹。さらに二人を取り巻く周囲にも奇妙な縁で繋がった生徒がどんどん現れては学院での日常と冒険という非日常が繰り返されていく。大勢の学院生との交流の中ではぐくまれていく人間模様とバトルアクションをどうぞお楽しみください!

「残念でした~。レベル1だしチートスキルなんてありませ~ん笑」と女神に言われ異世界転生させられましたが、転移先がレベルアップの実の宝庫でした

御浦祥太
ファンタジー
どこにでもいる高校生、朝比奈結人《あさひなゆいと》は修学旅行で京都を訪れた際に、突然清水寺から落下してしまう。不思議な空間にワープした結人は女神を名乗る女性に会い、自分がこれから異世界転生することを告げられる。 異世界と聞いて結人は、何かチートのような特別なスキルがもらえるのか女神に尋ねるが、返ってきたのは「残念でした~~。レベル1だしチートスキルなんてありませ~~ん(笑)」という強烈な言葉だった。 女神の言葉に落胆しつつも異世界に転生させられる結人。 ――しかし、彼は知らなかった。 転移先がまさかの禁断のレベルアップの実の群生地であり、その実を食べることで自身のレベルが世界最高となることを――

無能と言われた召喚士は実家から追放されたが、別の属性があるのでどうでもいいです

竹桜
ファンタジー
 無能と呼ばれた召喚士は王立学園を卒業と同時に実家を追放され、絶縁された。  だが、その無能と呼ばれた召喚士は別の力を持っていたのだ。  その力を使用し、無能と呼ばれた召喚士は歌姫と魔物研究者を守っていく。

はぁ?とりあえず寝てていい?

夕凪
ファンタジー
嫌いな両親と同級生から逃げて、アメリカ留学をした帰り道。帰国中の飛行機が事故を起こし、日本の女子高生だった私は墜落死した。特に未練もなかったが、強いて言えば、大好きなもふもふと一緒に暮らしたかった。しかし何故か、剣と魔法の異世界で、貴族の子として転生していた。しかも男の子で。今世の両親はとてもやさしくいい人たちで、さらには前世にはいなかった兄弟がいた。せっかくだから思いっきり、もふもふと戯れたい!惰眠を貪りたい!のんびり自由に生きたい!そう思っていたが、5歳の時に行われる判定の儀という、魔法属性を調べた日を境に、幸せな日常が崩れ去っていった・・・。その後、名を変え別の人物として、相棒のもふもふと共に旅に出る。相棒のもふもふであるズィーリオスの為の旅が、次第に自分自身の未来に深く関わっていき、仲間と共に逃れられない運命の荒波に飲み込まれていく。 ※第二章は全体的に説明回が多いです。 <<<小説家になろうにて先行投稿しています>>>

削除予定です

伊藤ほほほ
ファンタジー
削除します

処理中です...